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ショタ変身編

いじめるな!

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 ある日の事、俺は部屋の掃除をしていた。勉強机のいらないものを捨てる作業をやっていたときに一枚の写真を見つけた。

「おっ、これは」

 写真には小学生の頃の俺と正義、ついでにひょんな事で知り合った三人が写っている。
 
「そうか、正義との出会いもこの頃だったな」



 時は俺の小学生時代まで戻る。当時の俺は六年生にいじめられていた。身体が小さいし、泣き虫だったし、喧嘩も弱かった。いじめている奴らからすれば、遊び半分で楽しんでやっているのだろうが、いじめられている本人からすれば非常に辛いものだ。いじめを何とかしようと自分なりにあがいてみた。まず真っ向から喧嘩で立ち向かって、力の差を知った。プライドを捨てて先生に言ったが、逆にいじめがより一層酷くなった。授業をボイコットしたが、結局俺自身の問題とみなされた。この歳にしていじめられたら、もうおしまいだ。どっか遠いところへ逃げるしかないと悟ってしまったのだ。
 家にまっすぐ帰らず、堤防の方で景色を眺めていた。時折、いじめの記憶を思い出して涙ぐむ。

「なに泣いてんだよ」

 突然、話しかけたのは見慣れない顔の少年だった。多分小学生ぐらいで、俺と歳は近いと思った。

「さては誰かにいじめられたんだな。お前、いかにも弱そうだしな。俺強いから、でこぴんだけでも倒せそうだな!」

 少年の俺はそんなに気は長くない。見ず知らずの少年にいきなり馬鹿にされ、言い返すより拳が動いた。

パシィン

 俺は少年に対し、渾身の力をこめた右拳を放った。しかし、それがいとも簡単に受け止められた。
 あっ、これは酷くお返しされるなと、何発か殴られるのを覚悟した。しかし、俺の予想に反した反応が返ってくる。少年はにやりと笑った。

「気に入った。お前の名前なんて言うんだ?」

「佐藤清美……」

「俺の名前は佐藤正義。同じ佐藤のよしみだ。仲良くやろうぜ」

 これが、正義との初めての出会いであった。



「ぎゃはははは!!」

 いじめっこの六年生達の下品な笑い声が響く。俺は地面に寝せられ、頭を足で踏まれていた。俺を踏んでいた男は進藤しんどうというグループのリーダーの男だ。俺は今、顔が土にまみれ屈辱的である。

「女のいじめは勝ち目のないやつをいじめるっていうらしいけどよ、男のいじめは勝ち目のあるやつをいじめるみてえだな」

 唐突にこの空気を壊す輩が現れた。正義である。当然のことながら正義もいじめっこのターゲットにされる。

「おい、お前調子に乗ってんじゃねえぞ?」

ドスゥン

「うぐお!!」

 正義が体重の載った膝蹴りを進藤の股間に当てた。

「やだなぁ、調子に乗るってこういうもんだぜ先輩♪」

 正義の膝蹴りの威力が凄すぎて、進藤は起き上がれずに涙目でうずくまっている。

「てめえ! 何してやがる!」 

「何って、調子に乗ってるだけですよ♪」

「こいつ、死にてえみてえだな」

 他の六年生達も一気にかかってきた。

バキィン バキィン バキィン

 瞬時に正義の拳が六年生達の顔面にヒットする。もろに入ったようでしばらく立ち上がれないようだ。

「さて、逃げようぜ!」

 正義は俺の手を引き、いじめっ子達の見えないところまで連れて行った。



「お前いつもあいつらにいじめられてんのか?

「うん……」

「そうか、悔しいよな……よし! お前をあいつらに勝てるくらい強く育ててやるよ!!」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の心に希望の光が照らされた。小学生として、強く育ててやるというワードは、漫画やアニメのようなロマンあふれる言葉に思えた。

「まあ一週間あれば、何とかできるだろ。一週間後にあいつらに決闘を申し込むんだ!」

「もちろん正義君も一緒に闘ってくれるんだよね!」

「俺も参戦すれば余裕だ。でもな、あの六年共を一番屈辱的な負け方をさせてやりたいって思うんだよな」

 正義が意地の悪そうな顔をした。今の正義は名前に凄く反しているカと思う。

「いじめていた奴に逆襲される。こういうのが一番すかっとしねえか?」

「それいいかも! アニメみたい!」

「だろ? お前以外にもあいつらに苛められている奴らはたくさんいると思う。だから俺がまとめてみっちり鍛える! 俺は転校してきたばかりだから情報が分からねえ。だから教えてくれねえか?」

「うん、分かった」

 こうして正義と俺は仲間捜しを始めた。



「お前が野田のだ さとるだな」

 正義が話かけたのは小学六年生の男の子だ。身体はでかく、脂肪分もある身体だ。大きさや重さだけなら学校一であろう。しかし、本人が気弱なこと、目立つ体格もあって、俺同様いつも苛められているのだ。

「単刀直入に言う。お前を苛めているクソ野郎共をこらしめたいと思わないか?」

「や、やだよ……仕返しされちゃうよ……」

「じゃあ俺直々に苛めてやろうか?」

ぐわん

 正義が自分よりも体格のある野田悟の襟首を掴んで持ち上げた。

「わ、分かったから離してくれよお!」

「そう、分かれば良いんだ」

 半ば強引的に仲間の勧誘に成功した。



「お前が加藤かとう じゅんだな」

 正義が次に話しかけたのは小学五年の加藤淳。ひょろっとした身体で死んだ魚のような目をしている。この子はいつももやしっ子と馬鹿にされている。陰キャラな事もあって、友達も少なく、いじめっ子のターゲットになっている。

「お前、いじめっ子共を成敗したいと思わないか?」

「成敗……いや、地獄に落としたいねえ……ぐふふふ」

 なんとも気持ち悪い笑みを浮かべている。しかし、すんなりと正義の誘いに乗ったのは良かったと思う。

「よし、お前を地獄からの使者に育ててやるぜ!」



中沢なかざわ 颯太そうただな」

 小学六年の中沢颯太は極めて普通の子だが、授業中にうんちを漏らしてしまい、それ以来その事をネタにいじめられているのだ。

「いじめっ子共を糞尿のごとく洗い流してやりてえと思わねえか」

「なんだよ唐突に、放っておいてくれ。僕はもう転校するし、あとちょっと我慢すれば……」

「ならよ、最期の花を咲かせてやろうじゃねえか! 俺達と一緒に思いで作ろうぜ! 今日、今の自分を捨てるんだよ!」

 正義はひたすらまっすぐな眼差しを中沢颯太に向けた。

「分かった。君を信頼するよ」

 中沢は正義とがっちりと握手を交わした。



 正義の特訓が始まった。
 野田、加藤、中沢は引きこもりな事もあって、鍛える時間は十二分にある。正義は学校をさぼり、三人を鍛え上げている。俺はいじめられているが、母さんがおっかないため、不登校なんてできなかった。だから放課後、正義が特訓に付き合っていた。幸いな事に、放課後は正義のがいたこともあってか、いじめっこ達が警戒し近づかなかった。
「おらぁ! 右腕だけでパンチを打つな! 左腕も使うんだよ!」

「清美! 拳も回転させることを意識するんだよ!」

「ひぃ~~!!」

 正義だけでなく、元ヤンの母さんまで特訓に付き合い、猛烈にしごかれた。ある意味いじめっ子にやられていた時の方が楽だったかも知れない。

「いいか! 喧嘩は効率よく相手の身体を破壊することだ! だから遠慮なく急所を狙え!」

「清美! 相手に優しさを持っちゃ駄目よ! 相手をぶっ殺す気でいきなさい!」

 こうして激しい特訓が続き、一週間後の決闘の日がやって来た。



 近所の十分な広さのある河原に小学生が複数人集まっていた。本日の決闘に対し、いじめっ子グループのリーダー進藤が、人脈を活かし、20人程連れてきた。金属バット、木刀、モデルガンを持っている奴らも何人かいる。対し、こちらは五人。まともな戦力は正義だけという事を考えると圧倒的不利である。

「俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやるよ!」

 進藤がけたたましい声をあげた。この状況に、正義以外はびびっている。俺も逃げ出してしまいそうだ。

「ぎゃははははは!!」

 正義が唐突に大声で笑い出した。

「どうした正義!?」

「これが笑えずにいられるかよ! だってよ、こんないかにも弱そうなやつらにこんなにも人数用意するのか? 武器まで用意しちゃってよ! 器が小さい雑魚キャラがやるこったぜ!! もしかしてリーダーの進藤さんは女の子にも勝てないおかまじゃね~のか~? ぷーくすくす!」

「て、てめえ! 何言ってやがる!」

「おい、お前達も笑おうぜ!」

「わ~っはっはっは!!」

 正義に合わせて俺達メンバーも笑い出した。この雰囲気にいじめっ子グループの集団はやりづらい雰囲気になっている。
 実はこれは作戦であった。正義はあらかじめ相手が平等な条件で挑むつもりでいないと思っていた。だから平等な条件で挑むために相手のプライドを逆手にとったのだ。

「もういい! お前ら! こいつらをやっちまいな!」

 震度王の鶴の一声で仲間が襲いかかってくる。やはりこの作戦上手くいかないのか。

「お前らそれでいいのか! ここで大将さんに闘わせないと、大将さんが雑魚のおかまだという事になるぞ!」

 その声で進藤の仲間達が足を止めた。正義の心理作戦により動けずにいる。

「てめえら! ここでいかねえとあとでどうなるか分かってんだろうな!!」

 恐喝じみた声を聞いて、再度俺達に襲いかかってきた。

「しゃあねえな、これだけはやりたくなかったんだがな……」

 正義がいじめっ子グループの仲間の一人に狙いをつけた。

「必殺ジャスティスクラッシュ!!」

ドガ バキィ メキィ ズダァン

 正義の重く速い拳や蹴りが瞬時に何発も決まった。

「ふぼはぁ!」

 まさにふるぼっこ。敵の一人が見るも悲惨な状態にされてしまった。

「こ、殺される!!」

「死にたくねえよ!!」

 正義の人並み外れた強さに次々といじめっ子グループの仲間が逃げ出した。

「お前ら待て!! 待つんだ!!」 

 進藤が制止するが、仲間は逃げることをやめない。いつしか、敵は進藤一人となってしまった。

「一番効率の良い喧嘩は相手を闘わせないこと。そのために一人だけを半殺しにする。分かったか大将さんよ」

「ぐっ!」

 状況は一気に逆転した。これで大分有利となったぞ。

「なんか勘違いしているみたいだから言うけどよ、俺はこいつとは闘わねえぜ」

「えっ?」

 メンバー皆驚愕した。

「お前! 俺にビビったのか!」

「いや、楽勝で勝てるわ。今日はお前に一番屈辱的な敗北を味わわせたいと思ってやってきた。いじめられっこにいじめっこが負けるというな!! というわけで野田、お前から行け!」

 野田の背中が正義によって強く押された。

「む、無理だよ~~」

「お前! 俺にぶん殴られてえか!!」

「ひぃぃ!」

 野田が渋々と進藤に立ち向かった。

「屑が俺に勝てると思うなよ!」

バキィ

 進藤の拳が野田の鼻にまともに入り、鼻血が出た。

「うわあああ!! 痛いよおおお!!」
 
「野田! 俺のパンチに比べればそいつパンチなんざ女のパンチだぜ!! びびるな! 特訓を思い出せ! お前は力士になるんだ!」

「力士……」

 正義の言葉を聞いて野田の目つきが変わった。野田は力士の如く進藤に突進し、張り手をくらわせた。

ドシィン

「ぶほぉ!」

 張り手がまともに入り、進藤が痛そうにする。

「す、すごい……」

「いいか! 張り手っていうのは、身体の重さをのっけやすい! お前みたいなデブの巨漢にぴったりなんだ!」

「ようし!」

 野田が次々と進藤に張り手を食らわしていく。しかし進藤も徐々に攻撃に慣れてきた。

「一撃の重さは認めるがよ、単調なんだよ!!」

ばきぃん

 進藤の右アッパーが野田の顎に決まり、野田は足下から落ちるように倒れた。

「よくやったぜ野田、次は加藤! お前だ!」

「ぐふふふ……僕の暗黒武術で主を地獄に誘おうぞ……」

 厨二病じみた台詞を加藤が放った。

「てめえもさっきのデブのようにぶっつぶしてやんよ!」

「暗黒龍の構え!」

 加藤は両腕をしめてガードを固めた。ガードを崩そうと、進藤も重い一撃を食らわせる。ガードを固めても腕にダメージは通るわけで進藤も苦痛に顔をゆがめる。

「それ以上はいけないぞ! 我の邪眼に眠りし暗黒龍が怒りの方向をあげようぞ!!」

「きもいんだよてめえは!」

 進藤が右腕をひいて、重いストレートを放つ瞬間であった。加藤の左脚が上がった。ハイキックがくると進藤はすぐに読み、ガードを固める。

がこぉん

 加藤の脚の軌道が途中で変わり、進藤のガードのかいぬけた。結果、進藤の側頭部に加藤のハイキックがまともに入った。

「なに!?」

 進藤はぐらつき、膝をついた。

「見たか、我が暗黒龍の覇気を!!」

「いいか進藤! 加藤はひょろいが、身体は柔らかい。だから、こういう蹴りができるんだ! これはプロの格闘家でもガードしづらいブラジリアンハイキックだ!」

 進藤は足下がふらつきながらも立ちがあってきた。

「調子に乗ってんじゃねえぞ!」

がしぃ

 進藤は加藤の身体を掴んだ。

「見たまんま、ひょろいからよ簡単に投げ飛ばせるぜ!!」

どがぁん

「おひょは!」

 加藤は強烈な投げによる衝撃で失神した。

「加藤、お前の死は無駄にしない。中沢! いけえ!」

「野田、加藤、お前達の闘いは僕が引き継ぐぞ!」

 中沢が勇ましい戦闘態勢をとった。

「今度はうんち野郎か、臭いからとっとと帰りな!!」

 進藤は右のストレートを中沢に放った。

どごぉ

 中沢は進藤の右のストレートに合わせ、左のカウンターを放った。進藤はダメージもあり、今度は寝転がるように倒れた。

「どうだ、進藤! うんち野郎に倒される気持ちはよ! 中沢は動体視力がいいんだ! だからカウンターなんて芸当ができるのさ!!」

 進藤は負けん気でたちあがり、怒り狂った様子を見せた。

「殺す! 殺す! 殺す! 殺してやる!!」

がしりぃ

 進藤は中沢の両腕をつかんで抑えた。中沢は拘束を解こうにも、力負けして解くことが出来ない。

ごぉん ごぉん ごぉん

 進藤は重いヘッドバッドを三回中沢に食らわした。中沢がひるんだところめがけて右のストレートをきめた。

ばきぃん

 中沢も進藤の前に倒れてしまった。進藤は俺の方を睨み付けた。

「こいつを倒せば、お前をぶっつぶせるんだなあああ!!」

「清美、はなっから眼中にされてねえみてえだぞ。むかつかねえか」


「むかつくな。それも超」

「だったらお前であいつに蹴りをつけようぜ!」

「おう!」

 まず俺は恐れを乗り越える気で、進藤に速く踏み込んだ。進藤も自分の予想以上の踏み込みの速さに対応が遅れた。すかさずそこへ左ジャブ、右ストレート、左フック、右アッパー、おまけの金的蹴りをくらわした。
 もはや進藤は限界に来ていたのだろう。俺の怒濤のコンビネーションで立てなくなった。俺がいいとこどりしたみたいで仲間に少し申し訳ないと思った。

「見たか! 清美は小柄だが瞬発力やスピードは優れている! だから速く踏み込めるし、接近戦においてパンチを打った時の回転が速い! 清美、この決闘、いじめられっこグループの勝利だぜ!!」

 俺と正義はハイタッチで勝利を祝した。



 この後のことである。気絶していた進藤をすっぽんぽんにし、ロープでがんじがらめにした。それから野田、加藤、中沢、俺の手によって、進藤の身体に落書きしたり、全員でおしっこをかけたり、土下座で100回謝らせたり、その様子を写真や動画で撮ったものを近所に拡散したり、進藤にとっては屈辱的なものとなった。その後、進藤はすぐに転校していったという。また、この時一緒に闘った野田、加藤、中沢は転校が決まっていたので、決闘の日から数日後、街を去ることになった。彼らとの別れの日である。

「正義君、君のおかげで自分に自信が持てたよ。将来は横綱になろうと思うんだ!」

「おう! 野田なら立派な力士になれると思うぜ!」

 かつていじめにより、闇の中にいた野田悟に、希望の光が見えていた。

「くききき、正義君、数日間の交流だったけど、楽しかったよ。うぅううおお!!」

「泣く程楽しかったか、それはよかったぜ!」

 加藤淳は変な奴だったが、この日一番涙もろい奴という事を知った。案外良い奴なのかも知れない。

「正義君、また会う時は君に負けないぐらいビッグな男になるよ!!」

「期待しているぜ!!」

 中沢颯太、彼はこの日から十五年後に政治家となり、いじめ対策・撲滅のために力を尽くす男となった。



 別れの日に撮った写真を見ながら俺は今と同じくらいの幼少期の思い出にひたっていた。

「懐かしいな、今あいつら何しているかな?」

「ん? 清美何見てんだ?」

「ああ、懐かしい写真が出てきてな」

 この後、正義と一緒に小学生時代の思い出を長い時間語るのであった。
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