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竜太と神楽のむかしのはなし。
3.アウトや…
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翌日。
スケートリンクに一番乗りした一弥は昨夜から緩みっぱなしの頬をなんとか誤魔化そうと両手で挟みむにむにとマッサージしながら取り繕おうと頑張るが、久しぶりの身内の恋バナに浮かれる足取りは自然と軽くなってしまう。
ボンの気持ちを尊重して神楽さんがボンの事をどう思うてるか探ろうとせぇへんかったけど好意的ではあるよな。
「神楽さんの性格からして嫌いな相手にいきなりキスなんかされたらビンタくらってもおかしないしそれがなかったっちゅーことは…」
独り言を呟きながら晴れて交際することになった二人の姿を想像してむふふと顔を赤く色付かせ緩む頬はやはり自制が効かない。
やっぱり身近な人には笑っとって欲しいし…。
とりあえず神楽に会う前に竜太の機嫌を損ねないように両手で顔を叩き気合いを入れると窓ガラスに写った自分に向かってにこりと笑顔を見せれば「いつもどおりの男前や!」と自画自賛して竜太が現れるだろう第三会議室に向かった。
しかし、しばらくして現れた竜太の顔を見た瞬間、一弥は絶句した。
「おはようさん…」
怠そうに小さな声で挨拶しながら第三会議室に入ってきた竜太の顔には寝不足を酷く主張する隈が濃く深く刻まれていた。それだけではなく、櫛さえ通していないのかと疑う程ぼさぼさの頭にアイロンのかかっていないよれよれの服…よもや日本を代表する大会社の御曹司とは思えない出で立ちは分かりやすく竜太の心情を映していた。
「アウトや…」
「は?」
頭の中で描いていた仲睦まじい二人の姿はいとも簡単に崩れ落ちた。
「……たった一晩でなんでそないくたびれた格好になれるん?!」
「うるさい、ほっとけ…」
「大体、なんなんその服っ!!ボンの服はいつもホテルでアイロンがけまでしてくれてるやん!!どっから持ってきたん、そんな服!!」
皺がくっきりと刻まれたワイシャツを掴むと一弥はその違和感に顔を引きつらせた。
「まさか…昨日の服のまま来たとか言わんでよ?そんなだらしない格好、ウタに見せられへんで…」
「今、ウタは関係ないやろ」
「大体、その顔もなんなん?そんな顔…神楽さんに見せられへんやろ…」
「ほんまうるさいな、お前は!俺のオカンか!」
「こんなアホな息子いらんわっ!!とにかく今日は帰って!そんな姿見せたら気になって神楽さんが練習どころやなくなるわ…」
「ちょ!!おいっ!!」
神楽が現れる前にこの問題しかない竜太を追い返そうとぐいぐい背中を押し蹴り出す勢いで第三会議室の外に放り出すとさすがに険しい表情の竜太に睨まれるが一弥にそんな脅しは通用しない。
「神楽さんには僕が話しとくから今日こそ帰ってちゃんと寝てやっ!!」
そう吐き捨て勢いよくドアを閉めると、開く気配のない事を察して溜め息を吐いた竜太は頭を掻いた後とぼとぼと駐車場に停めてある車に向かって歩きだした。
「…とりあえず体調悪いってゆうとくか…」
その背中をこっそりと見送って適当な言い訳を考えて椅子に座るとそろそろ来るであろう神楽を待つことにした。
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