【BL】こじらせ馴れ初め(竜太×神楽メイン)

祈 -inori-

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竜太と神楽のむかしのはなし。

20ー2.あいつが俺ん事、好き…とか…

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「…ちゅー訳でムードメーカーとちびっこ!なんか知らんか?」
 腕を組みながら威圧感を全面に押し出して中学生と小学生を問い詰める姿はまるでカツアゲでもしているようで非常に格好悪い。先程の会社での予期せぬ遭遇で不機嫌になった感情を抑えようともせずにぶつける様はまさに八つ当たりそのもの。
呆れておまわりさんでも呼んでやろうかとスマホに手を伸ばす一弥だが物怖じしない声が制止した。
「東儀コーチってかぐっちゃんのこと好きなの?」
 子供特有の真っ直ぐな瞳に一弥はぎょっとした。こんなストレートに白日の元にさらされていいような内容ではない。慌てて間に入ろうとした一弥の肩を押し退けて竜太は前に出た。一弥の胸に一抹の不安が過る。
まさか素直に答えんでよ、ボン!
「心底惚れとるけど、それが?」
 中学生相手にもはやいっそ清々しいほどにはっきりきっぱり答える竜太に一弥が羞恥に襲われてしまう。
 竜太の発言をどう取り繕おうかと悩んでいると『ムードメーカー』こと弁天親慶はまたもや真っ直ぐに二人を見上げる。
「やっぱり、義経の言ったとおりだった」
「どういう事?」
 名前を上げられた『ちびっこ』こと古河義経に視線を向けると逃げるように親慶の背中に隠れてしまった。代わりに親慶が口を開く。
「東儀コーチ、最近かぐっちゃんの好きなものとかよく俺に聞きにくるからなんでだろうと思ってたんだけど義経が『東儀コーチは神楽くんのことが好きなんだね』って言うから。義経のそういうの、よく当たるんだよね」
 人見知りで引っ込み思案な性格はその分観察力を鍛えるらしい。そして常識に囚われない考察力も小学生ながらに素晴らしいものだと二人は感心してしまう。
「それでさ、さっきの話なんだけど、なんでコーチはかぐっちゃん昔の話を聞きたいの?」
 幼い子供が多く在籍するスケート場で一番面倒見のいい親慶は爽やかな黒髪の短髪に精悍な顔つきも相まってほとんどの女の子達の初恋を奪っていることは想像に容易い。今もこうして義経を自分達から守ろうと盾になる姿は頼りになり親しみやすい兄のようで好感を持てると何故か親目線で親慶を分析してしまう。
「あいつ、寝てる時魘されとったからその理由が知りたいねん」
 竜太の発言にその場にいた全員が目を見開いて驚いた。もっとも、一弥の驚きは他の二人とは違うものだったが…。
 親慶と義経は見開いた真ん丸の目を見合わせていた。
「…かぐっちゃんが寝たの?コーチの前で?」
「なんでそないに驚くん?」
「だってかぐっちゃんって人前で寝ないっていうか寝ないようにしてたから…」
「昨日はあいつ、とくに疲れとったから送る途中で寝てしもうて、どんだけ起こしても起きへんしずっと魘されとるし…」
「あ…なんやツマらん」
 昨夜の出来事を説明途中、二人が一夜を共にしたのかとあらぬ誤解をしていた一弥は大袈裟に肩を落としボソリと呟いた。
「お前はその理由を知ってそうやなぁ」
 そんな一弥を無視して竜太は親慶に向き合うと一段低い声に親慶は警戒を強くした。後ろに隠れる義経の瞳にも怯えの色が濃く映る。
 しかし、親慶は毅然としていた。
 胸を張り両手を腰にあてるとフン!と荒い鼻息を吐き出した。
「知ってるけど言わない!かぐっちゃんのプライベートなことだもん!」
 大人二人を相手に流石は将来を期待されるスケーターだと思わざるを得ないほど子供らしからぬ堂々とした態度で親慶は言った。
 その姿に竜太も納得したように口を固くつぐんだ。
 御しやすいと思っていた相手は存外に鉄壁だったことを理解すると一弥は竜太を窺った。諦める気などは毛頭ないだろうがそれでもこの子供から無理やりに聞き出すことはしないようだ。
 どう攻略しようかと策略を巡らせる大人と沈黙を貫く親慶。その均衡を破ったのは思いもしない人物だった。
「…あの」
 小さな声にその場にいた全員の視線が集まった。竜太と一弥は聞き覚えのないその声にその場にいた人物を消去法で考えて視線を向けたのだがその読みは当たっていたのだろう、おどおどと不安げに眉を顰めている義経が控えめに親慶の背から顔を出していた。
 目元ギリギリに揃えられた艶のある黒髪からなんとも大人しそうな印象を受ける義経だが、リンクに上がると一変、親慶に負けず劣らずの精悍な顔つきになるのだから不思議で仕方がない。小柄な体にそのギャップが堪らないと一部のファンの間で話題になっているらしい。
 視線を一身に浴びたことで弱気になってしまったのだろう、腰が引ける義経を落ち着かせるように親慶は優しく背中を擦ってやる。そうしてようやく義経は口を開いた。
「あのね…神楽くんも東儀コーチのことちゃんと好きだと思うし、ちゃんと考えてると思うから……だから、もう少し待ってて、あげて…ね?」
 たどたどしく紡がれる言葉に竜太と一弥がまず思ったのは「長文喋れるんや?!」だった。日頃、義経と会話した記憶など皆無な二人は声を聞いた記憶を探るが、たまたま廊下などですれ違った時に消え入りそうな声で「おはようございます」と言われるのみ。その他は通訳と化している親慶が義経の代わりに話していた記憶しかなかったのだ。
「義経だって必要なことはしゃべるよ?」
 そんな二人の思考を読んだ親慶が呆れながらそう言うと二人はハッとしてようやく我に還った。
 それから義経の言葉を咀嚼した後、一弥はおそるおそる竜太を見上げた。竜太は口元を押さえたまま固まっていた。
 そして恐る恐る声を漏らす。
「…お前達にはそう見えとんの…?」
 竜太の問い掛けに視線を向けられた親慶と義経は揃って首を傾げた。
「あいつが俺ん事、好き…とか…」
 躊躇いながらの呟きに親慶は「そりゃあ、ねぇ?」とあっけらかんと答え、義経も何度も頷いて見せた。
「かぐっちゃん、嫌いな人の相手してるほど暇じゃないから。コーチといるとかぐっちゃん、余計な緊張もとれてリラックスしてるように見えるし」
「最近はよく笑ってる…」
「…あいつの気持ちがよぉ分からんくて…嫌われてはないと思うとったけど…」
 第三者、それも神楽に一番近いと思われる二人からそんな嬉しい評価をされてしまえば隠しようもないほど口許がニヤけてしまう。
 その様子に一弥は気色悪さを感じつつ竜太は大人の尊厳を取り戻すように咳払いをした後、顔を引き締めたが意思に反してニヤつく頬筋が隠しきれていない。
 見慣れない表情ものに流石の二人も引いているかと思いきや「コーチってわりといつもあんな感じ」と親慶は冷静に答えた。
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