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一章 獣化ウイルス
1-2 獣化ウイルスとは
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獣化ウイルスとは。
砂漠に住む魔獣が持っている一種の毒で、人間の体内に入ると昨日の二人の様に、理性を失い凶暴化してしまう。その姿がまるで獣の様なので、獣化ウイルスと呼ばれているのだ。
有効な治療法ははっきり言っていまだ判明していない。唯一、私が使う施術のみがウイルスを治癒する効果を持っているだけで、他の術者ではせいぜい進行をとめるのが精一杯。
薬などもあるにはあるが、副作用が強い上に一時的な進行止めにしかならず、多くの患者が私の元に運ばれてくるのが現状だ。
ちなみに、ウイルスに侵されてそのままほっぽっておくと完全に魔獣化してしまい、野良と呼ばれる獣になってしまう。こうなると退治を余儀なくされてしまう。
学者たちが必死に治療法解明を進めているが、野良は増える一方。その野良もまたウイルスを持っているため、そいつが人を襲い治療が間に合わないとまた野良が増え……と、このように、鼠算式に増えていく迷惑極まりないウイルス、それが獣化ウイルスである。
「何に襲われたんだい? 魔獣か野良か」
「人間……でした。女の人です」
仙雪が怯えた様子で答えた。人間にウイルスを注入された、ということはその女は野良だったということである。
たとえ、話にウイルスのことを聞いたことがあっても、実際自分が侵されてみて初めてその恐怖が分かるというもの。
砂漠に住む人間でもそれ以外でも。
「それはどのあたりだった?」
私はこの集落の周辺地図を広げた。それを見て、仙雪が示した場所は……。
「……亜人跡のあたりか……」
この集落から、西にしばらく行ったところにオアシスがある。丁度、港町と城を結ぶ道上にあるため、旅人が立ち寄る率も高い。
そこにちょっとした遺跡があるのだが、どうやら我々の祖先が残したものらしく亜人跡、と呼ばれている。
「自分が現役の頃は、あそこに魔獣や野良が住み着いているという話を聞いたことが無かったのですが……」
「それで油断したんだね。最近になって、あそこにも魔獣が住み着いてしまったんだよ。その上、私らが気づいたときには、かなりの数の旅人が野良化した後だったのさ」
光と仙雪のように取っ組み合いをしてでも、ボロボロになってでも、ウイルスが全身に回りきらないうちにどこか、砂漠の民が住まうところまでやってくれば助かる見込みがある。
砂漠に住む者は誰でも進行止めの薬を持っているし、私のことを知っている。
ただ、さっきも言った様に、進行止めの薬というのは副作用がとても強い。体が持つうちに私の施術を受ければ助かるのである。
だが、現実としては、誰にも発見されず野良化してしまったり、野良化する過程で共倒れ、なんてことが多い。
彼らは運がよかったのだ。
「傷、調べてみたんだけど、光は左手首、仙雪は背に噛まれた跡があったから、そこから感染したと思うんだ。どぉ?」
「あ、はい。私が背を噛まれたとき、彼がその女の人を引き離そうと飛び掛ってきてくれたのは覚えていますから」
「間違いないね」
野良にしろ、魔獣にしろ、知能があるのかどうなのか、人に噛み付きウイルスを注入したら去ってしまう習性がある。
時々噛み殺した、という報告もうけるが、その例はほとんど聞かない。
「どれくらい前に毒られたの?」
二人はしばし考え昨日の夕方、亜人跡で野宿をしようとした時だと答えた。
通常、ウイルスが全身に回りきるまでに一日~二日かかる。回りきってしまうと、いくら施術を施そうとも治療は不可能。体内に入って二~三時間もすれば四肢が侵され、それに伴い理性が飛び、暴れ始めるのだ。
「ま、大体のことは分かったよ。とりあえず今日はここで安静。架那斗王んとこに行くのは明日以降にしてね」
「はい。……いろいろ、ありがとうございました」
ペコリ、と頭を下げる二人に私は笑んで答え、炎と冷にこの場を任せて、患者用テントを後にした。
砂漠に住む魔獣が持っている一種の毒で、人間の体内に入ると昨日の二人の様に、理性を失い凶暴化してしまう。その姿がまるで獣の様なので、獣化ウイルスと呼ばれているのだ。
有効な治療法ははっきり言っていまだ判明していない。唯一、私が使う施術のみがウイルスを治癒する効果を持っているだけで、他の術者ではせいぜい進行をとめるのが精一杯。
薬などもあるにはあるが、副作用が強い上に一時的な進行止めにしかならず、多くの患者が私の元に運ばれてくるのが現状だ。
ちなみに、ウイルスに侵されてそのままほっぽっておくと完全に魔獣化してしまい、野良と呼ばれる獣になってしまう。こうなると退治を余儀なくされてしまう。
学者たちが必死に治療法解明を進めているが、野良は増える一方。その野良もまたウイルスを持っているため、そいつが人を襲い治療が間に合わないとまた野良が増え……と、このように、鼠算式に増えていく迷惑極まりないウイルス、それが獣化ウイルスである。
「何に襲われたんだい? 魔獣か野良か」
「人間……でした。女の人です」
仙雪が怯えた様子で答えた。人間にウイルスを注入された、ということはその女は野良だったということである。
たとえ、話にウイルスのことを聞いたことがあっても、実際自分が侵されてみて初めてその恐怖が分かるというもの。
砂漠に住む人間でもそれ以外でも。
「それはどのあたりだった?」
私はこの集落の周辺地図を広げた。それを見て、仙雪が示した場所は……。
「……亜人跡のあたりか……」
この集落から、西にしばらく行ったところにオアシスがある。丁度、港町と城を結ぶ道上にあるため、旅人が立ち寄る率も高い。
そこにちょっとした遺跡があるのだが、どうやら我々の祖先が残したものらしく亜人跡、と呼ばれている。
「自分が現役の頃は、あそこに魔獣や野良が住み着いているという話を聞いたことが無かったのですが……」
「それで油断したんだね。最近になって、あそこにも魔獣が住み着いてしまったんだよ。その上、私らが気づいたときには、かなりの数の旅人が野良化した後だったのさ」
光と仙雪のように取っ組み合いをしてでも、ボロボロになってでも、ウイルスが全身に回りきらないうちにどこか、砂漠の民が住まうところまでやってくれば助かる見込みがある。
砂漠に住む者は誰でも進行止めの薬を持っているし、私のことを知っている。
ただ、さっきも言った様に、進行止めの薬というのは副作用がとても強い。体が持つうちに私の施術を受ければ助かるのである。
だが、現実としては、誰にも発見されず野良化してしまったり、野良化する過程で共倒れ、なんてことが多い。
彼らは運がよかったのだ。
「傷、調べてみたんだけど、光は左手首、仙雪は背に噛まれた跡があったから、そこから感染したと思うんだ。どぉ?」
「あ、はい。私が背を噛まれたとき、彼がその女の人を引き離そうと飛び掛ってきてくれたのは覚えていますから」
「間違いないね」
野良にしろ、魔獣にしろ、知能があるのかどうなのか、人に噛み付きウイルスを注入したら去ってしまう習性がある。
時々噛み殺した、という報告もうけるが、その例はほとんど聞かない。
「どれくらい前に毒られたの?」
二人はしばし考え昨日の夕方、亜人跡で野宿をしようとした時だと答えた。
通常、ウイルスが全身に回りきるまでに一日~二日かかる。回りきってしまうと、いくら施術を施そうとも治療は不可能。体内に入って二~三時間もすれば四肢が侵され、それに伴い理性が飛び、暴れ始めるのだ。
「ま、大体のことは分かったよ。とりあえず今日はここで安静。架那斗王んとこに行くのは明日以降にしてね」
「はい。……いろいろ、ありがとうございました」
ペコリ、と頭を下げる二人に私は笑んで答え、炎と冷にこの場を任せて、患者用テントを後にした。
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