上 下
58 / 77
竜太と神楽のむかしのはなし。

10ー2*.自業自得とはいえ面倒な事になったわ…

しおりを挟む

 快楽に溶かされた思考はすぐに覚醒し、同時に急激な羞恥心が襲いかかってきた。
「や?!はっ?…えぇ?!」
 混乱する神楽はなにかを伝えようと口を開くが短い音を発するだけで言葉にならない。とりあえず驚いてることだけは伝わった竜太は笑いを堪えながら上擦った声で
「いや…このままで頼む」とドアに投げると咳払いを一つ。
「なんや?」
「お食事が終わった頃かと思いましたのでワゴンを下げに伺いました」
 見つめあっていた視線がそろって汚れた食器を乗せたワゴンに注がれると神楽は激しく頭を左右に振った。
 酸いも甘いも噛み分けた経験豊かなマネージャーだろうとさすがにこの状況を目の当たりにしたら驚きを隠せないだろう…なによりこんな姿を見られてしまえば神楽の自尊心は木っ端微塵に砕かれる。
 必死の訴えを受けて竜太が声を上げる。
「…いや、食器はあとで俺が片しとくわ」
「承知致しました」
 そう短い返事の後、衣擦れの音が聞こえてマネージャーが離れていく気配に神楽はほっと安堵の息を吐いたが、それを見た竜太がナニかを思いついたように不敵な笑みを浮かべた。
「ちょお、待って?最近、レストランの方は変わりないか?」
 竜太が声をかけると神楽は驚き信じられないと言った表情で竜太を見つめるがその視線に我関せず、竜太は普段どおり何事もないように話を続ける。
「はい。売上は順調でスタッフも表立ったトラブルもなく皆一生懸命に働いてくれています」
 相変わらず柔らかい声音に落ち着いたトーン、聞いていて心地いいのはきっとマネージャーの努力の賜物なのだろう。神楽は異常なこの状況の中少しだけ緊張を解いた瞬間、自身にかけてあった竜太の指がキュッと締まると神楽の体は大きく跳ねた。
「ンンッ!!」
 反射的に両手で押さえ込んだくぐもった声を上げると竜太は楽しそうにニヤニヤと笑っている。
 この野郎…!!
 マネージャーと会話をしながら神楽自身を上下に扱き始めた竜太を睨みつけるが効果はないようでニヤニヤと笑い続ける顔が憎らしい。
少しでも声を抑えようと机に倒れ込んで右手で苦しいほどに口を押さえ左手は竜太の手を止めようと掴むが力の入らない手は添えられるだけの意味のないものになっている。
「ふっ…ん、んっゃ…ぁ…」
 漏れる声に自身から響く水音ですらドアの向こう側にいるマネージャーに聞こえてしまうのではないかと恐怖に怯えながらそれでも高められていく体。
 神楽は懇願の視線を送り続けるが竜太は楽しそうに笑うだけ。首を振り限界を訴えても竜太は会話を続けながら神楽自身の先端に爪を突き立てると再び大きく神楽の体が跳ねた。
「あっ!っ…」
 強い痺れに何度も体を跳ねさせると指の隙間から必死に酸素を取り込んだ。
 胸を大きく揺らし溢れた透明な液体は竜太の骨ばった男らしい指に絡んで羞恥心やら罪悪感やら訳分からない感情が渦を巻き神楽は溢れる涙も隠さずに肩を震わせた。
 それには流石に竜太も罪悪感を感じマネージャーを下がらせると足音が聞こえなくなった瞬間、ぐちゅり、と大きな音が響いて神楽は「ひぁっ!!」と悲鳴を上げた。
 ぞくり。熱が体の中を駆け巡る感覚に竜太は静かに喉を鳴らした。
「我慢させて悪かったなぁ。もうイッてええよ」
「ゃだっ…!ゃ、やあぁ!!」
 卑猥な音を立てながら一気に絶頂まで高められる自身に神楽の視界はチカチカと眩しく星を散らし苦しさに机にしがみついても堪えきれるはずもなく。
「っ…んんぁっ!!」
 一層大きく体を跳ねさせると吐き出した白濁が神楽の胸と腹に背徳の花を咲かせた。
 ぐったりと机に沈む体は気怠さに指すら動かすのも億劫で恨みを込めて睨み付けた視線をどう受け取ったのか竜太はゆっくりと神楽に顔を近付けると少し戸惑いながら目元にキスを落とした。
「…タオル持ってくるわ」
 気まずそうに立ち上がり頭を掻く竜太は奥からお湯で濡らしたタオルを神楽に差し出した。
 怠い体を起こしもせず神楽はなおも恨めしげに睨み続けるが竜太は首を傾げた。
「……俺に拭いて欲しいん?」
 すっとんきょうな提案に神楽は慌てて体を起こすと既に冷たくなり始めているタオルを奪い下腹部と服に散った白も乱暴に拭き取った。
「…」
 …それで?これはどうしたらいいんだ?
 身支度を整えたのはいいがタオルの行き場に困り周りをキョロキョロと見渡すが必要最低限の物しか置かれていない空間にこの汚れたタオルは酷く場違いだった。
「俺が後で片しとく」
「あ…」
 奪うようにタオルを取った竜太はそのまま奥に下がりすぐに戻ってきた。
「…」
「……送ってく」
 お互い視線を泳がせ竜太の背中について無言で車に乗ると来る時よりも重苦しい空気がずしりと二人の背中にのしかかった。
 神楽は鞄を盾代わりに抱えると竜太は横目でそれを見つめ静かに息を漏らした。

 自業自得とはいえ面倒な事になったわ…。
しおりを挟む

処理中です...