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竜太と神楽のむかしのはなし。

13.多分、俺は嫌ではない…と、思う

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 前回と同じように竜太の車に乗り連れて行かれたのは前回とは違う、けれどこちらも同等の高級レストランを見上げ神楽は表情を強張らせた。それを横目に見ていた竜太も気まずい空気を感じ
「…お前が行きそうな店知らんねん…」
そうボソッと呟き今回は正面から二人で並んで入店した。そうして当たり前のように個室に通され向かい合うように座ると神楽は部屋を見回すと不思議に思った竜太が首を傾げた。
「…本当に二人きりなんだな」
「俺、そうゆうたやろ?」
「それでも一弥は一緒に来るのかと思ってた」
「あいつらも自由やしプライベートな時間は放っとかれた方が俺も楽や。…連れてきた方が良かったか?」
「いや…そういう訳じゃないけど…。というか、いつもお付きの二人がいるけどあんた達って何者なの?」
「あいつらはただの従兄弟」
「この前の店…あんたがオーナーって話は本当?」
「せやね。…あー…俺の爺さんが『東儀組』ちゅう、まぁ大分デカい会社の創立者でその爺さんの持ち物を身内で少しずつ分担して持たされとるだけやから一応、俺の持ちもんやけど俺自身は全然興味ないからマネージャーみたいな優秀な人間に任せとる」
「『東儀組』…。じゃあ、一弥がいつも忙しそうにしてるのはその仕事のせい?」
「せやね。あいつは大学にも行っとって会社でも頼りにされとるし、俺の仕事も任せとるから相当忙しいわな」
「…いや、自分の仕事は自分でやれよ…」
「ゆうたやろ?俺は優秀な人間に仕事を任せとるって。あいつはああ見えて真面目で優秀やからな。爺さんにもちっさい時から頼りにされとったわ」
 足を組みながら一弥に仕事をさせてるなどと偉そうに話す竜太に神楽が呆れていると料理が運ばれてきた。前回同様種類の少ないカトラリーに神楽は複雑な気持ちになった。
 それから再び静かな食事をしていると竜太が口を開いた。
「二人きりやと気まずい?」
 短い台詞に神楽は前回の行為を思い出してしまい喉を詰まらせ咳き込むと慌てて水で流し込んだ。
「大丈夫か?」
 心配する竜太に神楽は何度も頷いて答えると呼吸を整えてから顔を上げた。
「別に…あれからあんたなんにもしてこないし、なんか言ってくる訳でもないから…二人きりでも…気にしてない…」
「そか。…この前はほんまにスマンと思ってる。あんな事するべきやなかったし言うべきやなかった…」
 真剣な表情。神楽は直視出来ずに目を伏せた。
「…この前の言葉、言わなきゃ良かったって後悔してんの?」
「そんな事は考えてへんけど。そっちが嫌やろうなって思うて…」
「…多分、俺は嫌ではない…と、思う」
 ぽつり溢れた言葉は紛れもない本心だ。
 いきなりキスされたのはたしかに驚いたけど…嫌とか気持ち悪いとかじゃなくてただ驚いたんだ。
「あんなストレートな愛情表現されたのは初めてだったからどうしたらいいのかって悩んではいるけど…」
「せやね。今はあんまり影響ないみたいやけどこれ以上悩まして成績落としたら…どう考えたって俺のせいやな。なぁ、やっぱりこの前した事も言った事も忘れてくれへん?ほんまに全部…俺の我が儘なんやけど…なんちゅうか心苦しいちゅーか…」
「…」
 忘れろと言われて神楽は少しだけ苛立ちを覚えた。
 そして伏せていた目で竜太を真っ直ぐに見つめた。
「……分かった。今度からはそれを忘れるか忘れないかで悩む事にする」
「いやいやいや、分かってへんやん!俺が軽はずみにあんな事したのもあんな事ゆうたのもほんまに悪いと思ってるんやけど」
「考える!考えさせて…」
「…案外頑固なんやね、お前…」
 竜太が呆れているのを察した神楽だが『惹かれている』という竜太の言葉をうやむやにしたくなかったのだ。
 それからは静かな食事が再開されお互いにこの件に関して話をすることもなく神楽は竜太にマンションまで送ってもらいお開きとなった。
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