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第29話 ぶっ飛んだヤツ

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「さ、じゃあお待ちかねのボス箱を確認しようか。ネームドモンスターはレア装備以上、つまり銀箱一個以上が確定して──って銀箱と、虹箱ぉぉ!?」

 ウォードの死体が粒子となって消えると、そこには二つの宝箱が残った。一つは最低保証の銀箱、もう一つは最高レアの虹箱だ。

「随分、豪華で綺麗な宝箱ですね。あ、銀箱からは短剣が出ましたよー【ウルフファングダガー】ですね。おめでとうございます」

「お、短剣装備は嬉しいなぁ、ナイスな引きだ一ノ瀬さん、ありがとう! って、待って待って虹箱は待って!」

 一ノ瀬さんは既に銀箱如きでは全く動揺せずその中身をノータイムで確認していた。そのノリで虹箱にまで手を伸ばそうものだから、慌ててその手を掴む。

「……?」

「一ノ瀬さん、いいかい? この虹色に光り輝く宝箱、通称虹箱は激レアだ。ドロップ率の渋さはぶっ飛んでいる。そして中身もぶっ飛んでる。おーけい?」

 コクコク。

「つまりだよ? もしかしたら俺たちのダンジョンライフで最初で最後の虹箱かも知れないんだ。だから──」

 俺の言葉を待つ一ノ瀬さん。俺はふーっと息を吐き、

「写真を撮りたいんだ」

 そう言ってのけた。

「フフ、辰巳君意外にミーハーなんですね」

 先ほどポンポコフードを装備した俺を何度も激写していた人の口から出た言葉とは思えない。

「……言わないでくれ」

 が、そんな無粋なことは言わないに限る。

「フフ、了解です。では、どうぞ」

「ありがとう」

 俺は理解してくれた一ノ瀬さんの手をようやく離し、アイテムボックスからスマホを取り出す。そして虹箱を激写だ。すごい。これをSNSで上げたらバズること間違いなし。

「あー、一ノ瀬さん、こっちこっち」

 俺はひとしきり虹箱を撮った後、少し離れていた一ノ瀬さんを隣に呼ぶ。

「一緒に撮ってもいい?」

「フフ、どうぞ」

 俺は自撮りモードにして、一ノ瀬さんと俺と虹箱が写るように写真を撮った。一ノ瀬さんの笑顔はとても自然だったが、ポンポコフードをいまだに被ってることに気付いた俺の口元はやや引きつってるように見える。

「まぁいっか。一ノ瀬さんありがとう。あとでラインで写真送っておくね」

「はい、ありがとうございます。そう言えば一緒に写るのは初めてですね」

「そうだね、ま、これからもレアなイベントに遭遇したら写真撮ろうか」

「フフ、はい」

「じゃあ、四階層を目指すぞー」

 写真を撮って満足した俺はくるりと虹箱に背を向け、歩き始めようとする。

「え、虹箱の中身はいいんですか?」

「フ、そのツッコミを待っていた。ありがとう」

 そして振り返ってニヤリと笑う。俺の渾身のボケだ。虹箱に夢中になるばかり、中身を取り忘れる。もし本当に忘れて次の階層に俺たちが移動してしまえば、この虹箱は消えることとなる。虹箱でそんなウッカリを聞いたことはないが、赤箱や銀箱あたりならあったという話だ。

「……流石、辰巳君。とっても面白いですね」

「……一ノ瀬さん、目、どころか口元も一切笑わずにそのセリフはちとキツイね」

 分かっていたさ、俺に笑いのセンスがないことは。まぁいい、笑いなど取れなくてもモーラーとして大成することはできる筈だ。

「コホンっ。では、ここでネームドモンスター討伐者の辰巳選手が虹箱開封の儀に臨みます。今のお気持ちはどうですか?」

「えっ、あ、その、とにかくぶっ飛んだアイテムを引きたいと思ってます」

 先ほどのやり返しなのか、一ノ瀬さんがいきなり見えないマイクを向けてくるものだから動揺してしまい、アホ丸出しの答えを口にしてしまった。

「なるほど。となると神話級のアイテムでしょうか。さぁ果たして、結果はどうでしょうか。では、辰巳選手お願いしますっ。ジャージャンッ。どうぞっ」

 なんだかすごくハードルを上げられた気がしたが、

「はいっ」

 俺はノリノリな一ノ瀬さんのノリにノッて虹箱に手を伸ばす。虹箱がピカ―っと光り、宝箱の上に中身を示すポップアップが浮かび上がる。

【神話級の遠隔DPS特化型:小生意気なロリポップオートマタの心】

「…………なんかすげーもん引いたな」

「…………なんだかすごいですね。前半の当たり感からの後半の不安な気持ちにさせる感じはまさに虹のようですね」

 宣言通り中身はぶっ飛んでいた、色々な意味で。そして一ノ瀬さんが何を言ってるのかは全く分からないけども、分かる気がした。

「とりあえず詳細を見てみますか」

 アイテムボックス内に収納されたソレをタップし、詳細を表示し、二人で読んでみる。

【使用すると自律性オートマタを入手】

「辰巳君が引いたので、辰巳君がどうぞ?」

「……そう? んじゃ、とりあえず使用」

 入手できるものは入手してみよう、ということで俺はアイテムボックスからソレを取り出す。手の平に収まったのは機械式のオーブだ。使用してみると、オーブは青白く光り輝きながら浮かび上がり、カションカション言いながら、変形していく。暫くするとそれは──。

「コンニチハ、ハジメマシテ、マスター。ショキセッテイ ヲ カイシシテモ イイデスカ?」

 小学生くらいの身長の金髪ツインテール型オートマタになった。肌は白く、見た目は人と変わらない。流石神話級とあって、装備は豪勢な感じだ。背中には機械の翼、両肩にはミサイル、ブーツにはロケットスラスターのようなものが見える。だが、なぜか口元だけは腹話術の人形のようにパカパカと開け閉めされ、わざとらしくロボ感を演出しているようにも見える。

「ほら、辰巳君。そんなしげしげと見つめていないで、このオートマタさんが初期設定していいか、聞いていますよ」

「……どうぞ」

 確かにしげしげと見つめていたため、何も言い返せない。なので、黙ってオートマタの初期設定を肯定する。

「ショキセッテイ カイシシマス ショキセッテイチュウ ショキセッテイチュウ──」

 オートマタは両目を縦方向にぐるんぐるん回しながら、口をパカパカ開け閉めし始める。こんな不気味なやり方でしか初期設定できないのか、と文句を言いたくなるが、ここはグッとこらえて初期設定が終わるのを待つこととした。
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