傷を舐め合うJK日常百合物語

八澤

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◆極秘のヴァーチャル・トルネイド 03◇

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◆◇◆◇
──スマホから流れるつっかえまくる実況音声。
──変な汗が出てくるんですけど……。
──辞めた方がいいかな~でも聞き入っちゃます。
◆◇◆◇


『はい、ど、どーも、こんにちはサ……いや……サクラコです。今日は……というか、初めてなんだけど……早速ですね、始めようと思います。あっ、スプラッシューンです!』

 これは、どう聴いても私の歌声、ではない。
 実況、という奴だ。

『マジマッチではなく、イベント戦が開催されているのでイベントをやります。友達と一緒に参加してます。名前は……ビームです。ビーム。あと一戦勝つことができれば、決勝ラウンドに残れるんですけど……』

 レイ→光線→ビーム、とゲームで名前入れる時はビームです。レーザーとかも考えたけど、ビームの方が可愛い。サクラは「レイ……光的な意味もあるから閃光はどうかしら? 読みはライトニングもいいわね」と自信満々に言ってきたけど丁重にお断りした。

『あぁっ……ここで敵チームの陣地を取れば確保できれば、この後楽になるんですけどぉ……あっ、あっ……レイぃ、……頑張って、あ、違いますビームです、ビーム!』

 あ、やっぱサクラの声だ。
 うん、先週の一緒に遊んだ時の話だね。

『ラスト1分、正念場です。敵が……来てます、ので……一旦迂回ます。正面から向かって出会うと敵が仲間を引き連れている可能性が高いためです。壁を伝ってここからですと、一方的に……はい、行けました! 待ち伏せもありませんこれなら……あっ、なんでレイが飛んでくるの!』

 だってあの時はサクラが一人で突っ走るから援護しないと! って思ったの。

『あ、敵に気づかれました、やっぱり……。ここはもう……レイを……ビームさんを囮にしながら迎え撃つしかありません。』


 --ダンッ!!

 突然爆発したような音が響く。スマホからじゃなくて、足元、下の部屋から。
 私は再生しているアプリを閉じ、アプリ一覧からも消した。
 ──証拠隠滅。


 ガンッ!!! 


        バン! 
      すってんころりんどんがらがっしゃ~~~~~~ん!!

 ぐちゃ、
    ぬちゃ……
  


             ドカバキガンゴン! 


 ダンッ
  ダンッッ
   ダンッッッ
    ダンッッッッ
     ダンッッッッッ
      ダンッッッッッッ
       ダンッッッッッッッ
        ダンッッッッッッッッ
         ダンッッッッッッッッッ
          ダンッッッッッッッッッッ!


 あちこちに体をぶつけるようにして何かが迫る。音から察するに猪のような猛獣が「レイ!!!!」サクラだった。

 サクラなの? と一瞬疑う。
 何故なら、今まで見たことないほど焦りに焦った表情で私を睨むから。
 血走った瞳はギラギラ。
 汗はダラダラ。
 呼吸はゲェゲェと無理矢理喰うみたいに空気を吸い込んでる。

「なぁに?」

 --私は、
 とても
     たおやかな
    ★穏やかな
     緩やかな
     健気な
     初々しい
     威風堂々とした
     甲斐甲斐しい
            雰囲気を纏って振り向いた。

 やれやれ、自分でもその普段極まりない微塵も怪しくない姿にビビっちゃうぜ。

 私の予想していた展開とは異なる状況に追い詰められても、冷静に対処する。私にはそれができる。普遍的な漫画やアニメだったらキャラクターがポロッとボロを見せる展開になるだろうが私はそんなヘマしません。

 ってかバレたら危険だ。
 サクラの度を超えた形相に本能的に色々察する。
 始まる命を賭した闘い。
 私は絶対に負けないよ。
 いくぞ、サクラ!

「それ……」
「ん?」
「スマホ、わ、私の!」サクラの口は飛び出す想いを抑えきれないようにブルブル震えてる。

「そだよ」
「あの」
「私の曲さ」「え?!」「あ~聴いてないよ。やっぱ自分で自分の曲聴くの恥ずかしいじゃん」「あ……そうなの」

 サクラは私の能力を使わずともほっと胸をなで下ろしているのがわかる。強張っていた顔が顔が緩んだ。

「滅茶苦茶凄まじい音を立てながら戻ってきたけどなんかあったの?」
「え……」
「2階に居ても音が聴こえたから何事かと思った」
「そ、そう? ただちょっと駆け足で戻っただけよ」
「ふうん、なんで?」
「そ、それは──」

 ゴクリ、とツバを飲み込んだ。目が泳ぎ、パクパクと金魚みたいに口をパクパクしている。
 おいおい、そんな……わかりやすい反応しないでよぉ。どう見ても何かヤバイ問題がありました、でもそれをレイに悟られるわけにはいかないじゃない、こうなったらレイに疑問に思われないような嘘をつく必要があるじゃない! と考えてる顔だ。
 いや、演技という可能性は……いや、サクラに限ってそれは無いか。

「レイの曲──」
「うん」
「やっぱり、なんか聴かれたら不味いかな~と」
「なんで、サクラは別にいいじゃん。さっきも言ったけど恥ずかしいのは私だ! 音声まとめてプレイリストとか作って聴きまくりなんでしょ?」
「聴きまくりだけど……」いつもなら──「別にそんな聴かないわよ【毎日鬼リピートしてるけどね☆ъ( ゜ー^)>】」──と返してくるけど、そこまで神経が回らないのか思ったことが口に出ている。

「でもやっぱり聴いてみようかな。自分の声って客観的に聴くと変な感じするし」

 私はサクラのスマホを見つめ、画面をタップしようと指を近づける。

「駄目よっ!」
「なんで?」スマホの画面まであと数センチのところで指を止める。「レイ、恥ずかしさで悶えるわよ」
「ううん、大丈夫」
「この前私がレイの同人誌朗読したみたいになるわよ」
「あ、あれは仕方ない。でも今回は違うよ。さぁ~押しちゃおうかな~~~」
「あ、あ……」

 サクラは声も出せない感じで右腕を伸ばして震えている。
 サクラを追い詰める感覚に体が疼くのを感じた。
 サクラの反応が堪らなく可愛い。
 だけど、その瞬間、私の脳裏ある物語が描かれる──。

###
## -私の中の私-
##  ※全て私の妄想です。
##  ※刹那の思考です。
###

 視界が歪んだ。
 空間がぎゅっと圧縮されて、まるで時間が止まったみたいに灰色な画面に変化する。
『それ以上サクラを虐めるのは可愛そうです』
 声が聴こえた。はっとして視線を下げると、小さな何かがフワフワ浮いている。
 ──くまたん、だった。
 背中に天使の羽が生えた手のひらサイズのくまたんが私に語りかける。
『もうサクラにスマホを返してあげなさい』
『おいおい、マジかよ』
 また別の声がした。なんと別のくまたんが出現した。天使のくまたんと対になるように、悪魔的な羽をつけたくまたんだ。口調も悪い。……典型的な天使と悪魔が出現してしまい、私の妄想力はこの程度なのか? と哀しくなる。
『サクラに言わねぇつもりか? てめぇの実況ボイス聞いちまったぜ、ってな』
『無論です。現在のサクラの動揺する姿を見る限り、サクラに真実は伝えない方が無難でしょう』
『いいや、洗いざらい喋るべきだろうが。ここで下手に嘘つけば拗れるぞ』
『レイ様であれば秘密を胸に秘めたまま、いつも通りにサクラに接することができるしょう』
『あぁ、確かにレイ様はそこんとこ賢いからな、サクラに悟られるなんてヘマを犯すはずがねぇ。だが、いつまでも隠し通せるとは限らねぇなおい。ふとした拍子に気づかれる可能性は無きにしもあらずだ。そん時はどうするつもりだ?』
『レイ様であれば如何なる窮地に追い込まれたとしても、勇猛果敢に立ち向かえるでしょう』
『だろうな。だが、今の論点はそこじゃねぇ!』
 以下略。
 ──二匹のくまたんは両手でがっぷりよつに組んで乱闘を始めた。凄まじい攻防。両者互いに空を飛んでいるので三次元の立体的な戦闘を繰り広げる。一進一退の攻撃の応酬に火花がバチバチと飛び散った。
 でも、悪魔くまたんの一瞬の隙をついた天使くまたんの拳が顎に突き刺さる。
 ガクガク……と悪魔くまたんの足が崩れる。脳を揺らした。天使くまたんは背後に飛びつくと、両手で悪魔くまたんの翼を掴んだ。そして、躊躇なく引き抜く!
『ぐ、ぐあぁぁぁぁああああ!』
 断末魔を上げながら悪魔くまたんは堕ちた。
 翼を失い、もう二度と空を飛べない体になりながら。
 堕ちる中でその血走った瞳はいつまでも天使くまたんを眺めていた。天使くまたんはチラリと悪魔くまたんを見据えた後、即座に視線を外して私を見やる。
『さぁ、サクラには隠し通すのです』
 で、でも……。
『これは、あなたが選んだ選択肢ですよ、レイ様』
 そうだった。
 こうして妄想の中で天使と悪魔を闘わせたところで、答えを出したのは、私だった。

####


 私はスマホに指がつく寸前で……辞めた。

「はい、返すよ」

 ほいっとサクラに渡す。自然な仕草。流暢なやり取り。サクラは私とスマホを交互に眺め、ゆっくりと受け取った。隠すようにポケットにしまう。そのまま恐る恐る部屋の中を歩いて、ベッドに腰掛ける。

「う、ん」
「あとさ、やっぱり最初はそんな感じだよね」「ん?」「誰だってその程度だよ。ゲームしながら思ったことをスラスラ口にするのって難しいよ。私の名前を何度も間違ったのも回数を繰り返せば乗り越えられる。今はまだ、目の前の状況について語るだけだけで精一杯だったけど、次第に雑談を交えたり、面白いリアクションを取れるようになるはず──」

 別に、天使を裏切ったわけではない。悪魔に寄り添ったわけでもない。
 私は、
 私に従った。
 ──好奇心。
 本能に突き動かされ、そう口にしていたのだ。

 ──ヒュンッ!!!

 空を切り裂く音が響いた。
 咄嗟に頭を下げた。
 反射的に。
 ──読んでいたけど、本当に攻撃してしきた~怖い~。
 サクラはベッドから立ち上がると右手を持ち上げ、思いっきり振りかぶり、首を狙って腕を振るった。あの時は軽くトントン! って当てただけなのに、今度はガチのマジで、私の記憶を消し去る! という迫力を込めて。ってかだから首に当身しても記憶消えるわけじゃないって!
 あまりの凄まじさに空気が焦げ付くような匂いを感じた。
 もちろん幻臭だ。
 それほどサクラの本気度が桁違いって、ことだ。
 私は頭を下げて、そのまま倒れ込む感じでサクラの腹部に飛びついた。お腹をぎゅっと抑え込みながらベッドに押し倒す。「ぎゃっ!?」

 そのままサクラの背後に絡みついて攻撃されないよう拘束する。

「はぁ、はぁ……危なかった~~。私の反射神経頑張ったぞ」
「レイ、あんた……聞いてないって」
「うん、その通り、”私の歌”は聴いてないよ。嘘は、言ってない、でしょ?」「あっ……」「しかしサクラさんの実況音声についてはお察しの通り聴いてしまいましたでございます」
「えっ……」

 ミチミチとサクラの体に力が送り込まれるのがわかる。理性の箍が外れようとしている。私はサクラを背後から拘束しながら手を掴む。肌に触れる。サクラの渦巻いた感情がどばっと流れ込んできた。なんて混乱ぶりだ。でも【レイのピリピリ……】と理性が戻ったから勝機はある。

「落ち着いて、サクラ、落ち着いて……」
「ふぅ、ふぅ……」
「私も別にサクラのスマホを漁って悪意を持って聴いたわけじゃいんだよ。サクラがこれ聴きなさい、って私にスマホ渡したの、覚えてるでしょ? サクラが聴かせたんだよ。──つまり私は悪くない!」
「間違えた……のよ」
「そうだよ。その通りです」
「記憶を……」
「首打っても消えないって!」
「う……うぅぅ……そうだけど」

 サクラの体から力が抜けてくるのがわかる。でも【ここで一旦冷静になったフリをしてどうにか……】と私の隙を伺っているのでまだ拘束は解きません。はぁ、私の能力こういう時に滅茶苦茶便利!

「サクラは……あ、あの、実況者だったの?」
「……違う」
「じゃあなんで」
「……別にただなんとなく、最近上手い人の動画を見て、私も試しに実況しながらプレイしたら上手くできるかも、と考えて……」
「実況者目指すの?」
「目指さない」
「……さっきは色々上から目線で批評してしまっけど、サクラの実況さ、光るモノ、感じたぜ」
「だから違くて……」「顔出しイヤなら可愛いキャラクターを映すVtuberもある。それにサクラだったら顔出してリアルJK実況やったら滅茶苦茶盛り上がりそう。投げ銭で稼げるよ!」
「しないって……ホント、もう辞めてよ」

 しない、と聴いて少し安心した。だって、サクラがなんかコメント欄を煽るようなこと喋ったり、なんかちょっとえっちな発言したりしたらショックだよ……。サクラは私だけを見て。実況者になってもいいけど私だけに公開して、と伝えようとした。

 が、ザラザラ……と不快感が溢れたので辞めた。
 サクラから感じたこの感覚は、自分の実況音声を私に聴かれたくない、と思ったからなんだね。やれやれ、そんなことで……と呆れつつ、まぁ確かに自分の録音音声聴かれるの辛いか。私があの時話題に出して、思い出したから聴かれたくない! と思ってザラザラさせた、ってことかな。

「もう、次はちゃんと私に聴かれないよう鍵つけて隠しとくんだよ」
「……そうね」
「というか録音するな」
「うん」
「サクラ?」




























ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 古いホラー映画で見た、昔の丸くて太いテレビの砂嵐みたいな音が、流れ込んでくる。
 サクラの感情は依然として、拒否感の圧が強い。止まらない。むしろ冷静になることで切れ味が鋭くなるように鮮明になる。
 掴んでいる手を思わず離したくなる。臭いみたいにサクラから何か嫌な感じが溢れている。瘴気みたいな吸ってはいけない空気を纏っている。
 どうして?
 そんなに聴かれるの、イヤだったの?

 ドキ、ドキ、ドキ……とゆっくりだけど強く脈を打つサクラの心音がやけに聴こえる。
 どうしよう次の一手を考えねば……。

「あ、あの……」サクラはぎゅっと私の指を掴んで口を開く。
「ん?」
「……最後の」
「最後?」
「最後のあの言葉は……なんか勢いで口にした、そう……そうなのよ、別に変な意味とか無いの」
「サクラ? もごもごしてどうしたの?」
「実況の……最後の……アレ」

 何だっけ?
 ……嗚呼、私を囮にして迎え撃ちます! ってやつか。

「まぁ確かにあの言動は酷いよ。極悪! まさかサクラがそんなこと思っていたなんて……失望しました」
「え……」

 ぞわっと寒気のような気持ちが指先から広がる。指から壊死するような非道い戸惑う。
 え、待って待って待って!!? そこまで驚くこと?
 だって私のこと囮にするって非道いよ~ってじゃれ合う感じで言っただけ。
 おかしい。
 何かが、食い違っている。
 集中しろ。サクラの感情を読み取るんだ。

「最後のアレって、私を囮にします! って奴だよね?」
「……え、違う」
「え、そこで終わったんじゃないの? まだ先があったの? 私、その部分まで聴いてサクラが死にそうな顔して近づいてきたから聴くの辞めたけど……」
「あ、なんだ……そっか」

 はぁ~~、とサクラは安堵のため息をついた。
 ふにゃっと体が溶けるように緩んだ。
 ふふっ、華麗なる危機回避。

「え、何何? 私を囮にした後、なんて言ったの?」
「さぁ、覚えてないわ」
「ウソつけ! お前今こっちが心配になるほど動揺したのに! あ~~わかった、私のことめたくそにこき下ろしたんだ!」
「はいはいそうよ」
「あ、この反応は絶対違う」
「ううん、その通りよ。ホントいつも私の思考を読み取るのね~」
「ちょ、バカにするな! じゃあ読み取ったるわ! 最後に言ったことを思い浮かべてください」

【レイのことが大好き】

「最後に自己紹介というか、一緒にプレイしたレイについて簡単に説明しただけよ。確かに、今思うとそんなに変なこと言ってなかったわね」

【「私の一番の友達で、親友で……毎日一緒に居て、私は──レイのことが大好き」と言った。……言わんければ良かった。普段からレイのこと、可愛い! 大好き! って思っている癖に、なんか調子に乗ったのか「好き」と声に出していた。普段好きと思う時は、いくら大好き! と頭の中で唱えても、ふわっとした実態の無い……いや、その感情から目を逸らす感じで、強く意識しようとしなかった。けど、声に出したことで、レイのこと大好き、って感情を文字に脳内で変換し、その想いを声として宣言した瞬間、まるで自己暗示にあった気分。意識するというか、レイに対する想いが実体を帯びて、私の中で強い存在感を放っている】

「レイ、もういい加減力緩めなさいよ」
「あ、はい……」

【聴かれたくなかった。もしも聴かれてしまったらレイがどう思うのか──ううん、それはどうでもいいかもしれない。レイが何もを思っても気にしない。……もちろん好意的に反応が帰ってくる方が嬉しいし、引かれたら絶望の淵に追いやられる。でも、それ以上に、伝えた瞬間、もう後戻りができない気がするから──。だって私の好きは、やっぱり違う。違った。女の子同士の仲良しです! って意味の好きじゃない、と確信した】

「あのイベントで最後にレイを囮にしても勝てなかったから、次に挑む時はもっと作戦練ってから参加しましょう」

 サクラはくるっと私の腕の中で回転して私を見つめる。
 ヤバイ、と思うも時既に遅し──。

「レイ……ってかあんた、顔真っ赤。なんか体も、普段冷たいのに暑い……え、待って、あんたはどこまで聴いていたのッ!?」


◆◇◆◇
ep.極秘のヴァーチャル・トルネイド
03

◆◇◆◇
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