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妊娠野郎編

妊娠させるな(1)

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 一時期ショタと化した俺であったが、いつの間にか体の大きさが元に戻っていた。流石に俺の母が心配し、病院へ行く事になった。検査内容は、血や尿をとられたり、でかい機械に体を通されたりと、精密検査なのか? と思うようなものであった。
 そして、検査終了後に、医師からとんでもない事実を言われた。

「清美君は赤ちゃんを産める体になっていますね」

 一瞬思考が停止した。流石にこれはジョークだよなと思いたかった。しかし、担当の医師の表情は真面目そのものである。

「正直私も信じられないのですが、清美君の体内で卵子ができるようになっています。更に、肛門から精子を取り入れて、受精・着床が出来る体になっています」

 な ん で す と ! ?

 つまり正義といっつもやってる生ハメで妊娠する可能性が出るって言う事なのか!? っていうかケツ穴で妊娠するとか、どんなファンタジーな世界だよ!? つうか俺、場合によっては妊婦さんになっちゃう、いや、妊夫さんか。

「まあ! 清美は女の子になったんですか!」

 隣にいる母は喜ばしそうな顔をしている。

「正確には、男性の体に女性としての機能も備わったというのが適切ですね。でも、手術で性転換する選択肢もありますよ」

「おいくらですか!」

 このまま母をほっとくと、まじで俺は女の子にされかねない。俺は母を止めた。

「俺の意見も聞け!! 女の子になれったって、気持ち的に無理だっつうの!!」

「お母様、清美君本人の意思が大事ですので、お諦めになってください」

 母のテンションはがっくりと落ちた。

「清美君が急に子供になり、また戻った事に関してですが……分からなかったです……」

 そうだろうな。子供になったり元に戻ったりと、漫画みたいな現象が今の医学で証明しろったって無理な話だろう。
 
「ところで、清美君、子供になってから、感度が良くなったりしなかったかな?」

どきぃ!!!

 俺は誰にでも分かりやすい「なぜそれが分かった!!」の反応をした。

「私の推測になりますが、清美君が赤ちゃんを産める体になるための準備として、一時的に子供の体になったのかと思われます。感度が良くなったのも、女性としての機能が備わったからです」

 もう、俺の体どうなってんだよ。この先俺、どうなっちゃうんだろうか。そんなこんなで病院での検査を終えた。


 帰り道のことである。

「ねぇ、清美は正義君の赤ちゃん産みたい?」

「ぶわへぇ!?」

「なぁ~に変な声あげちゃってんのよ♪」

「野郎に赤ちゃん産みたいかって質問自体有り得んもんだろう。赤ちゃん欲しいなら母さんが子作りすりゃあいいじゃねえか」

ムニ゛~

 母は俺の耳を斜め上方向に思いっきし引っ張った。耳が限界以上に伸び、めっちゃ痛い。

「母といえども、その発言はセクハラよ」

「いだだだだだ!! 母さんの発言の方がよっぽどセクハラだろう!!」

「それはそれ。これはこれ。謝るまでずっとこれよ」

 不本意ながら、母に謝罪して、お耳引っ張り地獄から解放されたのだった。

「赤ちゃん出来たら不安になるとは思うけど、母さんも協力するから頑張りなさい。お父さんが海外出張で稼ぎまくっているから、支援は十分出来るわよ。まあ、最終的に正義君が稼げるようになったら二人で暮らして貰いたいけどね」

 このクソババァ、もはや赤ちゃんが出来る事前提で会話を進めていやがる。そして家に着くまでの間、妊娠後の生活や、赤ちゃんが生まれた後の生活等、俺の不安が煽り立てられる話が続いたのだった。


 俺の体が元に戻ったので、久々に学校に行く事になった。俺の久々の登校に挨拶してくれるクラスメイトと会話しながら、席に座り一息ついた。ようやくいつもの日常が戻ったという感じがあるな。

「清美ぃ! お前赤ちゃん産めるようになったのか!」

 正義の一言で俺の平穏が破壊された。教室の空気が変わり、クラスメイトがざわつく。つうか正義の奴、誰からそんな話を! というより学校の教室でこんな発言する馬鹿がいるか!

「ちょっと来い!」

 俺は正義を人気のないところまで引っ張った。うちの学校はわりかし空き教室が多く、すぐに人のいない教室までたどり着いた。

「お前、俺の母さんあたりから聞いたのか?」

「そうだ。孫の顔が見たいからよろしく頼むと言われた」

「……あのババアめ……」

 正義に俺が妊娠できる体になったと言ったら、絶対この男すぐにでも孕ませる気でいくだろう。俺はそれを恐れて、できる限り情報を伏せようと思ったらこの状況だよ。

「しっかし、ケツの穴で妊娠できるとか、まじすげえなお前の体」

「俺も信じたくはないんだがな……」

「子供を作るんだったらセックスの場所も上等の場所にしないとな」

「俺はお前と子作りするとだなんて一言も言ってねえぞ!!」

 正義が信じられないといった表情の顔をした。

「なにぃ!? つまり、俺以外の男と子作りしたいって言うのか!」

「話が飛躍しすぎだ! お前以外の男とSEXなんざやりたかねえよ!!」

「ん?」

「あ」

 俺の発言に正義が引っかかるようなリアクションをとった。俺も自分の発言を振り返り、しまったと思った。

「そうか~、その発言はお前なりの俺への愛ってわけか~」

 正義がにやにやした顔となった。

「ち、ちがう! い、今のは、咄嗟に出た言葉がたまたまそういう意図に捉えれるような感じになっただけで、べ、別にお前が好きってわけじゃないんだぞ!」

「テンプレ的なツンデレ発言だな。いい加減素直にデレろよ」

 鏡がないから分からないが、俺の表情はトマトのように真っ赤になっていると思う。もう何も言えなくなり、ダッシュでその場を去った。しかし正義の方が短距離走は速いので、すぐに追いつかれた。

「つかまえた」

「はなせよ」

「未来の旦那さんだぜ俺は」

「はなせってんだよ!!」

 感情が高ぶり、俺の目から涙があふれた。今の俺は何もかもぶちまけたい男と化している。

「清美……」

「俺不安なんだよ! 唐突に母乳が出たと思ったら、友達だと思っていたお前に犯されて、突然小さくなったり、大きくなったと思ったら赤ちゃんが出来るとか。でも俺の周りに、そんな不安を分かってくれるやつなんざ誰もいねえんだよ! うちの母親だって赤ちゃんが出来る事を期待するばかりだ!」

 俺がさらけだした本音に正義は何も言えなかった。俺が本音をぶちまけた後、互いに何も言えない空気が出来てしまった。その空気に耐えきれず、俺からその場を逃げ出したのだった。


「性少年よ、悩み事があるようだな」

 俺にそう話しかけてきたのは、弧ノ山先生だった。

「別に先生に話す事の程でもないのでいいですよ」

「私の経験から来る直感がお前の悩みは非常に面白いものだと予想している」

「他人事だと思って……とにかく先生では解決できない内容だと思うので、これで失礼します」

「お前が正義とやったときのやつを、ネットに拡散してやろうか? 明日からお前は同性愛者に狙われる身になるだろう」

「なっ!? ひでぇぞ!」

「保健室まで来い。これでも先生だ。ちゃんと相談話は聞いてやる」

 ちょっと脅迫されるような形で、俺は弧ノ山先生と一緒に保健室まで行った。


「ほいっと」

 弧ノ山先生は保健室の入り口に「カウンセリング中、ノックしてから保健室に入ってね♡」という木の札をつるした。これで変な話をしている時に生徒や先生が唐突に入ってくるのは防げるだろう。良い考慮である。

「そこにあるテーブルに座っていいぞ」

 先生の指示で、二人ほど座れるテーブル席に座った。

「清美、コーヒーいれるがブラックでいいか?」

「大丈夫です」

 保健室内には上等のコーヒーメーカーがあるようだ。機械からブブブブとと音がなり、やがてコーヒーの香りが保健室内に漂ってきた。この香りが、今の俺の複雑な気持ちを、ちょっとの間忘れさせてくれるような感じがあった。

「ほい、弧ノ山ちゃんお好みブレンドだ」

 コーヒーがテーブルに二つ置かれた。ネーミングはひっかかるが美味しそうな感じはある。

「先生ってちゃんづけするような歳でしたっけ? 確か……」

 俺は弧ノ山先生の今にも雷が落ちそうな表情を見て、言葉を途中でストップした。

「最初に言っておく。ここで話す事は保健室内だけでとどめる。秘密厳守を約束しよう」

 はんば無理矢理連れてきて、秘密にするから悩みを打ち明けろっていうのもどうかなと思ったが、一応礼は言った方が良いだろう。

「了解です。ありがとうございます」

「最初は、お前が付き合っている正義との痴話喧嘩かと思ったが、ちょいとばかし複雑な話か?」

「ええ、そうです」

「私もお前のように同性愛主義者だ。性別の違いはあるが、お前と同じ視点で見れるかもしれん」

「そうですか」

「特に驚きはせんか?」

「なんとなくそっちの方かなと感じてはいたんで、でも弧ノ山先生自から話すとは思わなかったです」

「人様の秘密を聞こうと言うんだ。ある程度対等の立場にならんと。ちなみに私の秘密を外部に漏らそうものなら……全力でお前をこの世から消しにいく」

「ジョークですよね?」

「ジョークに見えるか?」

「わ、分かりました」

 俺は弧ノ山先生にこれまでの経緯を全て告白した。


「そうだな、お前の状況を第三者の視点で楽しんでいた私が言えることではないが、そんな状況になったら私は支えとなる人が欲しいと思うな」

 弧ノ山の先生のこの言葉を聞いて、ようやく自分の気持ちを分かってくれる人が出たと思えた。

「かつて私もお前と同じように、仲の良かった男友達にレイプされてな……」

「そうでしたか、先生も俺みたいに……」

「まあ、仕返しにペ二パンで掘り返したがな。私はバージンを奪われ、あいつはノンケを失って同士討ちだ」

「真面目な話だと思った俺が馬鹿でしたよ」

「そうだな。いっちょ馬鹿になるのも良いだろう。私はこの出来事で色々と吹っ切れて同性愛主義者に目覚めた。私の経験談で言うなら、ショッキングな出来事があれば、変わるきっかけにしちまいな」

 変わるって、開き直ってホモになるしかないんじゃないかな……。

「それともう一つ。お前もまいっているとは思うが、正義も傷ついていると思うぞ」

「え? そういう事にはいっちゃん無神経そうな正義が?」

「だからだよ。あいつが好き放題やって来た分、お前の本音を聞いてかなり落ち込んだんじゃないかと私は思う。今まで清美を苦しめてきた自分を悔いているだろう。しかし奴はそういうのを暴走という形で出すタイプだと思うな」

「暴走……やつならやりかねない……」

「しばらく正義には気をつけておけ。私から言えるのはそれだけだ。さぁ、いつの間にか外も暗くなってきたし、不審者に襲われんうちに帰った帰った!」

「は~い」

 そうして、俺は保健室を後にし、帰宅した。


 深夜の事である。マイベッドに寝ていた俺の耳にけたたましいガラス音が鳴り響いた。咄嗟に驚き目が覚めた。俺の目の前に、二本脚で立つ人物がいた。室内は暗かったが、月明かりでその人物の外観が分かった。虎柄の服を着ているのかなと思ったが、よく見れば毛皮だ。つまり虎の毛が生えているということだ。そして、耳、口元、しっぽ、完全に俺が知っている虎そのものであった。

「キ・ヨ・ミ」

 俺の名前を呼ぶ謎の生命体。これは夢なのだろうか。そう思った瞬間、その生命体は俺に飛びかかった。ずしりとのしかかった体重の感触が俺にこれは夢ではないと教えてくれた。
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