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お兄ちゃんと夢の国だ!(6)

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「お前! 一体何をやっているんだ!!」


 中年の男に向かって日々乃ハルは迫力ある怒鳴り声をあげた。


(ハル兄ちゃんが来てくれた……正直、助けが来る可能性はかなり低いと思っていた……僕は今の状況を奇跡と呼びたい!)


「ちっ!」


ひゅん


 中年の男は咄嗟にナイフを振り回した。日々乃ハルはすぐさま距離をとって、ナイフ攻撃をかわす。しかし、中年の男は日々乃ハルとの距離をつめてナイフを当てようとしている。


「こうなれば一人も二人も同じだ! お前もなかなかにいい男だから坊やと一緒に殺して、おまけに死体の状態で犯してやるよ!」


がぁん


 日々乃ハルは中年男のナイフを持った手に蹴りを入れた。ナイフははじき飛ばされて床に落ちた。


「ちっ!」


 中年の男は日々乃ハルの顔にむけて、右と左の拳を振り回して当てにいく。日々乃ハルは大きく背中を反らしながら拳の雨嵐を交わし、同時に自身のズボンのベルトを外しにかかった。


ひゅうん


 日々乃ハルはベルトをムチのように使い、中年の男に攻撃をする。


「うぐっ!」


 ベルトが中年の男の顔に当たりスキが出来た。日々乃ハルがすかさず両手で中年の男の右手を小手返しをした。


「大人しくしろ!!」


「うぐぐ!」


 中年の男は、痛みに耐えながら自由な左手でポケットから何かを取り出し、それを日々乃ハルに押し付けた。


ばちぃん


 中年男は咄嗟にスタンガンで日々乃ハルを感電させたのだ。


「ぐぁ……」


 日々乃ハルは意識を失い倒れた。


「やれやれ、仕切り直しだ」


 中年男は再度ナイフをとり、日々乃ハルにとどめを刺しにかかる。


「くくく、お前を殺したら、股間だけ切り取ってホルマリン漬けにしてあげるねええ!!」


がごぉん


 突然、巨体の男が宙を舞い、中年の男にドロップキックを放った。体重ののった攻撃に、中年の男は失神した。


「とりあえず危なさそうだったから咄嗟にドロップキックをかましたけど正解だよな?」


 ドロップキックをしたのは正義だった。彼の質問の意図は、日々乃ハルとしゅうた少年が答えを言える状態にあるかどうかを確認するものであった。すぐに答えが返ってこないので、正義は改めてトイレ内の様子を見た。


「おい! しゅうた! 血だらけじゃねえか! 大丈夫か!!」


「いや、僕は少し斬られただけだよ……ついでにスタンガンの痺れも残っていて……それよりもハル兄ちゃんを心配してよ」


 正義は気を失っている日々乃ハルの元にすぐ寄った。


「脈もある、呼吸もしている、他に外傷もない。ハルは大丈夫みてえだな」


 しゅうた少年はそれを聞いてほっとした。


ヒョコ


 トイレの入り口からネズミの着ぐるみが顔だけ出している。


「おっ、スタッフさんか! 変態が出たんだ。今すぐ警察にしょっぴいてくれ」


 ネズミのキャラは異様な姿だった。股間の部分だけ膨らんでいて、顔つきもいやらしいがお似合いの表情だ。


「ハハッ! 僕はボッキーマウス! 東京ネズミーパーク公式の変態専門の警察さ! この犯罪者は僕達夢の国の住人の手で始末するからね!」


「えっ……それって大丈夫なのか?」


ぽん


 しゅうた少年は正義の肩に手を置いた。


「正義さん、多分突っ込まない方がいいかと思う」


「そ、そうか……ここまでシリアスな空気だったのに一気にぶっ壊れたな……」


「尻アス? ハハッ! もちろんこの鬼畜犯罪者のお尻も僕のボッキーで細切れ細切れにしてやるからね! あぁそうそう、警察によくある事情聴取はないからね! 大抵の犯罪者は僕等の事情聴取で嫌でも口を割るから!」


「なぁ、もしかしてお前を襲ったやつよりもあっちのネズミの方がやばくねえか……」


「……考えても疲れるだけだからやめた方が良いかも……」


「そうそう、そこの大きい君?」


「お、俺かっ?」


「君は閉園後の夜の東京ネズミーパークにこっそり侵入し、楽しみたいと考えているみたいだね。やめておいたほうが良い。この鬼畜犯罪者と同じ末路になるからね。ハハッ!」


「「……」」


 二人はそれ以上ネズミの着ぐるみにかまわないことにした。後日談であるが、夢の国に新しいキャラが一人増えたそうだ。その中身の正体はテーマーパーク関係者以外は誰も分かっていない。


「清美に関しては、見当違いのところ探していそうだし、まずここに来いと伝えるか。あと、救急車だな。しゅうたもハルも一度病院に行った方が良い。それと、救急車の方でしゅうたの着替えも用意して貰えるならそうしよう」


 現在のしゅうた少年の服はナイフで斬られたり、血や精液で汚れていたり、お世辞にも綺麗とは言えない状態だ。


「ありがとうございます。この格好じゃあ外歩きにくいので……」


ぴくり


 日々乃ハルの体がわずかに動く。やがて彼は目をすぅっと開けた。彼の意識が戻ったのだ。


「ハル兄ちゃん! 大丈夫!」


「うん……」


「ハル! しゅうたもお前も大きな怪我はない。変態はスタッフによってしょっぴかれた。救急車も呼んでおいた。とりあえず安心して良いぞ!」


「あ……う……」


「分かっている! お前はありがとうっていいたいんだろ? 当たり前のことしただけだ。気にすんなよ!」


 しばらくの間待つと、清美も到着し、救急隊員もトイレまでやってきた。正義は救急隊員に指示して、しゅうたと日々乃ハルが病院へと運ばれた。




 日々乃ハルとしゅうたの二人は同じ病室にいた。二人とも軽傷のようで、翌朝にはすぐ退院できる状態だ。ようやく一段落し、二人は会話を始めた。


「しゅうた君、どうして君が襲われた時にネコの鳴き真似をしたのかな?」


 日々乃ハルの質問にしゅうた少年が微笑んだ。


「あれでハル兄ちゃんが来ると思っていたからだよ。ナイトパレード中に襲われたから、ネズミキャラのシャウトや楽器の音が騒がしくて普通に大声を出しても駄目だと考えたんだ。だから、それとは異質な声で非常事態を知らせれば人が気付くかなと思ったんだ。ハル兄ちゃんってネコ派の人間だよね?」


「えっ? そうだけど、そんなこと一度も言ったことがないのに」


「これでもハル兄ちゃんの事はよく知っているからね。驚かせようと思って密かにネコの鳴き声は練習していたんだよ。僕が襲われた時にハル兄ちゃんが近くにいれば、ネコの鳴き声で気付くかなと思って、ちょっと博打を打って鳴いてみたんだ」


「博打か。そう、あの時僕は直感でしゅうた君はこの辺かなと探していたとこだったんだ。その時ネコの鳴き声がしたから僕は反応した。でも声質がなんとなくしゅうた君っぽいなと思った。鳴き声はトイレから聞こえ、清掃中の看板もある。だから怪しいなと思ったんだ」


「ハル兄ちゃん流石だね。あと、途中から正義さんが加勢に来てくれたけど、その前にハル兄ちゃんが中年の男相手に闘って時間を稼いでなかったら二人とも命はなかったと思う」


「あぁあれか。実は今日清美君に教わったばかりで、というのも二人きりの時に、彼と正義君の武勇伝で喧嘩のやり方まで教わったからね。聞きよう聞き真似だったけど何とかなったよ」


「じゃあ清美さんにも感謝しないとね」


「そう、明日になったらまた改めてお礼を言おう。今日はもう寝ようか。疲れたしね」


 お互いに眠りに入ったように見えた。しかし、しゅうた少年はここを逃してはいけないと考えていた。しかし、どういうアプローチでいけば良いか、彼は目をつぶりながらしばしの間考えていた。





 日々乃ハルは心地よい眠りに落ちる手前の状態にあった。


ぼふん


 何かが眠っている自身の体の上に乗っかった。気のせいかと考えたが、もぞもぞと動きがある。ネコでも病院に迷い込んだのかなと考えながら、日々乃ハルは目を開けた。


「にゃ、にゃぁ~~」


 寝ていた彼の上に、猫耳とネコの尻尾をつけた裸のしゅうた少年がのっかっていた。


「えぇと、しゅうた君、どうしたの?」


「……う、上手く言えないんだけど、これが僕なりの本気の……愛……だよ……」


「愛? どうみても夜這いにしか見えないんだけどな……」


がしっ


 しゅうた少年は日々乃ハルに抱きついた。


「僕はつい最近まで興味を持てるものがなかったんだ。何をやってもそつなくできてしまうからつまらなかった。周りの人には嫌味かと言われて嫌われ、距離も置かれた。だったらいっそのこと刺激を求めて、危険な事にも手を出して積極的に人に嫌われてもいいやと思ったんだ。そんな状態で、いつの間にか善良心とかがよくわからなくなってきた……」


 しゅうた少年に日々乃ハルは微笑みを返す。


「そうか……しゅうた君は天才だからね。凡人の僕にはよく分からない気持ちだけど、聞くだけならできるよ。それで気持ちがすっきりしてもらえれば……」


「ありがとう。そんな僕が最近興味を持てる存在を見つけたんだ。その人に対しては自身を素直に出したいと思える。心から欲しいと思え、束縛したくなる。その人の笑顔だけじゃなく、泣き顔や苦しむ顔も見たい……」


 しゅうた少年の言葉で日々乃ハルは悟った。


「もしかして、その存在って……」


「そう、ハル兄ちゃんだよ。僕なりにハル兄ちゃんに対し愛はあるんだ。でも、自信がなかった。歪みに歪んだ自分が愛をぶつけてはたしてハル兄ちゃんが僕を愛してくれるかどうか……不安しかなかった……だから僕は力尽くでものにする道を選んだんだ……でも本当はハル兄ちゃんに心から愛されたい……」


ぽろ ぽろ


 しゅうた少年の両目から涙が出てきて、日々乃ハルの顔に落ちた。


「この体をあげるから……どんなHな事しても良いから……痛いことも酷いこともしていいから……僕を愛してよハル兄ちゃん!!」


 日々乃ハルは優しい笑顔をしゅうた少年に返し、自然と口づけを交わしていた。
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