傷を舐め合うJK日常百合物語

八澤

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大晦日、夢

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 大晦日。
 私の家で年を越すことになり、レイと朝からダラダラ過ごしていた。ホントはレイ家の炬燵でヌクヌク暖まりたかったけど、レイ家に親戚が集まってうるさくなるとか。できればレイと二人きりがいいわ──と願っていたら、レイは私の思いを汲んでれ、私の家で過ごすことにした。

 去年は海外で年越しをする母に呼ばれたけど、母の知り合いばかりの存在するキラキラした異空間で凡人の私に存在価値は無いから行かない、行きたくない、友達と過ごすから──と断った。

 タブレットにテレビを映して、年末の長過ぎる特番を流していた。
 ……柔らかいクッションに二人で埋まりながらぼぉっと鑑賞する。初めはレイがクッションを占領したので私はベッドの上に居たのに、「サクラ寒い~」とか喚いて、仕方なく──ホントはそんなに寒くないんでしょ? って内心思いながら、でも……「はいはい」とウキウキしながら向かってしまう私はチョロい。

 大きなクッションだけど、二人で乗るとどちらかが落ちそうになるので密着しなければならない。
 レイの背後に密着し、両肩の上から腕を通して、優しく拘束する。
 まるで巨大な人形を抱きしめているみたいだった。
 嗚呼、柔らかい。
 もちもちふわふわふにゃふにゃ……。
 色々と。
 こうしてレイの感触を味わうのが好き、大好き……。
 もう今年は何十回、いや何百回とレイを抱き締めて、色々堪能してるのに、未だにレイの情報を浴びるたびにドキドキする。頭の中でじわっと快楽の汁が迸るのがわかる。脳みそに力を込めないと途端に蕩けてしまいそうだった。

 顎でレイの頭部を抑えながらタブレットを眺める。レイはお笑い芸人のしょーもない掛け合いに一喜一憂し、そんなレイが可愛くて堪らないヤバイ……。レイが楽しそうだと私まで楽しくなるじゃない。

 暫くテレビを視聴していると、レイがワクワクを全身で表すように蠢く。何故ならレイの愛するゆるキャラ、くまたんが出場する『年末特番! 大ゆるキャラ・アルティメットバトルロワイヤル!』という番組が始まるからだ。全国のあらゆるゆるキャラが集い、大乱闘を繰り広げる。年末に見る番組がこれ……と嘆くも、主に肉弾戦なのでそれなりの迫力があった。で、くまたんを必死に応援するレイは面白くて愉快だ。まぁくまたんは予選の大乱闘で他県のゆるキャラに無残にも押し出されて敗北してしまったんだけどね。レイは落胆しながらも、涙声で健闘したくまたんを讃えていた。私はレイの律儀な姿に苦笑しつつ、レイが私の体に触れる感触を楽しんでいた。私の体にレイの感触が擦れるたびに嬉しさが私の体を突き破るかのように湧き上がる。無駄にエキサイトしてスリスリされるから、その感触も心地良かった。私もなんか抱きついちゃうし……。

 クッションに埋まりながら、私たちを覆うように毛布をかけていた。レイの柔らかさと温もりを堪能していると、あまりの心地よさにこのまま眠りそう。一日ずっとこうしてレイを抱き抱えている。寒いから、大晦日でダラダラしたいから、って色々言い訳を私──とレイがお互い口にして。もう言い訳にもなっていないのに──。

 レイの頭部に顔を押し付け、サラサラした髪に顔を埋めて呼吸すると、これ以上ないってくらいに安堵する。レイの匂い、成分が私の中に充満する。はぁ……。レイに、ずっと、浸っていたい……。時々何かが抑えきれない衝動に背中をぐいぐいと押してくる。レイに体を密着させて、力を込めていると、私の中で何かが……。

「サクラ?」
「ん?」
「どうしたの、眠いの?」

 くるりと私の中で反転し、レイは小首を傾げる。その小動物のような愛らしさにぞわっと寒気に近い恐怖と歓喜に満たされて心が震える。あまりの可愛さに混乱しそうになる。目の前が真っ白になって、思考がフリーズする。尊さを通り越して腹立たしい感じにもなり、それも過ぎて……とわけのわかんない感情が私の中で渦巻いた。

「そうかも」
「えぇ、これから始まるんじゃん。一緒に見ようよ~」

 あと1時間ほどで、年末恒例となったお笑い番組が始まる。笑ったらお尻を叩かれるという過酷な番組だ。私はどちらかというと紅白派なのでたまに見る程度だったけど、そういえばあの人が大好きだったわね。

「紅白も、見たいわ」
「え、録画してるんじゃないの?」
「こっちも撮ってるんでしょ?」
「うん、でもやっぱり生で見たい。今年もお尻しばかれる芸人さん達のリアクション楽しみ~」
「そうね……。そうそう、知ってる? 昔はお尻を叩くんじゃなくて、吹き矢で針を刺していたのよ」
「え、お尻に?」
「前にDVDで見せて貰ったけど、笑ったら吹き矢を持った人が登場して、お尻にずぶり、って。笑えるけど本当に痛そうで、ちょっと可愛そうだったわ」
「お尻血だらけになりそう……」
「らしいわね。下着が真っ赤に染まるとか」
「ひぇ、恐ろしい」

 レイはわざとらしく震え、私の胸元に顔を寄せる。私も、レイの頭部を抱きかかえるようにしながら、僅かに力を込める。この感触、温もりがヤバイ。もうホント安心するというか、和む……。レイの頭部に頬を当てて目を瞑ると、レイがくすくすと笑い始めた。

「何?」
「ううん、なんかサクラが気持ちよさそうで……」
「部屋の中暖かくし過ぎたから、レイの温度が丁度いいの」プラス少しだけピリピリする感触もヤバイ……。
「冷たくない?」
「直接肌が触れると寒いかも」
「ふーん、じゃあ触っちゃおう」

 何がじゃあなのよ、と思いつつ手を握ると予告されたら私は逃げることができない。ドキドキと幼い子供みたいにレイの指を待ち望んでしまう。
 レイの片手が私の指を捉えた。
 傷をすりすりと撫でる。
 偶然指先が触れた風を装って。だから辞めてと言い辛い。レイと出会った頃は傷を触られるのがイヤだったけど、次第に慣れた。というか、触った時に蘇る恐怖と憎悪すらレイに操られているようで、なんか……被虐的な快感を覚える。同い年の大好きな親友に、話していないはずなのに私の秘密を読み取られ、そして弄くり回される不快感、と快感──。気持ち悪い恐ろしい辞めて欲しいと願うけど、傷をスリスリと擦られるのが待ち遠しい矛盾。

「心臓の音がうるさい」
「ごめんね」
「ホント、触られるとドキドキしちゃうんだね、怖いの?」
「さぁ」怖い、もある。
「ふふふ……ふぁ、暖かいからなんか私も眠くなっちゃったよ……」
「今寝たら寝過ごすわよ」
「アラーム設定しとこっと。ふぅ」

 瘡蓋も消えて、痕だけを残して消えた傷のはずなのに、まだ生々しい傷口が私の中に残っている。
 いつ、消えるのか。
 体は痕は残すけど再生してくれるのに、精神は……心は未だに癒されない。むしろ、ってかレイがこうしてグリグリイジってくるから、忘れられないのよ。憤慨しつつ、拒否できない私が哀れ。

 がしっと不意に指が掴まれる。
 私たちの指がまるで癒着したような錯覚を覚える。けど、即座にレイの指の感触を、私の指に備わる無数の神経が精密に教えてくれる。触れ合う箇所から、まるでレイの感情がトクトクと脈動に合わせて流れ込んでくるみたいでまたドキドキする……。動揺しても顔を隠せばどうにかなるけど、心臓は……こう密着されているとどうしようもないわ……。距離を……って足が絡まってる。レイはぎゅっと更に密着してくるし……。お腹や胸が触れる。嗚呼、レイに聴かれてしまう。どうして私が胸を高鳴らせているのか、その理由を、こうしてレイも手を繋いでいるのだから、きっと感じ取ってしまう──。
 ドクドクドク! と響く胸にレイは顔を埋めて音を聞いている。

 わかるのかな。
 私の気持ち、想い、考えてること、全部──。
 だったら大好き──って念じたら感知しちゃったりする?
 大好き、
 大好き、
 大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き!

 ありったけのパワーを込めて、レイのことを考える。今年レイと出会ってから今日までを、まるで走馬灯みたいに。傷のことを言われて、手を握られて、カラオケで私が泣いて、映画館ではレイが泣き、同人即売会に参加したり、水族館でレイを見失い、チケットを貰って苦痛に喘ぐレイの刹那──。
 私の中で絶叫するかのように、レイ大好き!!!!! って唱える。

 その瞬間、
 じわっと、熱がレイから溢れた。
 抱きしめていたレイが僅かに温度を上げたので驚く。……まるで、私の想いに反応するかのように。
 ドキッと心臓が強く胸を打った。
 誰の?
 私、それとも……レイ?

 恐る恐るレイを見やる。
 頭が私の視界には映る。私を睨むと思ったのに、顔を私の胸元に埋めたまま。

「レイ?」

 ……眠ってる?
 すぅすぅといつもの寝息が聞こえる。でも狸寝入りってことも考えられる。私はレイの拘束を解き、そっと移動して、レイの顔が見える位置まで下がった。
 ってか本当に……美少女。
 目を瞑って眠っていても、ずっと眺めても飽きない顔の構成……。可愛い、なんて言葉では言い表せない愛らしさ……。こうしてまじまじと眺めることができるタイミングは限られてる。スマホに撮った写真を拡大するくらいしかないから、これ幸い……と見つめてしまう。
 もうすっごく近い。
 つん……と鼻が触れ合う距離。
 レイ、本当は起きてるんでしょ。寝たふりして、私が何をするのか観察してる、もうわかるんだから。
 ねぇ……。
 レイ。
 大好き。
 今の感情を文字に表すと『大好き』が一番近いかも。
 ……ふふ、もうドキッって心臓揺らさない? 寝てる? それとも我慢してたり。あぁ、そういえば前にあなたをお見舞いを行った時、ベッドに横たわるレイを抱きしめて色々と想いを込めたら、なんかレイは暴走して驚いたわ。あの時は熱で暴走したのかと思ったけど、実は……本当に、マジで私の感情を読み取ってる? なんてありえない、ありえない……って言い難いような。それにレイってよく「私って人の考えてることわかっちゃうんだ」とかそういう体質とか言ってくるし。ふざけて、と思っていたけど、だからこそって場面に良く出会う。私が頭の中で思い描いた台詞を先読みすることもしばしばある。

 ねぇ、レイ……。
 これから、キスしようと思うんだけど。
 いい?
 このまま──レイが起きないのなら、キスする。ってか、抑えられないの。なんかレイとキスしたいって欲求が、飢えみたいな感覚──記憶? が時々私を急かす。何も覚えていない、記憶なんて存在しないはずなのに、ぬちゃぬちゃとした甘い食感だけが残っている。
 イヤなら、困るんだったら、私の想いを感じ取っているのなら、目を覚まして私を止めて──。

 レイの小さな顔を、頬をそっと片手で触れる。もう片方はぎゅっと握られたまま……。
 頬を擦っただけでも、ピリピリと痺れる。
 不思議な感触。
 冷たいってわけじゃない。
 レイの肌を触った時だけに感じる……いや、似たような感覚をどこかで……。
 モチモチとした頬を摩りながら顔を近づける。
 これ以上は当たっちゃう。
 ……レイ──。

 ──恐かった。
 だから、
 まぁ、
 その、
 やっぱり、できなかった。触れる寸前まで近づいたけど、レイはとうとう起きなかった。まぁ、そうよね。はぁ何考えてるんだか、私は……。ってか寝ている隙にキスとか、なんかフェアじゃないし、レイに悪いわ。ってか普通おかしいでしょ。逆の立場だったら、眠っている時にレイに唇を奪われたら──。それに、そもそも私の想いが読み取れるって何よ。ありえないでしょ、ホント。何勝手に頭の中でしょうもない妄想膨らませて、それ理由に試そうとしてるのよ、全く……。怖い怖い……。

 レイを抱きしめながら溜息が止まらない。
 色々な後悔の念が私の中でぐるぐると渦を巻いている。
 レイの匂いや体温を味わいながら目を瞑る。一定のリズムで繰り返される寝息を聞いていると私まで睡魔に襲われた。あと30分くらいで始まる……。アラームをつけた、とレイは言ったから大丈夫よね。目を瞑ると、テケテン! と太鼓を叩く音がタブレットから聞こえる。閉じる瞼の隙間から映る映像、これは落語……。興味ないけど、妙に耳に残る音の響きが心地良い。

☆★☆★

 意識が戻る。
 その途端跳ね起きた。時間、もう始まってる!? とスマホから時間を確認すると……開始まで10分も残ってるじゃない。
 ふぅ……と安堵の溜息をつきつつ、私の隣で眠りこけているレイを見やる。
 穏やかな顔で眠ってる。今度こそ、本当に、眠ってる。
 手は、まだ握られたまま。
 どちらも強く握ってはいないけど、こうして一旦繋がってしまうとなかなか離れないのよね。

 私はレイの肩に手を当て、揺さぶる。
 
「ねぇ……レイ、起きて」
「ん……う、う~~ん……あと五分~」
「もう始まるわよ」
「じゃあ……あと十分だけ……むにゃ」
「レイったら……」

 あまりに幸せそうにうだうだしてるので、観察することにした。まぁ、まだ10分あるし、その間レイを堪能しましょう。起きなかったら、この様子をしっかりとスマホで録画しておけばいいわね。私はレイを抱き寄せながらポンポンと頭を叩く。レイは唸りながら、私の体に吸い付くように張り付いた。

「はぁ……やっと触れる」
「さっきからずっと抱きつてるじゃない」
「ううん……夢の中で──」
「何、夢でも見てるの?」

 その瞬間、レイははっと目を覚ます。顔を持ち上げ、凄い勢いで辺りを見回した。

「あれ、どこ?」
「うちよ」
「え……えぇ、あれ……ここにあったお金は?」
「何寝ぼけてるのよ。お金なんて最初から無いでしょ」
「あっ……。あぁ、そういう……ってか夢になっとるし! や~んうっそ~、私来年はくまたんフィギュア買い占めるつもりだったのにぃ~」
「お金持ちになった夢でも見たの?」
「サクラに捌かれて、ね」

 レイが私の膝の上で悔しそうに悶ていると、やっと番組が始まった。すると、レイはお行儀よく私の足の間に収まった。レイは床に座り、私は少しクッションの上に乗っているので、また背後から抱きしめる格好になる。
 ……このまま……レイを堪能できる──。
 何故今年は紅白ではなくお笑い番組を選択したのか、その意味を理解しながら、レイを抱きしめ、レイを感じながら年を越す。最高の大晦日ね、と思わずニヤけてしまう。


//終
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