トーチ

長月

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 ここ数日、嫌な天気が続いている。細い雨が降ったり止んだりを繰り返して、傘を持ち歩くのが正面面倒に思うくらいだ。店も繁盛期を離れ、ゆっくりと一日が過ぎていった。

 考え事をするのは仕込みの時間が丁度いい。特に、大根や生姜を擂り下ろしている時がいい。必死で手を動かしている、その単純な作業が、余計な思いも無駄な思考も排除してくれる。

 食事を終えた客が数人残る程度の、静かな店内。幸成は、居酒屋の為の軽い仕込みをしていた。大根を下ろしながら、奏太と会った時の事を思い出していた。
 今日だけじゃない。あの日以降幸成の頭は、奏太の言葉がちらちらと顔を出すようになった。

 夢があるなら続けろ。
 ナリはできるんだから。

 子どもの時から奏太と一緒に料理を勉強してきた。料理の仕事がしたい。そう思ってきた。だけど、料理の仕事なら今まさにしている。高給取りではないにせよ、生活するのに充分な収入はある。今の生活に、幸成は満足していた。

 それなら、夢は叶ったのか?

 奏太は自分の店を持ちたいと言った。昔からだ。出会った頃からその夢は聞いていた。だから高校生の時からアルバイトをして、勉強の為にフランスに行って、帰国してからもお金を貯めて――ようやく店を持ったのだ。最初の話題性もあったし、今でも毎日忙しそうにしている。

 自分はどうなのだろう。幸成は考えていた。
 
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