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◆ 果て無きパラレル・マトリクス 01 ◇
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◆◇◆◇
──「崩壊した世界、ふたりきり 03」の続きです。
──私たちは民家に逃げ込みました。
──真っ暗です。
◆◇◆◇
やれやれ、もうめっちゃうるさいんですけど──。苦笑いしながら、サクラと繋がっている手を見やる。ドクンドクンドクン……とまるで心臓の脈動に合わせるかのように、サクラから色々な情報が私に流れ込んでくる。
それは、
──荒い息とか、
──発火しちゃうような体温とか、
──ぎゅっと縛られた指先の圧力とか、
──あと恐怖と動揺と私に対する想いが混在した感情の吐露、ドロドロ~って例えるなら片栗粉を混ぜた液体みたいな感じ。
「こっち……サクラ」
「もっとゆっくり歩いて……」
「お、お、この柔らかい物体は……ソファ発見! ね、今日はここでじっとしてよう。この暗闇の中、下手に動くと危険な気がする」
「そうね、そうしましょ、そうすべき!」
二人がすっぽりと収まるほど大きなソファが、多分リビングに置いてあった。私たちはそこに座る。
暗闇に目は慣れてはきたけど、自由に動けるわけじゃない。
さっき外に居る時に空を見たけど、星は一つも無かった。あと、月も──。
けど、そのことをサクラに伝えたら……これ以上はキャパシティを超えて爆発しかねないので黙ってよ。
ソファの中心がぐにゅっと凹み、自然と私たちの肩がくっつく。いや、サクラが思いっきり体重を預けてきてる。
はぁ……、とサクラの今日何度目? って聴きたくなる大きなため息が聴こえる。
固く結ばれた私たちの指。このまま肌が癒着しそうでなんか焦るよ。
「……ゾンビ襲ってくるかな」
「変なこと言わないで」
「きっとこの世界では夜になったら動き出すんだよ。で、私たちのような生きている人間を見つけ次第追い詰めて──」
「レイ!」
ぎゅううううううう! と指を握られる。それ以上喋ったら潰すぞコラッ! と凶悪な威圧感を込めて。
やれやれ、ホント怖がりさんなんだから。
私はニヤニヤしながら、「大丈夫、ゾンビに襲われたら『私が食い止めるから、逃げて』って言うから」
「もちろんそうさせて貰うわ」サクラは強い意志を込めて言う。反射で答えがやった。なんて奴だ……。
「ド外道。まぁ、私の方が足早いから逃げる時は置いてくけどね」
「しがみついて、道連れにしてやる」
「ふふっ、こうやって?」
サクラの腰に手を回し、今度は私から体重を寄せる。びくん、と平常運転な反応するので可愛い。そのまま体重を乗せて、サクラを押し倒すようにソファに倒れ込む。二人で寝転んでも足を伸ばせるほど大きなソファだった。で、背後から抱きしめる感じで添い寝した。サクラはしばらくビクビク蠢いた後、静かになる。普段なら一言、二言悪態をつくけど今は私にされるがまま。片手でお腹を弄るように抱きしめて、もう片方は手を握る。当たり前みたいに指が交差する。ふぅ……って安堵のため息ついてるの丸わかりだから。でも、まぁ私も安心しちゃうかも。この状況下だったら尚更。
「このまま寝よっか。……あ、制服来たまま、しかもお風呂入って無いじゃん」「この家の風呂借りるわけにもいかないし」「まぁ誰かが帰ってきて、見知らぬJKが二人お風呂に入っていたら困るよね」「そうよ、帰ってくる、かも」
──帰ってくる以前に、この世界には人が居ないって薄々気づいてるクセに。僅かに外を歩いただけで、異様な雰囲気をひしひしと感じた。人というか、生き物の存在しないような静寂の世界。
未だに色々認めないサクラに困りつつも、まぁ普通そうだよね、と思う。私が何故かそこまで動揺してないのは、きっと……私も能力っぽい力を持っているので、非常識的な事柄への耐性があるから、だと思われる。あと、サクラちゃんがテンプレ以上にビビり過ぎて、私がしっかりしなくちゃ! と使命感にかられるのも理由の一つかな。
私たちは、人の存在しない世界に、迷い込んじゃったのかな。サクラは次世代VRとかトンチンカンなこと言っていたけど、あの穴は次元を通り抜ける──平行世界を結びつけるワームホール的な役割を持っている、と私は考えた。つまり、私たちはワームホールを通ったことで、別次元に存在する世界に飛ばされてしまった。まぁこれも突飛な理論だけどさ。
この世界について──。
人は居ないけど、建物は存在し、さっきのコンビニの自動ドアが正常に動いたことから、電気は通っている。一応この部屋のライトも点灯はした。でもサクラがゾンビは光に集まってくる! と嫌がるので消した。あと、スマホの電波は届かない。
……情報が少なすぎて、考えるだけ無駄かな。暗闇の中散策するわけにもいかないし、明日の朝、明るくなったらとりあえず探検して、この世界の情報を集めないと。……明るくなるのか知らんけど。
──その時。
ぐぅ……ぅぅうううううう!
という唸り声が聴こえた。
──近い。
この部屋で、鳴った。
一瞬息が止まる。
ドキン、と体が軋むような音を心臓が鳴らす。
ぞくっと冷水が背筋を撫でるような緊張感に包まれる。
あきらかに人間の声じゃなかった。
そっとサクラを抱き寄せ、怯えているであろうサクラに大丈夫? と声をかけようとした瞬間、
ぎゅうる……ルウぅ……ぎゅぽ……ぎゅるぅぅう……
と、また音が鳴った。
近い、ってか近すぎる。
眼の前から──否、これは……そう、サクラから!
──サクラのお腹から!
──サクラのお腹から!
──サクラのお腹から!
「ねぇねぇ、サクラって、もしかしてお腹に怪物飼ってる?」
「飼ってません!」
「じゃあ……さっきから獣の唸り声のように轟く異音の正体は一体!?」
「一体!? じゃないわよ……。わかってるんでしょ」
「あ、また聴こえた。ぐるるるるる! って私の体まで震える」
「……だからぁ……あの、わ、私……お腹が空いて」
「まさか、サクラちゃんのお腹の虫がまるで獣のように唸っているんですか!」
「そうです……うぅ」ぐるぐるぐる……。
「そういえば、サクラはお腹の音で返事する系の女子だったね」
「しないし」ぐぽぽぽ……ぽ……。
「しとるしとる! え、凄い。ほらこうしてお腹を抑えると」ぐる~~「あはは、めっちゃ鳴る! うるせぇ! 静かにしなさい!」ぽんぽん! とサクラのお腹を叩く。
「お昼ご飯食べてから水しか口にしてないし、買い食いもスルーして……」
お腹を擦る手を離し、頬や耳を触ると熱い。
「顔真っ赤だ」
「触らないでよ」
「だってお腹抑えると鳴るもん」
「顔も……耳も……ひぃ……」
嫌がるけどスリスリ頬や耳を撫でると次第に抵抗を辞める。この子私の手に掴まれるのピリピリする寒いって嫌がる素振りしながら、実は求めてるから面白い楽しい嬉しい。
「はぁ……何か食べたい……」とサクラは私の指から逃げるように口にする。
「でも今日は我慢しよ。明日散策して、この世界の情報はもちろん、何より食料と水を確保しないと……私たち餓死しちゃう」
「そうね」
【もし食べ物が見つからなかったら……その時は……最悪……レイを……】と変なことを考え始めたので絶対に食料を手に入れようと覚悟を決める。
「あと……汗かいたから、お風呂も入りたいわ」
「明日シャワーだけでも使っちゃおうか」
「勝手に使うのはよくないわ。人の家なのよ」「不法侵入してるし、今更罪重ねたところで別によくない?」「まぁ確かに……そうね。ううん、駄目よ人として──」
「臭くなるじゃん。サクラ臭が濃くなってもいいの?」
「気持ち悪いこと言わないでよ」
サクラは常に【レイの匂い好き……】って嗅いでくるクセに。ツッコミたくて堪らない。【レイの匂いだったらどんな匂いでも大丈夫だわ!】ってほら~またキモいこと考えてる……。
サクラの頬をすりすりと撫でていると、サクラはくるりと反転し、私と向き合う格好になった。
私の胸と首の間に顔を預けて、そっと私を見上げる。サクラがやや下がった位置に居るので私たちに身長差が発生し、小柄で歳の離れたサクラちゃんが出現したみたいで可愛い。
おでこに頬を擦り付けながら、「どうしたの?」と優しい声色で問う。
阿吽の呼吸、だね。
サクラが何か言いたげな目をすると、私がその意図を読み、促すように声をかける。無防備なサクラ──に見えて、その実は誘い受けしてくるんですよ。
弱っているサクラの隙をつくというか、露出した弱点をくすぐるような感覚に陥る。まぁ常にサクラの心情は理解してるけど、こうして自分から口に想いを吐き出させるのは、ゾクゾクする──。
「……一人でこの世界に迷い込んでいたら、私……怖くて発狂して動けなくなっていたと思う。レイが一緒に居てくれて助かったわ。……ありがとう」
「そうだぞ、たくさん感謝しろ」
「すぐ調子に乗る。まぁでも……うん、ありがとうございます」
サクラの頭部を抱き寄せて、軽くよしよしと撫でるとじわっと膨れ上がるような快感をサクラは感じていた。ぶるん、って震えてる。頭を撫でられるのが好きというか、私に直に触れられ、ピリピリする寒気を感じるのが好き、なんだよね。もちろん知ってる。だから、私はもうサクラの心情を読み取ることすらオマケみたいな感覚で、手を繋いでしまう……。
「レイは、一人でも大丈夫そうね」
「ううん、不安になるよ。私の隣で激しいリアクションを取ってくれる人が居るから冷静でいられるんだ」
「なるほど、私のおかげね」
「誇るところじゃねーぞ」
「わかってる。ってか、そのいつまで抱きしめてるの。……苦しいじゃない」
「ん~、サクラが満足するまで」
サクラの次のセリフを封じるために、抱きしめた腕の先で、サクラの耳を軽く包む。耳たぶからスリスリと耳全体をマッサージするように揉むと、サクラはふにゃっと蕩けるように力を失う。耳も、弱点なんだよね。まぁ私に触れられた箇所が弱点になるんだけどね。
「耳、触らないで」
「どうして、気持ち良いんでしょ?」
「別に……。耳が潰れそうで不安になる」「骨無いから平気だよ。ほら、こうやって……」ぐりぐりとちょっと強めに弄る。私の指の中でサクラの耳が温度を上げる。
「あっ、もぅ」
「今度は心臓がうるさいな──」
ドキッ
ドキッ
ドキッドキッドキッ! ってサクラの心音が直に響いてくる。サクラは私から距離を取ろうと体に力を込めるけど、耳を触って力を抜いて、その隙に足をサクラの両足の間に差し込み、強く抱きしめる。逃さない。サクラを包み込む。ぎちぎちって私たちの体が交差して、サクラは諦めたのか動かなくなる。
「レイ……」
「ねぇ、ドキドキしちゃってどうしたの? 怖い~~! って思い出した、唐突に?」
サクラの言い訳を封じると、サクラは反論できないのか、黙ってしまう。
指を少し強く握られたので、解いて、サクラの傷を擦ることにした。左手で傷をえぐりながら、右手はサクラを抱きしめつつ耳を擦る。更に、絡めた足、その太腿で圧迫する。ぐっとサクラの腰が引けたけど、お構いなしに力を強める。何か呻いているけど、私の胸に顔を埋めているので声を出せない。出せないから、【レイに……】。私の方が力強いし、【レイの拘束から逃げることは不可能だから、仕方がないの……】
一応抵抗はするんだよね。
すぐに大人しくなるけど。秒とかじゃない。刹那で──。
で、無抵抗されるがまま!
サクラからドロドロと私に対する感情が流れ込んでくる。言葉にすらならない快感の渦がサクラの中に漂っていた。すぅーすぅーと鼻息荒くして私の匂い嗅いでるよ。【いつもより濃いレイの匂い……】って思いながら……。もう私にいじめられていることもわからない感じ。気持ちよすぎて? それとも理解しながら、受け入れているの?
ぐりぐりぐり──。
傷跡を爪で刺す。
痛いよね。
色々と。
しかも今日は久しぶりに夢で見たらしい。鮮明に思い出した? 一段と苦しい痛い辛いはずなのに、サクラは傷をえぐる私の指をそっと摘んでいる。ぐりぐりと抉られ、そこからまるで血しぶきが吹き出すように、サクラの辛い過去を呼び出して、それで──サクラは、実は快感を覚えているの。【やめてほしいのに、どうして──】
マゾ、だもんね。
私に、弄られて苦しいけど気持ちよくて堪らないんだよね。
ドッキ、ドッキ、ドッキッ!
ねぇ心臓が破裂しそうだよ。
がちッって全身が力んでいるのがわかる。
抱きしめながら体を擦ると、サクラと色々擦れて、そのたびに私の胸の中で必死に喘ぐのを抑えようとするの、全部わかるから……。
【どうしよう……。これ以上は、本当に……このまま、レイに──】
私はサクラの体を強く抱き寄せる。絡みつくように、拘束して、私でサクラを縛り付ける。サクラは一瞬息を止めるほど喜んでる。ぎゅ~~っと強く抱きしめた後、不意に拘束を解く。
途端にサクラは放り投げだされたように、ソファの上で、私の胸に「はぁ……はぁ……」と息を吹きかける。
また手を握った。ドクン、ドクン……と指先も震えちゃってるね。
私から少し解放されたサクラは、一瞬迷った後、私をそっと睨む。
何か言いたげな顔して。
けど、口開いた途端に私に襲われるとわかっているのか、もごもごと口を動かすだけだ。
サクラを追い詰めると、可愛い可愛いサクラちゃんが出てくるからホント好きだよ。
普段の若干大人びた表情が消え失せて、愉悦に支配されながらも怯える子どもっぽい顔になるの。この評定は、私にしか引き出せないサクラの顔だ。私に見られたくない表情だとは思うけど、私は大好きなのでついつい苛めて、追い詰めて、晒させちゃう……。ごめん、親友なのに、友達なのに、って若干の罪悪感を覚えはするよ。けど、辞められない。だってサクラが【もっとレイに……】と願っているのと同じく、私もサクラを追い詰めたい。だってサクラのこと大好きなんだもの。
ぎゅるぎゅるぎゅる~~
と、サクラのお腹が鳴った。うぅ、雰囲気台無しなんだけど。サクラもなんか申し訳なさそうな顔してる。一瞬目が合い、二人でケラケラ笑っちゃった。サクラだけじゃなくて、私も感じていた緊張の糸が解れて、
──バンッッッ!!!!
凄まじい音が、リビングのガラス戸から響き渡る。
◆◇◆◇
ep.果て無きパラレル・マトリクス
01
続く
◆◇◆◇
──「崩壊した世界、ふたりきり 03」の続きです。
──私たちは民家に逃げ込みました。
──真っ暗です。
◆◇◆◇
やれやれ、もうめっちゃうるさいんですけど──。苦笑いしながら、サクラと繋がっている手を見やる。ドクンドクンドクン……とまるで心臓の脈動に合わせるかのように、サクラから色々な情報が私に流れ込んでくる。
それは、
──荒い息とか、
──発火しちゃうような体温とか、
──ぎゅっと縛られた指先の圧力とか、
──あと恐怖と動揺と私に対する想いが混在した感情の吐露、ドロドロ~って例えるなら片栗粉を混ぜた液体みたいな感じ。
「こっち……サクラ」
「もっとゆっくり歩いて……」
「お、お、この柔らかい物体は……ソファ発見! ね、今日はここでじっとしてよう。この暗闇の中、下手に動くと危険な気がする」
「そうね、そうしましょ、そうすべき!」
二人がすっぽりと収まるほど大きなソファが、多分リビングに置いてあった。私たちはそこに座る。
暗闇に目は慣れてはきたけど、自由に動けるわけじゃない。
さっき外に居る時に空を見たけど、星は一つも無かった。あと、月も──。
けど、そのことをサクラに伝えたら……これ以上はキャパシティを超えて爆発しかねないので黙ってよ。
ソファの中心がぐにゅっと凹み、自然と私たちの肩がくっつく。いや、サクラが思いっきり体重を預けてきてる。
はぁ……、とサクラの今日何度目? って聴きたくなる大きなため息が聴こえる。
固く結ばれた私たちの指。このまま肌が癒着しそうでなんか焦るよ。
「……ゾンビ襲ってくるかな」
「変なこと言わないで」
「きっとこの世界では夜になったら動き出すんだよ。で、私たちのような生きている人間を見つけ次第追い詰めて──」
「レイ!」
ぎゅううううううう! と指を握られる。それ以上喋ったら潰すぞコラッ! と凶悪な威圧感を込めて。
やれやれ、ホント怖がりさんなんだから。
私はニヤニヤしながら、「大丈夫、ゾンビに襲われたら『私が食い止めるから、逃げて』って言うから」
「もちろんそうさせて貰うわ」サクラは強い意志を込めて言う。反射で答えがやった。なんて奴だ……。
「ド外道。まぁ、私の方が足早いから逃げる時は置いてくけどね」
「しがみついて、道連れにしてやる」
「ふふっ、こうやって?」
サクラの腰に手を回し、今度は私から体重を寄せる。びくん、と平常運転な反応するので可愛い。そのまま体重を乗せて、サクラを押し倒すようにソファに倒れ込む。二人で寝転んでも足を伸ばせるほど大きなソファだった。で、背後から抱きしめる感じで添い寝した。サクラはしばらくビクビク蠢いた後、静かになる。普段なら一言、二言悪態をつくけど今は私にされるがまま。片手でお腹を弄るように抱きしめて、もう片方は手を握る。当たり前みたいに指が交差する。ふぅ……って安堵のため息ついてるの丸わかりだから。でも、まぁ私も安心しちゃうかも。この状況下だったら尚更。
「このまま寝よっか。……あ、制服来たまま、しかもお風呂入って無いじゃん」「この家の風呂借りるわけにもいかないし」「まぁ誰かが帰ってきて、見知らぬJKが二人お風呂に入っていたら困るよね」「そうよ、帰ってくる、かも」
──帰ってくる以前に、この世界には人が居ないって薄々気づいてるクセに。僅かに外を歩いただけで、異様な雰囲気をひしひしと感じた。人というか、生き物の存在しないような静寂の世界。
未だに色々認めないサクラに困りつつも、まぁ普通そうだよね、と思う。私が何故かそこまで動揺してないのは、きっと……私も能力っぽい力を持っているので、非常識的な事柄への耐性があるから、だと思われる。あと、サクラちゃんがテンプレ以上にビビり過ぎて、私がしっかりしなくちゃ! と使命感にかられるのも理由の一つかな。
私たちは、人の存在しない世界に、迷い込んじゃったのかな。サクラは次世代VRとかトンチンカンなこと言っていたけど、あの穴は次元を通り抜ける──平行世界を結びつけるワームホール的な役割を持っている、と私は考えた。つまり、私たちはワームホールを通ったことで、別次元に存在する世界に飛ばされてしまった。まぁこれも突飛な理論だけどさ。
この世界について──。
人は居ないけど、建物は存在し、さっきのコンビニの自動ドアが正常に動いたことから、電気は通っている。一応この部屋のライトも点灯はした。でもサクラがゾンビは光に集まってくる! と嫌がるので消した。あと、スマホの電波は届かない。
……情報が少なすぎて、考えるだけ無駄かな。暗闇の中散策するわけにもいかないし、明日の朝、明るくなったらとりあえず探検して、この世界の情報を集めないと。……明るくなるのか知らんけど。
──その時。
ぐぅ……ぅぅうううううう!
という唸り声が聴こえた。
──近い。
この部屋で、鳴った。
一瞬息が止まる。
ドキン、と体が軋むような音を心臓が鳴らす。
ぞくっと冷水が背筋を撫でるような緊張感に包まれる。
あきらかに人間の声じゃなかった。
そっとサクラを抱き寄せ、怯えているであろうサクラに大丈夫? と声をかけようとした瞬間、
ぎゅうる……ルウぅ……ぎゅぽ……ぎゅるぅぅう……
と、また音が鳴った。
近い、ってか近すぎる。
眼の前から──否、これは……そう、サクラから!
──サクラのお腹から!
──サクラのお腹から!
──サクラのお腹から!
「ねぇねぇ、サクラって、もしかしてお腹に怪物飼ってる?」
「飼ってません!」
「じゃあ……さっきから獣の唸り声のように轟く異音の正体は一体!?」
「一体!? じゃないわよ……。わかってるんでしょ」
「あ、また聴こえた。ぐるるるるる! って私の体まで震える」
「……だからぁ……あの、わ、私……お腹が空いて」
「まさか、サクラちゃんのお腹の虫がまるで獣のように唸っているんですか!」
「そうです……うぅ」ぐるぐるぐる……。
「そういえば、サクラはお腹の音で返事する系の女子だったね」
「しないし」ぐぽぽぽ……ぽ……。
「しとるしとる! え、凄い。ほらこうしてお腹を抑えると」ぐる~~「あはは、めっちゃ鳴る! うるせぇ! 静かにしなさい!」ぽんぽん! とサクラのお腹を叩く。
「お昼ご飯食べてから水しか口にしてないし、買い食いもスルーして……」
お腹を擦る手を離し、頬や耳を触ると熱い。
「顔真っ赤だ」
「触らないでよ」
「だってお腹抑えると鳴るもん」
「顔も……耳も……ひぃ……」
嫌がるけどスリスリ頬や耳を撫でると次第に抵抗を辞める。この子私の手に掴まれるのピリピリする寒いって嫌がる素振りしながら、実は求めてるから面白い楽しい嬉しい。
「はぁ……何か食べたい……」とサクラは私の指から逃げるように口にする。
「でも今日は我慢しよ。明日散策して、この世界の情報はもちろん、何より食料と水を確保しないと……私たち餓死しちゃう」
「そうね」
【もし食べ物が見つからなかったら……その時は……最悪……レイを……】と変なことを考え始めたので絶対に食料を手に入れようと覚悟を決める。
「あと……汗かいたから、お風呂も入りたいわ」
「明日シャワーだけでも使っちゃおうか」
「勝手に使うのはよくないわ。人の家なのよ」「不法侵入してるし、今更罪重ねたところで別によくない?」「まぁ確かに……そうね。ううん、駄目よ人として──」
「臭くなるじゃん。サクラ臭が濃くなってもいいの?」
「気持ち悪いこと言わないでよ」
サクラは常に【レイの匂い好き……】って嗅いでくるクセに。ツッコミたくて堪らない。【レイの匂いだったらどんな匂いでも大丈夫だわ!】ってほら~またキモいこと考えてる……。
サクラの頬をすりすりと撫でていると、サクラはくるりと反転し、私と向き合う格好になった。
私の胸と首の間に顔を預けて、そっと私を見上げる。サクラがやや下がった位置に居るので私たちに身長差が発生し、小柄で歳の離れたサクラちゃんが出現したみたいで可愛い。
おでこに頬を擦り付けながら、「どうしたの?」と優しい声色で問う。
阿吽の呼吸、だね。
サクラが何か言いたげな目をすると、私がその意図を読み、促すように声をかける。無防備なサクラ──に見えて、その実は誘い受けしてくるんですよ。
弱っているサクラの隙をつくというか、露出した弱点をくすぐるような感覚に陥る。まぁ常にサクラの心情は理解してるけど、こうして自分から口に想いを吐き出させるのは、ゾクゾクする──。
「……一人でこの世界に迷い込んでいたら、私……怖くて発狂して動けなくなっていたと思う。レイが一緒に居てくれて助かったわ。……ありがとう」
「そうだぞ、たくさん感謝しろ」
「すぐ調子に乗る。まぁでも……うん、ありがとうございます」
サクラの頭部を抱き寄せて、軽くよしよしと撫でるとじわっと膨れ上がるような快感をサクラは感じていた。ぶるん、って震えてる。頭を撫でられるのが好きというか、私に直に触れられ、ピリピリする寒気を感じるのが好き、なんだよね。もちろん知ってる。だから、私はもうサクラの心情を読み取ることすらオマケみたいな感覚で、手を繋いでしまう……。
「レイは、一人でも大丈夫そうね」
「ううん、不安になるよ。私の隣で激しいリアクションを取ってくれる人が居るから冷静でいられるんだ」
「なるほど、私のおかげね」
「誇るところじゃねーぞ」
「わかってる。ってか、そのいつまで抱きしめてるの。……苦しいじゃない」
「ん~、サクラが満足するまで」
サクラの次のセリフを封じるために、抱きしめた腕の先で、サクラの耳を軽く包む。耳たぶからスリスリと耳全体をマッサージするように揉むと、サクラはふにゃっと蕩けるように力を失う。耳も、弱点なんだよね。まぁ私に触れられた箇所が弱点になるんだけどね。
「耳、触らないで」
「どうして、気持ち良いんでしょ?」
「別に……。耳が潰れそうで不安になる」「骨無いから平気だよ。ほら、こうやって……」ぐりぐりとちょっと強めに弄る。私の指の中でサクラの耳が温度を上げる。
「あっ、もぅ」
「今度は心臓がうるさいな──」
ドキッ
ドキッ
ドキッドキッドキッ! ってサクラの心音が直に響いてくる。サクラは私から距離を取ろうと体に力を込めるけど、耳を触って力を抜いて、その隙に足をサクラの両足の間に差し込み、強く抱きしめる。逃さない。サクラを包み込む。ぎちぎちって私たちの体が交差して、サクラは諦めたのか動かなくなる。
「レイ……」
「ねぇ、ドキドキしちゃってどうしたの? 怖い~~! って思い出した、唐突に?」
サクラの言い訳を封じると、サクラは反論できないのか、黙ってしまう。
指を少し強く握られたので、解いて、サクラの傷を擦ることにした。左手で傷をえぐりながら、右手はサクラを抱きしめつつ耳を擦る。更に、絡めた足、その太腿で圧迫する。ぐっとサクラの腰が引けたけど、お構いなしに力を強める。何か呻いているけど、私の胸に顔を埋めているので声を出せない。出せないから、【レイに……】。私の方が力強いし、【レイの拘束から逃げることは不可能だから、仕方がないの……】
一応抵抗はするんだよね。
すぐに大人しくなるけど。秒とかじゃない。刹那で──。
で、無抵抗されるがまま!
サクラからドロドロと私に対する感情が流れ込んでくる。言葉にすらならない快感の渦がサクラの中に漂っていた。すぅーすぅーと鼻息荒くして私の匂い嗅いでるよ。【いつもより濃いレイの匂い……】って思いながら……。もう私にいじめられていることもわからない感じ。気持ちよすぎて? それとも理解しながら、受け入れているの?
ぐりぐりぐり──。
傷跡を爪で刺す。
痛いよね。
色々と。
しかも今日は久しぶりに夢で見たらしい。鮮明に思い出した? 一段と苦しい痛い辛いはずなのに、サクラは傷をえぐる私の指をそっと摘んでいる。ぐりぐりと抉られ、そこからまるで血しぶきが吹き出すように、サクラの辛い過去を呼び出して、それで──サクラは、実は快感を覚えているの。【やめてほしいのに、どうして──】
マゾ、だもんね。
私に、弄られて苦しいけど気持ちよくて堪らないんだよね。
ドッキ、ドッキ、ドッキッ!
ねぇ心臓が破裂しそうだよ。
がちッって全身が力んでいるのがわかる。
抱きしめながら体を擦ると、サクラと色々擦れて、そのたびに私の胸の中で必死に喘ぐのを抑えようとするの、全部わかるから……。
【どうしよう……。これ以上は、本当に……このまま、レイに──】
私はサクラの体を強く抱き寄せる。絡みつくように、拘束して、私でサクラを縛り付ける。サクラは一瞬息を止めるほど喜んでる。ぎゅ~~っと強く抱きしめた後、不意に拘束を解く。
途端にサクラは放り投げだされたように、ソファの上で、私の胸に「はぁ……はぁ……」と息を吹きかける。
また手を握った。ドクン、ドクン……と指先も震えちゃってるね。
私から少し解放されたサクラは、一瞬迷った後、私をそっと睨む。
何か言いたげな顔して。
けど、口開いた途端に私に襲われるとわかっているのか、もごもごと口を動かすだけだ。
サクラを追い詰めると、可愛い可愛いサクラちゃんが出てくるからホント好きだよ。
普段の若干大人びた表情が消え失せて、愉悦に支配されながらも怯える子どもっぽい顔になるの。この評定は、私にしか引き出せないサクラの顔だ。私に見られたくない表情だとは思うけど、私は大好きなのでついつい苛めて、追い詰めて、晒させちゃう……。ごめん、親友なのに、友達なのに、って若干の罪悪感を覚えはするよ。けど、辞められない。だってサクラが【もっとレイに……】と願っているのと同じく、私もサクラを追い詰めたい。だってサクラのこと大好きなんだもの。
ぎゅるぎゅるぎゅる~~
と、サクラのお腹が鳴った。うぅ、雰囲気台無しなんだけど。サクラもなんか申し訳なさそうな顔してる。一瞬目が合い、二人でケラケラ笑っちゃった。サクラだけじゃなくて、私も感じていた緊張の糸が解れて、
──バンッッッ!!!!
凄まじい音が、リビングのガラス戸から響き渡る。
◆◇◆◇
ep.果て無きパラレル・マトリクス
01
続く
◆◇◆◇
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後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
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前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
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百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
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名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
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