心無き旅人

響日 寺石

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第一話

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辺り一面ゴミだらけどこを見てもゴミの山。
壊れた冷蔵庫、何かの基盤、そして食べ物は腐り異臭を放ちハエがたかっている。
そんなゴミ山から無機質な声が聞こえる。

『GP 二三三六0起動します』

それは高さ百七十程横幅も平均的な成人男性。
右手が無く無機質で表面はつるつるとしているが、ところどころに継ぎ目のように窪みがある。
顔はどくろのように見えなくもないが、そんなこともなく目と口があるのっぺらぼうのようだ。

その機械は起動後の確認フェーズを終えた後、その無機質な目で映像を映す。
その目は周りの情報を確認しようと目と脳にあたる部分の稼働率を上げていく。
近くにゴミの山、機械の記憶媒体上では数分ぶりに動かすその手足。
ゴミの山をかき分けながらも上へ上へと昇っていく。
此処が何処かかを把握するために。
だが右手が無いのでうまく登れず、何度もずり落ちながらも苦戦しおよそ十数回目、かなり時間を使いその頂上へとたどり着いた。
そしてまた目の稼働率を上げる。
その上から見えるのは、ゴミ、ゴミ、ゴミ......やはり辺り一面のゴミの山である。
燃えるとこれぞ火の海! と言えそうなほどのゴミの量である。
ここで機械は気づく。何故自分がこんなところにいるのかが分からないことに。
そしてほとんど何も覚えていないことに。
だがそんな事は今は無視し機械の脳にあたる回路の使用率を90%まで底上げし、その殆どを目へと割り当てた。
まずはここを抜ける事の方が最優先と考えたからだ。
目の回路がはちきれそうなほど高温を出しながらも、博士に会いたいとその願いで機械は出力を上げてゆく。
極限までに、いやそれ以上にズームされたその目にはゴミとは毛色の違うその景色を見つけた。
ここから歩いても三日以上はかかるその距離には砂の山があった。
恐らくそれは砂漠の一端である。暗くゴミの山は違った重苦しいその雰囲気。それは砂漠、このゴミ山の方向から流れてくる黒煙も関係してくるのだろう。
空はその黒煙にほとんど覆われており、たまに日の光が黒煙を灰色に染め上げているだけ。
そのためか、辺りは1km間隔で電灯があった。
だがそれは砂漠には続いていない、だが機械は砂漠を目指すことにした。それは機械にもわからなかったが、だが機械はそうしてしまった。目指し機械は歩く。だがこのゴミの山だ。機械でも転んでしまうのは当然だ。
そこで初めて機械は気づいた。右手が無いことに。正確には腕の第二関節手前までが無い。

不便と感じ歩きながらも代わりになるものはないかと探す。
ゴミ山は歩きづらく転んでしまう。
だが機械が転んだ所には乱雑に捨てられた機械達が居た。
否、それらはもう動いていないため居たでは語弊がある。あった。というほうが正しいのだろう。
同じ機械ということもあり機械は少しの同情をしながらも右手の代わりとなるパーツを探していた。
ほどなくして、それを見つける。
それには『B_000二三』と書かれており、機械の情報が正しければ人間によって生み出された2世代目のアンドロイドの番号の一つであった。
機械とは少し構造が違ったはずだが何故か構造は大体は同じだったため、機械はそれを途中しかない腕と融合させると砂漠を目指し歩き出す。

彼は何故こうなったのかを知りたいと思うから。
博士の行方を知りたいと思うから・・・・・・

・・・
・・


一体何時間歩いたのだろうか。もう一週間は歩いている。
機械はアンドロイドに近い存在の為食事は必要ない。休む必要もない。もちろん寝る必要もない。
必用なのは電気だけ。だが本来機械の蓄電量ではここまでは動けなかった。どんなに節電しても三日が限界であった。
だが機械はあのゴミ山で見つけていた。キャリーバック半分くらいの大きさの蓄電池を二つほど。
充電は十分にあり、偶然とは思えないほど不自然が際立っていた。
機械はそれを木の橇のようなものに置き、それを引っ張りながら移動していた。
機械は機械だ。だからどんなに重くとも引っ張ることは難なく出来た。
充電は蓄電器に機械に内蔵してあるケーブルを刺すだけでできたため、機械はここまで動くことができた。
だがやはりその分機動力は落ちた。だからこそ、その分日数もかかったし、消費した電力も大きかった。だがそれがなければここまで来ることは不可能だった。


歩けど歩けど砂ばかり。右も左も。
たまに吹く風のせいで間接に砂が入り機械の金属がこすれる音が聞こえる。

砂漠を駆け抜ける風と重くずっしりと金属が砂を踏みしめる音、その砂をかき分ける木の音。
ただただそれだけがこの広く重く暗い砂の世界に響いていた。

ピピピ・・・!機械の頭の中にアラートが鳴り響く。
それを受け機械は蓄電量が少なくなっていると分かると、砂の海の真ん中で足を止め人間でいう尾骨からコードを伸ばす。
それを橇の上にある、蓄電池へとケーブルを挿し込む。
また、ピピピっという音と共に充電を開始する。

その間彼は関節に入った砂を取り出す。
左腕、右足、左足と。
機械はメンテナンスを機械のみでできるように設計されている。
だが、ほとんど無理やりくっつける為に融合してしまった右腕は外れなく、機械自身少し困っていた。
融合を解除することはできるが、また調整に時間がかかってしまい、消費電力が跳ね上がるからだ。
だから機械はいくつかのエラーを無視しながらいつものように状況確認と整備を終えると、彼は目を閉じる。
なるべく電池を消費しないために。スリーブモードへと・・・・・

・・・
・・


何時間後だろうか、機械は充電が完了しスリープモードから通常モードへと切り替える。
視覚情報が入ってきたときに機械はそれに気づいた。
機械の視界に映ったのは四本の線と一人分の足跡。
無論それは機械のではない。思考する間もなく声が聞こえる。

「よう、起きたか」

そう後ろから聞こえ振り返る。
そこには人間が居た。
否、本物の人間と見間違えるほど、人間そっくりの機械が居た。
彼を人間で例えるならば身長は185cm位で外的年齢は40代後半といったところ、黒髪で目も黒だ。
どこにでもいそうな父親、といった印象だ。さらに言えば無精髭まで生えている。
機械のように継ぎ目や、金属の皮膚、むき出しの回路など、機械にある欠点をすべて改善されていた。

「俺は自己進化型アンドロイドSPRL_二.八八二三0三七六E十七。仲間からは黒と呼ばれている。あんたは?」

それは彼にとって聞いたことのない型名だった。

「私ハGP_二三三六0で す」

名乗り返すが、機械はうまく声が出ないことに気づく。
多数のエラーを放置していたことにも。

「GP_二三三六0......聞いたことねぇな。まぁいいか、とりあえずついてこい。話はそれからだ」

黒は声がうまく出ていないことを気にしたそぶりを見せずに話を続けている。
そして機械はエラーをま無視してしまう程困惑する。
彼がまるで人間かのように話その様に。
彼の一挙手一投足が人間に見えたのだからだ。
人間から移植されたんんじゃないかと思うような口の動きと発声、そして機械のような駆動音が一切しなかったから。
機械ではありえないくらいポカンとしていると彼は振り向き少し眉をひそめた後、こちらへと向かってきた。

「ここで壊れてたいのか?そうでないのならとりあえず付いてこい」

そう言い放ち、彼は振り向き示した方向へと歩いていく。
機械はまた人間のようにポカンとしつつ、彼に付いていくことにした。
今機械とっての情報源となりうるからだ。
そしてどうにか新しい声帯を手に入れなければと思っていたからだ。



「お前、相当古そうだが時灰ジハイってのは知ってるか?」

砂漠の歩く彼に付いて行って早数十分。これまで黙っていた彼がふいに口を開ける。

「そ...れハ......んあに?」

やはり彼は喋りずらいことは気にせず話を続ける。

「知らないって事は、相当古い型だな。お前。
まぁいいさ後でわかることだ。
でだ、時灰ってのはな空から降ってくる灰のようなもんでな、まぁなんだ簡単に言うと灰色の解けない雪が降ってくるもんだ。雪ではないんだが」

機械はその光景を想像する。雪は白く綺麗だ。
空も地面もそして吐く息すらも白く当たり一面銀色のその風景を。
それが灰色だなんて、なんて寂しいのだろうか。
融けず積もる灰色の雪が、地面を染め上げ、暗く灰色の雲が空を染め上げる灰色の世界を。
まるで火山が噴火をし、火山灰が世界を染め上げているような景色を。

「それだけならよかったんだがな時灰は人を殺す。時灰に人間が直に触れるとな時が奪われたように急激に老化し死んでゆくんだ。
そのせいで人間は地下にシェルターを作り、生き延びたってわけだ」

機械はそれに対して言葉が出なった。機械のメモリーでは考えられなかった事態にこの世界がなっていたからだ。
自分が停止してから何年たったのだろうか。機械はいくつもののエラーを増やしながら、彼の話を聞く。

「でだ、これからお前さんを連れて行くのはそのシェルターだ。」

人間がいるシェルター、そこに行けば博士の行方が分かるかもしれない。そんな淡い期待を思考回路に流しながら歩く。だがその期待はすぐに打ち砕かれた。

「居ないぞ、人間は。いるのは俺らと同じような奴らばっかだ。」

黒は機械の思考を読んだのかと思えるほど彼の問うてない問の答えは鋭かった。
居ない。現状シェルターでしか生きられない人間が今は居ない。
確かにこの辺りは時灰とやらは降ってはいない。
地面を覆う砂と空を覆いつくす雲だけ。
だが彼の言い方は機械にしては悲壮感が強く、それはただ人間が移住したとか出て行ってしまったといったなんて生易しいものではないことが機械でも分かってしまった。
だがそれはまだ人間がどこかで生きている可能性があるのが分かり、機械はなおさら黙って彼に付いていくのであった。

砂漠に二人分の足音が奏でられている。
だがそれは不意に一つへと減り、そして音がくなくなる。

「ここだ」

黒がそう言って指をさす。
そこには何もなくあるのは砂の山のみ。
辺りを見渡すが目印らしきものは何もない。疑問のエラーが多発する。
だが彼が突然一部の砂が地面に吸い込まれていき、直径5cmの穴が出現する。
そこからニョキっと突然、金属の棒が伸びてくる。
先頭にはレンズがついていて、伸びるのが止まったと思うと、金属の棒の先端から約10cmの部分が曲がるストローのように曲がりこちらを見る。
左右にキョロキョロと動いた後、それは黒を見つけると動きが止まった。

『あっら~、黒じゃないの~。お帰り~。愛してるわよ~』

明らかに金属の棒から女性の声が聞こえた。
黒とは違い甲高くその少し甘えた声。
それ越しに聞こえる声はまごうことなき人間。
だが黒の話で人間が居ないとのことの為、彼女も機械であることが確定はしている。

「ニヤ、早く開けろ」

彼女の対応に『つれないわね~』とぼやきながらピピピッと何かを操作する音がその金属の棒から聞こえる。

『ほら、開けたわよ』

その言葉と共に、少しの駆動音と共に砂はけていく。

「なぁ、毎度思うがこれ何とかならないのか」
『黒ってば~、ロ・マ・ンがないの~』
「ロマンなんかよりも実用が大切だ。この世界ではな」
『はいはい、そうですねー、ほんと黒ってば最近のアンドロイドにしては頭固いんだから。』

黒が『はぁ』とため息をついたところでそれは完全に停止した。
扉だ。
無駄に大きな扉がついた建物が地面からせり上がってきたのだ。
建物は十六、どこかギギリシア建築のような雰囲気を醸し出しており、白く医師のようなもので作られている。
扉がギィィと音を上げながら開き、白い石で作られた階段が現れる。

「行くぞ」

黒はそれが日常なのだろう、何事もなかったかのように階段を下りてゆく。
機械もそれについていく。
階段の先は暗く壁にある少ない明かりのみが辺りを照らすのみ。
幾度か階段を踏み外しかけながらも、着々と地下へと進んでゆく。
階段を降り始めてから二十数分が経ったであろう。

「そろそろだ」

その言葉と共に、少しずつ視線の先に明るさが戻ってくる。
階段を降り終わり通路を出るとそこには地下にあるとは思えない町があった。
もはやシェルターではなくコロニーのように思えるその町は、空の代わりをしている天井からはめいいっぱい光が注がれ木や川など自然が多くさらには畑まである。
町自体には機械が行き交っており、活気あふれる店やナンパする機械など、何も知らない人が見たら確実に人間の町と見間違えてしまうほど、ここに機械という見た目が一切なかった。
その光景に言葉がです、目を見開いたまま立ち止まっていると。

「驚いただろ?この光景」

黒は少し口角を上げニヤっとしながら片目で機械のことを見る。

「えェ、あ マりにも想像シていた のと違ッたから」
「だろうな。俺もここがこんなに長生きするとは思わなかったな。
機械だけなのにな。案外皆まだ人間のことが......いや、違うか」

黒はここにはいない人間のことを言いかけ言葉に詰まる。
妙な間ができるが、その間にも風が吹き木々は揺れ葉の揺らめく音が聞こえる。
遠くからはまるで主旋律を際立てる副旋律のように機械達のいや、アンドロイド達の声や足音が聞こえる。
そんな優雅な音楽を一つのエンジンと声が遮った。

「おーかーえーりー! くーろー」
「五月蠅い、黙れ」
「も~ほんと連れないんだから~」

現れた彼女は上半身のみが人間であり黒髪でショート、すらっとしていそうなその身体つき、慎ましいその胸元。
顔は整っており、きりっとしたその目元を覆い隠すような眼鏡が少しのミステリアスさを醸し出しているのかもしれない。
だが、下半身にあたる部分には半球状の体に周りに小さく四つと下部分に大きく一つプロペラが付いており、彼女は浮いていた。
そう、浮いていたのだ。透明な体があるというわけでもなく、天井から吊り下げられているわけでもなく、彼女は彼女のプロペラのみで浮いていた。

「浮い..てル」

機械がそのことに驚いていると、それに気づいた黒が「はぁ」とため息をつく。
そんなことも知らないのかと言わんばかりご様子だ。

「こいつはな、軽いんだよ。素材が。見た目はまぁ割とあるように見えるが軽い素材でできてる。だからこんな少ない浮力でも浮ける」

と、軽く説明してくれた。
どうやら詳細は教えてくれないようだ。

「私のことなんかよりも、貴方! 見たことない見た目だけど、型番はなにかしら?」
「GP  二三 三六0」

機械の言葉を受け、二ヤは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしながら騒ぎ始める。
動きは激しくその場をウロチョロするような飛び方をしている。人でいうところのジタバタしている状態に近いのだろうか。

「ちょ、ちょっとちょっとまって! GP 二三三六0って言ったわよね?!」
「うるさいな、二ヤ」
「おだまり黒。貴方、ある意味大収穫よ」
「あ?そらどういうことだよ」
「この子はね、ある実験のために生まれたテスト機体。実用性の無さからこの子しかいない超超超超貴重な機体。
自分を神だとでも思った人間の傲りの象徴。それが彼」
「なんだそりゃ」

何かを知っているであろうニヤと、何も知らない黒。そしてこれまた何も知っていない当の機械。
興奮するニヤを中心に、謎の混沌は増すばかりであった。


それから少し経ち、ニヤの興奮が先ほどよりかは収まる。
だがそれでもまだ興奮しているようで、黒からすればそれは気持ち悪いとのことだった。

「でだ、俺はこいつの目的は知らねぇが、あの海をさまよってたからな、連れてきたんだよ」

海?砂漠ではないだろうか。機械は疑問に思い声を出そうとするが、何故か声が出せない。
よく見ると壊れかけの声の回路が完全に壊れていたのだ。
どうやら最後の足掻きだったのだろう。
機械は、それ身振り手振りで黒とニヤに伝えようとする。
そのあたふたを見て二人とも気づく。

「こんな話よりも先に修理だな」

黒のその言葉をきっかけに、彼らは修理屋へと向かう。
そこまでの道も、ここが地下とは思えないほど豊かで整備されており街並みのようだ。
だからこそ、なにか不穏な感じがした。それが何はわからない、けれども嫌な感じが。

そんなことを感じて彼は気づく、ある事がおかしいと。
自分は機械である。だからこそ直観なんてそんなもの感じるはずがないと。
そんな疑問はすぐエラーとして処理されてしまい、彼の中から無くなってしまう。
それは人間が考えていたことを忘れるように、機械自身も何を思ていたのかを考えてしまう。


「着いたぞ」

そこは、鉄の板だけでできた小規模な空間。左右に壁と上に屋根だけの質素な作り。
ただそれがあるだけの空間
そこには誰も居ない。

「おやっさん! 居ねぇのか!」

その言葉で誰かが出てくる。

「うるさいぞ、黒」

小さい。見た目は空想上のドワーフのような見た目をしており、いかつい顔に立派な髭。横に大きな体
背は黒の半分くらいで1メートルもないほどであり、背中には大きなハンマーを背負っている。
片手にはコップを持っており、何かをを飲んでいたようだった。
機械なのに。

「またオイルなんぞ飲んでんのかよ」
「あ?いいだろ。別に違法じゃねぇんだから」
「でも~動き鈍らないの~?」
「おやっさんはな体の中でオイル燃やしてんだよ。火力発電してんだ」
「だから体のほうは快調だ。でそいつ誰だ?」
「あぁ、こいつは」

そんな調子で、機械が何であるかと修理が必要と説明してもらった。
だが、おやっさんとやらには排気口が見当たらない。
そんな疑問を黒にぶつけてみる。

「それはな」
「黒それは秘密だ。それとわしはおやっさんじゃないぞ、トオルだ。トオルと呼びな」

機は喋っていないはずなのになぜおやっさんと思っていたのかという疑問もあったが、黒も含め彼らには名前があった。
愛称に近いのだろうが、それは私たちには関係のないもののはずだ。


『エラー・・・・・・エラー・・・・・・記憶領域に重大なエラーが見られます』


声が出なくなったよりも大きく警告が出てくる。

『記憶領域の八十五%が損傷または欠陥が生じております。強制再起動まであと3』

機械は黒に説明する暇もないと考え、衝撃を最小限にと、すぐさま地面で横になる。

『参』
「おい? どうした??」
『弐』
「これは、まずいぞ」
『壱』
「だめだったわね~」
『零』

私の記憶は一度そこで途切れた。



・・・・・・
・・・


『再起動開始します。』

『起動確認・・・・・・OK
神経回路・・・・・・OK
&%回路・・・・・・OK
記憶領域・・・・・・エラー
再演算・・・・・・エラー
障害度算出・・・・・・大
全体の七十五%に損傷が見られます。
このまま起動しますか?・・・・・・・・・・・・・・・YES
・・・
起動します。』

機械は夢を見ない、だが機械は特別な機体であった。
彼はそういう風に設計された。
だから時々見るのだ。こういった夢のような何かを。

『いいか、ゆくたんし。お前は特別だ。だからお前がこれを思い出したなら......』


「......博士」
「おっ、起きたか」

知らない天井だ。
損の言葉がすぐに頭に浮かぶ。
博士が教えてくれた昔のアニメだか映画のセリフらしい。

黒い天井に、寝転がっているのははただの鉄の板の上。
壁には窓のような四角く切り取られているだけであってガラスはない。
簡素な作りで掘っ立て小屋みたいな感じである。
唯一の出入り口であるドアが開く。

「そんな言葉が出るってことは大丈夫そうだな」

そんな事を言いながらトオルが入ってくる。

「声とその腕は直した。もう大丈夫だ」

その言葉通りに、出なくなった声が発声できるようになり、無理やりくっつけていた右腕は元々の腕にそっくりにな腕がくっついていた。
二、三度軽く手を握りそ開く行動を繰り返す。

「問題ないみたいだな。だがあんさんだいぶ古いな。まるで三千年代初期の機械。
全くオーパーツ並みだよ。ツタンカーメンのようだな」

トオルはそう言って、グラスを片手にははっと笑い飛ばす。
だが、

「待ってください、今は一体何年なんですか」

彼にとっては笑い事ではなかった。

「何言ってんだ?んなもん、あぁいやそういやぁあんさんペタチップがないんだったな」

また訳の分からない事を言い放つ。だがそれは当然だ彼にとってはそれが普通なのだから。
だが彼にとってはそれは異常だった。
ないはずの心臓がバクバクとなっているように錯覚する。

「今はな、西暦七一0四年じゃよ」

その言葉にまた意識を失いそうになる・・・・・・



思考回路がショートしそうになりながらも、彼は再確認をする。

私が博士によって作られたのは、たしか三一二五年の事。
私は、博士のお子さんの世話役として作らた。
博士の子供は健康的ですくすくと育ち、私は実用化が決まったと。
とてもうれしかったと感じたのをはっきりと覚えています。
そして博士がそのことを聞くと血相を変え、私は研究室へ連れて行かれ・・・・・・・連れて行かれ・・・・・・
そこからの記憶が思い出せない。

「どうやら長いスリープ状態による、記憶の欠落がようだな」
「そのようです」

特に意味もなく私達はただ黙ることしか出来なかった。
その時、静寂を破るノックが聞こえた。
ガラガラっと音と共に扉が開き、黒とニヤが入ってくる。

「は~ぁ~い、元気そうね~」
「全部直ったのか?」
「いや、少し記憶に問題があるようだ」
「あら、貴方でもそれどうにかできないの?」
「それだけは禁止項目なんだ。わしではどうにも出来ん」
「どういうことかしら」

トオルはグラスを地面へと置き、ドスンと音を立てながら座る。
それに合わせ黒も座り、ニヤは空を飛ぶのを止め地面に転がる。

「わしは機械を直す機械。それは前にも説明したな」

それに黒がうなずくが、ニヤは少し疑問を持っているようだった。
だがそれを無視しトオルは話を続ける。

「基本的にワシ達機械には基本的には行動制限がない。だが代わりにリミッターはある。例えば歩く速度とかだな」

それは機械であれば誰にでも該当することであり、それはある一定の条件以外は制限されている部分。
そんな当たり前のことを話しながら、トオルはグラスにオイルを注ぎ、一気に飲み干す。
まるで話しているために喉が渇いたかのように。

「ぷはぁ。でだ、一部の機械にはそれを超える絶対にできない行動が設定されていることがある。
それがわしの記憶領域の改ざん。ほかにもいろいろとあるがまぁ、それはその時になったらでいいだろ」
「だがよ、おやっさんその説明だと俺達はどうなる。そんな禁止項目があるなんて自覚したことないぞ。今もそうだ」
「そりゃそうじゃ。お前たちの場合はな、そんなことしようとすれば自己崩壊プログラムが作動するからだ」

自己崩壊プログラム。それは機械にとっての永久の死。
生きているとは言えない機械が唯一壊れるためにある手段。それが作動するそれは

「全く、人間ってのはエゴの塊ね」

ニヤがため息はつき、彼のほうを見る。

あの時彼女は言っていた。自分は人間の傲りの象徴だと。
それが一体なぜなのか私には分からない。知りたい、だけど知ってはいけないそんな予感がする。

そんな彼の思考は彼女の言葉でかき消される。

「人間は臆病なくせに、そうやって自分たちで異物を作って排除するなんてどうかしているわ。
それで、本来なら壊れるはずの貴方もその役職柄禁止事項として存在している。だから壊れない。そういうことかしら」
「そうだ。だからわしには出来ない」
「そりゃ、面妖なことだな。俺らの創造主は」

人に作られ人の為になるはずの彼らですらこんな愚痴がでてしまう。
それはやはり人が愚かである事の象徴なのだろうか・・・・・・

と、そんなことはどうでもよく今は彼の記憶に関する事へと議題は変わっていく。

「八十五%から七十五%へとか......」
「その夢とやらが関係しているのかもの。ほれ人間は記憶に整理をすると夢を見るとかじゃったはずだ」

彼は黒たちにエラーの量とおそらくあったであろう記憶のような夢の話をしていた。
現状それ以外に主だった原因がなく、どうにかがんばってまた夢を見ることをするしかないという結論にしか至らなかった。

「古典的に~殴って解決とかは~?」
「古代のテレビじゃあるまい」

と黒がツッコミを入れる。
だが実際問題それもアリではあった。
何せ今覚えていることは、自身が『GP 二三三六0』という機械って事、博士からは『ゆくたんし』と呼ばれていたであろうとの事。
それ以外には、自分が博士から命じられていたことと黒から教えてもらった事の程度で彼は博士の名前すら思い出せないでいた。
だが、ほんの少しの覚えていることだけで考えれば、それだけで使用している記憶領域の二十五%とは考えられないため、日常生活で必要な知識やほかの機械についてなどが含まれていることは容易に考えられる。
実質問題おそらく彼自身の記憶としてはまだ全体の五%も思い出していない。
彼は博士のことを思い出したいため、試せることは試したそう思っていた。

「そういえばニヤ、こいつのことかなり知っていそうだったが、何かもっと知っていることはないのか? 人間の傲りの象徴とか言っていたが」

ニヤが興奮するため、実はあの後黒は彼について何も聞いていなかった。
だからニヤ以外彼のことをよく知らない。

「それね! そうね」
「短くな」
「わかってるわよ~もう!」

また興奮するであろうことを見越してか黒が念を押す。
そしてニヤは昔話を始めるようにコホンと言いながら咳のようなことをする。

「では、はじまりはじまりー」

彼女は完全に昔話をするように始める気だなと三泰ともそう感じたのであった。

「さて、科学が発達した世の中人のそばには必ず機械があったわ。外を歩いてもお店へ行ってもそして職場にも。満ち足りた世の中には必ずしも機械があった」
「長い」

まだ始まりなのに黒が文句を言う。それに対しトオルはため息をつく。
だがニヤは彼に噛みつく勢いで怒る。

「まだ始まりよ! 黒!!」
「うるさい。どうせその話し方は長くなる。もっと要約しろ」
「くっ。はいはい、分かったわよ」

黒に咎められ、ニヤは落胆しながら話を再開する。
おとなしく従ったということは図星だったのか。なんて思いつつ話に集中する。

「楽しようとした人間が私達みたいなの作って仕事とか身の回りの事とかさせよう! って思った訳よ。
それで誰かが私達に感情を欲したの。その試作機が彼。そして博士の名前は心時しんとき博士」
「心時......博士......」
「そう。でもね彼失敗しちゃったのよ。私たちに感情は作れなかった。だから彼の試作機は捨てられ博士もどこかへ隠れたっていう訳よ」
「少し待て、なら俺らのこれはなんだ?」

そう、彼らには人のような感情がある。ただプログラムされたような無機質な感情ではなく、人がそこにいるようなそんな言葉使いや抑揚さらには感情による昂りなど、彼らにはそれがあった。

「それはね、彼の次に感情を作るって言った人の結果なのよ。その人は心時博士と違って人をベースに感情を作ったのよ。その結果、疑似ではあるが私たちに感情と呼べそうなものがあるわけよ」
「疑似ねぇ」
「ふむ、その心時博士については他に何かないのか?」
「そうねぇ、確かここから南へ行った先に海のシェルターがあったはずだわ。確かそこが心時博士が建設に携わった場所だったわね」
「海のシェルター」

それは記憶をおぼろげながら思い出すかのように彼の記憶回路にその情報が復元されてゆく。
海のシェルター。そこは一度行ったことがあり、綺麗な青い海に一つの出入り口。
ガラス廊下に明るい雰囲気。そこはシェルターというよりも海底トンネルのように観光地のほうが印象として強いがシェルターである。

そしてそれを思い出したことは彼にとって朗報であった。
彼はあのゴミ山で博士の行方を知りたいと思っていた。
だが人には寿命がある。だから確実に博士は生きていない。だがそれでも彼は博士について知りたいと思っている。
それは記憶喪失を起こした人が自分のルーツを分からないなりに探そうとしているように。
ゆくたんしは今ニヤから海のシェルターを聞かれ思い出した。それはまさに外部からの刺激を受け徐々に記憶を思い出していくその状態である。
だから彼はそれを実行に移そうとする。だがこの世界では幾つものなんだいがあった。だから彼はそれをどうするか決めあぐねていた。

「どうした?」

それを見越してか黒が話しかけてくる。
それは一つの助け舟であったと彼自身は強く感じる。
だがそれは同時に何故か強い安心感を与えてくれる。
だから彼は一歩を踏み出せる。

「私は、海のシェルターへ行きたい」
「分かった」

黒は即答し、それに連動しニヤもトオルも頷く。

「おやっさん、あれ」
「五月蠅い、わかっとる」

黒からの指示でトオルは何処かへ居なくなる。
その間黒は遠くを見つめており、茫洋とした顔をしている。
対してニヤは本で見た海のシェルターのことをゆくたんしに語り掛けている。
その情報でも少しずつ思い出される記憶。やはりそこに何かあると確認するのであった。
それから十分程経ったのであろうか、トオルが何かを持って来る。
それは一つのチップと少し大き目のリュックであった。

「ほれこれだろ」

黒のその虚ろ気な目に生気が戻る。
ゆっくりと大るを見る目はほんの少しの時間だが一緒にいた黒の眼であった。
そんな疑問は別の話題へと移り変わる。

「この付近の地図データと移動に必要な蓄電池や道具などだ」

やはり黒は先回りして答えを言う。

私はまずチップを通るから受け取りインストールを開始する。
時間はそんなにかからず、ほんの十数秒で終了した。
少雪端子にはおーばスペックなその地図データはこのシェルターとあのゴミ山付近までのデータだった。
三次元で見れるその地図には地形やルートなど詳細なデータなどの生き残るうえで必要なデータが揃っていた。
さらには黒やにニヤ、トオルの現在地までわかるという優れものである。

「すまんな海のシェルターまでのは無かったのじゃ」

不安そうにトオルが言うが
ゆくたんしにとってはそれでも十分ありがたかったのだ。
まだこの時代にめざめて数時間の彼からしたら。

こうして彼はすぐに出発することにした。
トオルやニヤがこのシェルター「ゆっくりしていけばいいのに」とか「ほかのアンドロイドと触れ合えるわよ」なんて誘ってきたが、どうしても彼は自身の記憶についていち早く復旧させないと感じていた為断り出発を急いだ。
トオルからは「あまり無茶せんのじゃぞ」ときつく念を押された。
ニヤに関していえばこの世界に関する情報を渡してきた。
だがあまりに膨大なデータ量の為、それを受け取るがインストールはまだしない。
黒に関しては何故か終始無言であった。

入ってきたときとは逆に階段を上がってゆく。
それは何か便利あ移動手段があるわけでもないので、徒歩で。
入ってきたときとは違い三十数分程時間をかけて登ってゆく。
扉をくぐり久方ぶりに感じる外へと出る。
外はやはり地面は砂で、空は煙で覆われている大地。
また隙間に砂が入ると思いげんなりしつつ、そこに居ないニヤを探す。
制御室に居るニヤに通じる、管を発見すし近づく。
そして一言

「ありがとうございます」

返事はない。だが彼にはそれでよかったのだ。
彼は振り向き南へと歩きだす。
自身の記憶を探すために。今日も歯車を回す。
こうして機械の記憶を探す旅は幕を上げた。
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