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きょうだいの話。②

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    天涯孤独の身だ。東儀の人間にも疎まれ蔑まれ味方など少数しかいなかった。誰も信じず猜疑心を募らせていた自分が唯一心を許した存在の竜太が執着した神楽に知らずに心を開いていたのかもしれない。
    理解できない自身の言動を分析し困惑している神楽に向き合うと微笑んだまま伸ばした手に神楽は一瞬、肩を跳ねさせるが退路を塞がれた上に背中は窓にぶつかっている。見せかけだけでも逃げようともがき続けるがやはりなんの意味もなさなかった。
「神楽愛灯さんは不思議な人ですね。僕もますます興味が湧きました」
    微かに震える神楽を気にも止めず、蘭獅はゆっくりと近付き唇を首筋に押し当てたまま右手を脇腹に沿わせると神楽の背中に甘さを含んだ痺れが走り熱い吐息を漏らした。
「…なん………ぇ…?」
「どうしました?」
    自身の体の反応に困惑する神楽に蘭獅は再び怪しい笑みを浮かべながらその様子を観察しているようだった。
    逃げなきゃいけねぇのに…でも…なんでだ?抵抗出来ねぇ…。
    意に反してじわりと身体中に広がっていく熱に神楽は身を捩りやり過ごそうとするが熱はますます増していく。
「んっ、やめ…!」
「ココも竜兄に愛されてますもんね?」
「は、っ…んっ…」
    戸惑う神楽を尻目に流れるように下着の中に入り込んできた手は神楽自身を優しく包み長い指が這わされる感覚に堪えきれず何度も熱い吐息を漏らす。
    この甘い匂いはなんだ…?逃げなきゃいけねぇのに…考えが、上手くまとまらねぇ…。
「…っ、ん……は…ぅぅ…」
「声出してください?竜兄にいつも聞かせてる甘い啼き声、僕にも聞かせて?」
「やめ、っ!あっ!ゃっ…ん…」
    なけなしの理性で奥歯を噛み締め唇を強くつぐむが、それを見越したように蘭獅の指が強く神楽自身を締め上げた瞬間、神楽の口は抵抗と嬌声を吐き出した。
    上昇する体温に乱れる呼吸。体の違和感に頭を振るがもやがかかったような感覚は抜けず抗うために動かしたはずの両足には気付けば蘭獅の体がすっぽりとハマっていて、不敵な笑みを浮かべたまま神楽自身を角度を変え観察しながら再び高めていく。
「竜兄はココを舐めたりしてるんですよね?」
「くっ……ぅ、あ……」
    息が当たる程に近付けられた蘭獅の顔に反射的に腰を引くが後ろの窓が邪魔をして逃げることは叶わず、返事を待たないまま躊躇なく神楽自身に舌を這わせてくる。
「っ…ん……はっ…」
    ねっとりと這い回るそれは神楽を昂らせるものではなく、まるで『検体』を調べるかのように隅々まで動き回る。それでも月明かりに映されるその行為は扇情的に色付き神楽の体は意図せず昂り続け、もっと、と強請るように先走りを溢し始める。蘭獅は涌き出るそれを視認しながら舌先で舐めとり味や匂いを確認するような仕草をするとそれを何度も繰り返した。その行動は絶頂に達することを塞き止められているようで神楽が苦しさを訴えるようにもがくと蘭獅は不敵に口許を歪ませた。
「辛そうですね、神楽愛灯さん?」
「っ…なん、で……」
「はい?」
「体が……へ、んっ……ふ…ぁ…」
    生理的に溢れた涙が溜まった瞳で見つめながら自身の体の違和感を訴えると蘭獅は再びくすりと嗤った。
「僕が作った催淫効果のある香水の試作品をつけてきたんです。僕には効果はほとんどありませんが周りの人はほとんど発情しちゃうものなんですが…よく効いてるみたいですね」
    媚薬…?どうりでさっきから頭がぼぉーっとする訳だ…。
    鈍い頭で蘭獅の言葉を理解すると神楽は僅かに安堵した。いくら竜太に開発されていたとはいえ、竜太以外に触れられいとも容易く悦びに震える浅ましい体になってしまったのかと不安を覚えると同時に自己嫌悪していたからだ。
「むやみやたらに襲われても面倒だから人には試したことなかったんですが…成功みたいですね🖤今度、竜兄に使用してみようと思ってます。そうしたら一緒にいるだけで竜兄は我慢出来ずに僕を求めてくれるはずですから」
「…」
「そうなったらきっと竜兄は僕と一緒にいてくれるますよね」
「どう、だろぉな…?」
「え…?」
    嬉々として語る蘭獅の妄想を想像したら怒りが込み上げてきた。
    竜太がこいつを選ぶ?俺を、手離して…?
「…そんな、簡単な奴じゃねえよ…東儀竜太は。少なくて、も…んっ…そんなまやかしに踊らされるような愚かな奴じゃねぇ」
    あまりにお手軽に言うから腹が立った。
自分が捨てられることよりも竜太が薬を使えばイチコロなどとそんな馬鹿にされた言い方が神楽は気に入らなかったのだ。
「随分と竜兄の事を分かってるように言うんですね」
    神楽に反論されると思ってなかった蘭獅は鋭い空気を纏わせながら「気に入らない」と小さく舌打ちを鳴らす。
「……もし、大好きな神楽愛灯さんがぁ僕に抱かれて喘いでたら…竜兄はどう思いますかねぇ?」
「っ…は?」
「幻滅、されちゃいますかねぇ?」
「んあっ!!…っ……ゃめ…!」
    蘭獅の笑みは怪しさを増し神楽自身を扱きながら先端を強く吸い上げると神楽は衝撃に腰を浮かせ強い射精感に襲われた。
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