カオスシンガース

あさきりゆうた

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合唱団ではデートも練習になります

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「どうしてこうなった」

 今日は大学もサークルもない休日である。本来なら狭い自宅でゴロゴロしたり、Mazonでネットショッピングしたり、気が向いたら大学のレポートを書いたりと、そんな予定だった。
 今日はサークルメンバーとデートをしなければならないのだ!! なぜかというと、先日のサークルで自分に恋愛経験をつけさせるために或斗が提案したからだ。もちろん、自分は全力で拒否した!! しかし、面白そうという理由でメンバーの大半が賛成してしまったのだ!! なお、唯一の良心である馬上は女性陣を敵にまわすことを恐れ、すまんといって賛成側に回ってしまった……。

「はぁい、セーム君♪」

「うす」

「暗い顔しない! デートでしょ!」

「いや、別にしたいとは」

ガキッ

 或斗がなにやら全身に対する関節技をかけてきた。コブラツイストという名前だったかな? いや、名前はどうでも良いのだ、とにかくいてえ!!

ゴッキン グッキン

「ぎゃぎゃ――――――っ!!」

「皆、君のために貴重な休日を使っていることをお忘れ無いように♪」

「も、申し訳ありませんでした……」

「よろしい」

すっ

 ようやく或斗のコブラツイストから解放された。貴重な休日云云といった時点で、お前らが楽しそうだから今日のデート企画したんじゃとツッコミを入れたかったが、それは自殺行為であるのでやめた。




 さて、最初のデートスポットは眼鏡屋さんである。自分がメガネをかけているし、新しいメガネもそのうち必要になるだろうということで指定された。
 店内に入ると良い香りが鼻に入り込んでくる。

「あら、ここコーヒー豆も売っているのね」

「へぇ~~」

 コーヒー豆屋と眼鏡屋がセットである。珍しい組み合わせである。AKTではこれが普通のことなのか。

「まずはメガネを見ましょうよ」

 そう言って或斗からメガネさんのコーナーに入っていった。自分もメガネを見るが、いかんせんどれが良いのか、よく分からない。

「セーム君の眼鏡これいいんじゃない~?」

 その眼鏡を見ると、薔薇をモチーフにしているようで、眼鏡ケースにはバラのデザイン、眼鏡のアームの部分がいばらだ。自分とは正反対の美男子・美女子がつければオシャンティーではあろう。
 
「これを着けさせる気か? 自分にはいっちゃん合わんやつじゃないのか?」

「そうね♪ 面白そうだからすすめちゃった、てへぺろ♪」

 不覚にも或斗の「てへぺろ♪」を可愛いと思ってしまった。

「どうかしたのセーム君?」

「い、いや何でもない」

「或斗ちゃん可愛くて惚れたとか思ったんでしょ?」

「誰が思うか! 誰が!」

「も~う、今日はデートなのよ、デートらしく男として振る舞いなさいよ」

「んなこと言ったってどうすりゃあいいか……」

「そうねぇ~とりあえずこれかけて」

 或斗が自分に薔薇をモチーフにしたメガネをかけさせた。

「はい鏡見て」

 鏡を見ると、自分の印象がかなり変わった。自分のかけているメガネだと、いかにもインドア派な感じだったが、このメガネをかけた自分は、今時の若者風に見えないこともない。

「案外いいでしょ?」

「そうかな?」

「セーム君、もうちょっと気の利いた台詞返してよ。オシャンティーなメガネ選んでくれてありがとうとか言ってくれると嬉しいのにな~」

 或斗の言う通り、こういう場面で礼を言うのは当たり前かなと思った。

「ありがとう。でも、今のメガネと同じ方向性のやつも欲しいんだよな。その薔薇のメガネはサークルとかなら良いけど、大学の授業や実験だとふざけとんのかって言われかねないし」

「じゃあこんなのはどうかな?」

 或斗がメガネコーナーから適当なのを一つ持ってきた。緑と白でカラーリングされており、メガネのアームに星のマークが描かれている。派手すぎもせず、地味すぎもせず、悪くはない。値段もさっきの薔薇のメガネよりかは遙かに安い。
 早速メガネをかけてみた。自分に似合っていてしっくりとくるものだった。よし、さっきのアドバイズ通りお礼を言おう。

「似合ってるわね♪ モブキャラ君って感じがすんごいする♪」

「……お前にありがとうと言うのが、とても勿体無い事だと分かったよ」

 というわけで眼鏡選びは終了した。ここでこの店を出てもいいのだが、珈琲のお店も気になったので入ってみる。自分の親が部類のコーヒー好きなのもあって、コーヒーやそれ関連のグッズには大変興味がある。

「おっ、ここはコーヒー豆とそれがらみでコーヒーを淹れるグッズやお菓子が売られているみたいだな」

「もしかしてセーム君、コーヒーは好きなの?」

「それなりにな。自分で豆買ってコーヒーミルで砕いて、いれる程だ」

「へぇ~、意外ね~。今度コーヒーいれてもらおうかしら?」

 会話をしているとお店の女性店員さんがやってきた。

「いらっしゃいませ、良ければ試飲いかがですか? お菓子もつきますよ」

「あら、試飲良いわね。セーム君任せでいこうかしら?」

「試飲したら買えという空気が流れるし、一番安いやつにするか」

「けちくさいこと言わないの! 男なら一番高いブルーマウンテンでいきなさい!」

「お店でこういうのもあれだが、ブルーマウンテンはおすすめしないぞ。高いのは希少価値があるからで、味は飲みやすいというだけだ。個人的にはブレンド珈琲をおすすめする。お店の個性が出るからお店の味が楽しめるんだ」

「そうなんですよ。お客様のおっしゃるとおりです。私からもブルーマウンテンよりかは、当店のブレンドを試飲していただきたいと思っております」

 店員さんも自分の意見に賛同してくれたようだ。

「流石接客のプロね、セーム君のうざく感じるほどのコーヒー通に上手く合わせてくれているわ」

「悪かったな。自分でもうざいかなとは思ったが、コーヒーぐらいはお前よりも優位の立場に立ちたかったんだよ」

「ふふふ、やっぱりあなたはプライドマンね。あと、今の日本語が怪しいわね。危険が危ないってやつ?」

「あの~お客様」

 女性店員さんが話しに入ってきた。

「不快な思いをさせてしまったようで申し訳ないです。私もコーヒーショップで働くほどコーヒーは好きなので、お客様のようなコーヒー好きな方に会うと、本心からコーヒーの心を語りたくなってしまうのですよ」

「あ、いえいえ、自分はそんなに気にしちゃあいないんで」

「まあまあ店員さん、それよりも試飲させてくださいな」

「了解しました。それではあちらのお席でお待ち下さい」

 店員さんの指示で、自分と或斗はテーブルに座った。さて、テーブルに座ってから或斗相手に何を話せば良いか話題が思い浮かばない。サークルに入ってから、幾分か自分の意見を主張できる人間になったが、やはりコミュ障ぎみなところがあるなと思う。

「どんな話題をすればいいのかな~? って顔しているわね♪」

 或斗がずばり自分の本心を当ててきた。こういう奴とのコミュニケーションが本当にやりづらいと感じた。

「困っているなら話題提供してあげるわよ。セーム君、コーヒー豆って色々あるけれど、違いってどういうところであるの?」

「う~ん、どのコーヒー豆がそういう味かまでは分からんが、確実に言えるのはコーヒーは煎り具合で性格が変わるんだ。コーヒーらしい苦みとコクのあるタイプは深煎りのやつでいわゆるエスプレッソタイプだ。ホットでもいいが、アイスコーヒーで良く使われるタイプだ。タダし、コーヒー豆の個性が出づらいという弱点もある。逆にコーヒーの香りや味といった個性がよく出るのは中深煎りだ。今から試飲するお店のブレンドコーヒーもおそらくその手のタイプだと思う。ただ、煎らない分、酸味があるから、酸味が嫌いな人はかえって深煎りの方がいいかもしれないな」

「……」

 或斗が唐突に無言になった。自分は今変なことを言ったか。

「あれね、普段無口だけど、好きなことになると饒舌になるタイプだと思っていたわ」

 言われてみれば、自分にしてはかなり喋ったような気がする。

「お待たせしました~」

 コーヒーがやってきた。芳ばしく、かつフルーティーな良い香りも引き連れている。

「なかなかいい香りね♪ あら、ティーカップも可愛いわ♪」

 コーヒーの匂いも良いが、ティーカップも花を意識したデザインで綺麗だ。ティーカップ本体は花びら、取っ手はつたをイメージしたデザインだ。

「こちらもどうぞ」

 店員さんが小さなお菓子も持ってきた。ちょっとしっとりとした見た目のカステラのようだ。早速自分も或斗もコーヒーとお茶菓子を頂いてみた。

「なんか落ち着く味ね。美味しいわ」

「これは炭火焼で作っているタイプだな。ガスで焼いているタイプよりも味や香りがちがうな。値段は少し高くなるけど納得のクオリティだ」

「じゃあセーム君が買って皆にふるまってよ」

「ちゃっかりしているな。まあいいか。店員さん、これ200gおねがいします」

「ありがとうございます。豆は挽きますか?」

「豆のままでOKです」

「あら? 挽いた方がすぐにいれられるんじゃない?」

「挽いちゃうと香りが飛んじゃうから、すぐにコーヒーにしないと味もそっけもなくなっちゃうんだよ。だから面倒でも豆のまま買っているんだ」

「なるほど、そういうことね」

 コーヒーとお茶菓子を頂いたので、ごちそうさまと一言言ってテーブル席を立った。先程注文したコーヒー豆の包装が終わるまで時間が少しかかるので、お店を回った。

「そういえば紙なくなっていたな」

 自分はドリップ式で用いる紙のコーナーにきた。

「たかだか紙だけど安物から高いものまであるわね。何か違うところあるの?」

「紙の目の細かさだな。紙の目が粗いタイプだと値段は安いけど、コーヒー豆の微粒粉も紙の目を通り抜ける。だから飲む時に口当たりがよろしくないんだ。逆に紙の目が細かいと微粒粉を通さない分、口当たりの良いコーヒーになるんだ。ただ、目が細かいと、コーヒーいれるときに時間がかかるし、値段が高いし、自分は安い方を使うかな。お店ほどではないがこれでも十分美味しいのはできる」

 説明に夢中になっていたらいつの間にか或斗は別のコーナーを見ていた。

「あんにゃろ……」

「セームくんこれ買って~♪」

 先程コーヒーを試飲していた時に扱われたティーカップと同じデザインだ。値段高いだろうなと思って値札を見てみる。

「値段はと……高い。素人目に見てもいいティーカップなのはわかるよ。だがな、5000円は出しづらい」

「じゃあお金は半分出すわよ。デートなんだし、可愛い彼女のために彼氏として何か買って欲しいわ~♪」

 説明を聞いてくれなかった腹いせに悪いジョークを飛ばしたくなった。

「お金を半分出すなら、もちろん珈琲を飲むときも自分と一緒に半分ずつ飲むんだな」

「へぇ、私と間接キスしたいの? なんなら今この場でキスする?」
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