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第10話 みんなへのケジメ後編

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 俺はグラスの半分まで飲んでしまい、飲んでしまった内の半分は吹き出してしまった。だって、これ……。

「ジュースだ。いいか、辰巳。これはジュースだ」

 陽太がキラキラした瞳で俺を洗脳しようとする。

「あ、カルピスサワー頼むけど、欲しい奴いるー? 一、二、あーピッチャーで頼むわー。もしもーし、すみませんカルピスサワーピッチャーで一つ」

 その横ではクラスメイトの一人が受付にド直球な注文を入れている。

「「………………」」

 しばし見つめ合う俺と陽太。陽太はグッと親指を立て、ウィンクをする。俺はいい。俺は。既に学校を去ってるのだから見つかっても何も問題はない。だが、みんなはこれがバレたら停学や下手したら退学だって有り得る。

「おい、獅堂君や」

「あ、はい、なんでしょうか、吉田さん」

 そんなことを不安に思っていたら吉田さんにいきなり肩を組まれた。吉田さんはわりかし男子との距離感を変に意識しないタイプだが、こっちは気になるため、やや気まずい。

「飲め。とりあえず飲め。話しはそれから聞こう」

「え、吉田さん、まさかもう……酔っぱらって……?」

「ナハハハハ、あんなキツイ訓練を飲まずにやってられるらー!! 私は女子だぞ、イッシー分かってんのか、オラァァァ!!」

 吉田さんはそう叫びながらカラオケルームのど真ん中で上着を脱ぐとタンクトップ一枚になってそれを振り回す。ちなみにイッシーとは石動教官のことだろう。教官にそんな呼び方をしていたことがバレたらまず間違いなく地獄のシゴキが待っているだろうが。

「うぅ、獅堂。お前がいなくなって俺は寂しいんだ……。きっと三枝だって同じ気持ちなんだよ……、な、三枝ぁ? あれ、三枝、どこだぁ?」

「佐藤……お前……」

 佐藤は泣き上戸だった。つーか、乾杯と同時に一気飲みして酔っぱらうとかこいつら滅茶苦茶楽しんでやがる。退学だのなんだの心配していた俺がアホみたいだ。

「はーい。一人だけ置いてけぼりな辰巳に幹事から魔法のお水をプレゼントでーす。ほれ、飲んでみ」

 そんな俺の内心を見透かしているように陽太がやってきた。その右手には銀のトレイが、そしてトレイの上には小さなグラスがいくつか乗せられていた。

「……じゃあ」

 確かに俺一人冷めててもしょうがない。陽太のノリに付き合い、恐らく中身は十八歳が飲んではいけないものだが、覚悟を決めて一気に喉の奥へ。

「……うぇぁぇ」

 苦い、マズイ、熱い、気持ち悪い、が数秒の間に俺の口から胃まで駆け巡る。人生で一番情けない顔で情けない声を出したかも知れない。

「「「「ダハハハハ!!」」」」

 そんな俺を見て皆が笑う。

「んっ!!」

 お前らもこれ飲んでみろ、と指を差す。

「はーい、二番、吉田伊織いっきまーす!! カァァァッ、あびゃはぁ!!」

 二番、吉田さんは一気に飲み干し、そのままフラフラとソファーへ座り込んだ。そのあとは変な声を出したかと思うとピクリとも動かなくなった。ヤバくないか、大丈夫か? 面倒見の良い深瀬さんが隣に座り介抱するようだ。良かった。

「三番、佐藤! 歌います!」

 佐藤は魔法の水を飲むかと思いきや、しれっとリモコンでノリノリな曲を入れていた。深瀬さんは曲が掛かるや否や吉田さんをソファーにぽーいと放っぽり、マイクを握って熱唱し始めた。面倒見の良い深瀬さんはそこにいなかった。

「おーい、吉田さーん、大丈夫かー?」

 ソファーで横になってピクピクしてる吉田さんが心配になったが、なんてことはない、曲のリズムに合わせて足を鳴らしているだけだった。

「しどぉぉぉ、俺は来年も再来年も、ずっとお前とこうして騒ぎたいぞおおおお」
 
 驚き、後ろを振り向けば佐藤が号泣しながら抱き着いてくる。

「……あ、あぁ、俺も同じ気持ちだ」

 突き放すわけにもいかないので、その熱い抱擁を受け入れる。

「私もよぉぉおお、しどおおくうぅぅん!!」

「いや、吉田さんは無理せずに座ってて、な?」

 反対からは吉田さんがテーブルの角にガツンガツンぶつかりながら俺に突進してきて後ろから抱きしめられる。柔らかくて気まずい。

「俺もだよ、辰巳ぃぃぃ」

「こら、陽太、やめろ」

 陽太は悪ノリして、俺の横から抱き着いてくる。なんだこれ。クソッ。

「……俺もお前らと一緒に卒業したくなっちまうじゃんかよ」

 変なスイッチが入ってしまい、俺も少し涙目になってしまう。

「「「…………ギャハハハハ」」」

「なんでやねんっ」

 なぜかそんな俺を見て大爆笑するクラスメイトたち。もうあれこれ考えるのもめんどくさかったので、適当にそこらへんにある飲み物を飲み干し続けてやった。

 結果──。

「うーーーん、みんな撃沈かぁー。アッハッハ。あ、深瀬さんのパンツ見えてる。ラッキー」

 陽太のそんな声とともに意識が沈み、朝五時にカラオケ店を追い出されるまでしばし夢のような夢の世界にいるのであった。
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