七賢聖

赤城 奏

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第六話 白き光の思い

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 雨雲に覆われたルネの村。そこから少し離れた場所にある森の泉。その泉にいるレイクの瞼が震えた。だがその目が開くことはない。雨はいまだにルネと泉の森に降り注いだ。

 馬車まで戻ったサンラは一緒に連れて来たミレンのことを驚くフレム達に軽く説明して馬車に入れた。雨で濡れているミレンをサンラが自身のタオルを使い拭いていく。フレム達もそれぞれ濡れている体を拭う。
「ほら、もういいよ」
「ありがとうお姉ちゃん!」
「どういたしまして」
ミレンの体を拭き終えたサンラにミゾレが新しいタオルを渡す。それに礼を返し自分の体も拭く。
 全員が粗方拭き終えた頃、フレム達はミレンのことを尋ねた。
「サンラ、この子は一体誰だ?」
「この子はミレン。村の外にある森で会ったの。ミレン、この人たちが私の仲間だよ」
サンラは自身の隣に座らせたミレンにフレム達のことを紹介した。フレム達も自然と円になって座る。大人ばかりの空間で首をキョロキョロと回すミレン。落ち着かない様子の彼女に気付いたシデンが「怖くないよ」と言うとミレンは笑顔を浮かべた。シデンの言葉でミレンの様子に気付いたフレムがまず謝った。
「ごめんな、大人に囲まれて怖かったよな。俺はフレム、よろしくなミレン」
フレムの言葉を皮切りに、グレス達も謝罪し、それぞれ自己紹介をする。
「怖がらせてしまってすみません。僕はグレス、どうぞよろしく」
フレムの隣にいるグレスから順番に言っていく。全員の自己紹介を終えた頃にはミレンは彼らが怖いものではないと分かって笑顔になる。それにホッとするフレム達。
 ミレンはサンラと共にフレム達に会いに来た理由を話した。
「あのね、私お兄ちゃん達にお願いがあるの」
「何だい、ミレン」
「お願い!お兄ちゃん達、この村を助けて」
 ミレンの訴えにフレム達は眉をひそめる。事情を知っているであろうサンラに視線を向けるとサンラは一つ頷いて事の次第を話した。ミレンと会った森にレイクがいた事、レイクによって倒された賢人達の事、レイクが零した『ここなら、……の力も』と言う言葉の事。
 賢人達のことは一瞬だけ苦々しい表情をしたフレム達だがミレンが気付く前に元の顔に戻した。
 そして、レイクが零したと言う言葉がフレム達には引っ掛かった。
「レイクが言った『ここなら』というのはルネの村のことでしょうか?」
「どうだろうな。それに何かの『力』というのが一体何なのか」
「嫌な予感しかしねえな」
そう言ったフレムの言葉には全員が同意した。レイクの存在が明らかになったことでこの村の雨はレイクの仕業であることが証明されたが、新たに出て来た謎は誰も分からなかった。そして雨の中に混じる月の神気のことも。
「とにかく、村のためにも一刻も早くレイクを倒さないとな」
「あぁ。それにミレンのお願いだもんな」
 そう言ってミレンの頭に手を置き、笑い掛けたシデンに、サンラが容赦のない言葉を放つ。
「そんなこと言って、今回のことで何もできてないアンタが足を引っ張らなきゃいいけどね」
「ぐっ。そ、それとこれとは、関係ないだろ」
「さて、どうだが」
「うぐぐ」
シデンの反論に馬鹿にするように肩をすくめるサンラ。何も言えないシデン。二人のやりとりを見て首を傾げたミレンはフレム達を見上げる。いつもの事と苦笑しているフレム達にミレンはますます首を傾げてしまう。
「お兄ちゃん達、何がおかしいの?お姉ちゃん達って仲が悪いの?」
「いいや、あれは二人だけのコミュニケーションだから、本当はとっても仲良しなんだよ」
「「良くない‼︎」」
膝を折りミレンと視線を合わせたフレムが内緒話をするように小さな声でミレンに教えるが、聞き咎めた二人に息の合った返しをされる。息があったことにまた互いを睨み合ってしまう。収まる様子のない二人にフレムは肩をすくめミレンの頭を撫でた。
 その一瞬、感じる筈のないものを感じたフレムはミレンの頭から手を離してしまう。フレムを見上げたミレンはキョトンとした顔を向ける。それにフレムは「何でもない」と言って笑い掛ける。
 結局、グレスとミゾレの二人に宥められて漸く睨み合いを止めるシデンとサンラ。不満の残った顔をしていたが、これ以上やるとグレスがキレそうだったため渋々引き下がった。
 これ以上はやれることもないようなので今日は早めに休む事にした。
「さて、ミレンも早めに家に帰さないとな」
「……私、ここに居たい」
フレムの言葉にミレンはサンラの服を掴んだ。服を掴まれたサンラは苦笑しながら服を掴むミレンの手を取り、両手で握る。膝を折ったサンラがミレンと目線を合わせる。
「ダメだよ。それじゃあミレンのお父さんとお母さんが悲しむよ」
「……ない」
「え?」
「お父さんもお母さんもいないの。家に帰っても私ひとりぼっちなの。だからここにいたい。お姉ちゃん達と一緒にいたい!」
そう言ったミレンの目からいくつもの涙が溢れる。思わずサンラはミレンを抱き締めた。ミレンもサンラを強く抱き締め返す。サンラは目線だけでフレム達を見上げる。全員が同じような悲しみの表情をしていた。フレムが一つ頷き、ミレンを見る。
「分かった。今晩はミレンをここに泊めよう。ミレンにはサンラとミゾレが付いてやってくれ」
「分かりました」
「うん。ミレン」
フレムの言葉に名を呼ばれた二人は強く頷く。周りを見るとグレス達も了承するように頷いた。サンラはミレンの名を呼ぶ。サンラに呼ばれて顔を上げたミレンは目が赤く、その眦にはまだ涙が浮かんでいた。
「ここに居てもいいよ」
「本当?ヒック」
「本当だよ。ホラ、泣き止んで。可愛い顔が台無しだよ」
ミレンの涙を拭ったサンラはその背を押してその場から離れる。二人の後を追うようにミゾレがその場を離れる時、フレム達に向かって一つ頷いて行った。
 それを見届けたフレムはグレス達に解散を促した。
「さてと、それじゃあ俺たちももう寝ようぜ」
「そうですね。明日は朝が早いようですし」
「んじゃ、俺も。お休み~」
「じゃあな」
そう言ってグレス達も自身の寝所に向かう。その場にフレム一人となった時、彼は‘‘あの時’’感じたものを思い出した。
(‘‘あの時’’-ミレンの頭を撫でた時、ミレンから感じたのは。違う、そんな筈がない!あれは、あの気配は、‘‘あの人’’の筈がない!)
フレムが一人思い詰めていると、背後から人影が忍び寄ってきた。それに気付かないフレムに少しずつ人影が迫ってくる。人影がフレムの真後ろに立った時、両手を上げ、フレムを抱き締めた。
「⁉︎」
「全く、一人で考え込むのはフレムの悪い癖だよ」
「サンラ!お前、ミレンと一緒にいたんじゃ…」
フレムを抱き締めたのはサンラだった。サンラの腕の中でフレムは無意識に肩の力を抜いていた。それを感じ取ったサンラは内心で安堵していた。
(良かった。まだ大丈夫だ)
「ミレンはミゾレにお願いしてきた。だから私はこっちに来たの」
「そうか。……悪い、もう少しだけ、このままでも良いか?」
「うん。良いよ」
そう言うとサンラは腕の力を少しだけ強めた。サンラに抱かれるフレムは彼女の腕の中で安心して目を閉じた。
 そのまま動かない二人を離れた場所から見守る影があった。
「どうやら、もう大丈夫のようだな」
「そのようですね」
「ったく、心配かけさせんじゃねぇよ、フレムの奴」
「仕方がないだろ、それがフレムだ」
影は自分の部屋に行った筈のグレス・シデン・ルナンだった。彼らもまたフレムの様子に気付いていたが、出て行く前にサンラが来て「自分が行く」と言ったため、彼らは何もせずに見守っていた。
 サンラに抱きしめられているフレムを見て安心した三人はフレムに気付かれる前に自身の寝所へ戻って行った。
「…ありがとうサンラ。もう、大丈夫だ」
そう言ってフレムはサンラから離れた。先程までよりも気力を取り戻しているフレムを見て、サンラは安心して腕を下ろした。
「それじゃ、私はもう寝るから。フレムも早く寝なよ」
「あぁ、お休み」
「お休み」
そう言ってサンラはミゾレ達のいる寝所へ戻って行った。フレムも自身の寝所へ向かう。一瞬だけ、先程のことが頭を過ぎったが、首を振ってその考えを追い出した。
(今はまだ置いておこう。今はまだ、)
フレムの顔にはもう思い詰めたものはなくなっていた。

 翌朝、ルネの村は雲に覆われたままだったが漸く雨が上がっていた。住民達は今の内にとほぼ全ての人達が家の外に出ていた。
 それを見たシデンは素直に驚きをあらわにしていた。
「凄え。この村ってこんなに人が居たんだなぁ」
「当たり前でしょうが。ソスナだってロザだってこのくらい普通に居たわよ。何馬鹿なこと言ってんのよ」
呆れているサンラに言われて言葉に詰まるシデンだが、今までずっと留守番だったため反省よりもまず興奮の方が優っていた。それが分かっているサンラもそれ以上は何も言わずただ溜息を一つこぼすだけだった。
 全員の準備が整った頃、フレムが号令をかけた。未だに村の方を向いていたシデンもサンラに首根っこを引っ張られて意識をフレムに向ける。
「それじゃ、行くか。サンラとミレンは案内を頼むな」
「任せて」
「うん」
サンラと手を繋いだミレンが力強く頷く。二人を先頭に歩き出す。途中、シデンが村の市場に目を止めてルナンに引っ張られてくると言うようなことがあったが、それ以外は何事もなかった。
 件の泉の前に着いたフレム達の目線の先には未だに泉の上に浮かぶレイクがいる。フレム達はレイクを見て睨むような目付きになる。
 その時、自身の手を引くミレンに意識を戻したサンラは目線を合わせて彼女に言い聞かせた。
「ミレンは村に戻っているんだよ。絶対にここに戻ってきちゃダメだからね」
「うん。負けないでね、お姉ちゃん達」
「負けないよ。お姉ちゃん達は強いからね」
強気の笑みを浮かべたサンラにミレンも笑顔になる。ミレンは言われた通り元来た道を戻って行く。それを見届けるとフレム達は一斉に各々の武器を構えた。
 その時漸くレイクが目を開けた。フレム達は警戒を強め、レイクの出方を伺う。だが、その場から動こうとしないレイクを不審に思う。
「あいつ、あそこから動けないのか?」
「気をつけて下さい。動けないからと言って油断しないように。特にシデンは」
「はあ⁉︎なんで俺なんだよ!」
グレスの言葉に不満を言うシデン。
「俺よりも注意すべきなのはフレムの方だろ!」
「俺は油断してねぇよ!」
「油断はしてなくても無茶なことはいっつもしてんだろ」
「あんなの無茶の内に入んねぇだろ!」
言い争いを始めたフレムとシデンにルナンとサンラは呆れて溜息をつく。グレスとミゾレも何も言えない。長く続くかと思われたそれはアースの「来る」と言う言葉で終わった。
 フレム達を襲ってきたものへの反応は言い争っていたことが嘘だったかのように鮮やかだった。その場から散開し攻撃を避けると、フレムとグレスは自身の剣を振るい、纏わせていた聖気で出来た刃を放った。だがそれは、レイクに届く前に先程フレム達を襲ったものによって防がれた。
 それは水でできた鞭だった。鞭はレイクの足元の泉から伸びておりそれも一本だけではなかった。
 鞭は素早くフレムとグレスを狙うが黙ってやられる二人ではない。自身の剣で攻撃を防ぎ、追撃が来る前に素早く後ろへ下がる。それを追いかけようとレイクの意識が一瞬だけ二人に集中した瞬間、別の方向からの攻撃がレイクを襲った。レイクの姿は発生した煙に包まれて見えなくなった。 
「へっ、どうだ」
「私達のことも忘れないでくれる。アンタの敵はフレム達だけじゃないわよ」
「ちったぁ効いたかよ」
それはフレム達とは別方向に攻撃を避けていたシデン・サンラ・ルナンのものだった。彼らも自身の聖気を武器に纏わせ刃と銃弾を放ったのだ。レイクに余裕を与えないようフレムが自分たちや三人とは別の場所にいる彼らに言い放つ。
「アース、ミゾレも続け!」
「あぁ」
「分かっています」
フレムの言葉に返事を返しながら矢を放つミゾレと斧を振るうアース。未だに煙で姿の見えないレイクに攻撃が迫った時、それが届く前に水の鞭で叩き落とされてしまう。身構えるフレム達の視線の先で煙の中から姿を現したレイク。その姿を確認し、シデンは舌打ちを漏らす。
「チッ、無傷かよ」
「バーリエント体に生半可な攻撃は意味がないことくらい知ってるでしょ。何、アンタまさかさっきのが全力だったとか言う気?」
「んなわけあるか!」
「お前ら、喧嘩は後にしろ。来るぞ」
ルナンの言葉を合図に十ほどの水の鞭が彼らに向けて振るわれる。掠ることもなく全て避けて行くフレム達だが、数が多すぎて攻撃を与える隙がない。
 木陰に隠れたミゾレが弓を引こうとした時、三本の鞭が彼女を襲う。
ズバッ
鞭が彼女に届く前に間に滑り込んだアースがその斧で鞭を切り裂く。
「無事か」
「すみません、助かりました」
弓を下ろしたミゾレを一瞥したアースは返事を返したことに一つ頷いた。だがすぐに元に戻った鞭が再度襲ってきたため二人は直ぐにその場を離れる。二人がいた木は鞭を受けて倒れる。
 攻撃を避けることしかできないことにじれたシデンが愛銃に聖気を纏わせた時、悟ったレイクは雨を降らせ始めた。
「雨?ハッ、シデン攻撃を辞めて!」
「何でだよサンラ!俺の攻撃なら「アンタ、ルネの村に被害出す気‼︎」⁉︎、クソッ」
サンラの言葉を受けレイクの意図を悟ったシデンは纏わせた聖気を霧散させる。同じようにレイクの意図を理解したフレムは状況の悪さに歯噛みする。
「不味いな。これじゃあシデンどころか俺とアースの攻撃まで封じられちまう」
「水に炎と土は相性が悪いですからね。ですが、これだと一気に戦力ダウンです」
「なんとかこの雨を止めなければいけません。せめて空を晴らすことができれば良いのですが」
苦々しく思うフレム達。雨が降り始めたせいで先程までよりも威力の上がった鞭の攻撃に意味がないと分かっていながらもフレムは聖気を纏わせていない剣を振るう。切断された鞭はすぐに元に戻ってしまう。攻めあぐねるフレム達だが、ふと、先程ミゾレが零した言葉にたった一人だけ反応した。
「‘‘空を、晴らせる’’……!そうか」
そう呟きを漏らしたサンラは勢いよく空を見上げた。
(出来る!私なら、いや、私がやらなきゃ!)
 意思を固めたサンラはグレス達から離れたところにいるフレムに近寄る。
「フレム!」
「何だ、サンラ」
背中合わせになったサンラにフレムは戸惑うことなく返事をする。そのまま周りの鞭を切り裂く。 
「フレム言ってたよね、‘‘この雨には月の神気が含まれてる’’って」
「‼︎……あぁ」
体を強張らせ、震える声で返された言葉。彼がそんな反応をするのを分かっていながらもサンラはフレムにその確認をした。内心でフレムに謝りながらも、確信を持ったサンラはフレム以外にも聞こえるように言った。
「皆、少しの間だけで良いから、私へ攻撃がこないようにして欲しい」
「お前、一体何するつもりだよ⁉︎」
全員の思いを代弁するシデンの言葉にサンラは静かな声で言う。
「この空を私の聖気で晴らせる」
「⁉︎お前、‘‘あれ’’を使うつもりなのか」
その意図に気付いたフレムの言葉にグレス達もさんらの考えを理解するが制止の言葉を押しとどめるようにサンラが言う。
「このままじゃジリ貧になる。そうなる前に今の状況を変えるにはこの方法しかないの」
サンラの言葉が正しいと分かっているだけに何も言えないフレム達は渋々サンラの提案を受け入れた。
「……無茶はするなよ」
フレムの言葉にサンラは自身に満ちた声で応える。
「フレムだけには言われたくないね」
太陽のような笑みを浮かべるさんらを見てフレムも漸く覚悟を決めた。サンラが下がり、入れ替わるようにルナンが前へ出る。フレム・グレス・ルナンの三人で前を固める。
後ろに下がったサンラはさらにミゾレの後ろにまで下がる。
「悪いわね、こんなこと頼んで」
「いいえ。こちらこそ頼みます、サンラ」
ミゾレの言葉に頷きを返す。ミゾレの横にはアースとシデンの二人が立つ。フレム達が攻撃の大半を受け、取り零した攻撃をシデン達が一つ残らず叩き落とす。
「あいつには指一本でも触れさせねぇよ」
「シデン、これは指じゃなくて鞭」
「んなこたぁ分かってるよ」
少々抜けているアースの指摘に軽く脱力しながらも取りこぼすことはしない。
 六人に守られながらサンラは息を整え、両手の短剣を前に突き出す。
「ソーラルイクリプス」
サンラの足元に白色の魔法陣が現れる。サンラの聖気が短剣に集まっていく。異変を感じたレイクがサンラを攻撃しようとする。
「させるかよ」
だがその攻撃はフレムが全て斬り捨てる。レイクを睨むフレムは最初に見た時から感じているものに顔を歪めるが、すぐに頭から振り払う。
(今はこんなこと考えてる場合じゃねぇ!)
我武者羅に剣を振るっているように見えるフレムに側にいるグレスとルナンは気付いていながらも今は言うべきでないと黙っている。
 その時、サンラが天を覆う雨雲に向けて光の刃を振るった。光速で飛ぶ刃は天に至ると弾け、雨雲を全て散らせた。ルネに漸く、日の光が戻ってきた。
「おぉ。空が、空が晴れたぞ」
「漸く、太陽を見ることが出来た」
久し振りの日の光に村人達は空を見上げて歓喜する。村中から喜びの声が響き渡った。
 空が晴れたことでレイクの攻撃が先程までよりも弱くなる。それを好機と見たフレム達は一斉に攻撃を仕掛ける。
「今だ。いくぞ!」
『おう!』
フレム達の攻撃を受けた鞭は再生に時間がかかり少しずつレイクの元へ近付いていく。レイクも反撃しようとするがフレム達の猛攻に防戦一方となる。
 少しずつ距離を詰めていき、ついにその攻撃がレイクに届いた。
「ふっ」
「はぁ」
 少しずつフレム達の攻撃がレイクに通り始める。水の鞭はもうその役割を果たしていなかった。
「これでどうだ!」
シデンの攻撃が最後の護りを破り、レイクの体勢を崩した。その瞬間、グレスたちの制止の声を聞きながらもフレムはレイクの懐に飛び込んだ。フレムは己の剣をレイクの胸に深々と突き刺す。
「終わりだ」
剣に流されるフレムの聖気によってレイクは光の粒子となり消滅した。
 漸く戦いが終わった。

 フレムたちが戦いを終えるのを村にいるはずのミレンが近くの木陰から見ていた。そこへ知らぬ女が近付いてきた。ミレンは静かにその女を見上げる。
「ここでの用はもう済んだ。行くぞ」
そう言って去っていく女の後をミレンは黙ってついて行く。
 だが、数歩歩いた先でミレンは足を止め、後ろを振り返った。足を止めたミレンに気付いた女が少し先で足を止める。
「どうかしたのか?」
「……何でもない」
そう言って前を向いたミレンに女は興味を示すことなくまた歩き出した。
 二人の行先は誰も知らない。


続く
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