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◆ 果て無きパラレル・マトリクス 04 ◇
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◆◇◆◇
──03の続きです。
──サクラはまだキスをした事実に気づいていません。
──嵐の前の静けさ、そんな感じ。
◆◇◆◇
【あれ、レイの顔がいつもよりも近いじゃない……】
ぬちゅぬちゅ
【普段から顔を擦りつけてきたり、額を重ねることもあったけど、それは鼻が触れ合う程度の距離のはず……】
くちゃくちゃくちゃ
【まるで私たちの顔が重なり合っているようで不思議──】
ぺろぺろぺろぺろぺろ
【……違う、待って、いや、そうよ重なり合っては──え? ……え、え、えぇぇえええええええええええ!?!?】
ちゅぅぅぅ……う……う……
「ぷはっ」
「はぁ……はぁ……」
「むぅ、私の飴返してよ」
「はい返す返! 返します! ……って、ちょっぅ、と……一旦落ち着きなさい、レイ……レイ?! ……うぅぅ!? むちゅ……」
「ふふっ」
【レイのいつもの笑い声が私の中で鈍く振動する。ビリビリと震える振動が私の顔からも……。レイに両手で頬を掴まれて、固定した状態で唇を合わせて、あ……あ……ベロを、舌が……あっ、私の中に──】
「おい~逃げるな!」
「離して、なんかすごくビリビリ……するのぉ…………」
「ねぇ~顔背けるの禁止」
「ってかなんでキスを!?」
「ん、飴がほしいから。私もお腹減ったの。やっぱ返してよ」
「返すわよ。ほら、今取るから」「ううん、口移しがいい」「口移し──どうして!?」「だって手洗ってないでしょ? 汚いじゃん」「そっか、そうね……いやでも口移しは──」
「え、サクラは私と……キスするの、イヤだった?」
【イヤ……なの? わかんない。不意に生まれた疑問だった。かといってレイとキスしたい……それもわからない。私は、レイで……変なこと考えてしまうことが時々あるけど】私が刺激した日はいつもでしょ!【レイとのキスは……キスは、なんか……わからない。想像し難いというか、本当に一線を超えちゃうというか……。体を重ねてぎゅうぎゅうするのとは違う──ってか、レイのベロは……】
「わからない……」
「それとも、ファーストキスとか気にしちゃうタイプ」「……違う別に……」「じゃあいいじゃん、私とキスしたって」
「そ、それは……んんっ!」
【レイの指が私の耳を包むように掴む。ひやりと痺れる感覚で頭部が麻痺して、むず痒い感じに意識が掻き乱される。その間を突き進むようにレイの舌が、私の舌を……合わさって……ぬちょっとレイの唾液と私の唾液が絡まり合いながら……飴取るんじゃないの? なんで変な言い訳して私のキスを……あっ……レイの舌と私の舌が触れ合うと……いつものレイから受けるビリビリの何倍ものなんか……ヤバイ、あっ……あ、あっ!……ほ、本当に待ちなさいよ……だめ……だめぇってレイィ……】
んんん! ってサクラは顔をくしゃくしゃにしながら私のキスで虐められている。
弱点の一つの耳をスリスリ擦って逃げ場を無くす。足も固定して、私たちの骨と骨がミシミシと軋みながらお互いの体重によって絡まった。ふふっ、も~う外せないよ。ってか外さない。捕まえた。逃さない。だってサクラは、私のサクラなんだから──。
ドキン、ドキンドキンドキンッ! ってサクラの脈が早くなる。
暗がりだからわからないけど、きっとサクラは顔を真っ赤にしている。多分私も。サクラをこうして追い詰めていることになんかものすっごい愉悦を感じる。体が火で炙られるみたいに熱いよ。楽しい──とはまた異なる感覚。サクラが泣きそうな顔しながらも私の舌で絡め取られている光景は、嗚呼ゾクゾクする。
そして一つ発見したことがあります。なんと舌で絡み合うと普段よりもビリビリ痺れるみたい。これは推測だけど、粘膜で触れ合っているから、かもしれない。私も普段サクラから受ける感情が更にクリアに感じる。私の舌が奥に逃げるサクラの舌を見つけ、ぐにゅって絡め取ると、サクラの想いに合わせて強い感情がどばっと私の中でも膨れ上がる。ぎゅっと果物を握りつぶしたみたいに、快楽の液体が脳に滴り落ちてくる──。
「レ……ィ……あっ」
「ん?」
「…あ…飴、ほら……取って、いいから」
「どこに隠してるの?」
「隠してないわ! ね、舌の上に……乗せてる、から──」
「真っ暗で見えないなぁ」
【レイの言う通り、目が慣れたけど相変わらず光一つ無い暗闇。匂いや体温、感触、そして声でしかレイを判断できない。だからもしかしたら目の前で私にキスを迫るレイは私の生み出した幻想、もしくはこの世界の何か別の生物かもしれない……と怖くなる。けど、私の全身──私の細胞の一つ一つ全てが、私を抱きしめてくる存在をレイだと認識する。もう殆ど溶けて小さな欠片の飴を舌に乗せて差し出す。もう駄目だった。許して欲しかった。けどレイはそんなの無視してまた唇を重ねる。ねぷっとした柔らかい触感……。つまり、またレイとディープキスをする。またあの全身が麻痺するような感覚が訪れる……。どうしよう耐えられる気がしない】
「ちゅぅ……」
「はぁ……んっ……あっ」
「ん? 舌どこ~?」
「見て、ね? 口の……中に、飴があるわ!」
「わざわざ舌に乗せて、また舐めて欲しいんだ~。へぇ」
「はぁ!? そうしないとあんたが取れないでしょ」
「うんうん、サクラの配慮有り難いよ」
にぃっと私が思わず笑っちゃうと【レイの笑顔に吊られて私も頬が引き上がる】サクラが嫌がりながらも私を受け入れてくれたので、片耳は解放して【手が握られる】サクラの気持ちいいところ【傷のクセにレイになぞられると……本当は……とても気持ちよくて】ほらこうして爪を立てると【声が出そう……。ぐにゅ~って押し込まれると指先から全身に悪寒のような快楽が行き届く】はぁっ、はぁっ……って犬みたいに息が荒くなってる【キスだけで……】これ以上待たせるとサクラが壊れそうだから、そっと唇を重ねた。
サクラも舌、伸ばしてるじゃん。
唇を合わせるだけでぶるんってサクラは震える。生っぽい振動。唇が触れると甘い蕩けるような感覚が口から背中まで衝撃のように駆け巡る。その快楽を味わいながら舌を差し込んだ。サクラの暖かい口内に。飴が溶けて甘い唾液を感じる。他人の唾液を正確に判別する舌の機能になんか驚いた。指もそうだけど、流石生命に直結した感覚器官は感度が違うね。それを重ねるなんて、指も重ねながら。どれだけお互いのことを知りたいんだろう……。生物の本能って不思議だ──。
飴が張り付いているであろう舌に、私の舌をぶつけた。
ぬるって溶けるような弾力に合わさって、サクラの感情が一気にこみ上げてくる。
サクラの感情が濁流みたいに私になだれ込む。全身がひりひりする。なんか私まで震えちゃう……。私の体を通り抜けると、余韻が熱を持ち、体が更に火照った。心地良い苦しみ。
飴はもう殆ど残っていなくて、私とサクラの舌の間で擦れて消えてしまった。だから……ふふっ、もうキスする意味も無いのにね。辞めないよ。傷を刺す指がぎゅっと握られる。私はそのまま誘い込まれるように舌を絡めていた。粘膜が擦れ合い、その摩擦がじんじんと頭の中で響き渡る。いつの間にかサクラの片方の腕が、私をぎゅっと抱きしめ、私も……逃げられない。
「あは、は……キスだけでサクラ……動揺し過ぎ」声が震えそうになった。
「んぅ、あ? レ、レイこそ」
「私は余裕だよ」
「そう──」
「飴……」「もう溶けた」「ふうん……ま、いっか」
喜び。
嬉しい。
快感──。
じわっと温い感触が私に広がる。触れた体が燃えるように熱くて、そこから感情が伝わる。もう言葉になってない、ドロドロに溶け合った快楽だけの混沌に思えてすっごくシンプルな私への意識の結晶。触れたら簡単に粉々にぶっ壊れそうなガラス細工みたいに儚い。
もうサクラは抵抗しなかった。
私がゆっくりとサクラに覆いかぶさっても身動きしない。
私に襲われるのを今か今か……と待ち構えている。
私がもう一度サクラをロックして、片耳を擦りつつ、体を思い切り押し付けて、指を突き刺す。
ぶすりッ
「あっっ……痛い──」
「ごめん、力……入れ過ぎちゃった」
サクラの指をほどき、私は自分の指を顔の前に持ってくると……つんと鼻につく、生臭い血液の臭い。
サクラの血。
傷口を破り、私の爪の先にほんのりとこびり付く赤い液体。見えないけどね。生暖かさが指から離れない。
舐める。
口内に広がる血液の、鉄っぽい味。美味しい──わけない、か。どろっと吹き出す私の唾液に混ざり、私はそのままサクラに口づけする。
【血が……んぁっ! あぁっ……また、ベロ……んんんんんんんん!?☆★☆★☆★☆★☆★☆★!!!】
もう傷口をいたぶるのは辞めて、ぎゅっと指を重ねながらキスをする。
舌をペロペロぬぷぬぷねちゃねちゃ舐めると、サクラの快感がとろりと頭の中を満たす。
体を密着させて、サクラの熱さを感じ取りながら舌を……。もっとサクラの快楽を味わいたい。サクラが気持ちよくなるたびに、私も気持ちよくなる……。理性とか簡単に弾け飛ぶ快楽に押し流されて、私は更にサクラを責め立てる。
くちゃ、ちゅぱ……とキスの音が部屋に木霊する。
サクラの呼吸音と私の呼吸音も。
体が擦れる音もなんかうるさい。サクラの感情だけを聴きたいのに。
「レ、イ……お願い……もうだめ……これ以上はなんか……んんっ」
「まだ終わってない、はぁ……ちゅっ……そう、舌出して……」
「駄目……駄目……だ……はぁ、はぁ……レイ」
もうサクラの心臓か、私の心臓がうるさいのかわからない。
ドキンドキン! と強い鼓動が私たちの中で反復する。まるで一つの生物になった気分だけど、サクラから溢れ出る感情の渦がサクラを私に認識させる。臨界点を超えそう。……なんかこれ以上サクラを苛めたら、キスを続けたら……私たちは、今までの【友達】の領域を超えそう。そこから先の……恋人? とか、わからないけど、今まで足を踏み入れたことの無い領域に──。
「はぁー、はぁーはぁぁぁ……レイ、ねぇっ」
「サクラ……可愛い、私だけを……そう、見て」
「ううん……ん……レ……イ……んんんんっ」
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクッッ!
とサクラだけの心臓が加速し始める。
──剥がしたい。
サクラの感情をこのまま洗いざらい舐って、その奥底に存在するサクラを丸裸にしてみたい欲望に誘われた。
お姉さんぶる仮面や、もう漫画でしか見ないような女言葉を使う仮面? を引き剥がして、生身のサクラを、私の前に。私だけが知ってる。私だけが見ることを許されるサクラを──。
「……だ、レ……んんっ……ん…、ヤバイの……ほんとにぃっ……レイレイ……レイぃぃいいい」
「どうひぃたの?」
「離し……て…、……っちゃう……ぅあっ……」
「ふふっ、気持ちいくせにどうして嫌がるの?」
キスをしながら睨むと、サクラの体がドキッ! と大きく揺れた。
ぎゅぅとサクラの体が軋む。
私たちの舌は癒着したようにくっつき合い、摩擦を伝え合うように舐る。
箍が外れたみたいに拘束され、指がぎゅっ! と掴まれる。
鼻呼吸の仕方も忘れたのか、もう満足に息もできてない。
サクラの目尻に、キラリと涙が暗闇で光る。
その瞬間、しゅんと私の中でサクラを襲う感情が萎んだ。嗚呼、私は大好きな友達を酷く追い詰めて、何をしているの? と我に返る。どうしよう……と思った。不意に怖くなってしまった。私たちは……戻れるの? この世界からじゃなくて……そういうことじゃなくて……。ねぇ、先に進むだけなの? だって私たちはダラダラ停滞し合うつもりだったのに、どうして──と疑問に思った瞬間、サクラは私の中で、私に見つめられて、私と唇を重ねながら、痙攣した──。
◆◇◆◇
ep.果て無きパラレル・マトリクス
04
続く
◆◇◆◇
──03の続きです。
──サクラはまだキスをした事実に気づいていません。
──嵐の前の静けさ、そんな感じ。
◆◇◆◇
【あれ、レイの顔がいつもよりも近いじゃない……】
ぬちゅぬちゅ
【普段から顔を擦りつけてきたり、額を重ねることもあったけど、それは鼻が触れ合う程度の距離のはず……】
くちゃくちゃくちゃ
【まるで私たちの顔が重なり合っているようで不思議──】
ぺろぺろぺろぺろぺろ
【……違う、待って、いや、そうよ重なり合っては──え? ……え、え、えぇぇえええええええええええ!?!?】
ちゅぅぅぅ……う……う……
「ぷはっ」
「はぁ……はぁ……」
「むぅ、私の飴返してよ」
「はい返す返! 返します! ……って、ちょっぅ、と……一旦落ち着きなさい、レイ……レイ?! ……うぅぅ!? むちゅ……」
「ふふっ」
【レイのいつもの笑い声が私の中で鈍く振動する。ビリビリと震える振動が私の顔からも……。レイに両手で頬を掴まれて、固定した状態で唇を合わせて、あ……あ……ベロを、舌が……あっ、私の中に──】
「おい~逃げるな!」
「離して、なんかすごくビリビリ……するのぉ…………」
「ねぇ~顔背けるの禁止」
「ってかなんでキスを!?」
「ん、飴がほしいから。私もお腹減ったの。やっぱ返してよ」
「返すわよ。ほら、今取るから」「ううん、口移しがいい」「口移し──どうして!?」「だって手洗ってないでしょ? 汚いじゃん」「そっか、そうね……いやでも口移しは──」
「え、サクラは私と……キスするの、イヤだった?」
【イヤ……なの? わかんない。不意に生まれた疑問だった。かといってレイとキスしたい……それもわからない。私は、レイで……変なこと考えてしまうことが時々あるけど】私が刺激した日はいつもでしょ!【レイとのキスは……キスは、なんか……わからない。想像し難いというか、本当に一線を超えちゃうというか……。体を重ねてぎゅうぎゅうするのとは違う──ってか、レイのベロは……】
「わからない……」
「それとも、ファーストキスとか気にしちゃうタイプ」「……違う別に……」「じゃあいいじゃん、私とキスしたって」
「そ、それは……んんっ!」
【レイの指が私の耳を包むように掴む。ひやりと痺れる感覚で頭部が麻痺して、むず痒い感じに意識が掻き乱される。その間を突き進むようにレイの舌が、私の舌を……合わさって……ぬちょっとレイの唾液と私の唾液が絡まり合いながら……飴取るんじゃないの? なんで変な言い訳して私のキスを……あっ……レイの舌と私の舌が触れ合うと……いつものレイから受けるビリビリの何倍ものなんか……ヤバイ、あっ……あ、あっ!……ほ、本当に待ちなさいよ……だめ……だめぇってレイィ……】
んんん! ってサクラは顔をくしゃくしゃにしながら私のキスで虐められている。
弱点の一つの耳をスリスリ擦って逃げ場を無くす。足も固定して、私たちの骨と骨がミシミシと軋みながらお互いの体重によって絡まった。ふふっ、も~う外せないよ。ってか外さない。捕まえた。逃さない。だってサクラは、私のサクラなんだから──。
ドキン、ドキンドキンドキンッ! ってサクラの脈が早くなる。
暗がりだからわからないけど、きっとサクラは顔を真っ赤にしている。多分私も。サクラをこうして追い詰めていることになんかものすっごい愉悦を感じる。体が火で炙られるみたいに熱いよ。楽しい──とはまた異なる感覚。サクラが泣きそうな顔しながらも私の舌で絡め取られている光景は、嗚呼ゾクゾクする。
そして一つ発見したことがあります。なんと舌で絡み合うと普段よりもビリビリ痺れるみたい。これは推測だけど、粘膜で触れ合っているから、かもしれない。私も普段サクラから受ける感情が更にクリアに感じる。私の舌が奥に逃げるサクラの舌を見つけ、ぐにゅって絡め取ると、サクラの想いに合わせて強い感情がどばっと私の中でも膨れ上がる。ぎゅっと果物を握りつぶしたみたいに、快楽の液体が脳に滴り落ちてくる──。
「レ……ィ……あっ」
「ん?」
「…あ…飴、ほら……取って、いいから」
「どこに隠してるの?」
「隠してないわ! ね、舌の上に……乗せてる、から──」
「真っ暗で見えないなぁ」
【レイの言う通り、目が慣れたけど相変わらず光一つ無い暗闇。匂いや体温、感触、そして声でしかレイを判断できない。だからもしかしたら目の前で私にキスを迫るレイは私の生み出した幻想、もしくはこの世界の何か別の生物かもしれない……と怖くなる。けど、私の全身──私の細胞の一つ一つ全てが、私を抱きしめてくる存在をレイだと認識する。もう殆ど溶けて小さな欠片の飴を舌に乗せて差し出す。もう駄目だった。許して欲しかった。けどレイはそんなの無視してまた唇を重ねる。ねぷっとした柔らかい触感……。つまり、またレイとディープキスをする。またあの全身が麻痺するような感覚が訪れる……。どうしよう耐えられる気がしない】
「ちゅぅ……」
「はぁ……んっ……あっ」
「ん? 舌どこ~?」
「見て、ね? 口の……中に、飴があるわ!」
「わざわざ舌に乗せて、また舐めて欲しいんだ~。へぇ」
「はぁ!? そうしないとあんたが取れないでしょ」
「うんうん、サクラの配慮有り難いよ」
にぃっと私が思わず笑っちゃうと【レイの笑顔に吊られて私も頬が引き上がる】サクラが嫌がりながらも私を受け入れてくれたので、片耳は解放して【手が握られる】サクラの気持ちいいところ【傷のクセにレイになぞられると……本当は……とても気持ちよくて】ほらこうして爪を立てると【声が出そう……。ぐにゅ~って押し込まれると指先から全身に悪寒のような快楽が行き届く】はぁっ、はぁっ……って犬みたいに息が荒くなってる【キスだけで……】これ以上待たせるとサクラが壊れそうだから、そっと唇を重ねた。
サクラも舌、伸ばしてるじゃん。
唇を合わせるだけでぶるんってサクラは震える。生っぽい振動。唇が触れると甘い蕩けるような感覚が口から背中まで衝撃のように駆け巡る。その快楽を味わいながら舌を差し込んだ。サクラの暖かい口内に。飴が溶けて甘い唾液を感じる。他人の唾液を正確に判別する舌の機能になんか驚いた。指もそうだけど、流石生命に直結した感覚器官は感度が違うね。それを重ねるなんて、指も重ねながら。どれだけお互いのことを知りたいんだろう……。生物の本能って不思議だ──。
飴が張り付いているであろう舌に、私の舌をぶつけた。
ぬるって溶けるような弾力に合わさって、サクラの感情が一気にこみ上げてくる。
サクラの感情が濁流みたいに私になだれ込む。全身がひりひりする。なんか私まで震えちゃう……。私の体を通り抜けると、余韻が熱を持ち、体が更に火照った。心地良い苦しみ。
飴はもう殆ど残っていなくて、私とサクラの舌の間で擦れて消えてしまった。だから……ふふっ、もうキスする意味も無いのにね。辞めないよ。傷を刺す指がぎゅっと握られる。私はそのまま誘い込まれるように舌を絡めていた。粘膜が擦れ合い、その摩擦がじんじんと頭の中で響き渡る。いつの間にかサクラの片方の腕が、私をぎゅっと抱きしめ、私も……逃げられない。
「あは、は……キスだけでサクラ……動揺し過ぎ」声が震えそうになった。
「んぅ、あ? レ、レイこそ」
「私は余裕だよ」
「そう──」
「飴……」「もう溶けた」「ふうん……ま、いっか」
喜び。
嬉しい。
快感──。
じわっと温い感触が私に広がる。触れた体が燃えるように熱くて、そこから感情が伝わる。もう言葉になってない、ドロドロに溶け合った快楽だけの混沌に思えてすっごくシンプルな私への意識の結晶。触れたら簡単に粉々にぶっ壊れそうなガラス細工みたいに儚い。
もうサクラは抵抗しなかった。
私がゆっくりとサクラに覆いかぶさっても身動きしない。
私に襲われるのを今か今か……と待ち構えている。
私がもう一度サクラをロックして、片耳を擦りつつ、体を思い切り押し付けて、指を突き刺す。
ぶすりッ
「あっっ……痛い──」
「ごめん、力……入れ過ぎちゃった」
サクラの指をほどき、私は自分の指を顔の前に持ってくると……つんと鼻につく、生臭い血液の臭い。
サクラの血。
傷口を破り、私の爪の先にほんのりとこびり付く赤い液体。見えないけどね。生暖かさが指から離れない。
舐める。
口内に広がる血液の、鉄っぽい味。美味しい──わけない、か。どろっと吹き出す私の唾液に混ざり、私はそのままサクラに口づけする。
【血が……んぁっ! あぁっ……また、ベロ……んんんんんんんん!?☆★☆★☆★☆★☆★☆★!!!】
もう傷口をいたぶるのは辞めて、ぎゅっと指を重ねながらキスをする。
舌をペロペロぬぷぬぷねちゃねちゃ舐めると、サクラの快感がとろりと頭の中を満たす。
体を密着させて、サクラの熱さを感じ取りながら舌を……。もっとサクラの快楽を味わいたい。サクラが気持ちよくなるたびに、私も気持ちよくなる……。理性とか簡単に弾け飛ぶ快楽に押し流されて、私は更にサクラを責め立てる。
くちゃ、ちゅぱ……とキスの音が部屋に木霊する。
サクラの呼吸音と私の呼吸音も。
体が擦れる音もなんかうるさい。サクラの感情だけを聴きたいのに。
「レ、イ……お願い……もうだめ……これ以上はなんか……んんっ」
「まだ終わってない、はぁ……ちゅっ……そう、舌出して……」
「駄目……駄目……だ……はぁ、はぁ……レイ」
もうサクラの心臓か、私の心臓がうるさいのかわからない。
ドキンドキン! と強い鼓動が私たちの中で反復する。まるで一つの生物になった気分だけど、サクラから溢れ出る感情の渦がサクラを私に認識させる。臨界点を超えそう。……なんかこれ以上サクラを苛めたら、キスを続けたら……私たちは、今までの【友達】の領域を超えそう。そこから先の……恋人? とか、わからないけど、今まで足を踏み入れたことの無い領域に──。
「はぁー、はぁーはぁぁぁ……レイ、ねぇっ」
「サクラ……可愛い、私だけを……そう、見て」
「ううん……ん……レ……イ……んんんんっ」
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクッッ!
とサクラだけの心臓が加速し始める。
──剥がしたい。
サクラの感情をこのまま洗いざらい舐って、その奥底に存在するサクラを丸裸にしてみたい欲望に誘われた。
お姉さんぶる仮面や、もう漫画でしか見ないような女言葉を使う仮面? を引き剥がして、生身のサクラを、私の前に。私だけが知ってる。私だけが見ることを許されるサクラを──。
「……だ、レ……んんっ……ん…、ヤバイの……ほんとにぃっ……レイレイ……レイぃぃいいい」
「どうひぃたの?」
「離し……て…、……っちゃう……ぅあっ……」
「ふふっ、気持ちいくせにどうして嫌がるの?」
キスをしながら睨むと、サクラの体がドキッ! と大きく揺れた。
ぎゅぅとサクラの体が軋む。
私たちの舌は癒着したようにくっつき合い、摩擦を伝え合うように舐る。
箍が外れたみたいに拘束され、指がぎゅっ! と掴まれる。
鼻呼吸の仕方も忘れたのか、もう満足に息もできてない。
サクラの目尻に、キラリと涙が暗闇で光る。
その瞬間、しゅんと私の中でサクラを襲う感情が萎んだ。嗚呼、私は大好きな友達を酷く追い詰めて、何をしているの? と我に返る。どうしよう……と思った。不意に怖くなってしまった。私たちは……戻れるの? この世界からじゃなくて……そういうことじゃなくて……。ねぇ、先に進むだけなの? だって私たちはダラダラ停滞し合うつもりだったのに、どうして──と疑問に思った瞬間、サクラは私の中で、私に見つめられて、私と唇を重ねながら、痙攣した──。
◆◇◆◇
ep.果て無きパラレル・マトリクス
04
続く
◆◇◆◇
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