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頭のでかさは歌手の武器!?
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「じゃあ皆、ヤッホーの楽譜開いてね。さて、楽譜の最初のページにagilmente(アジルメンテ)と書かれてますがどういう意味か分かる人」
「う~ん、英語は結構勉強したつもりなんだけどな~、聞いたことないよ~」
聖がうなるが、あんなんでも一応医学部だし、英語もそれなりに分かるはず。となると、英語ではないかも。なんとなく直感的に思ったことを言ってみた。
「もしかして、イタリア語か」
「そう、これはイタリア語で『軽快に、活発に』にって意味があるわ。それにしても、セームくんよくわかったわね」
「あれだ、某芸人のBGMでイタリア語の曲が使われてたから、なんとなく単語の響きでそれっぽいかなって思った」
「最近あの人の名前聞かないけど、今はソロキャンプ活動で注目されているみたいだよ~」
聖がよりマニアックな情報を提供した。
「あの曲も良いし、リクエストあればサークルでイタリア語の歌もやってみようかしらね。さてと、agilmenteはみんなも納得いくわね。この歌の元になっているアニメーションは、小人さん達が楽しげにダイヤモンドをとったり、楽しく歌って家に帰っている。だからこの単語がしっくりくるわ。じゃ、私が指揮をするからみんなはそれに合わせて歌ってね」
人前で歌うための曲の練習がついに始まった。あらかじめCDで音取りもして、準備体操や発声練習もしたので、自分も含めてみんなある程度歌えている。メンバーの大半が合唱経験はないのだが、割と周りが上手く歌えているので、自分は大丈夫かなと不安になる。この曲は女声と男声に分かれて歌うもので、混声二部合唱というものらしい。曲の初めは鉱山からざっくざっくと鉱石をとるシーンのところで、リズミカルに歌う感じがある。或斗がきりのよいところで一旦止めた。
「うん、皆ある程度歌えているわね。馬上くんは声が重い感じがあるから軽い感じを出したほうがいいわね。セームくんはもう少し声にボリューム出してね。女性陣は二人共ある程度歌えているから、互いに声を合わせる意識を持ってね」
う~ん、言っている事は分かるんだが具体的にどうすればいいのかが分からないと馬上や左京達は思っているんじゃないだろうか?
「……言いたいことは分かる……だが、声を軽くするって具体的に……どうすればいいんだろうか?」
「あたしも互いに声を合わせるってのいうのがどうもピンと来ないんだよな」
「う~ん、歌の練習のあるあるだけどね、どうしても感覚的な教え方になって、個人が練習してなんとなくこうかなって掴むパターンが多いのよね。まず声の軽い、重いだけど、私的には口より上に声を響かせる意識を持つと声が軽くなるイメージがあるわ。馬上くんの場合だと口より下に響かせてる感じがあるわね」
「……そうか、善処する」
或斗の言っていることは結構「そうなんだよ!」と思えるところがあった。学校の音楽の授業でも音に波をつけるとか、お腹で声を出せとか言われた経験はあるが、具体的にこの体がどんな動きをすればいいんだよと思うところはあった。
「ちなみに女性陣の場合だと、手っ取り早い方法として、誰かを声の軸にして合わせるっていうのが簡単ね。今回の歌は元気よくがポイントだから、私は恋奈ちゃんに合わせるのがいいかなって思う。恋奈ちゃんの声って結構パワーがあるのよね」
「じゃあ私が恋奈ちゃんに合わせるね」
女子の課題はこれで解決したようだ。
「でも声を合わせるって難しい感じがあるな~」
「そう、それが合唱の一番難しいところ。当たり前のことだけど、みんなの声は違う。みんな違う楽器なのよ。例えばオカリナ、ギター、ピアノで音を合わせて曲を演奏しろと言われてもちぐはぐになるのが容易に想像できる」
一同、この話を真面目に聞いてる。多分、自分自身が楽器ならどんな楽器なんだろうか? と想像している事だろう。
「そういう理由もあってか、一人で歌う方が簡単だと思う人もいるわね」
一人で歌う方が簡単っていうのが個人的にしっくりこなかった。
「でもさ、一人で歌うのってよほど歌唱力に自信ないと駄目だよな」
「そう、セーム君にはよほど自信のある歌唱力をつけてもらいたいのよ♪ 歌唱力さえつけばソロは簡単よ♪」
「さりげなく自分のハードルをあげんでくれよ。つうか簡単とか言う前に歌唱力をつけるのが難しい事だろ」
「気になった事がある……一人で歌う方が簡単……それならば合唱という形を否定する事になるのではないか?」
馬上、それ鋭い指摘だ。さあどう返す或斗。
「そう、難易度の面だけで言うなら、合唱は否定すべき存在とも言える。でもね、合唱には合唱の良さがある。上手い合唱を歌うのは難しいけど、本当にレベルの高い合唱を聴くと、複数の楽器が一つの音を出しているように聴こえる。極めた芸術って誰しもが思うはずよ。それ聴くと自分もこの領域に達したいって思うようになる。そこに達するまでかなりキツいけど、難しいものほど、困難な事ほど挑戦したくなるのが人間ってもんでしょ?」
左京がその話にうんうんと頷く。そういえば以前こいつは建設業はキツいけどそれがいんだと語っていたな。
「それに合唱って、誰かがへましても誰かがサポートできる優しい面もある。一人の力が足りなくても皆なら大きい力となる」
「つまり友情! 努力! 勝利! だね!」
「うん、アデルちゃんの言葉がぴったりね♪」
多分あいつは某週刊誌の古いテーマを言ったんだろうな。
「じゃ、私が今言った事を意識してもう一回初めから歌うわよ!」
練習は再開した。或斗のアドバイスのおかげで、曲の回数を重ねるごとに良い響きが室内に響き渡る。或斗も大体これでOKと言い、メインのメロディの練習に入る事を決めた。小人達がヤッホー! と歌いながら帰宅するシーンのところである。
さて、ここからが自分のソロパートを歌うところとなる。さっき歌っていたときよりも緊張する。自分の心臓がばくばくといっている。
「最初はセームくんのヤッホー! に合わせて他の人達がヤッホー! って返す場面ね。じゃあセームくんゴー!」
体ががちがちになっている感じがある。多分このまま声を出すと全く響かないものとなるだろう。しかし、或斗が「ゴー!」といってから数秒間も沈黙を作ってしまった。そろそろ歌わねばならない。
「ヤッホ――――――……」
あっ、おもいっきし失敗した。例えるなら、走り幅跳びの時に、助走中途半端でジャンプし、半端な距離飛んだような感覚だ。
「セーム君、緊張せずに落ち着きなさい。あなたの力ならこの部屋に響かせられるはずよ、もう一回!」
落ち着けと言われて落ち着けるほど自分は器用ではない。とりあえず、響かせる事を意識する。
「ヤ゛ッ゛ホ――――――ッ゛!!!」
今度は声は響けど汚い声が出てしまった。ただ叫んでいるだけだった。
「もうちょい力を抜きなさい。良い響きはほどよく力を入れて出るものよ」
この後も何度か「ヤッホー!」と歌うも、全く駄目であった。一応自分なりには練習してきたのだ。数日前に或斗から、音楽練習室の使用許可証をもらい、何回か練習したのだ。或斗に出会った初日に連れ込まれたあの狭い個室での練習だったので、聴く人はいなかったが、練習中は自分なりに良いソロを歌えてはいたのだ。
ついに或斗がしびれを切らし、ソロパート以降を歌うことにした。
ここらへんも準備体操や音取り、先程のお話の効果もあって、みんなある程度歌えている。つまりこの曲に感じは自分のソロ以外は問題ないのだ。つまりこの曲は自分のソロが一番のポイントになっているのだ。とてもふがいない気持ちである。
歌の練習も通しで何回か行い、一度休憩に入った。
「精神的な問題ね、まずは自信をつけさせるところからかな」
或斗が自分を見て喋る。或斗が自分の頭のあたりを見て、何かに気づいたような反応を見せる。
「セームくん、頭でかいわね」
「おい、まともに歌えなくてナーバスになっているのに、人が密かに気にしているところを指摘するなよ……」
「いいえ、歌い手にとって頭がでかいのは良いことよ。誰か定規持ってないかな?」
「差金なら持ってるぞ」
左京がかばんから直角の形をした定規を取り出した。
「おっ、これ測りやすい形しているわね、ありがとう。あっ、セームくん、頭動かさないでね」
そういって、自分の即頭部に差金が押し付けられる。これは自分の頭の長さを測っているのか? まさか、歌の練習で自分の頭のでかさが数字にされるとは思わんかった。他のメンバーの頭にも差金が当てられた。
「セームくんが断トツに頭が大きいわね」
「もう、なんの嫌がらせだよこれ……」
「嫌がらせじゃないわよ。頭の横の長さがあるほど、声が響きやすいのよ。つまり、セームくんは声を響かせられる素質はあるってことよ。ソロとして自信を持ちなさいな」
「そ、そうなのか」
自分の頭が大きいことなんて短所にしか思っていなかったが、こう言われると恥ずかしくも誇らしい気持ちにちょっとなれた。
「そうだ、声を響かせるイメージも教えましょうか。みんなも聞いてね。まず声を遠くへ飛ばすイメージを持つこと。この部屋の壁を突き抜けて、空の彼方へ声を飛ばす気で歌うの。音をつけずにただヤッホー! ってみんなで言ってみましょう!」
或斗はそう言って、小人がヤッホー! と言うときのように右手を構えた。自分や他のメンバーも続く。
「ヤッホ――――――!!!!!!」
しばらくみんなでそう言った。自分もとにかく声が出ない状態を脱したくて必死で叫んで声が枯れてしまった。こんな調子で本番大丈夫だろうか? とても不安である。
「今日はここまでにしとくわ。頑張るのは大事だけど、歌においてガンバリズムは程々にしておいたほうがいいわ」
「おいおい、セームやアデルあたりは根性つけさせるために頑張らせろよ」
「えぇ~、私はセームくんよりはましだよ~」
左京よ、これ以上は無理だ。あと今、聖も酷いこと言ってなかったか。マジであいつの言葉には毎度毎度毒が含まれているな。
「ガンバリズムはやりすぎると喉を壊してしまうわよ。実際有名な歌手で喉をやってしまった人は多いわよ。まっ、根性を少しつけた方がいいのには賛同するけどね」
もう精神的にフルボッコだ。次の練習は一体どうなることか……。
「次の練習だけど、セームくんを鍛えるために、みんなでカラオケに行きましょう♪」
「う~ん、英語は結構勉強したつもりなんだけどな~、聞いたことないよ~」
聖がうなるが、あんなんでも一応医学部だし、英語もそれなりに分かるはず。となると、英語ではないかも。なんとなく直感的に思ったことを言ってみた。
「もしかして、イタリア語か」
「そう、これはイタリア語で『軽快に、活発に』にって意味があるわ。それにしても、セームくんよくわかったわね」
「あれだ、某芸人のBGMでイタリア語の曲が使われてたから、なんとなく単語の響きでそれっぽいかなって思った」
「最近あの人の名前聞かないけど、今はソロキャンプ活動で注目されているみたいだよ~」
聖がよりマニアックな情報を提供した。
「あの曲も良いし、リクエストあればサークルでイタリア語の歌もやってみようかしらね。さてと、agilmenteはみんなも納得いくわね。この歌の元になっているアニメーションは、小人さん達が楽しげにダイヤモンドをとったり、楽しく歌って家に帰っている。だからこの単語がしっくりくるわ。じゃ、私が指揮をするからみんなはそれに合わせて歌ってね」
人前で歌うための曲の練習がついに始まった。あらかじめCDで音取りもして、準備体操や発声練習もしたので、自分も含めてみんなある程度歌えている。メンバーの大半が合唱経験はないのだが、割と周りが上手く歌えているので、自分は大丈夫かなと不安になる。この曲は女声と男声に分かれて歌うもので、混声二部合唱というものらしい。曲の初めは鉱山からざっくざっくと鉱石をとるシーンのところで、リズミカルに歌う感じがある。或斗がきりのよいところで一旦止めた。
「うん、皆ある程度歌えているわね。馬上くんは声が重い感じがあるから軽い感じを出したほうがいいわね。セームくんはもう少し声にボリューム出してね。女性陣は二人共ある程度歌えているから、互いに声を合わせる意識を持ってね」
う~ん、言っている事は分かるんだが具体的にどうすればいいのかが分からないと馬上や左京達は思っているんじゃないだろうか?
「……言いたいことは分かる……だが、声を軽くするって具体的に……どうすればいいんだろうか?」
「あたしも互いに声を合わせるってのいうのがどうもピンと来ないんだよな」
「う~ん、歌の練習のあるあるだけどね、どうしても感覚的な教え方になって、個人が練習してなんとなくこうかなって掴むパターンが多いのよね。まず声の軽い、重いだけど、私的には口より上に声を響かせる意識を持つと声が軽くなるイメージがあるわ。馬上くんの場合だと口より下に響かせてる感じがあるわね」
「……そうか、善処する」
或斗の言っていることは結構「そうなんだよ!」と思えるところがあった。学校の音楽の授業でも音に波をつけるとか、お腹で声を出せとか言われた経験はあるが、具体的にこの体がどんな動きをすればいいんだよと思うところはあった。
「ちなみに女性陣の場合だと、手っ取り早い方法として、誰かを声の軸にして合わせるっていうのが簡単ね。今回の歌は元気よくがポイントだから、私は恋奈ちゃんに合わせるのがいいかなって思う。恋奈ちゃんの声って結構パワーがあるのよね」
「じゃあ私が恋奈ちゃんに合わせるね」
女子の課題はこれで解決したようだ。
「でも声を合わせるって難しい感じがあるな~」
「そう、それが合唱の一番難しいところ。当たり前のことだけど、みんなの声は違う。みんな違う楽器なのよ。例えばオカリナ、ギター、ピアノで音を合わせて曲を演奏しろと言われてもちぐはぐになるのが容易に想像できる」
一同、この話を真面目に聞いてる。多分、自分自身が楽器ならどんな楽器なんだろうか? と想像している事だろう。
「そういう理由もあってか、一人で歌う方が簡単だと思う人もいるわね」
一人で歌う方が簡単っていうのが個人的にしっくりこなかった。
「でもさ、一人で歌うのってよほど歌唱力に自信ないと駄目だよな」
「そう、セーム君にはよほど自信のある歌唱力をつけてもらいたいのよ♪ 歌唱力さえつけばソロは簡単よ♪」
「さりげなく自分のハードルをあげんでくれよ。つうか簡単とか言う前に歌唱力をつけるのが難しい事だろ」
「気になった事がある……一人で歌う方が簡単……それならば合唱という形を否定する事になるのではないか?」
馬上、それ鋭い指摘だ。さあどう返す或斗。
「そう、難易度の面だけで言うなら、合唱は否定すべき存在とも言える。でもね、合唱には合唱の良さがある。上手い合唱を歌うのは難しいけど、本当にレベルの高い合唱を聴くと、複数の楽器が一つの音を出しているように聴こえる。極めた芸術って誰しもが思うはずよ。それ聴くと自分もこの領域に達したいって思うようになる。そこに達するまでかなりキツいけど、難しいものほど、困難な事ほど挑戦したくなるのが人間ってもんでしょ?」
左京がその話にうんうんと頷く。そういえば以前こいつは建設業はキツいけどそれがいんだと語っていたな。
「それに合唱って、誰かがへましても誰かがサポートできる優しい面もある。一人の力が足りなくても皆なら大きい力となる」
「つまり友情! 努力! 勝利! だね!」
「うん、アデルちゃんの言葉がぴったりね♪」
多分あいつは某週刊誌の古いテーマを言ったんだろうな。
「じゃ、私が今言った事を意識してもう一回初めから歌うわよ!」
練習は再開した。或斗のアドバイスのおかげで、曲の回数を重ねるごとに良い響きが室内に響き渡る。或斗も大体これでOKと言い、メインのメロディの練習に入る事を決めた。小人達がヤッホー! と歌いながら帰宅するシーンのところである。
さて、ここからが自分のソロパートを歌うところとなる。さっき歌っていたときよりも緊張する。自分の心臓がばくばくといっている。
「最初はセームくんのヤッホー! に合わせて他の人達がヤッホー! って返す場面ね。じゃあセームくんゴー!」
体ががちがちになっている感じがある。多分このまま声を出すと全く響かないものとなるだろう。しかし、或斗が「ゴー!」といってから数秒間も沈黙を作ってしまった。そろそろ歌わねばならない。
「ヤッホ――――――……」
あっ、おもいっきし失敗した。例えるなら、走り幅跳びの時に、助走中途半端でジャンプし、半端な距離飛んだような感覚だ。
「セーム君、緊張せずに落ち着きなさい。あなたの力ならこの部屋に響かせられるはずよ、もう一回!」
落ち着けと言われて落ち着けるほど自分は器用ではない。とりあえず、響かせる事を意識する。
「ヤ゛ッ゛ホ――――――ッ゛!!!」
今度は声は響けど汚い声が出てしまった。ただ叫んでいるだけだった。
「もうちょい力を抜きなさい。良い響きはほどよく力を入れて出るものよ」
この後も何度か「ヤッホー!」と歌うも、全く駄目であった。一応自分なりには練習してきたのだ。数日前に或斗から、音楽練習室の使用許可証をもらい、何回か練習したのだ。或斗に出会った初日に連れ込まれたあの狭い個室での練習だったので、聴く人はいなかったが、練習中は自分なりに良いソロを歌えてはいたのだ。
ついに或斗がしびれを切らし、ソロパート以降を歌うことにした。
ここらへんも準備体操や音取り、先程のお話の効果もあって、みんなある程度歌えている。つまりこの曲に感じは自分のソロ以外は問題ないのだ。つまりこの曲は自分のソロが一番のポイントになっているのだ。とてもふがいない気持ちである。
歌の練習も通しで何回か行い、一度休憩に入った。
「精神的な問題ね、まずは自信をつけさせるところからかな」
或斗が自分を見て喋る。或斗が自分の頭のあたりを見て、何かに気づいたような反応を見せる。
「セームくん、頭でかいわね」
「おい、まともに歌えなくてナーバスになっているのに、人が密かに気にしているところを指摘するなよ……」
「いいえ、歌い手にとって頭がでかいのは良いことよ。誰か定規持ってないかな?」
「差金なら持ってるぞ」
左京がかばんから直角の形をした定規を取り出した。
「おっ、これ測りやすい形しているわね、ありがとう。あっ、セームくん、頭動かさないでね」
そういって、自分の即頭部に差金が押し付けられる。これは自分の頭の長さを測っているのか? まさか、歌の練習で自分の頭のでかさが数字にされるとは思わんかった。他のメンバーの頭にも差金が当てられた。
「セームくんが断トツに頭が大きいわね」
「もう、なんの嫌がらせだよこれ……」
「嫌がらせじゃないわよ。頭の横の長さがあるほど、声が響きやすいのよ。つまり、セームくんは声を響かせられる素質はあるってことよ。ソロとして自信を持ちなさいな」
「そ、そうなのか」
自分の頭が大きいことなんて短所にしか思っていなかったが、こう言われると恥ずかしくも誇らしい気持ちにちょっとなれた。
「そうだ、声を響かせるイメージも教えましょうか。みんなも聞いてね。まず声を遠くへ飛ばすイメージを持つこと。この部屋の壁を突き抜けて、空の彼方へ声を飛ばす気で歌うの。音をつけずにただヤッホー! ってみんなで言ってみましょう!」
或斗はそう言って、小人がヤッホー! と言うときのように右手を構えた。自分や他のメンバーも続く。
「ヤッホ――――――!!!!!!」
しばらくみんなでそう言った。自分もとにかく声が出ない状態を脱したくて必死で叫んで声が枯れてしまった。こんな調子で本番大丈夫だろうか? とても不安である。
「今日はここまでにしとくわ。頑張るのは大事だけど、歌においてガンバリズムは程々にしておいたほうがいいわ」
「おいおい、セームやアデルあたりは根性つけさせるために頑張らせろよ」
「えぇ~、私はセームくんよりはましだよ~」
左京よ、これ以上は無理だ。あと今、聖も酷いこと言ってなかったか。マジであいつの言葉には毎度毎度毒が含まれているな。
「ガンバリズムはやりすぎると喉を壊してしまうわよ。実際有名な歌手で喉をやってしまった人は多いわよ。まっ、根性を少しつけた方がいいのには賛同するけどね」
もう精神的にフルボッコだ。次の練習は一体どうなることか……。
「次の練習だけど、セームくんを鍛えるために、みんなでカラオケに行きましょう♪」
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