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幸せになって
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しおりを挟むチカ君に気付かれてる…。
湊和は息を飲むとまるで開き直ったかのように堂々と正面から親慶と向き合った。
「だったら、何?別に僕がヨシと一緒にいたってチカ君には関係ないでしょ?」
強気な態度でそう反論すると親慶は握り締めた拳で昨日同様、力任せに壁を殴り付けた。響いた音に練習場全体が静まり返り一触即発の重い空気に包まれた。
「アイツを傷つけたら許さねぇ…」
「…いい気味」
ギリッ、と痛々しい音を立てる親慶の拳に巻かれた包帯が血で滲んでいくのを見つけた湊和は口端を歪に歪ませ親慶を蔑むように見つめた。まるでそれが本来の目的だったかのように満足気に嗤う湊和に親慶は違和感を覚えた。
「…お前……本当に義経のこと好きなの…?」
まるで義経を傷付けたのは親慶を傷付けるのが目的だったのではないかと疑う言葉は親慶の口から簡単に零れ落ちた。
それに吃驚したのは今度は湊和の番だった。
それは思いがけない言葉だった。目を見開き驚いている親慶と目が合い、湊和が弁解しようと口を開いた瞬間、いつの間にか後ろに立っていた神楽の手に塞がれてしまった。
「…そこまでだ」
口を塞がれたまま首だけ振り返り神楽の鋭い瞳と視線が重なると湊和の背中にぞくりと冷たい空気が走った。親慶ですらいつもと違う低い声に威圧感を覚え思わず口をつぐんでしまう。
「…まず、親慶。お前は手の治療したら休憩終りな。さっさとリンクに戻れ」
「ちょっと、待っ──!!」
「待たねぇ。さっさと行け…」
説明すら聞いてくれそうにないこの様子に親慶は舌打ちをすると踵を返し医務室へ向かっていった。
親慶との距離が離れたのを確認して神楽はようやく湊和の口から手を離すと周りに視界に入らないよう壁際の死角に移動するよう促し、湊和は大人しくそれに従った。
「お前だったのか…義経の…」
言い淀む神楽だがなんとなく言いたいことを理解した湊和は小さく一礼をして立ち去ろうとしたが神楽に腕を掴まれ阻まれると仕方なく顔を上げ神楽に向かい合った。
「あ~…義経に何をしたのか分かんねぇけど、同意も得ずに無理矢理っていうのは」
「どうして、同意がないって思うの?ヨシに頼まれたかもしれないのに?」
「有り得ねぇからだよ。義経がお前との行為に同意する事も自分からお前にそんな事を頼む事もな」
あまりに自信満々にそう論破されると湊和は取り繕う言葉を見付けられず、悔しさにただ睨み付けることしか出来なかった。
「今回は目を瞑るけど、今度、義経や親慶に何かしたら許さねぇ。それだけは覚えとけ」
今度こそ立ち去ろうと神楽の腕を振りほどいた湊和は出口に向かうと。
「慢心してると足元掬われるぞ。楽しみにしとけよ、湊和!」
挑発的に笑う神楽からは自信しか感じとれず湊和は横目で睨み付けると神楽は尚も楽しそうに目を細めた。その様子に湊和は思わず奥歯を噛み締めると足早に練習場を出ていった。
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