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寒い日
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今年は秋が無かったように思う。夏が終わったと思えば、急に冷たい空気が街を包み込んだ。Tシャツで走り回る小学生を見つけて、元気だなぁとジジくさく苦笑いした。
コートにはまだ早いかなと厚手のパーカーで頑張ってはいるが、やっぱり夜は寒い。周りの目を気にせずコートを出してしまおうか。いやでも・・・・・・と自問自答を繰り返しては未だに長袖にパーカーというスタイルを続けていた。
「でもやっぱり、明日はコートかな」
「だね。もう私寒くて凍りそう」
「まだ10月なんだから、そう簡単に凍らないでもらえるかな」
「ユキ君冷たいなぁ」
バイトの帰り道、いつも通りリカさんをからかいながらけらけら歩く。まだ日のある時間帯ではあるが、これからぐんと気温は下がるだろう。家に着く頃にはもっと寒いに違いない。
リカさんは1つ年上だが幸成にしたら後輩だった。大学を出て1度は就職したらしいが、1年経たずに辞めてしまったらしい。今年の春から同じバイト先に入って来た。
幸成たちが働くのは、個人経営の定食屋だ。60代の夫婦がやっている店で、夜は息子が居酒屋をしている。個人の店と言っても、店内は結構広くそれなりに忙しい。
そこで幸成は主に厨房を担当している。昔から料理を勉強してきたから、美味い自信があった。初めは店長の補佐として入ったのが、今や新メニューの提案までするようになっている。
どんな形でもいい。料理に携わる仕事が出来ていることは幸せだった。
よく、趣味を仕事にしない方がいいというが、それは違うと思う。例えば、本を読むのが好きな人が小説家になって、ストーリーが思いつかなかったり、締切に追われて苦しくなる事はあるかもしれない。それが例えば、物語を書くのが趣味だという人がいたらどうだろう。もちろん締切に縛られる事にはなるが、自分の中で孤独に完結していた物語が、自分の知らない、色んな人の手に渡って行く。世界が広がっていく。夢のようではないか。
ただ作るだけに終わらない。趣味を仕事にするなというのは、気持ちの方向によるのだと思う。受け手の側か、送り手の側か。幸成の場合、もちろん食べる事は大好きだ。美しい盛り付けや、可愛らしいお菓子にも心を奪われる。そして何より、作る事が好きだ。
好きな事をしてお金を貰える。確かに今はただのアルバイトではあるが、どんな形であれ、料理の仕事が出来ている事は幸せだった。
「今日はシチューにでもするかなぁ」
そう呟いて、リカさんはちらっとこちらを見た。これがマンガだったら、顔の横に『ワクワク』とか書いていそうな輝いた顔だ。
いつのもパターンだ。
「もしかして、僕が作るんですか?」
「うわぁ!ユキ君が作ってくれるのぉ!?」
いつもの通りわざとらしい返事で、リカさんは両手で口元を覆うようにした。思わず渋い顔をしてしまう。
「だってさぁ、ユキ君が作ってくれた方が2000倍くらい美味しいんだから。いいでしょー。おねがーい」
「まあ、いい、けど」
「やったー!やっぱり持つべきものは年下の先輩だね」
これは偶然なのだが、リカさんとは同じアパートに住んでいた。8階建ての、2階と6階。リカさんがうちに面接に来た日、店長が教えてくれた。別に興味がある訳では無かったし、幸成から話題を振る事も無かったのだが、そりゃあ家も仕事場も同じとなれば、気づかれない訳がない。今では夕飯を集られる仲となっている。
ほくほく笑うリカさんの横で幸成は、シチューの材料を割と真剣に悩んでいた。
コートにはまだ早いかなと厚手のパーカーで頑張ってはいるが、やっぱり夜は寒い。周りの目を気にせずコートを出してしまおうか。いやでも・・・・・・と自問自答を繰り返しては未だに長袖にパーカーというスタイルを続けていた。
「でもやっぱり、明日はコートかな」
「だね。もう私寒くて凍りそう」
「まだ10月なんだから、そう簡単に凍らないでもらえるかな」
「ユキ君冷たいなぁ」
バイトの帰り道、いつも通りリカさんをからかいながらけらけら歩く。まだ日のある時間帯ではあるが、これからぐんと気温は下がるだろう。家に着く頃にはもっと寒いに違いない。
リカさんは1つ年上だが幸成にしたら後輩だった。大学を出て1度は就職したらしいが、1年経たずに辞めてしまったらしい。今年の春から同じバイト先に入って来た。
幸成たちが働くのは、個人経営の定食屋だ。60代の夫婦がやっている店で、夜は息子が居酒屋をしている。個人の店と言っても、店内は結構広くそれなりに忙しい。
そこで幸成は主に厨房を担当している。昔から料理を勉強してきたから、美味い自信があった。初めは店長の補佐として入ったのが、今や新メニューの提案までするようになっている。
どんな形でもいい。料理に携わる仕事が出来ていることは幸せだった。
よく、趣味を仕事にしない方がいいというが、それは違うと思う。例えば、本を読むのが好きな人が小説家になって、ストーリーが思いつかなかったり、締切に追われて苦しくなる事はあるかもしれない。それが例えば、物語を書くのが趣味だという人がいたらどうだろう。もちろん締切に縛られる事にはなるが、自分の中で孤独に完結していた物語が、自分の知らない、色んな人の手に渡って行く。世界が広がっていく。夢のようではないか。
ただ作るだけに終わらない。趣味を仕事にするなというのは、気持ちの方向によるのだと思う。受け手の側か、送り手の側か。幸成の場合、もちろん食べる事は大好きだ。美しい盛り付けや、可愛らしいお菓子にも心を奪われる。そして何より、作る事が好きだ。
好きな事をしてお金を貰える。確かに今はただのアルバイトではあるが、どんな形であれ、料理の仕事が出来ている事は幸せだった。
「今日はシチューにでもするかなぁ」
そう呟いて、リカさんはちらっとこちらを見た。これがマンガだったら、顔の横に『ワクワク』とか書いていそうな輝いた顔だ。
いつのもパターンだ。
「もしかして、僕が作るんですか?」
「うわぁ!ユキ君が作ってくれるのぉ!?」
いつもの通りわざとらしい返事で、リカさんは両手で口元を覆うようにした。思わず渋い顔をしてしまう。
「だってさぁ、ユキ君が作ってくれた方が2000倍くらい美味しいんだから。いいでしょー。おねがーい」
「まあ、いい、けど」
「やったー!やっぱり持つべきものは年下の先輩だね」
これは偶然なのだが、リカさんとは同じアパートに住んでいた。8階建ての、2階と6階。リカさんがうちに面接に来た日、店長が教えてくれた。別に興味がある訳では無かったし、幸成から話題を振る事も無かったのだが、そりゃあ家も仕事場も同じとなれば、気づかれない訳がない。今では夕飯を集られる仲となっている。
ほくほく笑うリカさんの横で幸成は、シチューの材料を割と真剣に悩んでいた。
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