翡翠堂の店主

結城 鈴

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 火曜日の午前中、連絡があって、テーブルが届くことになった。サイズからして、一間あるガラス戸を、外しておかなければならないようだった。少し重いが、やれないことはないだろう。示し合わせた時間に、エアコンを切り、ガラス戸を外す。壁際に立てかけると、ほどなくしてリサイクルショップの軽トラがやってきた。
「こんにちはーよろしくお願いします。」
配達業者だろうか、おじさんは、軽快な挨拶をすると、椅子から降ろし始めた。それを、店の奥へと一旦運ぶ。
「すみません。テーブル重いので、手を借りていいですか。」
おじさんが、軽トラに乗せたテーブルに手をかけて待っていた。
「あ、はい。」
大丈夫かな、と思いつつ、指示に従う。何とかアスファルトに下ろし、二人がかりで店の中へと運ぶ。
「よかった。バランスよく収まりましたね。」
書架との間隔も絶妙だ。店の雰囲気にもあっている。ゆっくりくつろいで、読書ができそうだと思った。椅子を並べていると、おじさんが、これ、戻しときますね、とガラス戸を入れてくれた。受け取りにサインをすると、軽トラは忙しそうに去っていった。
将典さんが来たら、座ってもらおう。
そんなことを思いつつ、これでひと段落だな、と店内を見回す。大分配置は変わったが、翡翠堂に変わりはなかった。居間に上がり、仏壇に手を合わせて報告する。
お店、良くなるはずだから、手を入れたのを許してくださいね、と。それでどうか、これからも上で見守っていてほしいと。
リンを鳴らすと、合わせたように鳩が鳴き始めた。十一時。
まだ、将典が来るまで時間がある。もう少ししたら、お昼を食べて・・・今日はしおりをもう少し作ろうか。
そんなことを考えて、時間は過ぎていった。

 夕方、学生たちが駅に向かい始める。すると、以前本を買ってくれた女の子が、またやってきた。今日は一人だ。テーブルの入った店内に、少し驚いたようだったが、店内を物色し始めた。これ、と思った本があったのか、テーブルの方へと歩いてくる。座る様子はないので、急いでいるのかな、と思った。しばらく、立ったまま本を読んでいた女の子は、麦茶、いただいてもいいですか?と問うてきた。あらかじめ用意してあった、麦茶と紙コップを指して、こちらを見ている。
「ご自由にどうぞ。よかったら座って読んでいってください。」
女の子は、本をテーブルに置くと、ポットから麦茶を注いで少し飲んだ。
「美味しい。御馳走さまです。」
女の子はそう言うと、座らずにカウンターの方へとやってきて、これ、くださいと本を差し出した。文庫本だ。裏表紙をめくると、鉛筆で百五十円と書いてある。女の子は小銭で支払いを済ませると、駅の方へと去っていった。
「あ、しおり渡すの忘れちゃった。」
テーブルに座るかどうかが気になって、せっかく作ったしおりを渡しそびれてしまっていた。
「まぁいいか・・・。一番に座ってほしいのは、将典さんだし。」
独り言して、時計を見る。午後五時。今日は定時で上がれるのだろうか。忙しくしている将典に、けれど早く会いたくて。
「社長さん・・・なんだから、忙しいに決まってるじゃん。」はやる気持ちを抑えて、カウンターでちまちまとしおりを作った。

 二十枚ほど作ったしおりを、『ご自由にお持ちください』にするか、カウンターで買ってくれた客に手渡しするかを悩んでいた。
どっちの方が印象良いんだろう?
押しつけがましくなっても嫌だし。こういう時、アドバイスを求められる相手がいるのが嬉しい。将典が立ち寄ったら、聞いてみよう。とりあえずは、カウンターの引き出しに入れ、手渡しすることにした。すると、引き出しの中のスマホに、メールの着信。
『今日も遅くなりそうです。魚が食べたいな。』
そんな将典に、「テーブル届きました。お刺身買っておきます。」と返し、やることがなくなってしまった。麦茶も、補充するほどは減ってないし。
「そうだ。」
古い料理本があったはず。魚のレシピ、載ってないだろうか。将典の食べたい魚がなんだかわからないので、刺身が不可だった時の対策を練ることにした。
サバの味噌煮なんてどうだろう?自分も久しく食べていない。ネットで検索するか、母に電話で聞いた方が早いのだろうが、今は早さを求めていない。思い立って、まずは本を探すことにした。目当ての本はすぐに見つかった。古い本だったが、昔からある料理は作り方も同じだろうと思い、サバの味噌煮を開いてみる。すると、調味料の分量や作り方などが乗ったページに行きついた。将典は遅くなると言っているし、サバだけ買えば作れそうだった。
「初めて作るんですが、サバの味噌煮とお刺身は、どっちがいいですか?」
とメールする。ややあって、『サバみそ』、と返ってきた。忙しそうだ。
七時に店を閉めると、今日はスーパーではなく、魚屋に向かった。お店のおじさんにサバを下ごしらえしてもらい、帰路につく。
喜んでくれるかな・・・。その前に美味しく作らないと。
今日は、サバの味噌煮と、豆腐の澄まし汁と、ポテトサラダを用意することにした。

 「美味しくできてるよ。」
八時半にやってきた将典は、お腹ぺこぺこと食卓についた。
美味しそうに、サバを食べている。
「あ、そうだ未知。春分の日もお店あける?」
来週月曜は祝日だ。
「迷ってます。」
答えると、将典はどうして?と問うた。
「お彼岸だから、お休みにして、お墓参りに行くか、うちでおはぎだけ作って済ませるか。」
「お休みにするなら、泊りに来たいな。」
ドキ。
「あ、じゃぁ・・・お墓参り、一緒に行きますか?」
「近いの?」
「この近くのお寺さんにあります。」
将典は、じゃぁ行こうかと答えた。
「さすがにまだ、親御さんに挨拶はできないけど、ご先祖様ならいいよね。おはぎ、あんこだけ?」
「こしあんのと、きな粉のを作ろうかと。買って済ませてもいいんですけど、あ、あんこは買いますけど。」
甘すぎて、と苦笑する。
「あ、でも、両親来ますよ。お墓参り、来ると思うから。」
「え?そうなの?俺がいたらまずいかなぁ。」
「お茶飲みに寄るだけだと思いますけど・・・。」
春のお彼岸に作った牡丹餅が好評だったから、作ると言ったらまた食べにくるに違いない。
「友達です、って紹介したら・・・将典さん嫌ですか?」
たぶん、もう、とっくに友達の域は超えている。
「未知は・・・俺の恋人?」
言われて、赤面する。それで、伝わったらしかった。
「嬉しいな。いつからそう思ってくれてたの?」
「だって・・・キス、したじゃないですか。」
あれは、友達のキスじゃない。少なくとも、自分の中では。
「うん。嬉しいな。」
将典はそう言って、にっこりと微笑んだ。
「未知が、ちゃんと恋人って思ってくれてるなら、対外的に不都合なことは友達で済ませるといいよ。そういう世界だから。」
そう言って目を伏せた将典は、少し辛そうな顔をしていた。
「ごめんね。」
「・・・僕を好きになったこと・・・ですか?」
うん。と頷く。
「・・・謝らないでください。僕だって、ずっと将典さんが来るの、楽しみにしてた。」
打ち明けると、将典は、またうん、と頷いた。
「ごめんね。未知はゲイじゃないのに。泊まったら、きっと酷いことしちゃいそう。でも、怖がらないでね。絶対気持ちよくしてあげるから。」
食事中に、そんなことを言い出した将典に、また心臓が早くなる。
「あの・・・。将典さんにとっての僕は、なんですか?」
「お嫁さん。いつか絶対、もらいに来るからね。」
今日のご飯も美味しかった、と手を合わせてご馳走さまをする将典に、お粗末さまでしたと応える。
本気で、お嫁にもらいに来るのかと思うと、ドキドキした。
「あ、お店のテーブル、帰りにちょっと座っていってください。まだ誰も座っていないので。」
「俺が最初に座っていいの?嬉しいなぁ。」
「それと、ちょっと相談したいことがあって。」
しおりの話をすると、絶対手渡し。ファンが増えるよ!と将典は断言した。

 秋分の日。朝からもち米を蒸かす。あんこときな粉を用意していると、外が騒がしくなった。何事かと思うと、店先で、将典と両親が鉢合わせしたらしかった。
「おはよう。父さん母さん、何騒いでるの。」
「未知、この方は誰?」
母が、将典を見て目を丸くしている。
「誰って・・・。」
一瞬言葉に詰まったが、打ち合わせ通りに紹介した。
「常連のお客さんで、将典さん。友達になったの。」
「お客さん?若いのに、本を読むの?」
今度は父が口を開く。
「本も読みますが、お店が好きで。あ、仕事は経営コンサルタントをしていて、それで少し、未知君の相談に乗ったりしています。」
ちゃんとした仕事をしているのだと、将典がアピールする。
「それで少し店の様子が変わったんだね。そうかなるほど。
良くなったように思うよ。看板もピカピカだ。ありがとう。」
父は、店を見て気をよくしたのか、将典と握手を交わした。
「未知も、こんなイケメンと友達になったなら一言言ってくれてもいいのよ?お母さん、豆に様子見に来ちゃう。」
「・・・お母さん、それはちょっと困る・・・。」
テンション高めの母を置いて、もち米の様子を見に台所へ上がる。
「母さんそれより、テーブル置いたから、麦茶でも飲んでて。」
母は、はいはいと返事をすると、店のテーブルへ行き、人数分の麦茶をポットから注いだ。
「このポットも、ずいぶん古いけど、手入れはちゃんとしてるのね。アンティークな雰囲気と合ってて、母さん好きだわ。」
さぁどうぞ、と父と将典を招き入れる。
「未知、手伝おうか?」
将典が台所へ来るのを、父と母が、不思議そうな目で見ていた。
「未知、お友達って、どんなお友達なの?」
「将典は、社長さんで・・・帰りが遅くなるから、電車に乗る前にここに寄って、一緒にご飯食べるくらい、の友達。」
仲いいのねぇーと母がため息する。
「未知が自炊するって言った時は少し心配だったけど、いろいろ教えておいた甲斐があったわ。今どき男の子も料理できないとね。家計簿も見せてもらってるけど、ちゃんとやってるみたいだし。心配いらないわね。私はおはぎなんて作れないもの。」
「子供の時に、おばあちゃんがやってたのを覚えてただけだよ。分量なんかは、レシピちゃんととってあったし。セイロもあるし。」
我ながら良くできた子だわ、と母が笑う。
そんな賑やかな雰囲気で、休日は始まった。
「あ、父さんそれでね。将典さんも、お墓参り一緒に行きたいんだって。前の店主に挨拶したいって。」
「お店を少し弄ってしまったので、その報告に。」
将典が、補足する。
「あぁ。大丈夫ですよ。賑やかな方が喜ぶと思います。」
父が快諾したのを見て取って、将典が笑う。
「よかったね。まさか父さんたちも一緒に行くことになるとは思わなかったけど。」
「うん。未知の家族はおおらかだね。」
「妹が来なくてよかった。僕と似たような趣味だから、将典さん見たら、きっとキャーキャーうるさかったと思う。」
「顔も似てる?美人だろうなぁ。」
「浮気するならおはぎは無しです。」
将典は、やきもちかーかわいいなぁ、とニヤニヤした。
 おはぎを作り終え、食べるのはお墓参りが済んでから、と寺に向かうことになった。途中の花屋で、花を買い、お寺で線香を買う。父と自分で、墓石を磨き、雑草を取り除いた。そこに、水の入った桶と、花を持った母がやってくる。お墓にお供え物はしない。カラスやタヌキの被害があるらしいのだ。線香をあげ、みんなで手を合わせる。一番長く手を合わせていたのは将典だった。
 店に戻ると、父と母は早々に帰っていった。おはぎはお土産に、重箱に詰める。妹が一人で留守番していて、心配だからと。
「じゃぁ。未来(みく)にもよろしく。」
「わかったわ。・・・未知、あんまり将典さんに甘えちゃ駄目よ?」
「わかってるよ。じゃぁね。」
軽く手を振って、家族と別れる。店には将典と、二人だけが残った。
「じゃぁ、おはぎ食べましょうか。」
「喉乾いた。麦茶冷えてる?」
「はい。」
将典専用になったグラスに、麦茶を注ぎ、和室の座卓におはぎの乗った皿と、取り皿を運ぶ。将典は、きな粉のおはぎを取ると、二口で食べた。
「ん。美味しくできてる。」
将典はそう言って褒めてくれると、二つ目に箸を伸ばした。

 夕ご飯は、洋食屋に行くことになった。お昼のおはぎを頑張ったご褒美だそうで。母にくぎを刺されたばかりなのを思い出す。
「甘えてるの、見てわかっちゃったのかな。」
「俺に?」
将典が返す。それに頷いて、うーんと唸った。
「母が、甘えすぎちゃ駄目だって。」
「言ってみただけでしょ。それに俺は、甘えてくれた方が、むしろ嬉しいし。これからもっと甘えさせるし?」
夜をお楽しみに、とクスクス笑う。
「今日はどこまでするんですか?」
恐る恐る尋ねる
「未知のを触って、気持ちよくするところ。」
「・・・あの。それって僕も?」
問いかけると、将典は少し驚いた顔をした。
「いいの?」
「えっ、と・・・。うまくできる気はしないですけど。」
「もー未知やめて!・・・立っちゃいそう。」
後半小声で、耳元に囁く。それに赤面して、店のドアをくぐった。今日は、月曜日。デミグラスソースの香りがしていた。
「未知、何食べる?」
「・・・オムライス。」
答えると、よっぽど気に入ったんだね!と笑われた。

 帰り道、夜風が冷たい、を理由に、将典と手をつないで歩いている。帰ったらとりあえず、風呂を沸かして・・・。
入ったら、そのあとなにをされるんだろうか。ドキドキが、手から伝わりませんように。
 祈りながら、しかし手にはしっとりと汗をかいてしまっている。
「未知、俺のこと怖くない?」
「え?何でですか?」
「今日はセックスまでしないけど、いずれはバージンをいただこうと思ってるから。」
あんまりないいように、暗いアスファルトに視線を彷徨わせる。
「・・・痛いのは、最初だけなんですよね?」
「・・・うん。」
将典の間が、なんとなく嘘を言っているような気がした。
無理なことをするのだ。痛くないはずがない。それでも、将典をつないでおくためなら、身一つ差し出してもかまわない気になってきていた。
「ちょっと・・・怖いけど。将典さんなら・・・。」
「もちろん、他の男にくれてやる気はないよ。早く、ちゃんと俺のものにしたいなぁ。」
今日はしないけどね、と将典が笑う。
「お風呂あがったら・・・しますか?」
「うん。体冷えてるからね。あったまってからしよう。」
将典の足取りは軽い。恥ずかしくて、俯いたまま家へと歩いた。

 将典が使った後で、少しぬるめの風呂につかる。全身をきれいにして、どこを触られてもいいようにした・・・つもり。
初めてのことで、将典が思いもよらぬことをしないか心配だ。
こんな乙女チックなことで悩んでいることなど、将典は知る由もないだろう。恥ずかしくて、ぬるいお湯にのぼせそうになりながら、しかしなかなか出られない。
出たら・・・。
「未知?」
唐突に、風呂場の引き戸が開いて、将典が現れた。
「いつまで待たせるの?」
「の、のぞかないでください!」
あわあわとタオルで股間を隠す。
「未知は可愛いなぁ。」
絶対わざと楽しんでいる将典を軽くにらんで、籠城をあきらめた。
「出るんで、どっか行っててください!」
将典を追いやって、脱衣所へと上がった。Tシャツと、下着と、ハーフパンツを着て、居間の方へと向かう。将典は和室の座卓で麦茶を飲んでいた。
「ビール、ありますよ?」
食事中にも飲まなかった将典だ。尋ねると、理性が持つかどうかわからないから、今日は飲まない、とまた怖い返事が返ってきた。
「さて、じゃぁ上に行こうか。」
ゴク、と喉が鳴る。
「あ、じゃぁ麦茶飲んだら上がります。」
風呂上がりのせいだけではない喉の渇き。麦茶を一気飲みすると、覚悟を決めて二階へと続く階段を上がった。
将典が、布団の上で待っている。おいで、と招かれて、向かいに座った。
「痛いことはしないから。」
まずはキスからね、と唇が触れ合う。すぐに、舌を絡ませた深い口づけに変わった。眩暈がするほど気持ちがよくて、何度も将典との唾液を飲み下しながら、キスをもっととねだる。
やがて口が離れると、物足りなくて、目で唇を追ってしまっていた。将典がクスクス笑って、布団にそっと押し倒してくる。そしてまた、キスを再開した。舌を擦り合わされるのがたまらなく好きだった。
「もっと?」
聞かれたが、将典の手のひらは、すでに兆した下着の中へと滑り込んでいた。
「あっ!」
「・・・大丈夫。脱がせてもいい?」
「恥ずかしい。」
「ん。知ってる。」
将典は、それも可愛いと言いながら、ハーフパンツと下着を一緒に下ろしてしまった。あらわになる性器。ゆるく芯をもて、立ち上がりかけている。
「期待してる?それとも、キスが良かった?」
小さな声で、キスが、と答えた。将典は、明るい電気の下で、じっとペニスを観察するように見ている。ピクン、とその視線に反応してしまう。
「きれいな形。ほっそりしてるけど、長さは十分だね。自分で剥いたの?」
恥ずかしかったが、コク、と頷いた。
「いつ頃?」
「高校生になってから・・・。」
周りがみんなそうしているらしかったので、思い切ってやってみたのをよく覚えている。剥いたばかりの先端は、ものすごく敏感で、下着にこすれても痛かった。今はもう、慣れたけれど。
「えらいね。痛かった?」
コク、と頷く。
「でも、きれいに剥けてる。もう元には戻らなくなった?」
また頷いた。
「ピンク色。舐めたくなるなぁ。」
「なっ・・・。」
口をパクパクしてしまう。男同士、見た目を話したりするのは、まぁ仕方がないとして、いきなりなのかと涙目になる。
「手だけで満足できるかな?」
クスクス笑いながら、将典は体を添わせる様に落ち着けると、そこへの愛撫を始めた。
すりすりと、茎を撫でたり、裏の筋に指を這わせたり。そうされているうちに、そこは簡単にかたく立ち上がった。
「いいね・・・。」
将典が耳元に囁く。くすぐったくて、首をすくませた。
ぬる、と滑りがよくなってくる。濡れてきたのだ。
「溢れてきた。気持ちいいね・・・。」
まるで、そうなるようにおまじないでもしているかのような、将典の口調は柔らかく優しい。息をつめていると、今度は、ゆっくり深呼吸するように言われた。
「声、殺さないで・・・。聞かせて・・・?」
恥ずかしくて身をよじる。けれど、ペニスは将典にとらえられたままだ。ヌルヌルが気持ちよくて声が出そうになってきた。
「ぁ・・・はぁ・・・。」
「可愛い。」
ちゅ、と耳にキスをして、舐められる。かり、と齧られて、悲鳴が上がった。
「んっ!」
「大丈夫。ほら・・・口でしたらもっとよさそうじゃない?」
将典の舌が気持ちいいのは、キスで立証済みだった。でも、とかぶりを振る。
「ほら・・・どんどん濡れてくる。ぴくぴくしてるね。もしかしてもうイきそう?」
いいよ、我慢しないで?と囁かれる。
「ふぁっ・・・あぁ・・・あん・・・んんぅ・・・。」
もう、声を我慢できずに、鼻から高い声を漏らしていた。
「もうだめ・・・だめ・・・でるから・・・でちゃいそうだから・・・。」
はなして、と将典の手に触れる。ところが将典は、敏感な先端を責め始めた。ヌルヌルと鈴口をいじられる。強烈な快感に、だんだん訳が分からなくなってくる。
「で、・・・あっ・・・あぁぁぁん!」
ついに、我慢できなくなって、達してしまった。将典の手に、白い粘液がかかる。滴りそうなそれを、将典がティッシュで受け止めた。準備の良さに呆れる。
「ふふ。いっぱい出た。良かった?もう一回する?今度は舐めてあげるよ。」
「も・・・もう無理。」
いろいろ無理。放埓の余韻で、ぼーっとしながら、しかし、ちら、と、将典の股間をうかがうと、将典もしてほしそうになっていた。
「えと・・・じゃぁ、僕も。」
おずおずと申し出る。
「してくれるの!?」
将典は、びっくり、と大声を出した。
「・・・あの・・・。」
うまくできるかわからない。将典の手淫はみだらで巧みだった。
「じゃぁ、一緒にしようか。こっち来て座って?」
呼ばれて、着衣を直しつつ、将典の前に座らされる。
将典は、ハーフパンツを脱いで、下着の中から、それを取り出した。
わ・・・。
比べる対象は自分のしかないが・・・これは・・・。
思わず、ゴクリと喉が鳴る。
「怖い?」
「おっきい・・・。」
ちら、と将典をうかがうと、嬉しそうに目を細めていた。
これが、いずれは自分の中に?
絶対、痛いのが最初だけなんて嘘だと思った。
手、貸して?と将典が右手を導く。
「未知、するとき右手だよね?」
言い当てられて、恥ずかしくも頷く。そんなにはしない方だが。性器の形状で分かるのだろう。
「自分のする時みたいにして?」
注文に、しかしそれはいくらなんでも恥ずかしい。
できない、と首を横に振ると、将典はしょうがないなぁ、と上から手を添えた。
「輪っか作って、下から上にしごいて、そう・・・上手。もっと擦って。」
はぁ・・・と吐息しながら、けれどまだまだ余裕の表情で。
していると、将典はさらに大きくなった。それがなんだか、恐ろしくも嬉しくて、つい熱を込めて愛撫していた。
「いいよ・・・気持ちいい。」
言うように、先端にぷくりと蜜が溢れてくる。それを使って、してくれたように、先端を指で撫でた。
「っ・・・。きもちい・・。」
将典は、足りないだろう愛撫を、しかしそれ以上は注文を付けることなく楽しんでいるようだった。やがて、将典の腿に力がこもる。
イケそう・・・なのかな・・・。
そう思うと、自分の好きなところに、無意識に指を這わせていた。裏の筋や、先端をくるくると愛撫する。やがて、将典は、出すよ、と小さく言い置いて、くっと息をつめた。どくどくと何度か吐き出されて、手のひらには受け止めきれなくなる。それを、将典がティッシュを引き抜いて受け止めた。
「おっとっと。布団汚しちゃう。」
ふーと吐息しながら、将典は、汚れた手のひらを拭ってくれた。
「将典さん、気持ちよかった?」
「良くなかったら、こうならないの、男の子ならわかるでしょ?」
確かに。
将典が、よしよしと頭を撫でてくれる。それがなんだか嬉しくて、微笑んでいた。
「今度はもっとすごいことしようね。」
将典は、また少し怖いことを言った。それから、布団もう少しくっつけていい?と。
頷いて、二人手をつないで眠った。
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