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【番外編】大不正解(東儀×神楽)
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眩しい程の朝日に目を覚ました神楽は軋む体に短く悲鳴を上げた。昨晩、無理矢理に暴かれた体は当然のように節々が痛みを訴える。
「…あんの野郎…」
起き上がれない体で痛みを堪えながらなんとか寝返りをうち周りを見渡すが、こんなにも体を痛め付けてくれた犯人の気配はない。神楽はその事実に安堵の中に落胆の色が含まれていることに気付き、振り払うように頭を振った。
竜太の手によって綺麗にされた体には昨夜の情事の痕が無数に残り重々しい溜め息が溢れた。
しばらくそのまま安穏としていたが腹の虫が騒ぎだし、仕方なく食べ物を探そうと動き出すがまるでナマケモノのようにゆったりとした動きに神楽は自分で笑ってしまう。向きを変えるとテーブルの上に昨夜外された眼鏡とルームサービスとメモが置かれていることに気付き、ナマケモノはそこを目指しずるずるとベッドを這い腕を伸ばした。
『用事があるから出掛けるけど、この部屋からは出られへんから今日はゆっくり休んどき
寂しかったらいつでも電話してきてええで🖤』
「…」
ご丁寧に語尾にハートが書かれたメモを思わず破り捨てると、その振動で腰が再び悲鳴をあげ神楽は「うぅ…」と呻き声を漏らし蹲った。
「…っ、なんだこれ…」
先程から右足に違和感を感じていたが、蹲った時に目に入った光景に絶句してしまう。
ジャラ、と重く冷たい音を立てた鎖が部屋の壁と神楽の右足を堅く繋ぎ自由を奪っていた。
「…意地でも逃がさねぇつもりか…」
呆れながらメモの横に置いてあった自分のスマホを手に取りロックを解除するとアルバムから恋人時代に撮影した竜太とのツーショットの写真を見つめ、目を細めた。
あの頃を思い出せば無条件で幸せだ、とそう思える。
…幸せだったんだ。
竜太の隣で大好きなスケートを続けることが最良の幸せだと思っていたのに…。
その幸せが俺を弱くした。
感傷に沈んだ神楽はスマホの画面を暗くするとテーブルの上に戻した。
やり直す訳にはいかないともう一度覚悟を決めると逃走の術を探るが、いかんせんいうことの聞かない体をどうにも出来ず、再びベッドの真ん中で仰向けになると見慣れた天井が目に入る。瞬間、この部屋で何度も重ねた情事を思い出し、逃げるように布団を被り目を閉じた。
手を伸ばせばあの頃失った幸せが手に入る。
だけど…望むわけにはいかない…。
***
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。いつの間にか眠ってしまった神楽は温かい匂いに目を覚ました。そして寝ぼけ眼で見上げると愛しそうに頭を撫でる竜太と目が合った。
「おはようさん…ゆうても、もう夜やけど…」
にこりと微笑む竜太は尚も神楽の頭を撫でる。神楽もその温もりの心地好さに、仔猫のように目を細めるがすぐに我にかえり竜太の手を払いのけた。
「…誰のせいだと思ってる…」
「半分は素直やないアキのせいやろ」
全身で怒りと嫌悪を露にすると竜太は何事もないようにウインクを返し、毒気を抜かれた神楽は逃げるように布団を被った。
眩しい程の朝日に目を覚ました神楽は軋む体に短く悲鳴を上げた。昨晩、無理矢理に暴かれた体は当然のように節々が痛みを訴える。
「…あんの野郎…」
起き上がれない体で痛みを堪えながらなんとか寝返りをうち周りを見渡すが、こんなにも体を痛め付けてくれた犯人の気配はない。神楽はその事実に安堵の中に落胆の色が含まれていることに気付き、振り払うように頭を振った。
竜太の手によって綺麗にされた体には昨夜の情事の痕が無数に残り重々しい溜め息が溢れた。
しばらくそのまま安穏としていたが腹の虫が騒ぎだし、仕方なく食べ物を探そうと動き出すがまるでナマケモノのようにゆったりとした動きに神楽は自分で笑ってしまう。向きを変えるとテーブルの上に昨夜外された眼鏡とルームサービスとメモが置かれていることに気付き、ナマケモノはそこを目指しずるずるとベッドを這い腕を伸ばした。
『用事があるから出掛けるけど、この部屋からは出られへんから今日はゆっくり休んどき
寂しかったらいつでも電話してきてええで🖤』
「…」
ご丁寧に語尾にハートが書かれたメモを思わず破り捨てると、その振動で腰が再び悲鳴をあげ神楽は「うぅ…」と呻き声を漏らし蹲った。
「…っ、なんだこれ…」
先程から右足に違和感を感じていたが、蹲った時に目に入った光景に絶句してしまう。
ジャラ、と重く冷たい音を立てた鎖が部屋の壁と神楽の右足を堅く繋ぎ自由を奪っていた。
「…意地でも逃がさねぇつもりか…」
呆れながらメモの横に置いてあった自分のスマホを手に取りロックを解除するとアルバムから恋人時代に撮影した竜太とのツーショットの写真を見つめ、目を細めた。
あの頃を思い出せば無条件で幸せだ、とそう思える。
…幸せだったんだ。
竜太の隣で大好きなスケートを続けることが最良の幸せだと思っていたのに…。
その幸せが俺を弱くした。
感傷に沈んだ神楽はスマホの画面を暗くするとテーブルの上に戻した。
やり直す訳にはいかないともう一度覚悟を決めると逃走の術を探るが、いかんせんいうことの聞かない体をどうにも出来ず、再びベッドの真ん中で仰向けになると見慣れた天井が目に入る。瞬間、この部屋で何度も重ねた情事を思い出し、逃げるように布団を被り目を閉じた。
手を伸ばせばあの頃失った幸せが手に入る。
だけど…望むわけにはいかない…。
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あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。いつの間にか眠ってしまった神楽は温かい匂いに目を覚ました。そして寝ぼけ眼で見上げると愛しそうに頭を撫でる竜太と目が合った。
「おはようさん…ゆうても、もう夜やけど…」
にこりと微笑む竜太は尚も神楽の頭を撫でる。神楽もその温もりの心地好さに、仔猫のように目を細めるがすぐに我にかえり竜太の手を払いのけた。
「…誰のせいだと思ってる…」
「半分は素直やないアキのせいやろ」
全身で怒りと嫌悪を露にすると竜太は何事もないようにウインクを返し、毒気を抜かれた神楽は逃げるように布団を被った。
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