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⑤(×千隼)
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「お疲れ様でした」
結局何回イッたか分からないが、漸く解放された頃には体は汗まみれになり、顔も涙や鼻水で気持ち悪い状態だった。
「はいはいー、よく弱音吐かずに頑張ったねーいい子」
タオルで顔を綺麗にしてもらいながら先輩に体を預けた。もう動くことも出来ないくらいに体力はなくなっていた。
「もし弱音吐いてたらもう少し続けるつもりだったけど、成長したね」
ぎゅっとみんなに抱き締められて褒められると、ポロポロと涙が溢れた。力の入らない手で先輩の体に触れるととてもあたたかかった。
暫くみんなに甘やかしてもらうと、体力も戻ってきて呼吸も穏やかになった。
「精神力もしっかり上がったみたいだし、二人とも合格です。次からの任務も気を引き締めるように」
ポンポンと頭を撫でてくれた柚木先輩の言葉を合図にみんなと体が離れた。
「…柚木先輩。俺、次も任務頑張ります。またみんなに期待してもらえるように」
「うん。これからも一緒に頑張っていこうね。じゃあ、俺達は報告しに行ってくるね」
「ありがとうございました」
後片付けを終えた先輩達が出ていくと、俺と渚の二人だけになった。
「千隼、お疲れ」
「…渚もお疲れ」
「あのさ。直接伝えるのはちょっと恥ずかしいんだけどさ」
「何だよ」
「一回しか言わないから。…任務の時色々ありがと。千隼のおかげで帰って来れた。俺の事たくさん守ってくれてありがと。お前の仕事っぷり見て、俺も頑張ろうと思えた」
「…っ、」
渚からの言葉を聞いて、色んなものが込み上げた。
「ボロボロだけど俺のこと守ってくれた事が…正直めちゃくちゃ嬉しかった。結局、桃とかにめちゃくちゃにされてたし、桃にも栗にも堕ちてよがってる千隼だったけど、俺は誇らしいと思ったよ」
「お前喧嘩売ってんのか」
「売ってねーよ。とにかく、任務に行く時はメンタルが一番大事だし、前回の任務を引き摺らねーようにしろよ。お前は出来る奴なんだから」
渚は何故か俺をぎゅっと抱き締めると、優しくポンポンと一定の間隔で背中を撫でてくれた。
俺と同い年で背丈も全く変わらないちっこい体なのに、何故か一番安心した。
(渚が居なかったら。守る誰かが居なかったら。)
俺はもっと早くメンタルをやられて、心地良く包んでくれた桃に身も心も委ねていたかもしれない。
(本当、何の役にも立たないバカだと思ってたけど。)
俺にとって今回の任務では必ず必要な存在だった。
ぎゅっと渚の背中に腕を回して抱き締めると、お互いの鼓動の音が重なった気がした。
「……俺も、渚が居なかったら。もっと早く…堕ちてたかも」
「いやかなり早々に堕ちてただろ。特に桃に気を許しすぎな。甘えすぎ。柚木先輩にちょっと似てたからってあれはない」
「………」
心当たりのある言葉がグサグサと突き刺さると、無言になった俺を心配した渚は継続して背中を撫でてくれた。
「…お前の言う通りだな。悪かった」
「いいよ。つーか初めてじゃね、千隼が俺に心から謝ったの」
「…そうかもな。バカな渚に謝るとか最悪」
「…おーおー。俺にバカって言うなんてねぇ。ま、ちゃんと立ち直ってくれて良かったよ」
「ん……また、次一緒に任務行く事あったら宜しくな」
「おー、こちらこそ。んじゃ一緒に風呂入る?俺も汗だくの千隼抱き締めたらまた濡れたし」
「汚いみたいに言うな」
「汚くはねーけど、今まで一緒に入った事ねーじゃん。つーか俺が千隼の事好きじゃなかったから避けてたんだけど」
「え、そうなんだ」
「エリートエリート言われて、ツンツンしてたからな。同い年なのに何かムカついてた。けど任務行って好きになったから俺らはもう仲良し」
「……お前もそういう感情あるんだな。何にも考えてないと思ってた。けどさ…任務から帰ってきて先輩に「千隼も渚みたいにならないとね」って言われたんだ。実際、渚は我慢強いし、絶対口を割らなかったし…俺よりも何倍も格好良かったよ」
「…気持ち悪」
「褒めてんのに何だよ。…バカ」
「でもま…嬉しい。ありがと、んじゃ行こ」
まだ完全に回復していない俺の体を労るように、渚は俺のことを支えてくれた。俺のゆっくりとしたペースで浴室へ向かった。
俺が洗ってやるよと提案してくれた渚に身を任せ、汚れた体を綺麗にしてもらうと、二人で湯船に浸かった。
「はぁぁ、気持ちいい。元気になった千隼と風呂入れるの最高ー!任務、当分こないといいなぁ」
「…お前さっきも入ってんだしのぼせないようにな。俺に合わせなくていいから」
「俺が入りたいから入ってんのー」
喧嘩もせずに二人でゆっくりと話すことはとても新鮮で。訓練も全て終わって気持ちもスッキリしたからか、今まで入った風呂の中で一番気持ち良かった。
(いつも気ぃ張って、ただ清潔面を保つために入ってただけだったしな)
「千隼ぁ、柚木先輩に聞いたけどさ!明日も俺たち休みだって!どっか美味しいもの食べに行こうよ!千隼と遊びに行きたいし!飯代は七彩に出させよ!」
今まではオフの日でも遊びに行くのは気が引けていたが、本当はずっと何も考えずに遊んでみたかった。
「……行く」
「えぇ!断られるかと思った!んじゃ行こ行こ!」
その後も二人で任務のことや今までの事、ずっとしたかった何でもない雑談をしながら、ゆっくりとお風呂の時間を楽しんだ。
◇ ◆
「ぅあああああ…無理ぃぃぃ」
「……うううう」
「もうー!二人して何やってんのー?俺がこなかったら危なかったよー?」
楽しすぎて話し続けていると、お互いのぼせてしまい、最後の最後まで先輩に迷惑をかける結果となった。
「な、なせぇ……」
「ん、なーに渚」
「明日、千隼と、飯…行くから…お金…ちょーだい」
「はぁあ?まずは助けてくれてありがとうございますだろー?……ま、いいや。飯行くなら俺も行く!三人で一緒に美味しいもの食べに行こーっ!」
のぼせて気持ち悪いけど、明日が楽しみで仕方ない。隣に寝転んだ渚と目を合わせて、だらしない笑顔で微笑み合った。
end.
訓練は完結です。ありがとうございました。
結局何回イッたか分からないが、漸く解放された頃には体は汗まみれになり、顔も涙や鼻水で気持ち悪い状態だった。
「はいはいー、よく弱音吐かずに頑張ったねーいい子」
タオルで顔を綺麗にしてもらいながら先輩に体を預けた。もう動くことも出来ないくらいに体力はなくなっていた。
「もし弱音吐いてたらもう少し続けるつもりだったけど、成長したね」
ぎゅっとみんなに抱き締められて褒められると、ポロポロと涙が溢れた。力の入らない手で先輩の体に触れるととてもあたたかかった。
暫くみんなに甘やかしてもらうと、体力も戻ってきて呼吸も穏やかになった。
「精神力もしっかり上がったみたいだし、二人とも合格です。次からの任務も気を引き締めるように」
ポンポンと頭を撫でてくれた柚木先輩の言葉を合図にみんなと体が離れた。
「…柚木先輩。俺、次も任務頑張ります。またみんなに期待してもらえるように」
「うん。これからも一緒に頑張っていこうね。じゃあ、俺達は報告しに行ってくるね」
「ありがとうございました」
後片付けを終えた先輩達が出ていくと、俺と渚の二人だけになった。
「千隼、お疲れ」
「…渚もお疲れ」
「あのさ。直接伝えるのはちょっと恥ずかしいんだけどさ」
「何だよ」
「一回しか言わないから。…任務の時色々ありがと。千隼のおかげで帰って来れた。俺の事たくさん守ってくれてありがと。お前の仕事っぷり見て、俺も頑張ろうと思えた」
「…っ、」
渚からの言葉を聞いて、色んなものが込み上げた。
「ボロボロだけど俺のこと守ってくれた事が…正直めちゃくちゃ嬉しかった。結局、桃とかにめちゃくちゃにされてたし、桃にも栗にも堕ちてよがってる千隼だったけど、俺は誇らしいと思ったよ」
「お前喧嘩売ってんのか」
「売ってねーよ。とにかく、任務に行く時はメンタルが一番大事だし、前回の任務を引き摺らねーようにしろよ。お前は出来る奴なんだから」
渚は何故か俺をぎゅっと抱き締めると、優しくポンポンと一定の間隔で背中を撫でてくれた。
俺と同い年で背丈も全く変わらないちっこい体なのに、何故か一番安心した。
(渚が居なかったら。守る誰かが居なかったら。)
俺はもっと早くメンタルをやられて、心地良く包んでくれた桃に身も心も委ねていたかもしれない。
(本当、何の役にも立たないバカだと思ってたけど。)
俺にとって今回の任務では必ず必要な存在だった。
ぎゅっと渚の背中に腕を回して抱き締めると、お互いの鼓動の音が重なった気がした。
「……俺も、渚が居なかったら。もっと早く…堕ちてたかも」
「いやかなり早々に堕ちてただろ。特に桃に気を許しすぎな。甘えすぎ。柚木先輩にちょっと似てたからってあれはない」
「………」
心当たりのある言葉がグサグサと突き刺さると、無言になった俺を心配した渚は継続して背中を撫でてくれた。
「…お前の言う通りだな。悪かった」
「いいよ。つーか初めてじゃね、千隼が俺に心から謝ったの」
「…そうかもな。バカな渚に謝るとか最悪」
「…おーおー。俺にバカって言うなんてねぇ。ま、ちゃんと立ち直ってくれて良かったよ」
「ん……また、次一緒に任務行く事あったら宜しくな」
「おー、こちらこそ。んじゃ一緒に風呂入る?俺も汗だくの千隼抱き締めたらまた濡れたし」
「汚いみたいに言うな」
「汚くはねーけど、今まで一緒に入った事ねーじゃん。つーか俺が千隼の事好きじゃなかったから避けてたんだけど」
「え、そうなんだ」
「エリートエリート言われて、ツンツンしてたからな。同い年なのに何かムカついてた。けど任務行って好きになったから俺らはもう仲良し」
「……お前もそういう感情あるんだな。何にも考えてないと思ってた。けどさ…任務から帰ってきて先輩に「千隼も渚みたいにならないとね」って言われたんだ。実際、渚は我慢強いし、絶対口を割らなかったし…俺よりも何倍も格好良かったよ」
「…気持ち悪」
「褒めてんのに何だよ。…バカ」
「でもま…嬉しい。ありがと、んじゃ行こ」
まだ完全に回復していない俺の体を労るように、渚は俺のことを支えてくれた。俺のゆっくりとしたペースで浴室へ向かった。
俺が洗ってやるよと提案してくれた渚に身を任せ、汚れた体を綺麗にしてもらうと、二人で湯船に浸かった。
「はぁぁ、気持ちいい。元気になった千隼と風呂入れるの最高ー!任務、当分こないといいなぁ」
「…お前さっきも入ってんだしのぼせないようにな。俺に合わせなくていいから」
「俺が入りたいから入ってんのー」
喧嘩もせずに二人でゆっくりと話すことはとても新鮮で。訓練も全て終わって気持ちもスッキリしたからか、今まで入った風呂の中で一番気持ち良かった。
(いつも気ぃ張って、ただ清潔面を保つために入ってただけだったしな)
「千隼ぁ、柚木先輩に聞いたけどさ!明日も俺たち休みだって!どっか美味しいもの食べに行こうよ!千隼と遊びに行きたいし!飯代は七彩に出させよ!」
今まではオフの日でも遊びに行くのは気が引けていたが、本当はずっと何も考えずに遊んでみたかった。
「……行く」
「えぇ!断られるかと思った!んじゃ行こ行こ!」
その後も二人で任務のことや今までの事、ずっとしたかった何でもない雑談をしながら、ゆっくりとお風呂の時間を楽しんだ。
◇ ◆
「ぅあああああ…無理ぃぃぃ」
「……うううう」
「もうー!二人して何やってんのー?俺がこなかったら危なかったよー?」
楽しすぎて話し続けていると、お互いのぼせてしまい、最後の最後まで先輩に迷惑をかける結果となった。
「な、なせぇ……」
「ん、なーに渚」
「明日、千隼と、飯…行くから…お金…ちょーだい」
「はぁあ?まずは助けてくれてありがとうございますだろー?……ま、いいや。飯行くなら俺も行く!三人で一緒に美味しいもの食べに行こーっ!」
のぼせて気持ち悪いけど、明日が楽しみで仕方ない。隣に寝転んだ渚と目を合わせて、だらしない笑顔で微笑み合った。
end.
訓練は完結です。ありがとうございました。
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