トーチ

長月

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ハイボール

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 久しぶりに飲みに行く、と言うのも実はおかしな話で、最後に会ったのは2週間程前。仕事が忙しいとはいえ、帰国してからは結構頻繁に会っている。それから、実はお酒が入るのは今回が初めてだった。

「ナリと酒を飲む日が来るとはなぁ・・・・・・お前も、大人になったんだな」
 今は誰も呼ばないその呼び方に、幸成はいつも少し照れくさくなる。目の前には、見慣れた笑顔と見慣れない雰囲気を纏った奏太かなたが座っている。随分と大人びた。服装だけじゃない、立ち居振る舞い全てがオシャレだ。自分とは不釣り合いであろう大人の男の姿に、幸成は時たま見蕩れてしまう。
 昔からそうだった。奏太は幸成の理想で、憧れの存在だった。かっこいい。自然に、そう思う。

 奏太は幸成の4つ年上で、小学生の頃からの幼馴染みだった。
「ナリが酒飲む姿なんて、正直想像できん」
「いや、成人してからも会ってるからね。いつまでも“可愛いナリ君”じゃないよ」
「はは。まあ、いくつになったって俺にとっては、“可愛いナリ君”だけどな」

 雑談が盛り上がって来たところで、奏太はようやくメニューを手に取った。
「どうしようか。最初はやっぱ生とかにしとく?」
「ナリ・・・・・・お前ビール飲めるのか?」
「馬鹿にしてる?」

 幸成がむっとして顔を赤らめると、奏太は嬉しそうに吹き出した。
「まぁ怒んなって。俺は違うのにするよ」
「あ、向こうじゃビールって飲まないかな」
 ワインとかだろうか。確かに奏太には似合う気がする。

「飲まないことないけどな。実は最近、ハイボールにハマっててさ」

 意外だった。もっとオシャレな、幸成が聞いたこともないような名前が出ると思っていたものだから、その馴染みのある響きにある意味違和感を感じた。
 しかし考えて見れば、幸成も普段から行けるような近場の居酒屋に、手の出せない飲み物がそうある訳もないのだ。

 奏太は理想で憧れの存在だ。だけど、幸成に一番近い人物なのだ。昔からずっと、側にいて、何をするのも一緒だった。
 懐かしい気持ちと新鮮な気持ちが同時に押し寄せる。胸が熱いものに包まれる気がした。初めて酒を飲み交わす幼馴染みの姿に、幸成の口元は自然と綻んだ。
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