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雷鳴、薄暗いお風呂で触れる二人 01
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「だからバス使おうって言ったの!」
「……勿体無いじゃない」
「で、この有様だよ。はぁ~お金持ってるクセに~サクラは~クッソドケチ~なんですよ~」
レイは私を睨みつけながら凛々しい声色で歌った。視線から刺々しい嫌味を感じる。
私たちは全身びしょ濡れになっていた。レイの一回り小さくなった頭部からポタポタと零れ落ちる水滴が、豪雨の凄まじさを物語っている。
「レイ、なんか川に落ちたみたいね」
「サクラに言われたくない!」「あはは」「……あははと笑ってるけど……あのね、今回はサクラが悪いから。──極悪。まだ暑いからってこんなびしょびしょになりたいわけじゃない」
「ごめん」
「あーその顔悪いって思ってなーい! 濡れたレイ……なんかエロいじゃない! って顔してる!」
「してない……ってかなんで触れるの?」
「冷えた……寒い」
──そんな変なこと連想はしなかったけど、髪がずぶ濡れで普段のふんわりとした髪型じゃないレイは新鮮で可愛い、とは思う。レイに触れた部分がじーんと響くような熱を帯びる。レイに触れられたことで熱を感じるから、相当冷えたのね……。
本日、学校の授業が終わり、帰りのHRも終わったところで、新たなくまたんを入手したとレイが騒ぎ、家に誘われた。寄り道せずにレイの家に向かう途中、気がついた時には空から黄昏が消え、黒々とした雲に覆われていた。「うわ、これは雨降るよ。家の近いところまでバスが走ってるから乗ろう!」とレイにお願いされたけど、「あと十分くらいでしょ?」と私が断り──その結果ゲリラ豪雨に襲われた。をひっくり返したような雨水に上下左右から襲われながらどうにかレイの家に辿り着いた。故に、私はレイからちくちく嫌味を聞かされても甘んじて受けているのだ。
レイの家は普通の一軒家で、玄関をくぐると……人の家の匂いがする。微かに漂うレイの匂い……。
「……レイのお母さんは?」
「多分いない。ちょっと待ってて、タオル持ってくるから」「あ、うん」「うわぁ……靴下も……靴もぐちゃぐちゃ……」
レイは靴下まで脱ぎ捨てると、ペタペタと足跡を残しながら進んでいく。私は仕方なくレイの帰りを待つ。玄関に備え付けられた鏡を見て、私もレイに負けず劣らずびしょびしょだった。髪を絞ったらジュースのように液体が零れ落ちそう。
ペタペタペタ……と足音を響かせ、レイが戻ってきた。上着を脱ぎ、タオルを頭に巻き付けた状態で、私にハンドタオルを渡す。
「とりあえず、髪と脚を拭いてよ」
「ありがと」
「あ、タオルに私の匂いついてるかな~って嗅いでいいよ。いつもみたいにクンクンしろ」「アホ」「サクラ私の匂い大好きだからねぇ」
もちろんレイの前で堂々と嗅げるはずもない……。ってか別に嗅がないし、好きってわけでも、ただ……レイはいい香りがするからふと気がつくと──。
「いちいち触るな」
私が一人言い訳を頭の中で並べていると、またレイが私に触れてきた。レイの両手で頬を挟まれる。
「はぁ……やっぱりサクラの温度堪らない。頬を挟むと、サクラの火照りを感じます」
「辞めて、レイに掴まれると余計寒くなるわ」
「誰のおかげでこんな目に──。少しくらいは罪悪感覚えて、そうね、私の体で温まりなさいって想ってもいいんじゃないですか?」
「……好きにしなさい」
「わーい、うりうり。サクラのほっぺたやらかーい。お餅みたい。焼いてお醤油つけて食べたい──」
少しは遠慮するかと思ったけどお構いなしに頬を揉まれる。
嬉しそうに微笑むので、なんか文句言う気も失せて、私は頬を弄くられながら髪を拭った。
──レイに触れると寒い、というのは実は違うのかも。
ここまで冷え込むと、レイの温度でも若干の熱を感じる。いや、いつもと同じく触れた部分からぴりぴりした感触を覚えるけど、それとは別にレイの温度を感じる。普段気づかないだけで、何だろう……そこまで体温が低いわけじゃない? ただ、この痺れる感触がおかしいだけ?
その時ぱっと手を離された。
思わずレイを見つめると、「ねぇ、風邪ひいちゃうよ。あっちに除湿機あるから、ブレザーとスカート乾かさないと」
まるで私の思いを断ち切るようにそう言った。
☆★☆★
リビングまで進み、唸る除湿機の前で私たちは制服を乾かしていた。
「衣服乾燥モードあるけど、まぁ焼け石に水だね」
「確かに」
「ってか中までびっしょりだよ」
「私も……」
レイは大げさに顔を歪めて私を睨む。
「はいはい私が悪人、レイ様誠に申し訳ございません」
「なんて……あぁ、なんて罪の意識が無い言葉なのでしょうか。これ逆の立場だったら私土下座してその頭の上に足を置かれてぐりぐりさせられてるのに──」
「そこまでしないわよ。土下座は──まぁ」
「まぁじゃねぇ! ってかどうしよ、流石にこのままは辛いから──シャワー浴びようか?」
「……乾いたらすぐ帰るし」
「お母さん返ってきたら車で送って貰おうよ。雨も……まだまだ止まないみたい」
レイは私を促すように外を指差す。
確かにレイの言う通り、雨脚はさっきよりも強くなり、ピカッと空が光った。え、雷? と思った瞬間一瞬遅れてゴロゴロゴロッ! と雷の音が家の中に響き渡る。
「ひぃ……あっ」
音に驚いて思わず声を上げてしまう。
……しまった、と後悔したけど時既に遅し……。
「あれあれあれ~。サクラちゃん、今なんかめっっっちゃ可愛い悲鳴が聞こえなかった? ね? ね、ね!」
「……私です」
私が素直に即座に認めると、レイは大げさにのけぞったポーズをとる。それも満面の笑みで──。極限までに悪意で染められた笑みだった。可愛いけど、怖い。
「え、えぇ~、普段すました顔のサクラさん、実は雷で怖がっちゃうお子様なの?」「昔から……苦手なのよ」「そういえばオバケもだよね? ふふふ、これじゃあ絶対に帰れないじゃん。サクラ、大人しくシャワー浴びよう、一緒に」
一緒に──どうして? と声を出そうとした瞬間、雷が轟いた。その光の中でレイはにぃっと不気味な笑みを浮かべている。確かにレイの言う通り、シャワーを浴びるにしても、一人は心許ない、かも。
「わかったけど、……ねぇ、ここで脱ぐな」
「いいじゃん、私んちだし、別にサクラに裸見られても問題ないでしょ。女の子同士なんだから」
「まぁ、そうね、そうだけど……少しは遠慮とかしなさいよ」
いつの間にか全裸になっていたレイは腰に手を当て、まるで私に誇示するようにその体を見せつけた。
レイが脱ぐと、そのプロポーションが一段と際立つようで驚いた。
細長い手足を包むように筋肉が纏い、太っているわけでも痩せ過ぎているわけでもない、紙一重……と思うような凄まじいスタイルだ。更に胸は私よりも一回り大きく、だけど巨乳過ぎってわけでもない。ホント……顔だけじゃなく、色々な部分も絶妙な完成度を誇っている。
思わず見惚れちゃう……。
……レイに。
レイに見惚れる……ってなんかカチンと来るけど、でもまぁ普段からレイの表情にぞっとするような魅力を覚えていた。今更というか、新たなレイの凄味を知って得した気分! と少しテンションが上がった。
「あの……いくらなんでも眺めすぎでは?」レイが両手で胸をさっと隠して曰う。
「さっきあんたが言ったでしょ? 女の子同士なんだから、って」
「ちょっとは遠慮して。ジロジロ眺めて……スケベ、エロ!」
「ってかお風呂も沸かしてくれたの?」
「シャワーだけは寂しいでしょ?」
レイに導かれるようにしてお風呂に入ると、湯船にお湯が張ってある。もわっと広がる湯気が今は妙に頼もしいわ。私も服を脱ぎ捨て、レイの後に続いて風呂場に入る。
「……喰らえッッ」
「来ると思ったわ!」
レイはシャワーを掴むと、不意に私に向けて発射した。出始めは冷水が出る。それを私にぶっかけようとしてきたのだ。冷水を浴びた時のぞっとする感覚を他人に浴びせようなんて、コイツは悪魔か。しかしレイの行動を読んでいた私は、咄嗟に腕を伸ばしてレイの手首を掴むと、ぐいっと力任せに捻った。シャワーはくるっと反転してレイに向かって放水を始めた。
「え──ぎゃぁあああああッ!??!!??!!」
「あっはっはっは、悲鳴が心地良いいわ」
「……あ、悪魔だ。人に雨を浴びせて、更に冷たい水を……うあぁぁ……」
「人に浴びせようとして何言ってるのよ。ほら、もう暖かくなってきたんじゃない」
「まぁ、思ったよりも冷たく感じなかったけど、許さない──あ、あ、……きた、温度が……蘇ってきた──」
今度はレイの手首を離して温水を私にかけさせようと思ったけど、流石にそんな非道いことはしないよね? とレイが目で訴えてきたので辞めた。シャワーを浴びているレイは涙を流しているみたいでなんか怖い……。
「はぁ……じゃあ、次はサクラ──は、雨にたくさん濡れたから大丈夫?」
「それを流すんでしょ」
「ここ、人んちのお風呂だよ……遠慮しろ、忖度しなさい──」
「使い方違うし。貸しなさいよ」
「うあぁ横暴。さっきあんなに雷で怖がって泣きそうだったのに」
「泣いてないわよ」
「はぁ、きっと一緒にシャワー浴びるのも一人が怖いんだよね? ま、仕方ないわね、一緒に入ってあげるわよ、全く! って顔してるけど、全部わかってるんだから──」
レイはにっこりと微笑んでそう言った。
確かに、まぁその通りだった。さっきからピカッ! と光が差し込んでくるだけで心臓が跳ねる。一つの恐怖は連鎖するように数多の恐怖を私に招いていた。オバケとか、幽霊とか……あぁもう、なんでそういう存在があるの。概念から消えてほしいわ。
レイが一緒で有り難い……と感じるも、ある意味レイが一番危険なのだ! と自分に言い聞かせる。油断大敵。
その瞬間──
ピカッ! とお風呂場が一瞬明るくなるほど光り、即座にドドドドドッ! と雷鳴が轟く。私の体まで揺れて飛び跳ねそうになる。この姿をレイに見られた──と思ったけど、レイも不安げな表情できょろきょろ辺りを見回している。
「……とりあえず、お風呂入ろうか」
「そうね」ほらみろ、レイも怖がってるじゃない! と誂いたいけど倍返しされるので辞める。
「あれれ~声が震えてますよ」
「驚いたの」
「まぁ私も。めっちゃ揺れたもん。近くに落ちたのかな」
向かい合うように湯船の中に入る。髪留めは……鞄の奥か。
「ゴムある?」
「別にいいじゃん、濡れても」
「濡れてべっとり体つくのがイヤなの」「あぁなんか先っぽだけ冷たいからヒヤッとするよね」「──あんた、長くしたことあるの?」
「昔ね」
レイの投げやりな言い方に追求しようと思ったけど、雷鳴で何も言えなくなる。私は仕方なくそのまま湯船に浸かりながら、ほっと溜息をつく。すると、レイがそっと近づいてくる、ので足をクロスしてバリゲードにする。
「なんで嫌がるの」
「ニヤニヤしながら近づくな、怖い!」
「えぇ、サクラを安心させようと思ったのに。ほら、レイお姉ちゃんの胸に飛び込んでいいんだよ」
「調子に乗るな。ってかもう雷も収まってきたんじゃない?」
言った瞬間、ドッカーン! と爆発するような音と光が同時に鳴った。
凄まじい衝撃に全身がガクガクと震え上がる。
「……フラグ辞めろ」レイが舌打ちと共に言う。
「ち、違うわよ」
「ねぇ、びびって中で漏らさないでよ」「それはレイでしょ」「……あッ! 辞めてよ~思い出させないで……ってかあれもサクラが原因じゃん!」
むぅ、とレイが頬を膨らませた瞬間、カチッ……と気の抜けた音が響き、お風呂場の電気が消えた。突然周りが暗闇に覆われた気がして「きゃあっ!」と反射的に叫んでいた。
思わず立ち上がろうとしたけど、何かむにっとする感触にぶつかる。
「停電……かな?」
「嘘、なんで」「雷が落ちたんでしょ。よかった、お湯が暖かくなった後で」「そ、そうね……」「サクラさん、声が上ずってますよ」
「普段通りですけど」
「あと、いつまで私にしがみついてるの?」
「しがみついて……なんか……いや、待って……でも……」
「あのさ、流石に否定は無理でしょ。いきなり抱きつかれると焦るよ」
「驚いたの。反射的に……」
眼の前にレイが居る。
膝立ちになった私たちはお互いの胸を押し当てるような感じで距離を詰めていた。離れよう……と思ったところでまた雷鳴が鳴った。ぞわっ!と鳥肌が立つほど驚き、そのまま固まってしまう。
「あ、そうだ、いいこと考えた。ちょっとサクラ離れて」
「え、なになに……」
「どこにもいかないよ」
レイは浴槽の中で立ち上がり、私の横を通り抜けて、背後に立つ。
「ちょっと前に進んで?」
「え、え?」
「いいから……大丈夫、何もしないよ」
──この時は動揺して、あと薄暗いので表情の判別ができず、レイがにぃっと耳元まで引き上げる凶悪な笑みを浮かべていることを、私は知らなかった。
すっとレイが沈むと、私の両脇から腕が伸びてくる。
ヤバイ!
と危機感を覚えたけどもう遅かった。
レイの両手が、私の胸を背後から噛み付くように捉えた。
☆★☆★
//続く
「……勿体無いじゃない」
「で、この有様だよ。はぁ~お金持ってるクセに~サクラは~クッソドケチ~なんですよ~」
レイは私を睨みつけながら凛々しい声色で歌った。視線から刺々しい嫌味を感じる。
私たちは全身びしょ濡れになっていた。レイの一回り小さくなった頭部からポタポタと零れ落ちる水滴が、豪雨の凄まじさを物語っている。
「レイ、なんか川に落ちたみたいね」
「サクラに言われたくない!」「あはは」「……あははと笑ってるけど……あのね、今回はサクラが悪いから。──極悪。まだ暑いからってこんなびしょびしょになりたいわけじゃない」
「ごめん」
「あーその顔悪いって思ってなーい! 濡れたレイ……なんかエロいじゃない! って顔してる!」
「してない……ってかなんで触れるの?」
「冷えた……寒い」
──そんな変なこと連想はしなかったけど、髪がずぶ濡れで普段のふんわりとした髪型じゃないレイは新鮮で可愛い、とは思う。レイに触れた部分がじーんと響くような熱を帯びる。レイに触れられたことで熱を感じるから、相当冷えたのね……。
本日、学校の授業が終わり、帰りのHRも終わったところで、新たなくまたんを入手したとレイが騒ぎ、家に誘われた。寄り道せずにレイの家に向かう途中、気がついた時には空から黄昏が消え、黒々とした雲に覆われていた。「うわ、これは雨降るよ。家の近いところまでバスが走ってるから乗ろう!」とレイにお願いされたけど、「あと十分くらいでしょ?」と私が断り──その結果ゲリラ豪雨に襲われた。をひっくり返したような雨水に上下左右から襲われながらどうにかレイの家に辿り着いた。故に、私はレイからちくちく嫌味を聞かされても甘んじて受けているのだ。
レイの家は普通の一軒家で、玄関をくぐると……人の家の匂いがする。微かに漂うレイの匂い……。
「……レイのお母さんは?」
「多分いない。ちょっと待ってて、タオル持ってくるから」「あ、うん」「うわぁ……靴下も……靴もぐちゃぐちゃ……」
レイは靴下まで脱ぎ捨てると、ペタペタと足跡を残しながら進んでいく。私は仕方なくレイの帰りを待つ。玄関に備え付けられた鏡を見て、私もレイに負けず劣らずびしょびしょだった。髪を絞ったらジュースのように液体が零れ落ちそう。
ペタペタペタ……と足音を響かせ、レイが戻ってきた。上着を脱ぎ、タオルを頭に巻き付けた状態で、私にハンドタオルを渡す。
「とりあえず、髪と脚を拭いてよ」
「ありがと」
「あ、タオルに私の匂いついてるかな~って嗅いでいいよ。いつもみたいにクンクンしろ」「アホ」「サクラ私の匂い大好きだからねぇ」
もちろんレイの前で堂々と嗅げるはずもない……。ってか別に嗅がないし、好きってわけでも、ただ……レイはいい香りがするからふと気がつくと──。
「いちいち触るな」
私が一人言い訳を頭の中で並べていると、またレイが私に触れてきた。レイの両手で頬を挟まれる。
「はぁ……やっぱりサクラの温度堪らない。頬を挟むと、サクラの火照りを感じます」
「辞めて、レイに掴まれると余計寒くなるわ」
「誰のおかげでこんな目に──。少しくらいは罪悪感覚えて、そうね、私の体で温まりなさいって想ってもいいんじゃないですか?」
「……好きにしなさい」
「わーい、うりうり。サクラのほっぺたやらかーい。お餅みたい。焼いてお醤油つけて食べたい──」
少しは遠慮するかと思ったけどお構いなしに頬を揉まれる。
嬉しそうに微笑むので、なんか文句言う気も失せて、私は頬を弄くられながら髪を拭った。
──レイに触れると寒い、というのは実は違うのかも。
ここまで冷え込むと、レイの温度でも若干の熱を感じる。いや、いつもと同じく触れた部分からぴりぴりした感触を覚えるけど、それとは別にレイの温度を感じる。普段気づかないだけで、何だろう……そこまで体温が低いわけじゃない? ただ、この痺れる感触がおかしいだけ?
その時ぱっと手を離された。
思わずレイを見つめると、「ねぇ、風邪ひいちゃうよ。あっちに除湿機あるから、ブレザーとスカート乾かさないと」
まるで私の思いを断ち切るようにそう言った。
☆★☆★
リビングまで進み、唸る除湿機の前で私たちは制服を乾かしていた。
「衣服乾燥モードあるけど、まぁ焼け石に水だね」
「確かに」
「ってか中までびっしょりだよ」
「私も……」
レイは大げさに顔を歪めて私を睨む。
「はいはい私が悪人、レイ様誠に申し訳ございません」
「なんて……あぁ、なんて罪の意識が無い言葉なのでしょうか。これ逆の立場だったら私土下座してその頭の上に足を置かれてぐりぐりさせられてるのに──」
「そこまでしないわよ。土下座は──まぁ」
「まぁじゃねぇ! ってかどうしよ、流石にこのままは辛いから──シャワー浴びようか?」
「……乾いたらすぐ帰るし」
「お母さん返ってきたら車で送って貰おうよ。雨も……まだまだ止まないみたい」
レイは私を促すように外を指差す。
確かにレイの言う通り、雨脚はさっきよりも強くなり、ピカッと空が光った。え、雷? と思った瞬間一瞬遅れてゴロゴロゴロッ! と雷の音が家の中に響き渡る。
「ひぃ……あっ」
音に驚いて思わず声を上げてしまう。
……しまった、と後悔したけど時既に遅し……。
「あれあれあれ~。サクラちゃん、今なんかめっっっちゃ可愛い悲鳴が聞こえなかった? ね? ね、ね!」
「……私です」
私が素直に即座に認めると、レイは大げさにのけぞったポーズをとる。それも満面の笑みで──。極限までに悪意で染められた笑みだった。可愛いけど、怖い。
「え、えぇ~、普段すました顔のサクラさん、実は雷で怖がっちゃうお子様なの?」「昔から……苦手なのよ」「そういえばオバケもだよね? ふふふ、これじゃあ絶対に帰れないじゃん。サクラ、大人しくシャワー浴びよう、一緒に」
一緒に──どうして? と声を出そうとした瞬間、雷が轟いた。その光の中でレイはにぃっと不気味な笑みを浮かべている。確かにレイの言う通り、シャワーを浴びるにしても、一人は心許ない、かも。
「わかったけど、……ねぇ、ここで脱ぐな」
「いいじゃん、私んちだし、別にサクラに裸見られても問題ないでしょ。女の子同士なんだから」
「まぁ、そうね、そうだけど……少しは遠慮とかしなさいよ」
いつの間にか全裸になっていたレイは腰に手を当て、まるで私に誇示するようにその体を見せつけた。
レイが脱ぐと、そのプロポーションが一段と際立つようで驚いた。
細長い手足を包むように筋肉が纏い、太っているわけでも痩せ過ぎているわけでもない、紙一重……と思うような凄まじいスタイルだ。更に胸は私よりも一回り大きく、だけど巨乳過ぎってわけでもない。ホント……顔だけじゃなく、色々な部分も絶妙な完成度を誇っている。
思わず見惚れちゃう……。
……レイに。
レイに見惚れる……ってなんかカチンと来るけど、でもまぁ普段からレイの表情にぞっとするような魅力を覚えていた。今更というか、新たなレイの凄味を知って得した気分! と少しテンションが上がった。
「あの……いくらなんでも眺めすぎでは?」レイが両手で胸をさっと隠して曰う。
「さっきあんたが言ったでしょ? 女の子同士なんだから、って」
「ちょっとは遠慮して。ジロジロ眺めて……スケベ、エロ!」
「ってかお風呂も沸かしてくれたの?」
「シャワーだけは寂しいでしょ?」
レイに導かれるようにしてお風呂に入ると、湯船にお湯が張ってある。もわっと広がる湯気が今は妙に頼もしいわ。私も服を脱ぎ捨て、レイの後に続いて風呂場に入る。
「……喰らえッッ」
「来ると思ったわ!」
レイはシャワーを掴むと、不意に私に向けて発射した。出始めは冷水が出る。それを私にぶっかけようとしてきたのだ。冷水を浴びた時のぞっとする感覚を他人に浴びせようなんて、コイツは悪魔か。しかしレイの行動を読んでいた私は、咄嗟に腕を伸ばしてレイの手首を掴むと、ぐいっと力任せに捻った。シャワーはくるっと反転してレイに向かって放水を始めた。
「え──ぎゃぁあああああッ!??!!??!!」
「あっはっはっは、悲鳴が心地良いいわ」
「……あ、悪魔だ。人に雨を浴びせて、更に冷たい水を……うあぁぁ……」
「人に浴びせようとして何言ってるのよ。ほら、もう暖かくなってきたんじゃない」
「まぁ、思ったよりも冷たく感じなかったけど、許さない──あ、あ、……きた、温度が……蘇ってきた──」
今度はレイの手首を離して温水を私にかけさせようと思ったけど、流石にそんな非道いことはしないよね? とレイが目で訴えてきたので辞めた。シャワーを浴びているレイは涙を流しているみたいでなんか怖い……。
「はぁ……じゃあ、次はサクラ──は、雨にたくさん濡れたから大丈夫?」
「それを流すんでしょ」
「ここ、人んちのお風呂だよ……遠慮しろ、忖度しなさい──」
「使い方違うし。貸しなさいよ」
「うあぁ横暴。さっきあんなに雷で怖がって泣きそうだったのに」
「泣いてないわよ」
「はぁ、きっと一緒にシャワー浴びるのも一人が怖いんだよね? ま、仕方ないわね、一緒に入ってあげるわよ、全く! って顔してるけど、全部わかってるんだから──」
レイはにっこりと微笑んでそう言った。
確かに、まぁその通りだった。さっきからピカッ! と光が差し込んでくるだけで心臓が跳ねる。一つの恐怖は連鎖するように数多の恐怖を私に招いていた。オバケとか、幽霊とか……あぁもう、なんでそういう存在があるの。概念から消えてほしいわ。
レイが一緒で有り難い……と感じるも、ある意味レイが一番危険なのだ! と自分に言い聞かせる。油断大敵。
その瞬間──
ピカッ! とお風呂場が一瞬明るくなるほど光り、即座にドドドドドッ! と雷鳴が轟く。私の体まで揺れて飛び跳ねそうになる。この姿をレイに見られた──と思ったけど、レイも不安げな表情できょろきょろ辺りを見回している。
「……とりあえず、お風呂入ろうか」
「そうね」ほらみろ、レイも怖がってるじゃない! と誂いたいけど倍返しされるので辞める。
「あれれ~声が震えてますよ」
「驚いたの」
「まぁ私も。めっちゃ揺れたもん。近くに落ちたのかな」
向かい合うように湯船の中に入る。髪留めは……鞄の奥か。
「ゴムある?」
「別にいいじゃん、濡れても」
「濡れてべっとり体つくのがイヤなの」「あぁなんか先っぽだけ冷たいからヒヤッとするよね」「──あんた、長くしたことあるの?」
「昔ね」
レイの投げやりな言い方に追求しようと思ったけど、雷鳴で何も言えなくなる。私は仕方なくそのまま湯船に浸かりながら、ほっと溜息をつく。すると、レイがそっと近づいてくる、ので足をクロスしてバリゲードにする。
「なんで嫌がるの」
「ニヤニヤしながら近づくな、怖い!」
「えぇ、サクラを安心させようと思ったのに。ほら、レイお姉ちゃんの胸に飛び込んでいいんだよ」
「調子に乗るな。ってかもう雷も収まってきたんじゃない?」
言った瞬間、ドッカーン! と爆発するような音と光が同時に鳴った。
凄まじい衝撃に全身がガクガクと震え上がる。
「……フラグ辞めろ」レイが舌打ちと共に言う。
「ち、違うわよ」
「ねぇ、びびって中で漏らさないでよ」「それはレイでしょ」「……あッ! 辞めてよ~思い出させないで……ってかあれもサクラが原因じゃん!」
むぅ、とレイが頬を膨らませた瞬間、カチッ……と気の抜けた音が響き、お風呂場の電気が消えた。突然周りが暗闇に覆われた気がして「きゃあっ!」と反射的に叫んでいた。
思わず立ち上がろうとしたけど、何かむにっとする感触にぶつかる。
「停電……かな?」
「嘘、なんで」「雷が落ちたんでしょ。よかった、お湯が暖かくなった後で」「そ、そうね……」「サクラさん、声が上ずってますよ」
「普段通りですけど」
「あと、いつまで私にしがみついてるの?」
「しがみついて……なんか……いや、待って……でも……」
「あのさ、流石に否定は無理でしょ。いきなり抱きつかれると焦るよ」
「驚いたの。反射的に……」
眼の前にレイが居る。
膝立ちになった私たちはお互いの胸を押し当てるような感じで距離を詰めていた。離れよう……と思ったところでまた雷鳴が鳴った。ぞわっ!と鳥肌が立つほど驚き、そのまま固まってしまう。
「あ、そうだ、いいこと考えた。ちょっとサクラ離れて」
「え、なになに……」
「どこにもいかないよ」
レイは浴槽の中で立ち上がり、私の横を通り抜けて、背後に立つ。
「ちょっと前に進んで?」
「え、え?」
「いいから……大丈夫、何もしないよ」
──この時は動揺して、あと薄暗いので表情の判別ができず、レイがにぃっと耳元まで引き上げる凶悪な笑みを浮かべていることを、私は知らなかった。
すっとレイが沈むと、私の両脇から腕が伸びてくる。
ヤバイ!
と危機感を覚えたけどもう遅かった。
レイの両手が、私の胸を背後から噛み付くように捉えた。
☆★☆★
//続く
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