【BL】こじらせ馴れ初め(竜太×神楽メイン)

竜太と神楽のはなし。

１

    文字通り身も心も繋がってから数週間、義経の許容範囲を確かめながら少しずつ二人の関係を深め義経が戸惑いながらも努力をしてくれていることが親慶にも伝わりそれが嬉しくて仕方がなかった。
    衝動的に触れたくて頬に伸ばした親慶の手もこれまでは怯えを含んだ瞳で見つめられるだけだったが最近では恥ずかしそうに目を伏せた後、小さな手に包んでから頬に誘われる。そして温もりが重なった後、照れくさそうに微笑む表情が堪らなく愛しいとその度に親慶は人知れず悶えていた。
　キスも何度も交わし、数える程だが体も重ねた。相変わらず苦手そうに顔を隠したり声も圧し殺してはいるものの繋がったままキスをした時にふにゃりと蕩けてしまうほど柔らかく微笑む義経はそのまま消えてしまうのではないかと心配になるほど儚く綺麗で、抱き締めた温もりでようやく義経がここにいるのだと親慶は安心するのだった。
    二人はそんな幸せに満ちた日常を送っていた……だがそれも数日前までの話。
    最近─また─、義経の様子がおかしい。
    親慶は義経に少しばかりの違和感を感じていた。練習時間が重なる時は一緒に練習場へ向かい、帰りも二人で並んで帰る。これは付き合う前から変わらないが暗い夜道では手を繋ぐことを許してくれる。
　自分の部屋に遊びに来てくれる頻度も幼い頃と同じくらいには増えた。未だに緊張はしているがテーブルを挟んで座っていた今までとは違い隣に並んで座ってくれる。
　こんな小さな変化が義経の努力の証で、そんなささいなことに親慶は幸せを感じていた。服を通して伝わる温もりに鼓動が早まり、親慶が熱を含んだ瞳で義経を見つめれば少しだけ目を泳がせた後、相変わらず力の入り過ぎたキス待ち顔を披露してくれていたのだが…この日も反応が違った。
「…えと…」
    目を泳がせるのはいつもどおりだがそれから膝を抱える腕に力を込めて俯いてしまった。
「義経？」
「っ!!」
    赤面しながらもじもじしている義経の顔を覗き込むとびくっと肩を跳ねさせて頭を膝の上に置いて固まってしまった。
「…義経？俺、なんかした？」
    そんな寂しくも可愛らしい反応をされても親慶には心当たりがない。
    どうしたものかと悩み義経の頭を撫でながら問いかけると義経はふるふると頭を横に振り答える。
    親慶にとっては小さな、ささいな変化がもしかしたら義経には耐え難い変化なのかもしれない。
　それが義経にとってとても辛いものなのだとしたら…この関係を望んだ俺がいけなかったのだろうか。
　一緒にいて無理をさせるくらいなら……親慶はそこまで考えると頭を撫でる手を止めた。
「義経」
「…」
「…キスしたい…」
    返事がない義経に顔を上げるように促すと義経は親慶の顔を窺いながらゆっくりと顔を上げた。
　揺れる瞳に自分の姿が映ると少しずつその輪郭を濃くするように近付く…が。
「……義経ふぉひふへ…？」
    義経の唇に重なる寸前に両手で口を押し返されてしまうと親慶は見開いた目を大きくぱちぱちと瞬かせ、なおも赤く染まる顔を逸らしながら言い訳を探しているのだろう、金魚のように口をぱくぱくさせる義経を見つめる。
　そうしてしばらく時間が停止した後、義経はすばやく荷物を持ち立ち上がった。
「っ！…ぉ、オレ！今日はもう帰るっ!!じゃあな!!」
「えっ?!ちょっ、義経!!」
    親慶が状況を理解する頃には義経の盛大な足音は余韻を残しながら素早く遠ざかっていってしまった。追いかける間もなく消えた恋人に親慶は一人
「…なぜ？」
と呟くことしか出来なかった。
    こうして誰も望まない、もう何度目か分からない『親慶と義経の本気のおいかけっこ』が再び幕を開けてしまった。