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長月

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メッセージ

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 火曜日の仕事終わりだった。定食屋の締めと居酒屋の準備を終えて、ロッカールームで着替えていた。仕事中放置されていたスマホにメッセージが入っているのに気づく。見慣れた名前。   
 荷物を持って外に出ると、先に着替えたリカさんが待っていた。

「ユキ君遅いぞ」
「ごめんごめん。さ、帰りましょうか」

 空は厚い雲が覆っていて、夕方なのにかなり暗い。細い雨が降ったり止んだりと、今日は嫌な天気だった。冷たい風に晒されながら、二人はアパートへ歩き出す。

「あ、先に言うけどさ」
 そう毎日夕飯を一緒にすることもないが、言われる前に断って置かなければ後々めんどくさい気がして、幸成はそそくさと口を開く。

「今日はごはん作れないから」
「お?なに、デート?」
 意外と速かったリカさんの返しに若干戸惑いつつも、ニヤニヤと表情を変えて頷く。
「まあ、ね。そんなところ」
「ほーお。ユキ殿も隅に置けませんなぁ」
「誰だよ」

 なるほど、デートかとリカさんはしばらく呟いていたが、ニヤニヤと幸成を見つめ返す。

「知らなかったなあ。ユキ君にもそんな人ががいたんだねえ」
「え?いや・・・・・・リカさん?」
 何かスイッチが入ったようだ。慌てて幸成は訂正する。思いの外焦っていたのか、早口になってしまう。
「いや、ごめん。冗談」
「え?デート、じゃないの?」
「えっと、食事には行くんだけど、デートじゃない。幼馴染み。男」
「おとこ・・・・・・」

 なぜここまで必死に弁解しているのか、幸成は自分自身に疑問を抱く。少し頭が興奮し過ぎたらしい。長く息を吐いて気持ちをリセットさせる。買い物帰りの井戸端会議のおばちゃん達に見られている様な気がして、正面を向いたまま話す。

「そう。久しぶりに飲まないかって連絡来てさ。明日定休日で仕事ないし、今日行くことになったんだ」
「そっかぁ」
 それからリカさんは黙った。気まずい沈黙が流れてしまった。幸成の頭はまたしても混乱する。何か話さなければと思うほど、意味不明な単語だけが頭を駆け巡る。一体自分は、何をこんなに混乱しているのか。

 アパートが見えてくる。結局無言のまま、ここまで来てしまったわけだ。

 ふふふ。と、隣のリカさんの漏れた笑い声が聞こえた。
「え?なに、かな?」
 何気ないように振り向くと、リカさんはいつも笑顔で幸成を見上げている。
「まあまあ、楽しんできてよ」
「え?うん。ありがとう」
「それと、今度は私にも奢ってちょーだいね」
「え?いや、今日は別に奢りとかじゃ」
「それじゃっ」
 くるりと回転するように幸成の正面に立って、ぴしっと敬礼をする。
「楽しみにしてるねー」
 言い残してすぐに走り出す。トレンチコートの裾がひらひら舞うのを、幸成はなんとなくぼんやりと眺めていた。
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