2年と半年の恋

sourin

文字の大きさ
上 下
2 / 4

第2話 高まる気持ちと迫りくる不安

しおりを挟む
(別荘の留守番なんて、そう何日も出来るものではないな。ハリソン様の従者の腰が治ってくれて良かった)

宰相まで上り詰めたハリソンの古くからの部下であるセドリックは独り言ちた。

ハリソンに頭が上がらないのは昔からだが、ノーマンに何の罪も無いことを知っているだけにセドリックの気は滅入っていた。

休みを貰ったが、雨の日に家の中にいても暗く、余計にどんよりしてきたので、セドリックはゆるゆると当てのない散歩に出掛けた。

ふらりと入った公園は、屋根付きのベンチやパラソル付きのテーブルセットなどが所々に置いてあって、こんな雨の日でも照りつける暑い日でも過ごしやすいようになっていた。

小振りなテーブルセットに腰を下ろしたセドリックは、斜め向かいに若くて可愛らしい女の子が3人いることに気付いた。

若くして平民落ちした元子爵令息のセドリックは青春時代の全てを労働と隣国との諍いに費やしてなんとか騎士爵を掴んだが、40も半ばになろうかという今まで恋人に恵まれたことは無かった。

恋とも言えない程の慕情を感じた娘はいたが、セドリックにはどうすることも出来なかった。
後に再び彼女と出会えたが、隠居した貴族の後妻になっていた。

ジャクリーンは隣国との境近くの村の食事処の娘だった。
彼女の両親はジャクリーンを表に出したがらなかったが、長引く諍いで駐屯する兵士は増員していて、どうしても手が足りずジャクリーンも店を手伝っていた。

たちの悪い連中の話はセドリックも耳にしていた。

だが、ある夜、セドリックを見張りに立ててジャクリーンを襲ったのは上司だったハリソンだった。

何もかも終わってから全てを知って崩れ落ちるセドリックに、ハリソンは「お前も共犯だからな」と言った。
平民落ちしたセドリックを拾ってくれたハリソンには逆らえず、セドリックはそのままずっとハリソンの犬だった。

そしてその隣国との諍いで武功を上げたセドリックとハリソンは爵位を賜った。
セドリックは結局騎士爵止まりだったが、ハリソンは元の男爵から子爵になり、侯爵家に婿入りして宰相にまでなった。

その原動力が復讐であることをセドリックは知っていた。

求心力を失いつつあった前国王と、当時は王太子だったレモネルは、起死回生の手段として“辺境伯の子供たち”を使った。
横領や領地での圧政、不当な増税、密輸、それらにおもねる者、見逃す者、全てが摘発された。

セドリックの子爵家は密輸グループに追随していたことで取り潰しとなり、王都追放で一家は離散して13だったセドリックは理不尽な思いを堪えながら、住み込みで港の荷運び労働をしていた。

ハリソンの公爵家は男爵落ちで留まれていたが、ハリソン自身が学園での王太子の婚約破棄騒動に巻き込まれていた。
婚約者のオランディーヌ嬢がいるレモネル王太子との親密な関係を装って高位の令息たちを翻弄した男爵令嬢サティに、ハリソンは惹かれていた。

オランディーヌ嬢を誹り、レモネル王太子の失脚を画策したハリソンは、王都追放を命じられたのだ。
なんとしてでも返り咲くことを決意したハリソンは、同じ恨みを持つ仲間を増やしていった。

港で出会ったセドリックとハリソンは兵士に志願して武功を立て、王都に舞い戻ることを誓い合ったのだった。

(ハリソン様に恩義は感じているが、ジャクリーンのことを思うと……ん?あの子が着けているペンダントは…ジャクリーンに娘がいると聞いて居ても立ってもいられずに贈ってしまった物と似て…いや、メイベルに贈ったのと同じ物だ。あの子のブレスレットも、あの子の髪飾りも…!こんな偶然があるか?まさか…)

“辺境伯の子供たち”を撲滅したいハリソンは、マイラー・ネルソンの屋敷が“表”の施設であることを突き止めて、行商人を装ったセドリックに偵察に行かせた。
その先でセドリックは期せずしてジャクリーンと出会い、拾い聞きした会話からメイベルという娘がいることを知ったのだった。

視力がとても良いセドリックは、3人組の女の子たちが身に着けているアクセサリーに見覚えがあった。
見知らぬ娘にジャクリーンを重ねて選び抜いたのだから見違えることはなかった。

(待ち合わせか?あの男の子たちか。1人は保護者か?どういうグループなんだ?)

セドリックは6人の後を追って、馴染みの無いカフェに入った。
近付こうとしたが入り口近くの1人用の席に通されたセドリックは、よく分からないメニューを適当に選んで食べた。

6人は盛り上がっていてデザートまで頼んでいるようだったので、間が持たなくなったセドリックは店を出て6人を待って、後を尾行した。

(バラバラのペースで歩いているが、どうやら同じ所に向かっているみたいだな。え?…この先は確かドルトレッド伯爵の…もしかしてあの男の子たちのどちらかがフレッドなのか?…だとしたらあの金髪の小柄なほうだな)

ゆっくり歩いていた最後の女の子が屋敷に入るまで見送ったセドリックは、5人しか屋敷に入っていないことに気付かないまま、踵を返した。

逆に自分が尾行されていることにも気付かずに。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

処理中です...