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結成カオスシンガース!!
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夕方、大学近辺にあるコミュニティセンターに自分を含め5人の学生が集まった。どうやらこのコミュニティセンターは事前に予約すれば、無料で使えるらしい。市内の合唱団の練習場所にもよく使われているようで、今後はここで練習をする可能性が高くなりそうだ。会議室のスペースを借りて、各自適当に席に着いた。或斗が挨拶を始める。
「みんな集まったわね。さて、全員が全員を知らないと思うから自己紹介をし合いましょう。では各自、名前と学部・学科、その他色々オプションつけてね♪」
「よし! トップはあたしからだ!」
左京が大きな声を出して立ち上がった。まあ、このメンツの中でトップバッターが合いそうなキャラではあるな。
「名前は左京恋奈! 工学部土木科一年生! 地元の不良達の間では、黄金の左の異名で恐れられている!! よろしく!!」
うん、完全にヤンキーですな。この自己紹介を皆はどう思うのか?
「なるほど、武闘派ね。じゃあうちに変な人が来ても恋奈ちゃんが守ってくれるのね、頼りにしてるわよ」
「おう! 任せとけ!」
こう見ていると或斗は人との付き合い方とか、人を操るのだとかが上手いと思う。自分やヤンキー娘といった毛色の異なる人をどんどんサークルのメンバーにしてしまう。こういうところは見ていてうらやましいなと感じる。
「あと、あたしはそこまで歌は上手いとはおもわねえが、優劣の付く事に関しては誰にも負けたくねえ!」
カツアゲメンバー達を血祭りにあげたエピソードからも分かるように、彼女は負けん気の強いタイプだ。漫画やアニメだったら主人公やっていそうな性格である。
「いい心がまえね。でも、私はかなり上手いわよ。私以上に上手く歌えるかしら?」
「今は無理でも、いつの日かあんた以上に上手い歌を歌ってやろうじゃねえか!」
自分だったら或斗に対してあんな発言は絶対出来んな。
「ふふふふ♪♪」
「はっはっは!!」
なにやら二人の間で謎の張り合いが始まった。
「あ~~~~~~♪♪」
「ア――――――ッ!!」
両者笑っていたと思ったら、今度は発声を始めた。或斗は美しく声を出し、左京は力強く声を出している。自分には二人がこんなやり取りをする意味が分からん。ついていけん。ってか、或斗も或斗で対抗すんなよ! 誰でもいいから、場の流れを変えてくれよ。
すっ
馬上が無言で手を上げた。
「……とりあえず手をあげてみた」
「あら、ごめんなさいね♪ それじゃあ馬上君自己紹介お願いね♪」
馬上。奴は何を考えているか分からないが、場の流れを変えたいと思って挙手したのかもしれない。
「馬上誠実……医学部一年生……歌の経験はほとんどないが頑張る……」
馬上はやはり前に会った時と変わらぬ調子で挨拶をした。さて、彼の挨拶を聞いて、聖の顔つきが変わった。
「ふわぁ! 馬上くんの無口クールキャラいい! 私のペットにしたい!」
「……餌と散歩をやってくれるなら……」
「わぁい♪ お手♪」
「わん」
すっ
真顔で馬上が聖にお手をする。そろそろ誰かがツッコミを入れないと、永遠にこのおかしなやり取りが続きそうだ。
「馬上君は無口、クール、ちょっと天然と……面白いキャラしてるわね♪」
「どうも……」
「アデルちゃんも今の調子で自己紹介よろしくね♪」
或斗は自然と次の人の自己紹介へと会話の方向性を持って行った。
「は~い! 私は聖アデル、医学部1年生で~す♪ ママがイギリス人、パパが日本人のハーフです♪ サークルでは是非ともコスプレとアニソンをお願いします♪」
聖はその手の人間だったか! まあ初めて会った時の会話でなんとなくその手の人間かなとは思ったが。彼女が馬上と同じ医学部ってちょっと違和感を感じるな。
「じゃあセーム君、自己紹介して」
あっ、いつの間にか自分の番になっていたか。
「え、え、えと、ししおかわ」
やばい、緊張して自分の名前噛んでしまった。
「塩川聖夢! 工学部化学科一年!」
確か或斗がオプション付けてとか言ってたよな。えぇと、自分に阿関して特に言えるような事があるのか? 全く思い浮かばねえ!
「ど忘れしちゃ駄目よ、君のあだ名はセーム。そしてその気の小ささに似合わず、歌に対する気持ちは人一倍強い。これでOK?」
「あ、ああ……」
或斗のフォローのおかげで自分の自己紹介を何とか終える事が出来た。普通自己紹介で何とか終える要素も何もないとは思うがな。
「最期は私ね。私の名前は岸或斗! 教育学部音楽科一年生! 既存の合唱のイメージを変えたくて、サークルを立ち上げようと思いました! ちなみに私の性別はお・と・こ♪」
「何ぃ!? あんた野郎だったんか!?」
左京が凄く驚いている。そりゃあ自分も初見でなんとなく男かなと見抜いたが、普通気付かんよな。
「……俺も女だとばかり思っていた……」
馬上もやはり同様の事を思っていたようだ。
「え~? 私すぐにアルちゃんが女装男子って気付いたよ~♪」
意外にも聖は或斗が男である事をすぐに見抜いたようだ。
「アルちゃんが女装している理由聞いてみたいけどいいかな~?」
「いいわよ♪ 私も男である事が嫌いというわけでは無いけどね、歌うなら少し面白い道を選んでみようと思ったの」
「面白い道?」
「自身の性に逆らい男性じゃ無く、女性で歌ってみたいと思った。もちろん難しい事だし、お手本となる歌手も少ない。でも、それが楽しいのよ♪」
「分かるぞ!!」
突然左京がでかい声を出した。
「あたしは実家がゼネコンだからじいちゃんの手伝いで無茶な仕事多いんだ! 最初はキツいと思ったが、それでも何とかするっていうのがたまらなくいいんだよ!」
「私の場合だと、ゲームを精神崩壊するほどの厳しい縛りルールつけてクリアするというドMプレイがとても心地よく感じるんだ~♪」
聖の出した例は先程の二人よりやばい例だな。
「というわけで今日、我らが立ち上げるサークルも、大きくするのは大変だと思う。けど、それを楽しく思ってやってもらいたいの♪」
ここからようやく、サークルの集まりらしい会話となってきた。
「まず、5人いて、かつ顧問の先生が決まれば大学にサークルとして申請ができるわ。その際に代表者、サークル名、顧問を大学の学生課に知らせる必要があるの。まあ、さっさと活動始めたいからもう全部決めたけどね。あとはそれにみんなが納得するかどうかよ」
代表に関しては、すんなりと或斗に決まった。ここまでメインで動いたのは或斗だし、この個性派メンツをまとめて、音楽をよく教えられるのは或斗しかいない。
顧問は或斗の方で動いていたみたいで、了承を得ているようだ。谷川先生といって、機械科の先生らしい。ここでふと疑問が浮かんだので或斗に質問した。
「顧問は音楽を担当する教授や講師あたりにしたほうがいいんじゃないか? 谷川先生ってのは多分音楽のことをあまり知らない人だろう?」
「それでもいいけど、その代わり私たちの音楽を作れない可能性大よ。音楽なんて結局のところ、指導者の好みで決まるから、私達のやりたい音楽に真っ向から反対する可能性もあるわ。だから、音楽は知らなくても、名前だけ借してくれる先生がいればいいの」
「なるほど、ご丁寧な回答どうも」
「どうしたしまして♪」
次にサークル名だが或斗は「カオスシンガース」と決めていたみたいだ。
「カオスって動画サイトで、よくでるワードだよね~なんかめっちゃくっちゃな感じ?」
その感覚が分かるのはお前だけだ聖。
「馬上くんあたり、カオスの意味を説明できるかしら? 」
或斗は学校の授業でよくある先生の無茶ぶりみたいなことをした。
いくら医学部でも答えられるのか馬上?
「……カオスとは……日本語で混沌を意味する……。……いろんなものがいれ混じって、ぐっちゃぐっちゃの状態を……イメージすればいい……。この言葉は……神話から由来しているらしい……」
「正解。よく知ってたわね」
「……受験に使っていた参考書に載っていた」
「さすが馬上君、私の優秀なペットだけあってintelliget♪」
「……ペットに対しintelliget、つまりお利口さんという表現は正しい……しかしその昔、男性が女性に対して賢いと褒めようと思ってその単語を使って……怒らせた例もある……」
「あ~、なるほど~、確かにwiseとかsmarの方が良いかもね~」
あいつら、医学部だからこそのハイレベルな英語トークしてやがる。
「さすが医学部は優秀ね♪ これなら英語の歌も余裕でいけそう♪」
「うん♪ 日本人の英語の歌聞いているとね、アクセントや強弱が微妙にちがくて違和感感じる事多いんだ」
「それは凄いわね! 私も聞く耳には自信はあるけど、そこまで意識していなかったわ! とまあ、ちょっと脱線したけど、サークル名はカオスシンガースでいいかな?」
ここに集まった(自分を除く)個性派軍団はまさにカオスと表現していってよいだろう。これ以上いい名前が浮かばないからOKしよう。
「サークル名はカオスシンガースでいいと思う」
「アルちゃんの決めた名前なら何でもOKだよ♪」
「何となく響きがいいからOKだぜ!」
「……俺もOK」
サークル名はすんなりと決まった。
「よし! これで、サークルとしてようやく音楽活動できるわね。あっそうだ、忘れないうちにこれを渡しておくわね」
或斗はみんなに一冊の本を渡した。どうやら楽譜のようだ。中には曲にしては短く音楽的にも単調なものが多いイメージがある。
「これはソルフェージュと呼ばれるものよ。歌の練習でよく使うわものよ。歌い方パターン集みたいな感じで、これ全部完璧に歌えるようになれれば、大抵の歌は歌えるわね」
「……数学の某参考書みたいだ……」
「あっ、私も同じ事思った♪」
自分はその某参考書とやらは分厚いから買わんかったが、医学部二人は恐らく高校時代愛用していたのだろう。
さて、ソルフェージュを見て一つ気がかりな事があった。
「或斗、自分はあんまし楽譜の読み方分かってないんだよな」
「あたしもだな! 学校の音楽教師の人格崩壊していたから授業ボイコットしてたわ! カッカッカ!!」
「私の学校は音楽の授業まともにやってなかったんだよね、というより進学校にありがちな暗黙の了解、履修問題ってやつだったと思う?」
「……昔の授業の記憶を思い出してみる」
「眺めるだけでもいいわよ。もっと知りたいならネットとかで調べればすぐわかるわ。あと、各自音を出せるものを買っておいたほうがいいわね。キーボードピアノなんかがいいわね。最近だとぐるぐる巻けるタイプもあるし、もしくは昔小学校で使っていた鍵盤ハーモニカやリコーダーなんかでもいいわ」
問題発言がちらほらと出ていた気がするが、ツッコミ不在なためか或斗はどんどん話を進めていった。
「このあたりでお開きにしましょう! あと、次の集まりまでに皆に考えたい貰いたい事がある! サークルでどんな音楽をやりたいか考えてきて! 今後のサークルの方向性が決まるからよく考えてくるように! 以上!」
この言葉で各自解散となった。バイト、レポートの提出、バスに乗り遅れる等ですぐにメンバーのみんなが散った。自分は一人自宅までの夜道を帰っていった。アパートは大学近辺だが、墓場が結構周りにあって怖い。気持ち急ぎ足で自宅へとついた。
「ふぅ~」
自分は一日の終わりを感じ、一息つく。さて、何もすることがないし、或斗がさっき言っていた自分のやりたい音楽を考えてみよう。ヒトカラでよく歌う歌あたりが自分のやりたい音楽のヒントがあるかもしれない。
自分がヒトカラで歌う歌って、アニソンだったり、懐メロだったり、流行のJ-POPだったり、声楽家の歌っている歌と、割かしカオスだな。ある意味うちのサークル名に自分は相応しいかもしれない。
逆に言えば、自分は一体どういう歌が好きだというんだ……? 自分やりたいが音楽を考えるというのは意外にも難しい問題だった。よくよく考えれば、こういった選択肢を人任せにすることが多かった。数日間自分のやりたい音楽の答えを出すのに悩みまくった。
「みんな集まったわね。さて、全員が全員を知らないと思うから自己紹介をし合いましょう。では各自、名前と学部・学科、その他色々オプションつけてね♪」
「よし! トップはあたしからだ!」
左京が大きな声を出して立ち上がった。まあ、このメンツの中でトップバッターが合いそうなキャラではあるな。
「名前は左京恋奈! 工学部土木科一年生! 地元の不良達の間では、黄金の左の異名で恐れられている!! よろしく!!」
うん、完全にヤンキーですな。この自己紹介を皆はどう思うのか?
「なるほど、武闘派ね。じゃあうちに変な人が来ても恋奈ちゃんが守ってくれるのね、頼りにしてるわよ」
「おう! 任せとけ!」
こう見ていると或斗は人との付き合い方とか、人を操るのだとかが上手いと思う。自分やヤンキー娘といった毛色の異なる人をどんどんサークルのメンバーにしてしまう。こういうところは見ていてうらやましいなと感じる。
「あと、あたしはそこまで歌は上手いとはおもわねえが、優劣の付く事に関しては誰にも負けたくねえ!」
カツアゲメンバー達を血祭りにあげたエピソードからも分かるように、彼女は負けん気の強いタイプだ。漫画やアニメだったら主人公やっていそうな性格である。
「いい心がまえね。でも、私はかなり上手いわよ。私以上に上手く歌えるかしら?」
「今は無理でも、いつの日かあんた以上に上手い歌を歌ってやろうじゃねえか!」
自分だったら或斗に対してあんな発言は絶対出来んな。
「ふふふふ♪♪」
「はっはっは!!」
なにやら二人の間で謎の張り合いが始まった。
「あ~~~~~~♪♪」
「ア――――――ッ!!」
両者笑っていたと思ったら、今度は発声を始めた。或斗は美しく声を出し、左京は力強く声を出している。自分には二人がこんなやり取りをする意味が分からん。ついていけん。ってか、或斗も或斗で対抗すんなよ! 誰でもいいから、場の流れを変えてくれよ。
すっ
馬上が無言で手を上げた。
「……とりあえず手をあげてみた」
「あら、ごめんなさいね♪ それじゃあ馬上君自己紹介お願いね♪」
馬上。奴は何を考えているか分からないが、場の流れを変えたいと思って挙手したのかもしれない。
「馬上誠実……医学部一年生……歌の経験はほとんどないが頑張る……」
馬上はやはり前に会った時と変わらぬ調子で挨拶をした。さて、彼の挨拶を聞いて、聖の顔つきが変わった。
「ふわぁ! 馬上くんの無口クールキャラいい! 私のペットにしたい!」
「……餌と散歩をやってくれるなら……」
「わぁい♪ お手♪」
「わん」
すっ
真顔で馬上が聖にお手をする。そろそろ誰かがツッコミを入れないと、永遠にこのおかしなやり取りが続きそうだ。
「馬上君は無口、クール、ちょっと天然と……面白いキャラしてるわね♪」
「どうも……」
「アデルちゃんも今の調子で自己紹介よろしくね♪」
或斗は自然と次の人の自己紹介へと会話の方向性を持って行った。
「は~い! 私は聖アデル、医学部1年生で~す♪ ママがイギリス人、パパが日本人のハーフです♪ サークルでは是非ともコスプレとアニソンをお願いします♪」
聖はその手の人間だったか! まあ初めて会った時の会話でなんとなくその手の人間かなとは思ったが。彼女が馬上と同じ医学部ってちょっと違和感を感じるな。
「じゃあセーム君、自己紹介して」
あっ、いつの間にか自分の番になっていたか。
「え、え、えと、ししおかわ」
やばい、緊張して自分の名前噛んでしまった。
「塩川聖夢! 工学部化学科一年!」
確か或斗がオプション付けてとか言ってたよな。えぇと、自分に阿関して特に言えるような事があるのか? 全く思い浮かばねえ!
「ど忘れしちゃ駄目よ、君のあだ名はセーム。そしてその気の小ささに似合わず、歌に対する気持ちは人一倍強い。これでOK?」
「あ、ああ……」
或斗のフォローのおかげで自分の自己紹介を何とか終える事が出来た。普通自己紹介で何とか終える要素も何もないとは思うがな。
「最期は私ね。私の名前は岸或斗! 教育学部音楽科一年生! 既存の合唱のイメージを変えたくて、サークルを立ち上げようと思いました! ちなみに私の性別はお・と・こ♪」
「何ぃ!? あんた野郎だったんか!?」
左京が凄く驚いている。そりゃあ自分も初見でなんとなく男かなと見抜いたが、普通気付かんよな。
「……俺も女だとばかり思っていた……」
馬上もやはり同様の事を思っていたようだ。
「え~? 私すぐにアルちゃんが女装男子って気付いたよ~♪」
意外にも聖は或斗が男である事をすぐに見抜いたようだ。
「アルちゃんが女装している理由聞いてみたいけどいいかな~?」
「いいわよ♪ 私も男である事が嫌いというわけでは無いけどね、歌うなら少し面白い道を選んでみようと思ったの」
「面白い道?」
「自身の性に逆らい男性じゃ無く、女性で歌ってみたいと思った。もちろん難しい事だし、お手本となる歌手も少ない。でも、それが楽しいのよ♪」
「分かるぞ!!」
突然左京がでかい声を出した。
「あたしは実家がゼネコンだからじいちゃんの手伝いで無茶な仕事多いんだ! 最初はキツいと思ったが、それでも何とかするっていうのがたまらなくいいんだよ!」
「私の場合だと、ゲームを精神崩壊するほどの厳しい縛りルールつけてクリアするというドMプレイがとても心地よく感じるんだ~♪」
聖の出した例は先程の二人よりやばい例だな。
「というわけで今日、我らが立ち上げるサークルも、大きくするのは大変だと思う。けど、それを楽しく思ってやってもらいたいの♪」
ここからようやく、サークルの集まりらしい会話となってきた。
「まず、5人いて、かつ顧問の先生が決まれば大学にサークルとして申請ができるわ。その際に代表者、サークル名、顧問を大学の学生課に知らせる必要があるの。まあ、さっさと活動始めたいからもう全部決めたけどね。あとはそれにみんなが納得するかどうかよ」
代表に関しては、すんなりと或斗に決まった。ここまでメインで動いたのは或斗だし、この個性派メンツをまとめて、音楽をよく教えられるのは或斗しかいない。
顧問は或斗の方で動いていたみたいで、了承を得ているようだ。谷川先生といって、機械科の先生らしい。ここでふと疑問が浮かんだので或斗に質問した。
「顧問は音楽を担当する教授や講師あたりにしたほうがいいんじゃないか? 谷川先生ってのは多分音楽のことをあまり知らない人だろう?」
「それでもいいけど、その代わり私たちの音楽を作れない可能性大よ。音楽なんて結局のところ、指導者の好みで決まるから、私達のやりたい音楽に真っ向から反対する可能性もあるわ。だから、音楽は知らなくても、名前だけ借してくれる先生がいればいいの」
「なるほど、ご丁寧な回答どうも」
「どうしたしまして♪」
次にサークル名だが或斗は「カオスシンガース」と決めていたみたいだ。
「カオスって動画サイトで、よくでるワードだよね~なんかめっちゃくっちゃな感じ?」
その感覚が分かるのはお前だけだ聖。
「馬上くんあたり、カオスの意味を説明できるかしら? 」
或斗は学校の授業でよくある先生の無茶ぶりみたいなことをした。
いくら医学部でも答えられるのか馬上?
「……カオスとは……日本語で混沌を意味する……。……いろんなものがいれ混じって、ぐっちゃぐっちゃの状態を……イメージすればいい……。この言葉は……神話から由来しているらしい……」
「正解。よく知ってたわね」
「……受験に使っていた参考書に載っていた」
「さすが馬上君、私の優秀なペットだけあってintelliget♪」
「……ペットに対しintelliget、つまりお利口さんという表現は正しい……しかしその昔、男性が女性に対して賢いと褒めようと思ってその単語を使って……怒らせた例もある……」
「あ~、なるほど~、確かにwiseとかsmarの方が良いかもね~」
あいつら、医学部だからこそのハイレベルな英語トークしてやがる。
「さすが医学部は優秀ね♪ これなら英語の歌も余裕でいけそう♪」
「うん♪ 日本人の英語の歌聞いているとね、アクセントや強弱が微妙にちがくて違和感感じる事多いんだ」
「それは凄いわね! 私も聞く耳には自信はあるけど、そこまで意識していなかったわ! とまあ、ちょっと脱線したけど、サークル名はカオスシンガースでいいかな?」
ここに集まった(自分を除く)個性派軍団はまさにカオスと表現していってよいだろう。これ以上いい名前が浮かばないからOKしよう。
「サークル名はカオスシンガースでいいと思う」
「アルちゃんの決めた名前なら何でもOKだよ♪」
「何となく響きがいいからOKだぜ!」
「……俺もOK」
サークル名はすんなりと決まった。
「よし! これで、サークルとしてようやく音楽活動できるわね。あっそうだ、忘れないうちにこれを渡しておくわね」
或斗はみんなに一冊の本を渡した。どうやら楽譜のようだ。中には曲にしては短く音楽的にも単調なものが多いイメージがある。
「これはソルフェージュと呼ばれるものよ。歌の練習でよく使うわものよ。歌い方パターン集みたいな感じで、これ全部完璧に歌えるようになれれば、大抵の歌は歌えるわね」
「……数学の某参考書みたいだ……」
「あっ、私も同じ事思った♪」
自分はその某参考書とやらは分厚いから買わんかったが、医学部二人は恐らく高校時代愛用していたのだろう。
さて、ソルフェージュを見て一つ気がかりな事があった。
「或斗、自分はあんまし楽譜の読み方分かってないんだよな」
「あたしもだな! 学校の音楽教師の人格崩壊していたから授業ボイコットしてたわ! カッカッカ!!」
「私の学校は音楽の授業まともにやってなかったんだよね、というより進学校にありがちな暗黙の了解、履修問題ってやつだったと思う?」
「……昔の授業の記憶を思い出してみる」
「眺めるだけでもいいわよ。もっと知りたいならネットとかで調べればすぐわかるわ。あと、各自音を出せるものを買っておいたほうがいいわね。キーボードピアノなんかがいいわね。最近だとぐるぐる巻けるタイプもあるし、もしくは昔小学校で使っていた鍵盤ハーモニカやリコーダーなんかでもいいわ」
問題発言がちらほらと出ていた気がするが、ツッコミ不在なためか或斗はどんどん話を進めていった。
「このあたりでお開きにしましょう! あと、次の集まりまでに皆に考えたい貰いたい事がある! サークルでどんな音楽をやりたいか考えてきて! 今後のサークルの方向性が決まるからよく考えてくるように! 以上!」
この言葉で各自解散となった。バイト、レポートの提出、バスに乗り遅れる等ですぐにメンバーのみんなが散った。自分は一人自宅までの夜道を帰っていった。アパートは大学近辺だが、墓場が結構周りにあって怖い。気持ち急ぎ足で自宅へとついた。
「ふぅ~」
自分は一日の終わりを感じ、一息つく。さて、何もすることがないし、或斗がさっき言っていた自分のやりたい音楽を考えてみよう。ヒトカラでよく歌う歌あたりが自分のやりたい音楽のヒントがあるかもしれない。
自分がヒトカラで歌う歌って、アニソンだったり、懐メロだったり、流行のJ-POPだったり、声楽家の歌っている歌と、割かしカオスだな。ある意味うちのサークル名に自分は相応しいかもしれない。
逆に言えば、自分は一体どういう歌が好きだというんだ……? 自分やりたいが音楽を考えるというのは意外にも難しい問題だった。よくよく考えれば、こういった選択肢を人任せにすることが多かった。数日間自分のやりたい音楽の答えを出すのに悩みまくった。
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工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
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ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
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フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
病窓の桜
喜島 塔
現代文学
花曇りの空の下、薄桃色の桜の花が色付く季節になると、私は、千代子(ちよこ)さんと一緒に病室の窓越しに見た桜の花を思い出す。千代子さんは、もう、此岸には存在しない人だ。私が、潰瘍性大腸炎という難病で入退院を繰り返していた頃、ほんの数週間、同じ病室の隣のベッドに入院していた患者同士というだけで、特段、親しい間柄というわけではない。それでも、あの日、千代子さんが病室の窓越しの桜を眺めながら「綺麗ねえ」と紡いだ凡庸な言葉を忘れることができない。
私は、ベッドのカーテン越しに聞き知った情報を元に、退院後、千代子さんが所属している『ウグイス合唱団』の定期演奏会へと足を運んだ。だが、そこに、千代子さんの姿はなかった。
一年ほどの時が過ぎ、私は、アルバイトを始めた。忙しい日々の中、千代子さんと見た病窓の桜の記憶が薄れていった頃、私は、千代子さんの訃報を知ることになる。
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