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あんべ総理異世界へ行く

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 私はあんべ総理、選挙の演説中、背後で何か爆音らしきものを聞き、気がついたら背中が激しく燃えるような感覚を覚え、そして意識が途絶えた。

「ここは……」

 私の意識が目覚めた時は、辺り一帯は闇だった。一体、私はどうなってしまったというんだ?

「ようこそ、世界の切れ目へ……あんべきんぞうさん、いや、あんべ総理とよんだ方が良かったでしょうか?」

 綺麗な声、綺麗な顔立ち、透明感のある金髪、中世を思わせる素敵な衣装、まるで私が昔映画で見たファンタジー作品の出で立ちそのものだ。

「その、私は選挙の演説の最中だったのですが、気がつけばここにいて、恥ずかしながら全くこの状況を読めない状態なんです」

「そうでしたか、では、落ち着いて聞いて下さいね。あなたは背後から銃撃を受けて出血多量によるショック死でお亡くなりになりました」

 私は女神の言うことが信じられなかった。しかし、今この非現実的な状況を考えると、もしかしたら本当の事と納得せざるをえないかもしれない。

「そうでしたか……私は死んでしまったんですね……総理として活動し、人のためになる活動をしてきましたが、その一方でそれを嫌う人も多くいました。覚悟はしていましたが、自分のやりたいことをやりきれずに死んで後ろ髪をひかれる思いで亡くなったという気持ちです」

「あんべ総理、あなたの現世での功績は偉大でした。だからこそ、その力をまた別の世界で発揮していただきたいのです」

「別の、世界?」

「あんべ総理、異世界転生という言葉はご存じで?」

「あぁ、私の腹心のかそうが漫画好きでそういうタイトルの本も読んでいたな。一般人がファンタジー世界にやってくるという内容だったかな?」

「その通りです。あなたには異世界に行って頂きたいのです。あなたの力があれば異世界を平和にできます」

「し、しかし、私はもう歳だ……それに身体も弱くなっており持病の潰瘍性胃腸炎もある……。何もできないかと……」

「ご安心下さい」

 そう言うと女神は私に右手を出し、何やら光を当てた。

「うおっ!? こ、この感じはっ!?」

 私の身体にパワーが溢れてくる感じがこみ上げてきた。さっきまで身体を少し動かすのもだるい感じだったのに、今では元気が有り余りすぎて激しく動きたいくらいだ。

「あなたの身体を20代の頃に戻しました。また、あなたの持病の潰瘍性大腸炎も再発しないように完治させました。他、銃撃により開いた心臓の穴も塞いでおきました。鏡で自分の姿を見ますか?」

 女神はどこからか姿見鏡を取り出すと、20代の頃の私がいた。いや、20代の頃の私よりもずっと筋骨隆々な体つきをしている。

「凄い……まさに奇跡だ……」

「貴方の深層心理を身体に反映させたのです。あんべ総理、あなたは若さと健康な身体を欲していましたが、他にも誰かを守るため、理不尽な悪に立ち向かうための力も欲していたようでした。なのでそのような体つきになりました」

「そ、そうでしたか。確かに、私が総理の時は自分の国を守るため、国防力を、そして力の強い国との連携に力を入れてきました」

「あんべ総理、このまま異世界転生も可能ですし、もしくはあなたの魂を平穏なあの世に送ることも可能です。いかがいたしますか?」

 私の答えはもうとっくに決まっている。

「行きます。あなたの恩に報いて必ず異世界を平和に致します!!」

 女神がにっこりと微笑んだ。

「あんべ総理、異世界での生活にご武運を……」

 私の周りは光に包まれ、何も見えない状態
となった。やがて、私は広い草原にいた。

「こ、ここは? 一体私はどうすれば……?」

「キャ――ッ!!」 

 どこからか女性の悲鳴が聞こえた。ただ事ではない、すぐに駆けつけよう!!

びゅうん

 我ながら凄い俊足になっている。20代の頃の私でもここまで速く走れなかった。あっという間に女性とそれを取り囲む男達に出くわした。どうやら男性達が女性を襲っているようだ。

「可愛い姉ちゃんだな、これなら高く売れそうだぜ!!」

「その前に俺達で味見しちまおうぜ!!」

「そうだな、いっそのこと孕ませちまおうぜ!!」

「い、いやあああ!!」

「うっせえぞ!! 静かにしねえとぶんなぐっぞ!!」

 男達の一人が拳を振り上げ女性の顔を殴ろうとしようとしていた。

ばきぃん

「ばぁっ!!」

 気がついたら私は男を一人思い切り殴り飛ばしていた。男は2mぐらいは吹っ飛んでしまっていた。他の男達の時間が止まった。今がチャンスだ!!

「お嬢さん!! つかまって下さい!!」

 私は彼女をお姫様抱っこし、すぐにその場を全速力で逃げ出した。後ろで男達が何か言って追いかけてきたが、私の俊足ですぐに姿が見えない程距離が開いた。もう大丈夫と思い、お嬢さんを近場の大木におろした。

「お怪我はありませんか、お嬢さん?」

 といって改めて女性の顔を見て驚いた。若い頃の私の妻にそっくりの容姿をしていたのだ。

「大丈夫です。助けて下さりありがとうございます。自己紹介がまだでしたね。私はアキーナです。あなたのお名前は?」

「あぁ、わ、私はあんべきんぞうです。とりあえずあんべと呼んで頂ければ……」

「ではあんべさん、私はどのようにお礼をすればよろしいでしょうか?」

「……ではアキーナさん、この辺に宿はありませんでしょうか? 私、この辺には来たばかりで土地勘もないものですから……」

「それでしたら、私の村まで来て頂ければ! といっても、ここからだと随分遠いですね……」

 そうか、無我夢中で走ってしまったために彼女を村から遠い場所まで連れ去ってしまったか。

「申し訳ない……私が村まで送ります。ところで方角的にはどちらですかね?」

「すみません、私も知らない土地で方角まで見失ったものですから」

 ふむ、なんとかならないものか……ようし、ものは試しだ!!

「ちょっと待って下さいね」

 私は思いきりジャンプしてみた。

びゅぅん

 瞬時に空高くまで来てしまった。私はそこまで高いところは得意でないので、高すぎて心臓がドキドキとする。辺りを俯瞰すると村らしき集落があった。そして重力に従い私は落下していった。

すたん

 両脚にかなりの衝撃がきたが、私の身体はびくともしない感じがあった。力だけでなく、純粋に頑丈な身体になっているのだ。

「すごいですねあんべさん!! 今かなり空高くまで飛びましたよ!! もしや名のある戦士ではないのですか?」

「いえ、私はしがない政治家でございます」

「セージカ?」

「まあ、村長のようなものです。ところであっちの方に村らしき集落がありましたが、そちらが貴方の村ですかね?」

「えぇ、この辺は大分田舎ですので、村らしい村は私の住む村ぐらいです」

「よし、では、私の背中によくつかまって下さい」

 アキーナを背負い、私は素早く駆けだした。途中長い坂道や立ちはだかる岩場もあったが、すいすいと進んでいき、やがて村が見え始めてきた。しかし、なにやら様子が変だ。

「あれ、黒い煙が複数の箇所でたってる? どういうことだろう?」

 私は遠くを見たいと思い目をこらした。総理時代は老眼だったが、この肉体で大分遠くの景色も鮮明に見える。

「家が、家が燃えている!!」

「えっ!?」

「急ぎますよ!!」

 私は全速力で村へと向かった。
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