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まこ

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Special ② (聖奈さん♡)

CROSS OVER コンペ編④

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柊くんの回復も含め、桃瀬&栗原チームの発表は二時間後に行われることになった。…って次も柊くんが協力すんのかよ!労働基準法とか違反してない?!

そんなことを思いながら俺と篠田くんは一旦自室に戻って休憩することにした。ローション塗れでべっとべとになった服も着替えなくちゃならないし。
…あ、あの、自室って言いましたよね?…何で当然の如く篠田くんは俺の部屋に一緒に入ってきてるのかな?

「キミの部屋は隣じゃないかな?」
「未南さんの部屋も僕の部屋みたいなもんなので!」

みたいなもんなのでじゃねーよ!何だったら篠田くん自分の部屋いる時より俺の部屋いる時の方が確実に多くない?!
…と思ったが今日の篠田くんはその…ちょっとカッコよかったので許してやろう。

そんなことよりも…

(なんか恥ずかしくてハイタッチしようって言い出せない!!タイミング確実に逃した!!)

「…どうしたんですか未南さん脱いだ服握りしめて」
「なんでもないっ!とにかくお疲れ様っ!」

…結局俺は言い出せることは無かった。

「あ、折角服脱いだんで擽らせてもらっても良いですか?」
「ついでみたいに言うな!」


◇ ◆


会場に戻ってきた俺達は、「未南さん達もお客さん達と一緒に最前列で見て欲しい」という桃瀬の希望で、彼らの発表はステージ上からではなく正面から見ることになった。

「どんなのが出てくるんだろうな」
「かなり大型なのは予想できますが、全く分からないですね」
周りの人達もガヤガヤ話し合い、期待を膨らませているようだ。篠田くんとそんな談笑をしているうちに時間になり、司会者の声が響く。

「お待たせいたしました!それでは後攻、Daisy桃瀬さんと栗原さんチームの新型拘束台発表です!」

あの大きな黒い布のかけられた物体の前で二人が立っている。桃瀬は観客を一通り見渡すと、軽く頷き、口を開いた。
「それでは勿体ぶることもありませんので、早速お披露目といきますね。…あ、栗原さんそっち黒幕持っといて下さい。一緒にせーので取り外しますからね。…せーのっ!」

桃瀬と栗原さんが同時に黒い布を引っ張ると、遂に彼らの新型拘束台が姿を現した。


ーーそれは、一言で表すと”巨大なスノードーム”そのものだった。

土台の上には丸いガラス張りの球体。
…その中に、柊くんが既にこちらを向いて入っている。
球体部分に大人が二人ほど入れそうな、大きくてリアルなスノードーム…もしくは、艶やかに金魚を飾るアートアクアリウムの水槽といったところか。

中に囚われた柊くんが唯一身につけているものは、腰に巻いた白い布だった。それが今の不思議で神秘的な状況を一層引き立てる。

ーーガラスの中に囚われた可愛らしい青年。まるで一体のオブジェの様な、アートの様な、美しい檻に飾られた天使の様な。

初めて目にする光景にうまく例えが追いつかないが、俺は自然と声を漏らしていた。

「ーー綺麗だ。」

拘束台というものに対しそんな表現は合わないのだろうが、俺は本当にそう思った。彼は膝立ちでガラスに手をつき、こちらを向いている。
その奇妙で…俺達の気持ち悪い触手とはまさに対比するように美しい作品は、会場の全員が静かにそのシルエットに魅了されていた。

「…皆様、ご覧頂きましたのが我々が製作した新型拘束台になります。かなり特殊な形状をしていると思いますが…拘束台というより、檻に近いですかね」

俺達もとても拘束”台”とは言えない作品を作ってきている。搬入の時から気づいてはいたが、彼らもその発想にとらわれない思考をしてきたのか。
…すると篠田くんも同じ事を思ったのだろうか、ステージを見たまま隣で呟く。

「…これは意外でしたね。桃瀬さんがこういうの出してくるなんて。正直、彼は徹底的に機能性にこだわった超王道の拘束台を作ってくると思ってたんですよ。彼の性格そのものを表したような。…でも、それとは正反対の作品が見られるなんて」

篠田くんは心から関心しきったように、顎に手を当てながら頷いていた。…というか篠田くんは最初から桃瀬の性格を見抜いていたのか?…確かに、Irisに置いてあった拘束台とは全然趣向が違うので意外に思うのも無理はないが。そんな俺達の思惑に答える様に、桃瀬が続ける。

「…見ていただいたらお分かりかと思うのですが、実はこれ、実際にスノードームをモデルにしています。…製作当初、様々な案があったのですがどれも自分の枠に嵌りきったものでした。俺はその固まった思考を打破すべく今回初めて、機能性よりも見た目を優先したーーいや、あえて”無駄なもの”を取り入れた大型拘束台を作成しました」

やっとざわざわとざわめき出すギャラリーの人々。俺達の発表の時は最初からあの触手のインパクトで会場の目を惹いていたが、これも中々に俺達とは違う注目を集めている。…俺だって一瞬言葉を奪われたし。
芸術点で言やぁ確実にこっちが勝ってるだろ。…ま、まぁこっちの触手もある意味芸術点高ぇけど…。

「密閉されたような空間ですがご安心下さい。ちゃんと空気は循環しておりますし、中の人間が窒息することは絶対にありません。この拘束台は、奇しくも篠田さん達のと同じように長期使用を想定して作られています」

ふーん…今の所全ての構造が謎に包まれているが、下から空気を送っていたりするのだろうか。だとすると他にも下から何か仕掛けを出してきたりするのだろうか?…色々予測がつかないな、と期待する自分がいる。
結構ぶ厚めの強化ガラスのようだし柊くんが中から本気で叩いたとしても絶対に割れはしないだろう。…そもそもどうやって中に入ったんだ?手足は拘束されていないのにどういった責めを行うんだ?など疑問を浮かべればキリが無い。会場の人達からも同じ様な会話がちらほらと聞き取れる。
…はっ、良い演出してるじゃねーの?今からワクワクさせてくれんじゃん。

ここでやっと桃瀬がリモコンを取り出して操作をし始めた。…するとドームの中にはごく薄い桃色の気体が少しづつ充満していく。当然、謎の変化に驚いている柊くんはバンバンとガラスを叩きながら怯えた表情で『な、何?!』と叫びはじめた。
不思議な事にその声ははっきりと聞き取れ、くぐもること無く会場全体に響き渡る。

「底面に取り付けた集音マイクで、中の声もクリアに拾うことができます。どうですか、ガラス越しでも彼がその場にいるように自然に会話出来るでしょう?当然、マイクのスイッチを消すと中の声は全く外に漏れなくなりますが…ふふ、その点も含め今からしっかり解説していきますね」

ギャラリーの驚く反応に、よしよしと頷く様に桃瀬はニヤリとすると、中に居た柊くんに変化が訪れた。

「…ッ!っはぁ…はぁ…な…に、この空気…!?」

何か自分の体に異変を感じたのだろう。空気を吸わないよう咄嗟に口元を押さえると、力が抜けたように膝立ちからぺたんと座り込んだ。

「柊くんの疑問にお答えしましょう。今ドームの中に少しづつ充満させている気体は、篠田さん達が使っていたのと同じ媚薬を気体化させたものです。液体状の時よりも効果は薄くなりますが、少しづつ蝕まれていく方が効果的だと思いましてね。
本来は無色透明の媚薬ですが、あえて薄く色付けすることにより視覚的にも恐怖を与え、これから何かをされるという不安な心理におとしいれます」

桃瀬の言葉通りに、柊くんは得体の知れない恐怖に怯え震えている。先程まではこのドーム内にキラキラしたスノーパウダーでも入れれば更に悪趣味なオブジェとして似合うのではないかと冗談で思っていたが、代わりに周囲を彩ったのはただの飾りではなく恐怖の媚薬というわけだ。…なるほど。桃瀬、キミは可愛い顔して中々残酷だよねぇ…知ってたけど。

「からだ、あ、熱…い、やめて、これ以上は、その…俺…っ」

人間である以上、呼吸を止めることは出来ない。あの逃げ場のない狭い空間で無理矢理媚薬を吸わされ続けたらどうなるか、火を見るよりも明らかだろう。
彼は女の子座りのような状態で腰に巻いた布の前部分をぎゅっと右手で押さえ、左手で口元を押さえ続けている。その顔は紅潮し、肩で息をしている。

「どうしました柊くん、これ以上はどうなるんですか?皆さんに教えてあげて下さいよ」

桃瀬は悪魔のような意地悪な笑みになり、装置の側へ寄ってわざとらしく彼に問いかける。ガラス越しの柊くんの目は桃瀬を睨んでいるようだが…それ、まずいんじゃない柊くん?こういう奴は煽れば煽るほど酷い目に遭わされると思うんだけど。

「…っ、なんでもない、から…」
「そうですか。なんでもないならもう少し濃度を濃くしましょうね」

ビクッと瞳が怯えを示すと、彼は口元の手を離し、両手で布の前をサッと押さえた。数々の目が彼に注目している中、その羞恥はどれほど絶大な効果をもたらしているのだろう。

「!っや!やめろっ…!ぅぐっ…!」

見た目では濃度の変化は分からないが、それを補うように柊くんはぎゅっと目を瞑り、何かを我慢するような声を上げながら蹲ってしまった。
身体を震えさせ、先程の無垢な天使のようなシルエットはどこかへ行ってしまい、今の姿はさながら檻の中で丸まり怯える小動物のようだ。

「…出、して、ここから出して…!お願いしま、す…このまま、じゃ…」

顔を伏せ、蹲ったまま左手でガンガンと力なくガラスの下の方を叩く。右手は身体と床の間に差し込んだままだ。…おそらく、股間を押さえるのに必死なんだろう。今この伏せている状態から動けば立派に勃ち上がったモノを堂々と晒してしまうことになる。
そうならない為には、今の状態で何をされようが迂闊に動けない。手足の拘束具を使わずに行動範囲を縛ることが出来ているんだ…。
うーん上手い、よくそんな機構思いついたな…っていやいやこれ普通に鬼畜じゃない?
人間を飾るような見た目ってだけでも結構ドン引きさそうなのに、加えてこんな悪魔的な趣向…さっき俺、綺麗だぁ~とかぼけーっと呟いちゃったけどそんな優しいもんじゃ無かったわ。

「あらら?柊くんはせっかくの発表の場なのにお客さんの方を向いてくれませんねぇ。ほら、前を向いて、笑ってくださいよ?」

(…ここまでして更に言葉責めやめてやれよ!なんかもう柊くん顔真っ赤になってポロポロ泣いてるじゃねーか!…うわー、俺だったら既に恥ずかしさで心折れてそうだわ。何でもしますからもう何もしないで下さい~って叫んでそう。叫びたくないけど。
…これ、次に何されるか分からない恐怖があるから中の本人は余計に怖いだろうな。おまけにそれを皆に見られてるんだからなぁ…)

最前列で鑑賞している為、俺が一番はっきりと辛そうな柊くんの姿が見えてしまう。気まずい。
…と、そこへ突然存在を忘れかけていた栗原さんが桃瀬の側に寄り小さく話しかける。

「…桃瀬。遊びたいのはお前の性格からして分かるが早く機能の説明をしろ。時間無くなるぞ」
「はーい、すみません皆様!あはは、彼をいじめたくてついつい勿体ぶってしまいました!では柊くんの身体と会場も十分温まったところで、更にスノードームを彩りましょうか!」

パチン、と桃瀬が指を鳴らすと……ドーム内にふわりと無数の羽根が出現した。まるで美しい魔法のように…

…え?
この羽根今どこから出てきた?…浮いてる?!

この演出には流石に俺を含め周りが驚きの声を上げた。ちくしょう俺達より凄い演出考えやがって。
まるでマジックショーだ。…まぁあの、何度も言うけどそういうショーではないんだけど。

「いかがでしょうか。硝子の中に舞う羽根。非常に合っていると思いませんか?
…ははは、驚いていただけて嬉しいです。苦労して仕掛けを作った甲斐がありました。勿論タネがあります…が、まずは彼を笑顔にしてあげましょう」

そう言うと同時に、ふわふわと宙を揺らいでいた羽根達が柊くんの身体を余すことなく擽り始める。

「っあ?!ひゃはははははははは!!」

無数の羽根は彼の丸出しの背中や首筋、ぺろっとめくれた腰の布から見える柔らかそうなお尻をさわさわと撫でるように擽っていく。それは普通ならばむず痒い位の刺激だろうが、濃い媚薬をずっと狭い空間で吸わされてすっかり出来上がってしまった身体にはとんでもなく効くだろう。

手足が自由なので暴れ回って抵抗しようと思えばできるのだが、股間付近の布を押さえている手を離せばそこは確実に晒される。彼はどうしてもそれは阻止したいのか、丸まった体制のまま内股でぎゅっと足同士をくっつけ、羽根達の攻撃に左手をバタバタと動かすことでしか抵抗する事が出来ない。

「あはははははは!!っこの、離れろっあはははははっ!!…ッ背中やめてぇっ…!んぁっお尻も擽らないでぇっあはははははぁっ!!無理だからぁっ…!」

…次第に彼は強い媚薬の効果と羽根の刺激に快楽が混ざり始めたのか、ゾクゾクと感じているような顔つきになってきた。
ふわふわと多方向から肌を撫で回される擽ったさに口を結ぶことが出来ず涎を垂れ流し、涙をとめどなく流しながら笑い悶え続けている。もはや左手を振り続ける体力も奪われたのか、両手を身体の間に差し込み大事な所を見せないように押さえつけながら、なすすべなく露出している肌部分を刺激され続けている。

「んあっ…あはははは…だめ、苦しい”っ、ぃやははは!恥ずかし、から”っ、もう止め”でぇっっっ!!!」

ビクビクと震えながら無様な姿をガラス越しに見せる可哀想な柊くん。…その無様さと対比して、周囲で不規則に舞い上がるたくさんの羽根は、不謹慎ながら美しさを感じてしまう。…本当に趣味の悪い巨大スノードームだ。これからクリスマスになる度にこの光景を思い出してしまうじゃないか…。

そう思いながらも見惚れてしまうその完璧な構成。
…桃瀬達はどんな事を考えてこの構図を思いついたのだろうか。今まで王道の機械ばかり作ってきた彼に、どんな心境の変化があったのだろうか。

「…ではそろそろ、どうして羽根達が意志をもって動いているように見えるのか説明しますね。皆様からは隠れて見えませんが、ガラス内の淵のあたりの底面からは羽根の数だけ極細の透明なアームが伸びています。このアーム部分が特殊で、ガラスドームの光の反射と吸収を細かく計算して限りなく見え辛い素材となっています。その先にそれぞれ羽根が付いているのでさも浮いているように見えるんですね!」

…なるほど確かによーく目を凝らすと、羽の根元にそれぞれ細っっそいアームが付いているのが見えなくもない。ただ最前列でその程度仕掛けが視える位なので、かなり透過技術を駆使しているのが分かる。下から出現した速度も、速すぎて気づかなかった。

「皆さんの驚いている顔を見ると嬉しいです。マジックアームを作るのは俺の得意分野なんですが、このコンペをきっかけにまた新しい技術を編み出すことが出来ました!」

編み出すことが出来ました!…って軽く言ってるけどこれって光学迷彩も研究してたって事だろ…?どんだけ技術と努力が詰まってんだ、この拘束台は。
思わず隣の篠田くんに、素直な感想を伝える。

「なぁ篠田くん…。あいつ、スゲーな」

「はい。羽根を揺らぐように且つ擽るように動かすプログラムもかなり難しかったと思いますよ。持ってる技術の全てを見て欲しいと言わんばかりの素敵な作品です。…あまり大きな声では言えないんですが、勝負がついてしまうのが勿体ないです。これからも彼らとは技術を共有して競い合っていきたい」

「…俺も。篠田くんもそう思ってたんだな」

目の前にめっちゃくちゃにされて泣き叫んでる子がいるというのに、またまたエモーショナルな雰囲気になりつつある俺達。…傍から見たらどうかしてるぜオイ!
あっぶねぇ、俺までこの空気に毒されてきてるわ…。唯一まともなツッコミ役としての俺のポジションが揺らぐとこだったぜ…。

「…あ、んぁっ、ひゃははははは!だめ、もう後ろ…やめてっ…!!」

桃瀬の技術に感心しすぎて一瞬だけ存在が薄らいだ柊くんに再び目を向けると、背中や臀部を擽られることに限界を感じてしまったのか、伏せるように丸まっていた身体はそのままゴロンと横に転がり横向けの体勢になってしまった。しかし、まだ恥の意識はしっかりあるのか手は急所の前で組み続けている。
だが当然、横向けになったことで新たに標的とされるのが胸やお腹、太腿といったさらに敏感な箇所。火照りきったあらゆる部分をぞわぞわと羽根に刺激され擽られている彼の身体と心が限界寸前であるのはもう明らかだった。

「ひゃ、ひゃははははは…も、もうだめ、気持いい、もっと、あはははっ…気持ちよくしてぇ、…」

ここで遂に彼は限界が来て、全ての理性の糸がぷっつり切れてしまったのか本能に身を任せ始めた。

「あっ、あ、あはは、もっとっ、焦らさないでっ…!…もっといっぱい撫でてぇっ、あははははは…」

もう彼は手で前を押さえていない。それどころか横向けに寝た状態から抵抗することもなく手足をだらんとさせ、時折ビクビクと身体を痙攣させながら自ら快楽を欲している。
幸運にも腰に巻いた布ははだけることは無かったが、透けてしまう程に前面はぺっとりと水分を含み、その下には透明な水溜りが出来ている。

「あら~早くも堕ちちゃいましたねぇ彼!
あはは、ちょうど陥落するまでの過程を皆様に実演してアピールできちゃいました!どうですか、この新型拘束台!欲しくなりましたかぁー!?」

篠田くんの時といい、どんな鬼畜TVショッピングだよ!と思わず声に出しそうになったが、桃瀬は本当に嬉しそうに話し続ける。

「さて、ここからは他の機能についても補足説明させていただきますね!…えーっと、せっかく柊くんは気持ちよさそうに悦んでくれているのでそのままにしてあげましょうね。でもちょっと声が邪魔なのでおやすみなさーい!」
「ひゃはははっ、気持ちいいっ、やだ、たすけ」

…そこでブチッと集音マイクが切られた。
一瞬シーンとなった会場と、無音のままガラスドームの中で悦び悶え続ける柊くん。…気まずさの極み。

柊くんは気になるし桃瀬の話も気になるし後ろに居る人達はこの状況でどんな顔してんだっていうのも気になって仕方ないが、お構いなしに桃瀬は俺たちの発表の時と同じ様に自らの作品を売り込んでいく。

「……ということでですね、大きくて場所を取ってしまう難点はありますがそれを補って余りある程にメリットはあり…、…さらに何日も稼働することが、……」

篠田くんの怒涛のラストの演説とはまた違い、ゆっくりはっきりと自分達のアピールポイントを全員に示している。分かりやすく、真剣に。…その顔に曇りはなく、ただこの場を自らも楽しんでいるようだった。

「…正直、この新型拘束台は賛否の分かれるものだと理解しながら作製しました。普通に敵を堕とすなら、それこそ俺がIrisに持ってきた拘束台で十分ですからね。
無駄なコストや労力を割かず、効率良く責め、情報を聞き出す。面倒くさがり屋の俺はそれが一番だと思っていました。…でも、今回あえてこの凝ったデザインで勝負したのは、…」

そこで一瞬、桃瀬は言葉に詰まった様に見えた。
…その時、ずっと横でただ黙って聞いていた栗原さんは少しだけ桃瀬の表情を確認したように見えたが、桃瀬がまたすぐ笑顔でテキパキと演説を再開すると、素知らぬ顔をして話に耳だけ傾けていた。
相変わらずこんな状況でも「ふーん…」ぐらいの顔をして腕を組みながら壁にもたれている。強すぎだろ。

…と、ふと機械の方に目をやると、無音で羽根が舞い散るキラキラしたスノードーム。その中心でビックビク横たわって魚みたいに跳ねる恍惚の表情を浮かべたぐっちゃぐちゃの青年。
…なんだこのカオスな状態は!

だが彼はそんな左右の事やギャラリーの反応などは気にせず、時折会場を見渡しながらマイペースに身振り手振りを加えつつ紹介を続けている。よくそんな言葉がスラスラ出てくるなと思うぐらいに見事な説明だ。くそっ…これマジでどっちが勝ってもおかしくないな。
俺達も全力を尽くしたけど、相手も全力を尽くしてきている。
ーー願わくばこのまま……

…そんな事を思っているうちに、最後の言葉で締めくくられる。

「…以上で俺達Daisyチームの発表を終わらせていただきます。が、…えーっと、…正直、こんな楽しい時間が終わるのが勿体ないです。最後、投票がありますがどんな結果であれ、このコンペ自体に参加できて良かったと思っています。ありがとうございました!…あ、柊くんもありがとう!」

今の今まで音もなくすっかり放置されていたドームの中の柊くんは、気を失ってはいないものの既に放心状態で、白目を剥きかけている。…今回は俺もちょっと忘れかけてたなんて言えない。
桃瀬はリモコンを操作し全ての動作を停止させると、カパッとガラスドームの全面が跳ね上がり、口をあけるように開いた。

(これそうやって開くんだ!?)

俺は救出される柊くんを見ながら、「回転寿司のカバー式じゃん…」と呟いていた。


◇ ◆


柊くんは無事助けられ、改めて桃瀬と栗原さんが揃って礼をすると、ワアァと会場から歓声と拍手が上がった。観覧に来たDaisyの子供たちの声だろうか、桃瀬や栗原さんの名前を呼ぶ声も聞こえる。
…二人共、慕われてるんだな。
長く続く拍手の中、司会者からマイクで声をかけられる。
「それでは未南さんと篠田さんも壇上へお上がり下さい!」

このタイミングで横に立つのは少し照れるが、ステージに立った俺達四人は今までで一番大きな拍手を浴びる。なんか…本当に嬉しいな。

「さて、両チームとも本っっ当に見事な対決でした!どちらが勝ってもおかしくありません!!それでは最後、運命の投票タイムです!!
皆様にお配りした投票用紙に書いてあるチーム名どちらかにマルをつけ、この投票ボックスにーー」

と、司会者が言いかけたその時。


「ちょーーーーっと待ったァ!!!!」


バン!!という効果音が似合うほどに勢いよく、突然後ろの隅に居た男性が高らかに叫んだのだ。


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