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親慶と義経のはなし。
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深層心理まで覗き込もうと見開かれ突き刺さる視線を感じた神楽だが、「なにを馬鹿な事を」と嘲笑で応える。
「変な勘繰りしてんじゃねーぞ?俺は竜太だけで手一杯だっつーの!」
鋭い睨みで疑惑を蹴散らすと親慶は妙な感覚から解放され無意識に緊張していた体を弛緩させ力なく笑った。
「…そう、だよね。そうだよね、うん…」
まるで自分に言い聞かせるように呟く親慶はそれに合わせて何度も頷いてみせる。
「まぁ、お前が義経を泣かせるような馬鹿野郎だったら容赦なく奪い取るから覚悟しとけよ?」
「うっ……」
幼い頃から義経を大切に見守ってきた神楽の言葉は重く、和らいだ表情に比べて目は先ほど同様鋭いまま。親慶は圧倒されながらも「かぐっちゃんならやりかねない」と心の中で呟くと再び拳を強く握った。
「泣かせないっ!俺が絶対に義経を守るから!!」
力強い言葉に神楽は一瞬、なんとも形容し難い表情をした後すぐに親慶には滅多に向けられない、いつもは義経にだけ見せる特別優しい微笑みに変わった。
「あいつの事頼んだぜ。お前だから安心して任せるんだからな?」
「分かってる。かぐっちゃんの信頼を裏切らないように頑張るよ」
「当たり前だ」
いつの間にかすっかり消え失せた眉間の皺に頬のマッサージも止めて壁から背中を離した。そして、リンクに戻ろうとする神楽はふと言いたいことがあったのを思い出し親慶に向き直った。
「あ、それと…」
「なに?」
「…首筋の絆創膏ってエロいよな…」
にやりと笑いながら自分の首をトントンと指で叩くと親慶はきょとんとしたあとに一瞬で顔を真っ赤に染め上げた。神楽が指差したそこは親慶が義経につけたキスマークの場所と一致し昨日の熱を思い出した親慶は羞恥に悶えた。
「あれも今度からはやめてやれよ」
親慶の反応に神楽は満足げに笑いながら第三休憩室からリンクへ戻っていった。その後ろ姿を真っ赤になりながら恨めしくに見送る親慶は「かぐっちゃんって本当に目敏いよな」と勘の良い先輩を見送った。
「…話し、終わった…?」
コンコン、と控えめなノック音が響いた後ドアから同じく控えめに顔を出す義経に親慶はすぐに破顔させ駆け寄ると手を引き第三休憩室に招き入れた。
「終わったよ。義経も筋トレ終わったの?」
小さな体を抱き寄せると義経は親慶の赤い顔を不思議そうに見上げる。
「うん。今日は…量も少なくしてもらったから…」
「そっか。……体、大丈夫?」
「…まだ腰が痛いけど……でも平気…」
「良かった…」
「……」
抱き締めた状態で義経が痛みが残ると教えてくれた腰を擦ると義経は照れくさそうに微笑み、目を泳がせたあと俯いた。
「!」
義経の見慣れた反応に親慶はすぐにはっとした。
これはあれだ!昨日かぐっちゃんに聞いてもらった『俺とそういう雰囲気になるのが苦手』ってやつだ!!………でも今いきなり離れたりしたら…それはそれで義経を不安にさせるんじゃないか?
「……」
どう動くのが正解なんだ…?
義経の反応から考えていることは分かったが、これからどう行動すればいいか分からず。結局、悩み過ぎて義経の腰に手を置いたまま硬直してしまった親慶を義経は上目で窺っていた。
また…チカを悩ませてる気がする。
『俺がすることで嫌なことと良いことを教えて欲しい』
昨日、チカがそう言ってくれたから…。
義経が勇気を出して親慶の頬に手を添えると、親慶は一度肩を跳ねさせた後、驚きつつ義経に視線を重ねる。
「まだ…慣れなくて……恥ずかしいだけだから、イヤじゃない…」
「うん、分かってる。……これ、ごめんな?」
「これって…?」
「キスマーク……痕付けるなって言われてたのに…」
そう言われて義経は鏡を睨み付けながら必死に張った絆創膏の存在を思い出した。
「…あっ!これ……やっぱりチカのせいだった!!」
昨日、見た目が落ち着くのを待って家に送ってもらった義経は家族に見つからないように玄関をくぐった瞬間、真っ直ぐに自室に走り込み鍵を閉めて籠城を決め込んだ。そして夜遅くに息を殺して風呂に入るとすぐに自室に戻り、朝、なに食わぬ顔でいつもどおり顔を洗いに洗面台に向かったところではっとした。理性を失いやすい恋人にははっきりと痕はつけるなと言ったはずだ。それなのに…見覚えのある赤い印に苛立ちよりも羞恥に襲われ、急いで自室に駆け込んだ。前回の行為、それ以前に湊和に襲われた時にも身体中に散りばめられた赤に、これが本などでよく見るキスマークなんだと学習した義経はとりあえず絆創膏で隠して練習場へ来たのだ。怠い体に痛む腰を庇いながらの練習に必死で親慶への抗議をすっかり忘れていた。
「ごめん…。無意識につけてた…」
絆創膏を指でなぞり眉を顰める親慶に仕方ないと許そうとした義経だったが違和感を感じ腰に回された腕に手を添える。
「………なに?」
見つめる親慶の視線は昨日と同じように熱を帯び始めていて、義経は身じろぎして腕の中から逃げようと試みるがそれは叶わず、触れるほど近付けられた唇に体を強張らせた。
「…誰も見てないから…キス、してもいい?」
「…………やだって言ってもするだろ…?」
「まぁ、ね…」
無駄だと分かっていた義経はそれでも腕で親慶の胸を押すが、頭と腰を固定されてしまえば戯れ程度の抵抗などなかったことにされてしまう。笑みを湛える唇が柔らかく重なると何度か啄むように食んだ後、舌が強引に義経の口内に入り込むと逃げる頭はまたも親慶の腕で阻止されさらに奥に差し込まれると義経の目には生理的な涙が浮かび苦しさを訴えるために親慶の胸を叩くとようやく解放された。
「義経、可愛い…」
うっとりと熱に浮かされた目はまるで獲物を狩る捕食者のようで義経は息を整えながら今度は本気で親慶の体から逃げ出した。
「チカの…すぐ調子に乗るとこ……嫌い…」
「悪い…」
「………ディ、っ!…ディープキス?みたいなのはこういうとこですんなよな…」
親慶のなにが嫌だったのか明確に伝えると、落ち込み項垂れていた顔はすぐに明るさを取り戻しぶんぶんと頭を大きく上下に振る。
「分かった!!今度から気を付けるっ!!」
まるで幼い子供のように元気に返事をする親慶が可笑しくて義経は珍しく声を上げて笑った。
「なんか…チカのことどんどん好きになってるかも…」
眩しいほどの笑顔に親慶は心臓の鼓動が高鳴り、「あぁ、やっぱり敵わない…」と心の中で小さく両手を上げると柔らかく目尻を下げた。
「…今までもこれ以上無理ってくらい義経のこと好きだったけど…俺もどんどん好きが増していってる…」
小さな体にゆっくり腕を伸ばし怖がらせないように優しく抱き寄せると義経は相変わらず微笑みながら親慶の胸に擦りついた。
この幸せが少しでも長く、永く続くように大切に守っていこうと親慶は誓うように義経の髪にキスを落とした。
end
「変な勘繰りしてんじゃねーぞ?俺は竜太だけで手一杯だっつーの!」
鋭い睨みで疑惑を蹴散らすと親慶は妙な感覚から解放され無意識に緊張していた体を弛緩させ力なく笑った。
「…そう、だよね。そうだよね、うん…」
まるで自分に言い聞かせるように呟く親慶はそれに合わせて何度も頷いてみせる。
「まぁ、お前が義経を泣かせるような馬鹿野郎だったら容赦なく奪い取るから覚悟しとけよ?」
「うっ……」
幼い頃から義経を大切に見守ってきた神楽の言葉は重く、和らいだ表情に比べて目は先ほど同様鋭いまま。親慶は圧倒されながらも「かぐっちゃんならやりかねない」と心の中で呟くと再び拳を強く握った。
「泣かせないっ!俺が絶対に義経を守るから!!」
力強い言葉に神楽は一瞬、なんとも形容し難い表情をした後すぐに親慶には滅多に向けられない、いつもは義経にだけ見せる特別優しい微笑みに変わった。
「あいつの事頼んだぜ。お前だから安心して任せるんだからな?」
「分かってる。かぐっちゃんの信頼を裏切らないように頑張るよ」
「当たり前だ」
いつの間にかすっかり消え失せた眉間の皺に頬のマッサージも止めて壁から背中を離した。そして、リンクに戻ろうとする神楽はふと言いたいことがあったのを思い出し親慶に向き直った。
「あ、それと…」
「なに?」
「…首筋の絆創膏ってエロいよな…」
にやりと笑いながら自分の首をトントンと指で叩くと親慶はきょとんとしたあとに一瞬で顔を真っ赤に染め上げた。神楽が指差したそこは親慶が義経につけたキスマークの場所と一致し昨日の熱を思い出した親慶は羞恥に悶えた。
「あれも今度からはやめてやれよ」
親慶の反応に神楽は満足げに笑いながら第三休憩室からリンクへ戻っていった。その後ろ姿を真っ赤になりながら恨めしくに見送る親慶は「かぐっちゃんって本当に目敏いよな」と勘の良い先輩を見送った。
「…話し、終わった…?」
コンコン、と控えめなノック音が響いた後ドアから同じく控えめに顔を出す義経に親慶はすぐに破顔させ駆け寄ると手を引き第三休憩室に招き入れた。
「終わったよ。義経も筋トレ終わったの?」
小さな体を抱き寄せると義経は親慶の赤い顔を不思議そうに見上げる。
「うん。今日は…量も少なくしてもらったから…」
「そっか。……体、大丈夫?」
「…まだ腰が痛いけど……でも平気…」
「良かった…」
「……」
抱き締めた状態で義経が痛みが残ると教えてくれた腰を擦ると義経は照れくさそうに微笑み、目を泳がせたあと俯いた。
「!」
義経の見慣れた反応に親慶はすぐにはっとした。
これはあれだ!昨日かぐっちゃんに聞いてもらった『俺とそういう雰囲気になるのが苦手』ってやつだ!!………でも今いきなり離れたりしたら…それはそれで義経を不安にさせるんじゃないか?
「……」
どう動くのが正解なんだ…?
義経の反応から考えていることは分かったが、これからどう行動すればいいか分からず。結局、悩み過ぎて義経の腰に手を置いたまま硬直してしまった親慶を義経は上目で窺っていた。
また…チカを悩ませてる気がする。
『俺がすることで嫌なことと良いことを教えて欲しい』
昨日、チカがそう言ってくれたから…。
義経が勇気を出して親慶の頬に手を添えると、親慶は一度肩を跳ねさせた後、驚きつつ義経に視線を重ねる。
「まだ…慣れなくて……恥ずかしいだけだから、イヤじゃない…」
「うん、分かってる。……これ、ごめんな?」
「これって…?」
「キスマーク……痕付けるなって言われてたのに…」
そう言われて義経は鏡を睨み付けながら必死に張った絆創膏の存在を思い出した。
「…あっ!これ……やっぱりチカのせいだった!!」
昨日、見た目が落ち着くのを待って家に送ってもらった義経は家族に見つからないように玄関をくぐった瞬間、真っ直ぐに自室に走り込み鍵を閉めて籠城を決め込んだ。そして夜遅くに息を殺して風呂に入るとすぐに自室に戻り、朝、なに食わぬ顔でいつもどおり顔を洗いに洗面台に向かったところではっとした。理性を失いやすい恋人にははっきりと痕はつけるなと言ったはずだ。それなのに…見覚えのある赤い印に苛立ちよりも羞恥に襲われ、急いで自室に駆け込んだ。前回の行為、それ以前に湊和に襲われた時にも身体中に散りばめられた赤に、これが本などでよく見るキスマークなんだと学習した義経はとりあえず絆創膏で隠して練習場へ来たのだ。怠い体に痛む腰を庇いながらの練習に必死で親慶への抗議をすっかり忘れていた。
「ごめん…。無意識につけてた…」
絆創膏を指でなぞり眉を顰める親慶に仕方ないと許そうとした義経だったが違和感を感じ腰に回された腕に手を添える。
「………なに?」
見つめる親慶の視線は昨日と同じように熱を帯び始めていて、義経は身じろぎして腕の中から逃げようと試みるがそれは叶わず、触れるほど近付けられた唇に体を強張らせた。
「…誰も見てないから…キス、してもいい?」
「…………やだって言ってもするだろ…?」
「まぁ、ね…」
無駄だと分かっていた義経はそれでも腕で親慶の胸を押すが、頭と腰を固定されてしまえば戯れ程度の抵抗などなかったことにされてしまう。笑みを湛える唇が柔らかく重なると何度か啄むように食んだ後、舌が強引に義経の口内に入り込むと逃げる頭はまたも親慶の腕で阻止されさらに奥に差し込まれると義経の目には生理的な涙が浮かび苦しさを訴えるために親慶の胸を叩くとようやく解放された。
「義経、可愛い…」
うっとりと熱に浮かされた目はまるで獲物を狩る捕食者のようで義経は息を整えながら今度は本気で親慶の体から逃げ出した。
「チカの…すぐ調子に乗るとこ……嫌い…」
「悪い…」
「………ディ、っ!…ディープキス?みたいなのはこういうとこですんなよな…」
親慶のなにが嫌だったのか明確に伝えると、落ち込み項垂れていた顔はすぐに明るさを取り戻しぶんぶんと頭を大きく上下に振る。
「分かった!!今度から気を付けるっ!!」
まるで幼い子供のように元気に返事をする親慶が可笑しくて義経は珍しく声を上げて笑った。
「なんか…チカのことどんどん好きになってるかも…」
眩しいほどの笑顔に親慶は心臓の鼓動が高鳴り、「あぁ、やっぱり敵わない…」と心の中で小さく両手を上げると柔らかく目尻を下げた。
「…今までもこれ以上無理ってくらい義経のこと好きだったけど…俺もどんどん好きが増していってる…」
小さな体にゆっくり腕を伸ばし怖がらせないように優しく抱き寄せると義経は相変わらず微笑みながら親慶の胸に擦りついた。
この幸せが少しでも長く、永く続くように大切に守っていこうと親慶は誓うように義経の髪にキスを落とした。
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