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おやつのザッハトルテは好評で、レモンのメレンゲは、可愛らしい器に盛られている。バナナタルトも美味しかった。
そんな三時過ぎ。
「夕食まで時間あるから、買い物に出るかい?」
「あの、思ったんですけど、そのステンドグラスのキットって、通販では買えないんですか?」
「買えるけど、手に取って見るのが楽しいから、連れていきたいんだよ。」
そう言われると・・・。
「・・・行きましょうか。」
「うん。」
孝利は嬉しそうだ。いそいそと出かける準備をしている。
「あ、スイカ持ってる?」
「え?電車で行くんですか?」
混んでそうだなぁ。でも、車で行って動けなくなるよりはいいかもしれない。もしもの時はタクシーを拾おう。
「チャージしてないですけど・・・。」
持ってるならいいよ、と孝利はコートを着込んだ。そのポケットにマスクと吸入薬。やはり、心配がないわけではなさそうだった。早々に済ませて帰ってこよう。そう決めて、玄関を開けた。
買い物は確かに楽しかった。買ったのは、ガラス絵具というもので、描いて、時間が経つと透明なシール状になるのだそうだ。サンプルの写真は、精緻で美しいものだった。これが作れるならいいが、自分にそこまでの才能はない。ところが、これは、孝利が描いた下絵をなぞるだけで似たようなものが作れるという。クリスマスをモチーフにした、下絵も、いくつか買ってきた。華やかさを出すために、ラメやスワロフスキーも。一度孝利が見本を見せてくれるそうで、そうしたら、あとは暇つぶしにやってみればいいということらしかった。帰り道、近くに借りているというアトリエにも連れて行ってもらった。所狭しと、ステンドグラスのランプカバーが並んでいる。どれも美しく、自分の語彙の少なさを恥じた。
「家だとアンがいるからね。ここを使ってくれてかまわないよ。」
ケーキ屋とは反対方向に歩いた、雑居ビルの一室だ。ドアに小さく、『アトリエ北村』と書いてあるきりで、連れてきてもらわなかったら、迷子になっていたに違いなかった。
仕事の少ない時期は、ここに籠ることもあるらしい。アトリエとはあるが、工房というよりは、作った作品の保管場所といった風情だった。
夕ご飯は一緒にピーマンの肉詰めを作った。なかなかよくできていて、味もよく、美味しかった。サラダと、簡単な豚汁も作った。お腹いっぱいにしてしまって、しまったと思う。
これから、アレをしなくてはならないのに・・・。
そんな様子を察してか、孝利がどうしたの?とやってきた。手には食後のお茶。
「あ、・・・その・・・えっちなことするのに、お腹いっぱいにしちゃって、大丈夫かなって。」
「あぁ。食欲満たしちゃうと、性欲なくなっちゃう?」
「アレして、お腹痛くなるから、吐いたりしたら嫌だなって。」
「そんなに食べた?・・・っていうか、そんなに痛くなるの?」
頷いて、ため息をつく。
「まぁ、夜は長いよ。もう少し休んでからでいいよ。」
コク、と頷いて、お茶を受け取る。飲み頃に冷ましてあった。
「おもちゃ、どんなの買ったんですか?」
「少し早いけど、飲み終わったら寝室行こうか。開けて見てみよう。」
孝利は静かに言うけれど、自分の胸はドキドキがうるさい。
言われるまま、お尻を開発なんてされてしまっていいのだろうか。疑問は残るが、興味も好奇心もある。痛くないのが前提だったが。早く見たいような、見たくないような・・・。
「うわー・・・。」
とは、おもちゃを見ての感想だ。
つるりとした細長い形の、たぶんローターと、ピンク色のボールが連なっているタイプ。しかもそのボールは、直径一、五センチくらいから四センチくらいまで円錐状に大きくなっていくのだ。四センチの玉の終わりには、リングが付いていて、引き出せるようになっている。明らかに『拡張』目的のおもちゃ・・・。長さは、大体手のひらくらい。直腸の長さ、というよりは、小ぶりなペニスの長さくらいだった。
「これ・・・。」
入れるんですか?とは聞けずに、目で訴える。これだったら、指の方がいい。でも、孝利は目をキラキラさせて、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のようで。試してみたいと表情が語っていた。深々とため息をつく。
そこに『愛情』はあるの?
どちらかと言うと、変態に近いような・・・。
「わぁ。いいね。これ。・・・縛ったりもしてみたいな。」
「・・・嫌です。」
やっぱり、少し変態っぽい。
「孝利さん、あの・・・最初は指がいい・・・。」
「もちろん。いきなりこれ入れたりしないよ。指でほぐして、気持ちよくなってから入れてあげるね。」
さもそれが、最良の策とでも言いたげに、孝利は言うが。
深々と、何度目かのため息をついた。
トイレで浣腸を済ませると、孝利のベッドに上がるよう言われた。シーツの上に、大判のバスタオルが敷いてある。
「何回イってもいいからね!」
準備万端、と孝利が笑う。
「あ、僕、一回で満足しちゃうタイプです。」
「そうなの?新たな境地開こうよ?」
おいで、キスしよう?と誘われる。
「舌、入れてもいい?」
「えっと・・・あ。はい・・・。」
したそうにするその表情に、あっさり負けてしまう。タオルの上に乗ると、孝利は指を絡めてきた。手の甲をくすぐられて、だんだんその気になってくる。唇をうっすらと開くと、後頭部に空いた手が回り、逃がさないとでもいうように、唇が押し当てられた。そのまま、熱い肉の感触を含まされる。
「ん・・・んく・・・。」
孝利は、舌を絡めると、すりすりとこすり合わせて、感触を楽しんでいてるようだった。こちらにそんな余裕はなかったが。僅かに離れる合間に、必死で息を継いで、また合わされる。歯茎や上あごを舐められると、ゾクゾクしたものが背骨を伝って腰にわだかまった。
舌を入れられるのは二度目だったが、前回よりは呼吸が楽な気がする。少しだけ慣れた。
「ぅっ・・・んん。」
繋いでいた手を外され、半立ちの中心を握られる。それだけで、嬉しそうに固くなったペニスの裏を、指先でくすぐられる。たまらなくて、もじ、と腰を振ると、孝利は唇を離して、クスクスと笑った。
「あんまり乗り気じゃないのかと思ったけど?」
「おもちゃを入れられるのは怖いですけど、気持ちいいことは好きです・・・。」
素直にそう言うと、嬉しそうに目を細めた。
「まずは指、ね?」
孝利はそう言うと、箱の中からローションを取り出し、パチンと蓋を開けた。トローっと中身を手に取り、ペニスに塗り付ける。
「こっち、してほしいよね?」
頷くと、ローションのぬめりを使って、そそり立った屹立をしごき始めた。それがもう、たまらなく良くて・・・。
「あ・・・はぁ・・・あぁ・・・あん。」
呼吸に合わせて声が漏れてしまう。それを、吸い取るように、孝利が小さなキスをする。途中で、ふと思いだしたように、風邪、うつしちゃうね、と口づけをやめた。あんなに深いキスをしておいて、今更だ。
「んぁ・・・孝利さん、もっと・・・。」
キスをねだると、もっと?と聞き返された。コクコク頷くと、孝利は、ローションで濡れた指で、秘部をなぞった。
「あ、ぁ。やだ。そっちじゃなくて・・・。」
「そろそろ欲しいでしょ?」
「んぅ。」
ちゅっと頬に口づけて、孝利は器用にローションのボトルを開けると、中身を秘部に垂らした。冷たさに、体がすくむ。
「まだ入れないから、力まないで?」
ホッと、力を抜くと、孝利はそこをもみ始めた。それがなんとも恥ずかしくて、そんなことをされるくらいなら、入れてくれた方がましだと思ってしまう。
「も、い、入れて。」
「まあだ。柔らかくなるんだって。その方が気持ちいいよ。」
だから、何の知識なの?
ネットや、動画の知識で、弄ばないでほしい。
一度覚えた快楽が欲しくて、先端はたらたらと蜜をこぼしている。もう、早く欲しくて仕方がないのに。
もっと見て。自分を見てほしい。こんなになってる姿を見て。
欲しがってるのがわかるから!
「孝利さん、入れて、中、かき混ぜて!」
「タマ、なんてこと言うの。煽らないで?酷くしちゃいそう。」
ちゅぷ、ときれいにヤスリのかけられた指先が中に潜り込む。
「あぁ!」
「痛い?」
ぶんぶん頭を振って、違う、と訴える。
「あ、もっと・・・もっとほしい!」
孝利の指が、ぬぷぷぷ、と一番奥まで入った。その指が、中をぐるりとかき混ぜる。
「ひぃあ・・・。あっあん。」
異物感と、内臓をかき混ぜられるすさまじい感覚に、達しそうになる。でも、今日はまだ、これからだから。自分で、根元を握って、イクのを必死で我慢する。
「出していいよ?」
「だめ・・・イッちゃうと、時間かかかるから。」
一度達してしまうと、たぶん、回復するのに時間がかかる。自分で、続けて二度イったことはなかったから。
ぎゅうっと全身に力を入れて、快感の波をやり過ごす。なのに、孝利は面白いものでも見つけたように、中のボタンを押すのだ。
「っあ!今だめ!そこだめぇ!」
我慢できない。
「やだ、やぁ・・・おもちゃ入れるって言ったぁ!」
「そんなにおもちゃが欲しいの?」
問われて、酸欠でぼんやりした頭で考える。
「あ・・・やだ。」
「こんなに感じて。指、もう一本受け入れられたらイっていいよ。」
ちゅ、と耳を啄まれる。
中を苛んでいる指がずるりと抜け、今度はもっと太いもので貫かれた。
指、二本でこんな?
増えた圧迫感に、はくはくと呼吸する。孝利は、揃ええた二本の指で、ぐっと前立腺を押した。
「あっ!あーっ!」
不意のことに、我慢できなかった、とぷとぷ、と精液がタオルを濡らす。独特の匂いが鼻をついた。
「あー・・・出ちゃったねぇ。」
前には触られていないのに。
「すごいタマ。才能あるかも。気持ちよかったでしょう?」
才能・・・?それは孝利さんじゃなくて?
こんなに気持ちよくされたのは初めてだ。
きっと毎回初めてを更新していくんだろう。
「も・・・だめ。」
くたりとベッドに倒れこんだ。
「おっとっと。」
孝利は、ペニスに残った精液を絞り切ると、タオルで拭った。
ローションのベタベタがましになる。
「動けるようになったら、シャワー浴びようか。俺は先に行ってるね。」
まって、置いて行かれたら寝ちゃいそう・・・。
放埓の余韻に、うとうとする。この、落ちるか落ちないかの間を彷徨うのが好きだった。
どれくらい寝落ちていただろうか。体を軽く揺すられて目を覚ます。
「タマ、タマ。シャワー浴びておいで。」
孝利だ。シャワーを済ませたようで、バスローブを羽織って眼鏡をかけている。
「んぁ・・・?」
「かわいいけど、風邪ひいちゃうから、温まって歯磨きしておいで。」
忘れてキスしちゃったからね、風邪ひいちゃう、と孝利は律儀だ。
「どれくらい寝てました?」
「ん?三十分くらいかな。」
あ。しまった。
「・・・一人で済ませちゃいました?」
「・・・気にしないで?」
孝利も、相当に昂っていたはず。それなのに・・・。
「ごめんなさい。」
「いいよ。指が二本でも気持ちいいってわかったからね。
次はおもちゃ入れるよ?」
お仕置き、とばかりに言われて、頷く。
「孝利さん・・・あんまり気持ちよくしないで・・・。
我慢できないから。」
視線を床に縋らせて訴えると、ぽんぽんと頭を叩かれた。
「気持ちいいならいいじゃない。ほら、シャワー浴びておいで。」
寝室から追い出される。
「あ、まって、これ、洗濯に入れておいて。」
汚れたタオルを放られて、気まずいことと言ったらない。
別洗いをするか、汚れを下洗いして他のタオルと一緒に回すか・・・。
廊下を歩きながら、そんなことを考えた。
シャワーを終えて、いろんなヌルヌルを落としきると、なんだか目が冴えてしまった。バスローブを着てリビングに行くと、パジャマに着替えた孝利とアンが遊んでいた。
「孝利さん、アンの毛大丈夫ですか?苦しくならないですか?」
危惧していたことを聞いてみる。
「薬がよく効いてるからね。大丈夫だよ。普段からアレルギーの薬は飲んでるしね。」
そうだったのか。なら、そんなに徹底的に掃除することもないのだろうか。でも、自分がいる間は、発作なんかで苦しむようなことはさせたくない。
自分がいる間は・・・。
そう思ったら、急に胸が苦しくなって、こみ上げたものが目からポロリと溢れた。
ポロポロと零れ落ちて、床を濡らしてしまう。
「タマ、どうしたの?」
慌てたように、孝利がアンを放って近づいた。
「なんでも・・・ないです。」
「なんでもなくて、こんなに涙は出ないよ。」
頷いて、瞬きする。ポロ、と雫がバスローブに吸い込まれた。
「どうしたの。」
「なんでも・・・。
ただちょっと、必然に絶望しただけです。」
半年後、自分がここを去るという必然に・・・。
あんなに気持ちよくなれたのは、孝利を好きだからに他ならないのに・・・。
どうして父は、半年なんて期限を切ったのだろう。
半年後、何が起こると思ったのだろう・・・。
「タマ・・・。仕方ないことは考えないで。今を楽しんで?」
そんな刹那的な。
期限付きの恋なんて、自分には無理だ。
孝利は、楽しんでいるみたいだけれど。自分には・・・。
明日から、どうやって生活したらいいの?
止まらない涙を、孝利がぺろ、と舐めとる。
「ふふ。しょっぱい。アレの味に似てるね。」
なんてこと言うんだろう。この人は。哀しくて泣いてるっていうのに、よりにもよってそんなこと。
「孝利さん、酷いです。」
「酷いのはタマだよ。もう終わりを考えてるの?」
「だって・・・だって、始まっちゃったんですもん。」
これはきっと恋なのだ。孝利のためにいろいろ考えたり、一緒にご飯を作るのが楽しかったり、えっちなことをするのが気持ちよかったり・・・。
恋じゃなかったらなんだっていうの。
「タマ、やっと本気になってくれたの?」
小さく、コク、と頷く。
「嬉しいな。じゃぁね、おもちゃ入れても痛くなかったら、今度はセックスしてみようね。」
クスクス笑う孝利に、思わず涙が引っ込む。
「今度って・・・いつ?」
「風邪が治ったら、次の土日かな。今年は、クリスマスも元旦も平日だしね。土日は休めると思う。」
業者さんも、基本的には土日休みが多いから。と孝利はニコニコしている。
「ねぇ、好きって言ってみて?」
言われて、心臓が早くなる。ドキドキしながら、孝利の目を見つめ、好き、と小さく呟いた。すると、ふわふわのバスローブごと、ぎゅっと抱きしめられた。
「タマ、好きだよ。」
頷くと、足元に絡みついていたアンが、アーンと鳴いた。
「孝利さん、アンがやきもち妬いてる・・・。」
妬かせといて、と目じりにキスされた。
「涙、止まった?」
「うん。」
「嬉しいな。恋人っぽいことする?」
恋人っぽいこと?なんだろう。
「一緒に手をつないで寝よう?」
かぁっと耳が熱くなった。
本当に、なんてこと言う人なんだろう。
恥ずかしい。
頷いてしまう自分は、もっと恥ずかしかった。
その晩、少し寝落ちていたこともあってか、なかなか眠れず、孝利お勧めの、えっちな動画を見る羽目になった。痛がって泣く子を、なだめすかして最後までしてしまうその動画は、自分の行く末を暗示しているようで。孝利は、そんなに痛くしないよ、とうそぶいていたが、孝利のものがやすやすと入るまでには相当慣らさないといけないだろうと思われた。
ゆるゆるにされちゃうんじゃないの?そんなことを思いながら眠りに落ちた。
そんな三時過ぎ。
「夕食まで時間あるから、買い物に出るかい?」
「あの、思ったんですけど、そのステンドグラスのキットって、通販では買えないんですか?」
「買えるけど、手に取って見るのが楽しいから、連れていきたいんだよ。」
そう言われると・・・。
「・・・行きましょうか。」
「うん。」
孝利は嬉しそうだ。いそいそと出かける準備をしている。
「あ、スイカ持ってる?」
「え?電車で行くんですか?」
混んでそうだなぁ。でも、車で行って動けなくなるよりはいいかもしれない。もしもの時はタクシーを拾おう。
「チャージしてないですけど・・・。」
持ってるならいいよ、と孝利はコートを着込んだ。そのポケットにマスクと吸入薬。やはり、心配がないわけではなさそうだった。早々に済ませて帰ってこよう。そう決めて、玄関を開けた。
買い物は確かに楽しかった。買ったのは、ガラス絵具というもので、描いて、時間が経つと透明なシール状になるのだそうだ。サンプルの写真は、精緻で美しいものだった。これが作れるならいいが、自分にそこまでの才能はない。ところが、これは、孝利が描いた下絵をなぞるだけで似たようなものが作れるという。クリスマスをモチーフにした、下絵も、いくつか買ってきた。華やかさを出すために、ラメやスワロフスキーも。一度孝利が見本を見せてくれるそうで、そうしたら、あとは暇つぶしにやってみればいいということらしかった。帰り道、近くに借りているというアトリエにも連れて行ってもらった。所狭しと、ステンドグラスのランプカバーが並んでいる。どれも美しく、自分の語彙の少なさを恥じた。
「家だとアンがいるからね。ここを使ってくれてかまわないよ。」
ケーキ屋とは反対方向に歩いた、雑居ビルの一室だ。ドアに小さく、『アトリエ北村』と書いてあるきりで、連れてきてもらわなかったら、迷子になっていたに違いなかった。
仕事の少ない時期は、ここに籠ることもあるらしい。アトリエとはあるが、工房というよりは、作った作品の保管場所といった風情だった。
夕ご飯は一緒にピーマンの肉詰めを作った。なかなかよくできていて、味もよく、美味しかった。サラダと、簡単な豚汁も作った。お腹いっぱいにしてしまって、しまったと思う。
これから、アレをしなくてはならないのに・・・。
そんな様子を察してか、孝利がどうしたの?とやってきた。手には食後のお茶。
「あ、・・・その・・・えっちなことするのに、お腹いっぱいにしちゃって、大丈夫かなって。」
「あぁ。食欲満たしちゃうと、性欲なくなっちゃう?」
「アレして、お腹痛くなるから、吐いたりしたら嫌だなって。」
「そんなに食べた?・・・っていうか、そんなに痛くなるの?」
頷いて、ため息をつく。
「まぁ、夜は長いよ。もう少し休んでからでいいよ。」
コク、と頷いて、お茶を受け取る。飲み頃に冷ましてあった。
「おもちゃ、どんなの買ったんですか?」
「少し早いけど、飲み終わったら寝室行こうか。開けて見てみよう。」
孝利は静かに言うけれど、自分の胸はドキドキがうるさい。
言われるまま、お尻を開発なんてされてしまっていいのだろうか。疑問は残るが、興味も好奇心もある。痛くないのが前提だったが。早く見たいような、見たくないような・・・。
「うわー・・・。」
とは、おもちゃを見ての感想だ。
つるりとした細長い形の、たぶんローターと、ピンク色のボールが連なっているタイプ。しかもそのボールは、直径一、五センチくらいから四センチくらいまで円錐状に大きくなっていくのだ。四センチの玉の終わりには、リングが付いていて、引き出せるようになっている。明らかに『拡張』目的のおもちゃ・・・。長さは、大体手のひらくらい。直腸の長さ、というよりは、小ぶりなペニスの長さくらいだった。
「これ・・・。」
入れるんですか?とは聞けずに、目で訴える。これだったら、指の方がいい。でも、孝利は目をキラキラさせて、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のようで。試してみたいと表情が語っていた。深々とため息をつく。
そこに『愛情』はあるの?
どちらかと言うと、変態に近いような・・・。
「わぁ。いいね。これ。・・・縛ったりもしてみたいな。」
「・・・嫌です。」
やっぱり、少し変態っぽい。
「孝利さん、あの・・・最初は指がいい・・・。」
「もちろん。いきなりこれ入れたりしないよ。指でほぐして、気持ちよくなってから入れてあげるね。」
さもそれが、最良の策とでも言いたげに、孝利は言うが。
深々と、何度目かのため息をついた。
トイレで浣腸を済ませると、孝利のベッドに上がるよう言われた。シーツの上に、大判のバスタオルが敷いてある。
「何回イってもいいからね!」
準備万端、と孝利が笑う。
「あ、僕、一回で満足しちゃうタイプです。」
「そうなの?新たな境地開こうよ?」
おいで、キスしよう?と誘われる。
「舌、入れてもいい?」
「えっと・・・あ。はい・・・。」
したそうにするその表情に、あっさり負けてしまう。タオルの上に乗ると、孝利は指を絡めてきた。手の甲をくすぐられて、だんだんその気になってくる。唇をうっすらと開くと、後頭部に空いた手が回り、逃がさないとでもいうように、唇が押し当てられた。そのまま、熱い肉の感触を含まされる。
「ん・・・んく・・・。」
孝利は、舌を絡めると、すりすりとこすり合わせて、感触を楽しんでいてるようだった。こちらにそんな余裕はなかったが。僅かに離れる合間に、必死で息を継いで、また合わされる。歯茎や上あごを舐められると、ゾクゾクしたものが背骨を伝って腰にわだかまった。
舌を入れられるのは二度目だったが、前回よりは呼吸が楽な気がする。少しだけ慣れた。
「ぅっ・・・んん。」
繋いでいた手を外され、半立ちの中心を握られる。それだけで、嬉しそうに固くなったペニスの裏を、指先でくすぐられる。たまらなくて、もじ、と腰を振ると、孝利は唇を離して、クスクスと笑った。
「あんまり乗り気じゃないのかと思ったけど?」
「おもちゃを入れられるのは怖いですけど、気持ちいいことは好きです・・・。」
素直にそう言うと、嬉しそうに目を細めた。
「まずは指、ね?」
孝利はそう言うと、箱の中からローションを取り出し、パチンと蓋を開けた。トローっと中身を手に取り、ペニスに塗り付ける。
「こっち、してほしいよね?」
頷くと、ローションのぬめりを使って、そそり立った屹立をしごき始めた。それがもう、たまらなく良くて・・・。
「あ・・・はぁ・・・あぁ・・・あん。」
呼吸に合わせて声が漏れてしまう。それを、吸い取るように、孝利が小さなキスをする。途中で、ふと思いだしたように、風邪、うつしちゃうね、と口づけをやめた。あんなに深いキスをしておいて、今更だ。
「んぁ・・・孝利さん、もっと・・・。」
キスをねだると、もっと?と聞き返された。コクコク頷くと、孝利は、ローションで濡れた指で、秘部をなぞった。
「あ、ぁ。やだ。そっちじゃなくて・・・。」
「そろそろ欲しいでしょ?」
「んぅ。」
ちゅっと頬に口づけて、孝利は器用にローションのボトルを開けると、中身を秘部に垂らした。冷たさに、体がすくむ。
「まだ入れないから、力まないで?」
ホッと、力を抜くと、孝利はそこをもみ始めた。それがなんとも恥ずかしくて、そんなことをされるくらいなら、入れてくれた方がましだと思ってしまう。
「も、い、入れて。」
「まあだ。柔らかくなるんだって。その方が気持ちいいよ。」
だから、何の知識なの?
ネットや、動画の知識で、弄ばないでほしい。
一度覚えた快楽が欲しくて、先端はたらたらと蜜をこぼしている。もう、早く欲しくて仕方がないのに。
もっと見て。自分を見てほしい。こんなになってる姿を見て。
欲しがってるのがわかるから!
「孝利さん、入れて、中、かき混ぜて!」
「タマ、なんてこと言うの。煽らないで?酷くしちゃいそう。」
ちゅぷ、ときれいにヤスリのかけられた指先が中に潜り込む。
「あぁ!」
「痛い?」
ぶんぶん頭を振って、違う、と訴える。
「あ、もっと・・・もっとほしい!」
孝利の指が、ぬぷぷぷ、と一番奥まで入った。その指が、中をぐるりとかき混ぜる。
「ひぃあ・・・。あっあん。」
異物感と、内臓をかき混ぜられるすさまじい感覚に、達しそうになる。でも、今日はまだ、これからだから。自分で、根元を握って、イクのを必死で我慢する。
「出していいよ?」
「だめ・・・イッちゃうと、時間かかかるから。」
一度達してしまうと、たぶん、回復するのに時間がかかる。自分で、続けて二度イったことはなかったから。
ぎゅうっと全身に力を入れて、快感の波をやり過ごす。なのに、孝利は面白いものでも見つけたように、中のボタンを押すのだ。
「っあ!今だめ!そこだめぇ!」
我慢できない。
「やだ、やぁ・・・おもちゃ入れるって言ったぁ!」
「そんなにおもちゃが欲しいの?」
問われて、酸欠でぼんやりした頭で考える。
「あ・・・やだ。」
「こんなに感じて。指、もう一本受け入れられたらイっていいよ。」
ちゅ、と耳を啄まれる。
中を苛んでいる指がずるりと抜け、今度はもっと太いもので貫かれた。
指、二本でこんな?
増えた圧迫感に、はくはくと呼吸する。孝利は、揃ええた二本の指で、ぐっと前立腺を押した。
「あっ!あーっ!」
不意のことに、我慢できなかった、とぷとぷ、と精液がタオルを濡らす。独特の匂いが鼻をついた。
「あー・・・出ちゃったねぇ。」
前には触られていないのに。
「すごいタマ。才能あるかも。気持ちよかったでしょう?」
才能・・・?それは孝利さんじゃなくて?
こんなに気持ちよくされたのは初めてだ。
きっと毎回初めてを更新していくんだろう。
「も・・・だめ。」
くたりとベッドに倒れこんだ。
「おっとっと。」
孝利は、ペニスに残った精液を絞り切ると、タオルで拭った。
ローションのベタベタがましになる。
「動けるようになったら、シャワー浴びようか。俺は先に行ってるね。」
まって、置いて行かれたら寝ちゃいそう・・・。
放埓の余韻に、うとうとする。この、落ちるか落ちないかの間を彷徨うのが好きだった。
どれくらい寝落ちていただろうか。体を軽く揺すられて目を覚ます。
「タマ、タマ。シャワー浴びておいで。」
孝利だ。シャワーを済ませたようで、バスローブを羽織って眼鏡をかけている。
「んぁ・・・?」
「かわいいけど、風邪ひいちゃうから、温まって歯磨きしておいで。」
忘れてキスしちゃったからね、風邪ひいちゃう、と孝利は律儀だ。
「どれくらい寝てました?」
「ん?三十分くらいかな。」
あ。しまった。
「・・・一人で済ませちゃいました?」
「・・・気にしないで?」
孝利も、相当に昂っていたはず。それなのに・・・。
「ごめんなさい。」
「いいよ。指が二本でも気持ちいいってわかったからね。
次はおもちゃ入れるよ?」
お仕置き、とばかりに言われて、頷く。
「孝利さん・・・あんまり気持ちよくしないで・・・。
我慢できないから。」
視線を床に縋らせて訴えると、ぽんぽんと頭を叩かれた。
「気持ちいいならいいじゃない。ほら、シャワー浴びておいで。」
寝室から追い出される。
「あ、まって、これ、洗濯に入れておいて。」
汚れたタオルを放られて、気まずいことと言ったらない。
別洗いをするか、汚れを下洗いして他のタオルと一緒に回すか・・・。
廊下を歩きながら、そんなことを考えた。
シャワーを終えて、いろんなヌルヌルを落としきると、なんだか目が冴えてしまった。バスローブを着てリビングに行くと、パジャマに着替えた孝利とアンが遊んでいた。
「孝利さん、アンの毛大丈夫ですか?苦しくならないですか?」
危惧していたことを聞いてみる。
「薬がよく効いてるからね。大丈夫だよ。普段からアレルギーの薬は飲んでるしね。」
そうだったのか。なら、そんなに徹底的に掃除することもないのだろうか。でも、自分がいる間は、発作なんかで苦しむようなことはさせたくない。
自分がいる間は・・・。
そう思ったら、急に胸が苦しくなって、こみ上げたものが目からポロリと溢れた。
ポロポロと零れ落ちて、床を濡らしてしまう。
「タマ、どうしたの?」
慌てたように、孝利がアンを放って近づいた。
「なんでも・・・ないです。」
「なんでもなくて、こんなに涙は出ないよ。」
頷いて、瞬きする。ポロ、と雫がバスローブに吸い込まれた。
「どうしたの。」
「なんでも・・・。
ただちょっと、必然に絶望しただけです。」
半年後、自分がここを去るという必然に・・・。
あんなに気持ちよくなれたのは、孝利を好きだからに他ならないのに・・・。
どうして父は、半年なんて期限を切ったのだろう。
半年後、何が起こると思ったのだろう・・・。
「タマ・・・。仕方ないことは考えないで。今を楽しんで?」
そんな刹那的な。
期限付きの恋なんて、自分には無理だ。
孝利は、楽しんでいるみたいだけれど。自分には・・・。
明日から、どうやって生活したらいいの?
止まらない涙を、孝利がぺろ、と舐めとる。
「ふふ。しょっぱい。アレの味に似てるね。」
なんてこと言うんだろう。この人は。哀しくて泣いてるっていうのに、よりにもよってそんなこと。
「孝利さん、酷いです。」
「酷いのはタマだよ。もう終わりを考えてるの?」
「だって・・・だって、始まっちゃったんですもん。」
これはきっと恋なのだ。孝利のためにいろいろ考えたり、一緒にご飯を作るのが楽しかったり、えっちなことをするのが気持ちよかったり・・・。
恋じゃなかったらなんだっていうの。
「タマ、やっと本気になってくれたの?」
小さく、コク、と頷く。
「嬉しいな。じゃぁね、おもちゃ入れても痛くなかったら、今度はセックスしてみようね。」
クスクス笑う孝利に、思わず涙が引っ込む。
「今度って・・・いつ?」
「風邪が治ったら、次の土日かな。今年は、クリスマスも元旦も平日だしね。土日は休めると思う。」
業者さんも、基本的には土日休みが多いから。と孝利はニコニコしている。
「ねぇ、好きって言ってみて?」
言われて、心臓が早くなる。ドキドキしながら、孝利の目を見つめ、好き、と小さく呟いた。すると、ふわふわのバスローブごと、ぎゅっと抱きしめられた。
「タマ、好きだよ。」
頷くと、足元に絡みついていたアンが、アーンと鳴いた。
「孝利さん、アンがやきもち妬いてる・・・。」
妬かせといて、と目じりにキスされた。
「涙、止まった?」
「うん。」
「嬉しいな。恋人っぽいことする?」
恋人っぽいこと?なんだろう。
「一緒に手をつないで寝よう?」
かぁっと耳が熱くなった。
本当に、なんてこと言う人なんだろう。
恥ずかしい。
頷いてしまう自分は、もっと恥ずかしかった。
その晩、少し寝落ちていたこともあってか、なかなか眠れず、孝利お勧めの、えっちな動画を見る羽目になった。痛がって泣く子を、なだめすかして最後までしてしまうその動画は、自分の行く末を暗示しているようで。孝利は、そんなに痛くしないよ、とうそぶいていたが、孝利のものがやすやすと入るまでには相当慣らさないといけないだろうと思われた。
ゆるゆるにされちゃうんじゃないの?そんなことを思いながら眠りに落ちた。
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