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瞳、涙 02
しおりを挟むクライマックスから怒涛の展開が始まり、今までただのペットだと思っていた犬が実は──と予想を裏切る物語に移り変わった。前半主人公達と敵対していたキャラクターが最後に身を挺して守ってくれたことで道が開けた。全ての戦いを終えるも、その代償に犬はこの世界に留まることができなくなってしまう。主人公と犬は残された平和な一時を楽しみ、お別れ。もう二度と会えず、主人公は瞳に涙を貯めるけど、笑顔で送り出すのだった。
今まで感動して涙を流すということがあまりなかったから、私の頬を伝う涙の感触が新鮮。
「うっぅっぅ……」
しかし、そんな私よりも号泣しているのがレイだった。私の胸元に顔を寄せて、えぐえぐと嗚咽を洩らしている。ぐりぐりぐり……と顔を押し付けて、シャツが涙と……うぇ、鼻水でベチョベチョ。
「レイ、ほら終わったんだから……」
レイの頭部を掴んで引き剥がそうとするも「うぅぅぅうぅぅぅう……」と唸って離れてくれない。
ひんやり胸に響く感じが気持ち悪い……。
「離れなさいって……しがみつくな!」
「……ひぅぅぅ」
「あんた泣くわけないじゃ~ん! って調子こいてたじゃない」
「だ……だってぇ……ワン…ちゃ……んん……」
「まぁ確かに感動したけど」
「くまたん……っぽくてぇ」
「どこが?!」
「模様!」
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「つまり、作中の犬とくまたんを重ねてしまい、くまたんとの永遠の別れに思えたの?」
「……うん」
「大丈夫よ。そもそもくまたん生きてないというか、存在すら……」「い、生きてるぅぅ……ひぐっ……ぐす」
「そうね、はいわかりました、もう顔をほら……鼻水が垂れてる──」
テーブルの上に置いてあった箱ティッシュから数枚抜き取り、「はいチーン」「ぶぅぅうううう!!!!」「ちょ、っとぉ!! 本気でかまないで!」
涙を浮かべゾクゾクと胸を掻き毟りたくなるような庇護欲を掻き立てる姿からは想像もできないほど、全力で鼻をかみやがった。
「だって、ち~ん言ったじゃん……ずずぅ……」
「鼻水がティッシュを突き破って出てきたじゃない! 指にあんたの鼻水が~~」
「ホ、ホントは喜んでるクセに!! レイの体液嬉しいじゃない! って」
「鼻水は喜ばないわよ」
「鼻水以外の体液なら喜ぶってのか?」
「喜びません」そうよね、サクラ……? と自問自答する。
私の中で丸くなって震えているレイの姿に強い愉悦を抱く。
可愛くて丸っこくて、普段と異なる表情──。
ただ、以前映画館で号泣した姿とは……違った。
同じくえんえん泣いているけど、まだ泣く姿に余裕を感じた。あの時は──切羽詰まっていたというか、不意打ちを受けて傷が抉られた感覚。
見ている私も痛々しくて、けど目が背けられない。レイの姿に感化して、私の掌に残る傷がじわっと濡れるように──。「サクラ」
レイは思い出し泣きをしながら、不意に私を抱きしめる。
突然の出来事に対応できず、ぎゅっと頭をレイに包まれた。
「なに……よ。ちょっとレイ?」
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バチバチバチッ
え……。
今のは?
頬を撃ち抜くような衝撃に困惑する。
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「やっぱ涙ってしょっぱいな」
「あんた……今」
「ん、舐めただけだよ」
「どうし……て?」「涙の痕をベロでペロペロしたくなったから……」
レイの頬が上気していた。
自分の言葉で興奮するみたいに笑い、舌をチロチロと蛇のように覗かせた後にベロっと伸ばす。
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「サクラの頬ってプニプニで美味しいかも。嗚呼これはまるでサクラ餅だ」「い、意味がわからない」
「ふふっ、こっちも流れていったんだねぇ」
私は無意識の内に、ぎゅっとレイを掴んでいた。
筋肉が締まる感覚。
迫りくる衝撃に備えて、レイに……柔らかいレイにしがみつく。レイはそんな私を見つめた後、再び舌を顎辺りに付着させる。
辞めて──辞めないで──。コンマ一秒レイは動きを止めたけど、即座に舌を伸ばす。
ぬぅ……ちゅっ。
一瞬の暖かさを覚えた途端、バチバチと寒気のような快楽が響き渡る。
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「ううん、キラキラ光ってる。なんか……凄く……美味しそう」
「嘘よね?」
ぐさり
と傷をレイの指先が貫く。
刹那、私の体から意識が乖離する。ふわっと浮くような脱力感を帯びた瞬間を狙って、レイの舌。
落ちてくる。
冗談でしょ。
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形容し難い衝動に体がビクンと跳ねた。
さっきの頬を舐められた時の衝撃なんて比べ物にならない──。
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その度に甘いバターを頭の中に無理やり流し込められる感覚に陥る。レイの圧力を全身で受けながら──レイとの粘膜越しの触れ合いから響き渡る強烈な快楽に、背筋がぞわっと震え上がった。
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「待って、止めて──はぁ……はぁ……レイ……ひぅ」
「ふふっ、め~っちゃ心臓高鳴ってる」
レイは私の瞳から舌を離してくれた。けど、今度はにぃっと微笑んだ後に、私の耳元に唇を近づけ、耳たぶに唇が触れるようにしながら囁く。「サクラ、可愛い……」びりっと体が破けるような衝撃を受ける。いつもの声色じゃない。レイが私を……追い詰める時の恐い声。まだ、瞳を舐められて頭の中がぐちゃぐちゃになっている中でそんな声を直に聞かされたら──。
「ほらドキンドキン! って。ねぇ心臓破けない? 大丈夫?」
「平気よ……あぅ……んぁなん……でぇ」
今度は耳に舌が這う。
先程よりかはマシだけど、それでもにゅるっと広がる感触がヤバい。モミモミと掌の傷を弄られながら、併せて耳を舐める。その行為一つ一つで私の体が分断される。途切れた部分を縫うようにレイの何かがゆっくりと入り込む。
「わぁ、舌が火傷しそう。ほらほらこうして咥えると」「ひぃぃぃ……」「熱い」
咥えられながらレイの舌が耳を溶かすように舐める。
私の体も熱いけど、私に覆いかぶさるレイの体温も上昇してるじゃない。
不意に耳からレイの口が離れ、再び今度は耳から瞳に舌が走る。私に伸し掛かるレイの感触が……正直気持ちいい。心臓から押し流される血流に乗って、快感が足の先まで万遍なく広がっていた。どうしうよう、もう理性では抑えきれない、押し流されそう、瞼を閉じればいいのに、私はレイに無言の命令を受けて──違う違う、私は自分から目を見開いていた。
気持ち悪いと思ったのに──。
辞めてほしいと心の底から願ったはずなのに──。
また無造作に覆いかぶさってまるで獲物に舌鼓する捕食者のように、レイに舐められたい。心を鷲掴みにされたようにレイに懇願していた。声には出せない。それだけは駄目な気がした。けど、そうよね、どうせ全部レイに伝わっている。
トクン、トクン……と微かに震えるレイの舌が、何も合図無く私の瞳を舐める。
釘を差し込むようにレイは爪で私の傷を押し込みながら、瞳を……。
私は、
今日は普通にいつも通りレイと一緒に映画を見て、そのまま泊まるはずだった。レイの秘密を暴こうと……なんて大それたことを考えていたわけでもなく、ただただ純粋に好奇心に促され、あの時のレイの涙の意味を少しでも理解しようとしただけ。
「……あっ」
こんな、
「レイ……駄目だって、なんか……んっ……」
足が勝手にだって……ベッドの上で、
「──ぁ、っあっ、ぁ……っ」
じゅるじゅるじゅる……ちゅ──。
//終わり
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