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竜太と神楽のむかしのはなし。

18.やぁ~らしい♪ボンのエッチィ!!

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「昨日のデートでなんかあったん?」
 リンクを華麗に滑る神楽の姿を見つめながら声をかけると竜太は怪訝な顔を返した。
 しばらく二人を眺めていたが特に変わった様子もなくいつも通り真面目に練習をしている姿に違和感を感じていた。てっきり竜太か神楽か、昨夜のデートの顛末を説明してくるものだと期待していたというのに一弥は盛大な肩透かしをくらいガッカリしていた。
「なんかあったように見えるか?」
 カマをかけた質問に質問で返されて一弥はさらに違和感を覚えた。
 竜太は触れて欲しくないことがあると絶対に目を合わせない。なんでもないように装うその様が「なにかありました」と物語っているのだが、と一弥は小さく悪態を吐く。
「てっきりキスくらいはしたかと思うたんやけど…」
 言いながら、ちらり、竜太を一瞥すると大きな肩が小さく跳ねたのを見逃さなかった。
 面倒くさい性格のくせに存外素直なところが憎めない。
 一弥は静かに笑う。
「あ!お前、わざと俺にチュロス勧めたやろ?」
 明らかに話を逸らされたが一弥は口角を鋭く上げた。そして、したたかな思惑を隠すように明るい声を上げた。
「わざと?なんの事やろ?美味しかったやろ?」
「…まぁ、美味かったけど…」
「神楽さんも食べたん?」
「あいつはカロリー制限しとるからな…俺のを二口くらい齧っとったけど…」
「ふ~ん?ま・さ・か、ボン?神楽さんのその姿見てなんや変な想像でもしたんやないやろね?」
 確信めいた一弥の問いかけに、昨夜、薄く口を開き神楽に咥えられたチュロスに自身の昂りを重ね情欲に喉を鳴らした事実と唇の熱を思い出してしまい竜太は避けるように背中を向けた。否定は出来そうにない。
 その態度に一弥は楽しそうにケラケラと笑う。
「やぁ~らしい♪ボンのエッチィ!!」
 さらに煽ると竜太は肩を震わせながら顔だけ振り返り一弥を睨みつける。耳まで赤く染まった顔に威圧感など微塵も感じない。
「…あいつが散々煽ってくんのが悪いねん。二人きりの密室であんなん……あいつの貞操がほんまに心配やわ…」
 憎らしく吐き捨てる竜太に一弥は首を傾げた。
「僕が見るかぎり神楽さんって女性はもちろん男性にも隙を見せへんよ?ボンが言う『あんなん』がどんな状況か分からんけど、我慢出来ずに無理やりキスしたなるような感じやって考えると…そんな風になるんはボンに随分気を許してるとか?」
 どこから突っ込めば良いのか悩みながらそれでも竜太は神楽が周囲を惑わせるような表情も行動も自分以外にはしていないという優越感が胸に広がる。
「…そ、ういう事なんかなぁ…?」
 疑いつつ、だが、嬉しさを隠しきれない表情に一弥は吹き出すと再び大きな笑い声を上げた。
「少なくとも誰よりも脈ありやと思うで?」
 バシンと強く背中を押すと竜太は気恥ずかしそうに頭を掻いた。
 不器用な竜太にようやく訪れた春を応援しない訳にはいかない。もちろん、全力で楽しみながら♪
 それから数週間。二人を温かく見守りながら毎日を過ごしていた一弥は孫の成長を楽しむ祖父のように下がった目尻に表情筋は悉く仕事を止めてしまった。
 竜太が神楽に触れる回数は日に日に増し、当初は戸惑いを見せていた神楽も今では微笑みを返す姿すら窺える。
 二人がどんな会話をしているのか一弥には分からなかったが寄り添うその姿は間違いなく二人がより良い関係に変化している証だとまるで恋愛ドラマでも見ているかのような感覚に一弥は毎度、もしかしたら当人以上にときめきいているのかもしれない。

 そんな順調に愛を育んでいるような二人から近々、良い報告を聞けるのかもと期待していた一弥は突然、暗雲立ち込める二人に振り回されることになるとはこの時はまだ知る由もなかった。
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