期限付きの猫

結城 鈴

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 軽めに夕食を済ませ、トイレに籠り、風呂でゆっくり温まって・・・孝利の寝室にいる。いつかのように、ベッドには大判のバスタオルが敷かれていて、その上には、件のおもちゃとローションとはちみつが置いてあった。
あのはちみつ、やっぱりこのためのものだったんだ・・・。
ホットケーキにつけなくてよかったと思う。
「ねぇタマ。おもちゃ、どこまで入れていい?」
言われて考える。一番太いところは、痛そうかも・・・。
「痛くないところまででお願いします。」
「ぬるんと入っちゃったらどうする?」
「痛かったら抜いてください。」
そんなやり取りに、もう涙目だ。
「痛くはしないよ。約束する。・・・ね、もし一番大きいの入れて痛くなかったら、最後までしてもいい?」
「えっ?」
今日なの?
準備はしてあるけど・・・心の準備ができてない。
「泣きそうな顔して。・・・冗談だよ。この間は寝ちゃったからね。今日は寝ないで舐めてくれる?」
これで、とはちみつを持ち上げて、フリフリと振られた。
それにコクコク頷いて、なんとか本番は思いとどまってもらう。
「本番は、まだ怖いです・・・。」
「うん。もう少し、時間かけるよ。タマの気持ちが追いつかないと、しても意味がないからね。」
孝利は、少し淋しそうにそう言った。
「始めようか?」
ゴクっと喉が鳴る。
正直怖い。あんなものを入れるなんて・・・。
孝利が顔を寄せる。まずはキス。
ちゅっと軽くしては離れてを繰り返し、だんだんもどかしくなってくると、薄く開いた唇の隙間に、舌が入り込んだ。こじ開けるように含まされ、中をかき混ぜられる。
「ん・・・ぅ・・・。」
混ざった唾液が、口の端から零れ落ちる。孝利は気にしないようで、くちゅ、と唇を吸うと、そっと離れた。
「だいぶうまくなったね。」
いいね。と目を細めて笑う。腿に落ちた唾液を、タオルで拭うと、押し倒しながら鎖骨を齧った。
「っ・・・。」
痛みを訴えると、そこをペロと舐められる。唇は下がって、胸の突起を挟んだ。きつく吸って、舌で転がされる。
「ん・・・?」
じわっと腰に響く。
「ん、なに?」
そんなところ、女の子じゃないのに・・・。
「気持ちいい?」
「ぅ・・・へんな感じ。」
「何も感じないわけじゃないんだね?」
なら、良くなるまで舐めてあげる、と舌先でそこをつついたり、ざらりとこすったりし始めた。だんだん妙な気持ちになってくる。腰の、深いところに響くのだ。
「ぁ・・・なんかジンジンするぅ・・・。」
「どこ?」
「胸じゃなくて、奥・・・。」
「・・・いじられたい?」
ちら、と上目遣いに問われて、頷いた。不思議なことに、胸を弄られただけなのに、ペニスが立ち上がっていた。でも、今欲しいのはそっちじゃなくて、体の深いところ・・・。
孝利は、ローションのボトルを開けると、秘部を濡らし、入口を浅くかき回すと、そっと指を差し込んだ。
「ふぁぁぁ・・・。」
「うん。上手に力抜いてるね。」
「うう・・・。」
呻いて、異物感に耐える。中で動かされると、ペニスが腹の上ではねた。先端から、透明な糸がこぼれて、肌を濡らしている。
「いいところ、弄ってあげるね。」
ぬぷぷ、と指が深く潜った。その指先が、腹側に向けて押される。
「あっ!あぅぅ・・・。」
気持ちいい。孝利に、もっとと腰を振って見せると。まだ、とかわされた。指一つで、丹念に入り口をほぐしている。柔らかくなって、痛みも異物感もなくなってくると、指は二本に増やされた。太くなった分の圧迫感は、かなり強い。その指で、また前立腺を押された。
「ううっ・・・。あ、はぅ・・・。」
「気持ちよさそう。もういいかな?」
孝利は一度指を抜くと、どこからともなくテープを取り出した。薬箱に入っていたサージカルテープだ。それで、ローターをペニスの先に固定する。
「や・・・なに?」
「痛み止め。」
固定し終えた孝利は、ローターのスイッチを入れた。軽く唸りだすモーター音に、しかし快感は相当なもので。
「はっ・・・あぁぁぁぁ。」
身もだえていると、後口にローションが足された。
「じゃぁ、一つ目、入れてみるね。」
つぷん、と後ろに圧迫感があり、それはあっさりと飲み込まれた。
「二つ目。」
さっきより、大きい球体が、飲み込まれようとしている。口径は二センチほど。少し苦しいが、それも体内にちゅぷんと飲み込まれた。
「痛くない?」
「あ・・・これ、とって。イッちゃいそう。」
「まだ。三つ目入れるから・・・少し強くしようか。」
そう言いながら、リモコンを操作して、少し振動を強くする。
「あぁっだめ・・・だめ!でちゃう!」
「お尻に集中して?三つ目入れるよ?」
グッと、秘部を押されて、しかしかすかな痛みがある。
「あ、やぁ・・・いた・・・いたい・・・。」
「大丈夫。入っちゃうよ。」
ググっと、圧がかかる。口径は三センチほど。その、一番太いところで、孝利は圧をかけるのをやめた。
「あっ・・・やだぁ。ひろがっちゃう。ひろがっちゃうよぉ。」
「これで少しならそう。イケたら終わりね。」
孝利はおもちゃから手を放してしまった。ところが、おもちゃは自然と中に吸い込まれてゆく。
「あれ?入っちゃうねぇ。痛くない?」
「っ・・・くるし・・・。」
「最後の、入れてみる?」
口径は四センチ。孝利のよりは細いかもしれないが・・・。
「こわい・・・。あぁ・・・アァぁあああイク!イッちゃう!」
急にこみ上げた射精感に身もだえていると、孝利があろうことか四つ目をねじ込んだ。
「ひぁっ!あ、いた・・・痛い!ぬいてぇ!」
泣き声を上げると、抜いていいの?と念を押された。コクコク頷く。すると、最後の球についたリングに手をかけた孝利が、一気に全部を引き抜いた。
「あーっ!」
衝撃に、ぴしゃぁっと精液が胸を濡らした。イッたのに、止まらない振動。
「あ、やめ・・・これとめて・・・とめてお願い。」
「もう少し。」
ね?と振動をさらに強くされる。
「あーっ!だめ、だめ!なんかくる!漏れる・・・出ちゃう!」
射精感とも尿意ともつかない初めての感覚に、泣き声をあげた。
「出していいよ。」
「やぁ・・・だめ、も、だめ・・・。」
しゃぁぁぁ・・・。
ペニスの先端から、薄い水のようなものが溢れた。
「おっとっと。」
こぼれないように、孝利がそれをタオルで包み込む。
「こぼさなかったね。エライエライ。」
「は・・・なに・・・いまの・・・。」
「・・・多分潮?」
「しお?」
いつの間にか、振動が止められ、孝利は器用にテープを外した。肩で息をする。
「はぁっ・・・はぁっ・・・。」
「良かった?」
「わかんないですぅ・・・。」
息が整わない。それくらい、強い快感に苛まれて。
「もうやだ・・・。こんなんだったら、本番の方がいい。」
「本当?じゃぁ、次回はしてみようかセックス。」
う。
「・・・優しくしてくれる?」
「もちろん。」
「今日、優しくなかった。」
「でも、痛くはなかったでしょう?」
そうだったろうか。感覚が壮絶で、もうあまり思い出せない。
「それより、これ、できそう?」
はちみつを渡される。
「むーりー・・・。」
泣き言を言うと、孝利はいいよ、シャワー浴びてきな、と笑った。

 シャワーを浴びている間に、孝利はまた、自分で欲求を処理したらしい。「無理」と、言った自分も悪いのだが、もう少し、してほしそうにしてくれてもいいと思う。
入れ違いに、シャワーを浴びに行く孝利から、ほんのりと事後の香りを感じ取った。
そんな夜更け。
してほしくないわけではないと思うのに・・・。
リビングで、炭酸水を飲んでいると、孝利がシャワーを終えて、やってきた。一旦部屋に戻り、メガネをかけて戻ってくる。グラスに、サーバーから水を注ぎ、飲み干す。さっぱりとした様子に、もう性的な匂いは感じられない。いつもの甘いボディーソープの香りを纏っている。自分と同じ匂いのはずだが、孝利が使うとよりいい香りに感じるのだ。
体臭が、いい匂いなのかな・・・。
匂いって重要らしい。生理的に受け付けない体臭だと、付き合ってもうまくいかないって、何かで見た。孝利さんは、自分の匂いをどう感じてるんだろう。最近は、動物に触れ合う機会もアン以外とはないから、獣臭はしないと思うし・・・。
くん、と手の甲の匂いをかいでいると、孝利が何してるの?とやってきた。
「孝利さん、僕の匂い、好きですか?」
「うん?今は同じボディーソープの匂いでしょう?」
「孝利さんの方が、いい匂いに感じます。」
少しの間を開けて、孝利が口を開いた。
「それはさ・・・君、俺のことが好きなんだよ。」
「それは・・・否定しませんけど。」
そうか。好きだから、いい匂いに感じてるのか。
妙に納得して、首を傾げた。
「孝利さん、僕の匂い・・・。」
「ふふ。好きだよ。」
そこは心配するところじゃないから、と微笑まれる。
「同じボディーソープ使ってても、違うなって、思ってた。」
「いつ気がついたんですか?」
「初めて一緒に寝た日の、朝かな。君の残り香に思った。」
布団に残った香りで気がついたというのか。確かに、先に起きる自分にはわかりにくいことだったかもしれない。
「いい匂いだなって。もともと、香りが好きで使ってるソープだけど、使う人によって変わるなんて、その時初めて気がついた。」
「僕なんて、初めて車に乗せてもらった時から、いい匂いだなって・・・。」
なんだ。二人とも匂いフェチなんだね、と孝利がクックと笑う。
「フェチ・・・。なんか恥ずかしいですね。」
「そう?俺は嬉しいな。それって、体の相性にもかかわることでしょう?あぁ。早くセックスしたいな。」
もっていた炭酸のボトルを取り落しそうになる。
「孝利さんって、淡白そうって言われません?」
「言われます。」
でも、違うよ?と笑われる。
「君と一緒で、気持ちいいことは大好き。」
君と一緒と言われて、かぁっと耳が熱くなった。
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