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竜太と神楽のむかしのはなし。
7.はにかむ神楽さんもめっちゃ綺麗やんっ!!
しおりを挟む翌日。
一弥の姿は地下駐車場にあった。昨日の反省を経て竜太の様子に変化がなかったらその場で回れ右して車に押し込んで帰らせようと鬼の形相で意気込んでいた。
来た!!
「………って、あれ?」
しかし一弥の予想に反して竜太はいつもどおりアイロンのかかったスーツにきちんと整えられた身なりで現れた。
一弥は肩透かしをくらい呆然としながら竜太を見つめ何度も瞬きを繰り返した。
「なに変な顔してんねん」
「え?ぁ、いや…やって、ボンがちゃんとしとるから…」
「あ?こんなんいつもどおりやろ」
「せや!いつもどおりやからおかしいねん!!昨日、自分がどんだけボロボロやったか分かっとるん?!」
声を荒げる一弥を一瞥した竜太は冷たく一言
「知らん」
と言い捨てると一弥を置き去りにしてすたすたと一人で歩いていってしまった。
「…なんやのあの俺様っぷりはぁっ!!」
もう見えなくなってしまった竜太に怒りを露にするが視界の隅に見慣れた車が通ったことで一瞬にして我に還った一弥はパニックになりながらオロオロと右往左往しながらなにか説明をしなければと頭をフル回転させるが必要な言葉は出てこず車を降りてきた神楽に絶望した。
「…おはようご……おはよう、一弥…」
「おはようございます、神楽さん!!」
狼狽える一弥に対し神楽はいつもどおり爽やかに現れ、撤廃したばかりの敬語に足を掬われつつはにかみながら微笑んだ。
はにかむ神楽さんもめっちゃ綺麗やんっ!!
危うく恋に落ちてしまいそうな自分を戒めると一弥ははっとした。
えっと…さっきの訳分からん俺様ボンの状況をどう説明したら…。
「…今日は…あの人体調悪くない?」
「へっ?…あ、うん!!今日は平気そうなんやけど…その…」
ごにょごにょと言い澱む一弥を察してか神楽は小さく頷いた。
「昨日、一弥に言われたとおりあの人が話してくるまで俺からは、キ、キスの事、聞かないでおくから…」
「え、あ…た、助かります!!」
「もし…俺から聞いた方がいいタイミングになった時は教えてもらっていいか?」
「もちろんです!そん時はご迷惑お掛けしますがよろしくお願いします!!」
「うん。こちらこそよろしく…」
最後にまた少しだけはにかんでからロッカーに向かう神楽を見送ると一弥は胸を押さえるとその場にしゃがみこんだ。
「キスってゆう時どもるし…あのはにかみ笑顔ほんま可愛すぎやろっ!!」
不覚にもときめいてしまった一弥は竜太と神楽を二人きりにするのは不安だったが、熱い顔と早過ぎる心拍数が落ち着くまでこの場に留まることを決めた。
こういう時はアイツの顔を考えとけば早く落ち着くな…。
必死に落ち着かせようとしていると聞き慣れた声が頭上から降ってきた。
「…イチ?どうしたの、こんな所に座り込んで…」
「ミオ…」
心配そうに駆け寄るミオの顔を見た瞬間、一弥の中で仕事モードに切りかわるためのスイッチが押された気がした。
やっぱり、僕にとって一番効果的や。
「なんでもないよ。はよボンのとこ行こう」
「うん…」
一弥に違和感を感じたミオだったがいつもどおり颯爽と歩く姿に小首を傾げてからその背中を追いかけていった。
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