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お兄ちゃんと夢の国だ!(4)

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 しゅうた少年の明晰な頭脳はエラーを起こした。何が最良の答えか分からなくなったのだ。正確には最終的な答えはしゅうた少年はすぐに出した。しかしそこにたどり着くまでのプロセス、それが全く見当もつかなかったのだ。

 両者の間にしばしの沈黙の時間が流れた。


がくん


 観覧車が大きく揺れる。故障した観覧車が始動を再開したのだ。日々乃ハルがこの空気を変えるために口を開いた。


「着替えよう。このまま下に降りてもいけないしさ。あと窓が少し開くからちょっと換気しようよ」


「う、うん……」


 それっきり、二人は降りるまで無言だった。重たい空気が両者に流れる。


「うるせえ、故障するような観覧車が悪いだろ!」


 先に地上に降りていた正義が従業員と口論を交わしていた。清美は正義に対し呆れた表情を見せている。大方、従業員が壊れた観覧車や二人のセックスで汚れた観覧車内を注意したところ、正義が図々しくも逆ギレしているのだろうと二人は予想していた。そしていつの間にか従業員が頭を下げて、何かを渡していた。



「やりぃ! 明日の無料チケット貰ったぞ!」


「頼むからこれ以上恥を重ねるな……俺は他人のふりするぞ……」


 そんな正義のやり取りが、二人にとって少しはこの重たい空気を緩和するものになった。


「あの二人の関係、僕達に似ているようで決定的なところが似ていない。そう思わないかなしゅうた君?」



 唐突の質問にしゅうた少年は頭が回らない。


「似ているのって言うのは分かる。正義さんがフリーダムにやって清美さんを振り回している。それは僕達の関係にも言える。似ていない点、見た目とか年の差とか……」


 しゅうた少年はそれが答えじゃないだろう事はよく分かっていた。ただ何も言わずに黙ったままでいるのが耐えられなかった。


「そうだね、そこも似ていない点だね……」


 どうやら日々乃ハルの求める正解を答えられなかったとしゅうた少年は察知した。




 正義と清美は次に観覧車を降りる日々乃ハルとしゅうた少年を待っていた。降りてきた二人の間に険悪な空気が流れている。二人はそれを瞬時に理解し、互いに目配せをした。


「すいません! 俺が全て悪かった! 俺の体を好きにしてもいいから許してくれ!」


 正義が日々乃ハルとしゅうた少年に向けて頭を下げて、大きな声で申し訳なさそうな態度をとった。


「そうだな、大体はてめーが原因だな。体を好きにしてもいいみたいだ。ハルくんもしゅうた君も殴るなり犯すなり好きにして良いぞ」


「清美! 人が下手にのっているからって調子に乗るな!」


「こら! それが反省している態度かよ!」


 それを見て日々乃ハルがくすくすと笑いだし、正義と清美もほっとした。


「僕は何も気にしていないよ。むしろ正義君のアクションは見ていてなかなかに楽しかったからね」


「なぁに、しゅうたのハイテク技術もなかなかのもんだったぜ。お前だけはまじで敵には回したくないと思う」


「どうも……」


 しゅうた少年だけ笑顔がなかった。さらに彼の行動を見ると、日々乃ハルと視線を合わせないようにしている素振りが見えた。正義と清美が日々乃ハルとしゅうた少年から距離を離し、耳元で内緒話をした。


「駄目か……ハルはましになったけどしゅうたがな……二人のために気使って空気を変えようと思ったんだが……」


「どうする気だよ! 諸悪の根源がお前だから死ぬ気でなんとかしろよ!」


「う~~ん、こういう時頭に電球が浮かんでぴかっと明るくなって案が見えるもんだが……今は夕方で暗い……あっ!」


 正義が日々乃ハルとしゅうた少年のもとへ駆け寄った。


「ナイトパレードがそろそろ始まるぜ! 東京ネズミーパークに来たらこれは見ないとな!」


がしっ


 正義は日々乃ハルとしゅうた少年の手をとり、走って誘導して行った。清美もすぐにその後を追っていく。



 東京ネズミーパーク内にネズミーキャッスルという大きな城がある。そこの門から、アニメ作品のキャラ達が華やかに登場し行進し、多色の光を使って芸術性のあるものに仕上げているのだ。


ぱっぱらら~


 明るい音楽が流れ始めた。来場客を歓迎する英語のアナウンスも聞こえてくる。やがて、赤、緑、黄色のスモークが出始めそこからキャラ達が出始めた。


「ハハッ! ネズミッフィーだよ! 今日は来てくれてありがとう! 僕の彼女のニミーも喜んでくれているよ!」


 最初に出たのは、東京ネズミーパークのモチーフとなっているアニメ「ネズミー作品で」一番有名な黒いネズミのキャラが、来場客に笑顔で手を振っている。


「へへへ、俺様はネズミー男爵! 俺様のために金を落としてくれてありがとうな諸君! 夢をもっと与えてやるから金をくれええ!!」


 続いて出てきたのはフードをかぶったネズミ顔の男。卑しそうな顔をしているが、「ネズミー作品」内で地味に人気のあるキャラである。


「へケッ! ネズミ太郎なのだ! 大好きなのはひまわりちゃんとの種〇〇行為なのだ!」


「ネズミ太郎君! 卑猥な事を言っちゃ駄目でちゅよ!!」


 危ないネタを放つ二匹のハムスターキャラが現れた。子供に見せたくないキャラでトップに立つ二人であるが、大きな大人からは何故か人気があるキャラなのだ。


「ピッカ! 僕はネズミッチュウ! 僕の10万アンペアで明るくするよ!!」


 ネズミッチュウの言葉で一気に周りに色様々な電気が付き、綺麗な夜景となっていく。


「うおおお!! すげえな!!」


「これは見に来て良かった!」


 正義と清美が子供のようにはしゃいでいた。


「本当、楽しいし綺麗……」


 日々乃ハルもパレードの華やかさに見とれている。彼がこんなにも素晴らしいものを見れたという喜びを分かち合いたい人に目を向けようとする。


「あれっ? しゅうた君……」


 しゅうた少年の姿がなかった。正義や清美もその事に気付いた。


「しゅうた君どこかに行くって言ってたかな?」


 日々乃ハルの質問に正義も清美も横に首を振った。




 一方、しゅうた少年は三人とは別の場所でナイトパレードを見ていた。小柄なしゅうた少年は人混みの中に紛れ、ぱっと見はどこにいるか分からない状態となっていた。


(心配させているだろうな……でも今は一人でいたい……後先のことは考えるのはやめよう。気が滅入るだけだ)


ばちちん


 しゅうた少年の全身に強烈な痺れが走った。


(なっ! なにが……意識が……)


 しゅうた少年は意識を失った。倒れる彼を支えた一人の中年の男がいた。


「もう、パパから離れないように言っただろ? おや、眠くなったのか、しょうがない、背中でぐっすりおやすみ」


 その男はしゅうた少年の父親ではない。全くの赤の他人である。周囲の客を欺くために、そのような嘘の言葉を出したのだ。その中年男はしゅうた少年を背中でしょって、トイレへと連れ込んだ。

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