傷を舐め合うJK日常百合物語

八澤

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冬銀河、寒いから体を寄せ合って眠る二人 02

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 ふっ、とレイは鼻で笑い、「えっちな描写にときめいたんでしょ?」と答えた。
「違う。……ね、全部お見通しなんじゃないの?」

 踏み込んだ脚を更に奥へ進めるように意気込んで問うけど、「冗談に決まってるじゃん。サクラは表情に出やすいだけ」と流すように口にした。

「嘘つき……ってちょっとレイ……」
「嘘つきはサクラもでしょ」

 私の反論を削ぐようにレイは頭半分体を持ち上げ、私の胸から鎖骨を乗り越え、首から顎のラインにすりすりと鼻を擦り付けてくる。反射的に顎が浮くけど、レイは追いかけるように鼻を、顔を擦り付けてくる。冷たい鼻先が擦れると何故かその部分が熱を帯びた。

「く、くすぐったい」
「でも怖い、んだっけ? なんか心臓破裂しそうだよ」
「レイ──」

 声が掠れた。
 自分でも驚くほど情けなくてか細い震えた声色だった。レイは「どうしたの?」と私の眼の前でにぃっと笑った。私の体を侵食するかのように距離を詰められた。既に、私とレイの高さは同じ。
 暗闇のはずなのに鮮明に私の瞳にレイの笑顔が映り込んだ。
 近い。
 近すぎる──。鼻が触れ合う……とレイはくしゃっと表情を歪めた。それが笑顔だと認識するのに一瞬遅れた。私の胸にぐっとレイの胸が押し付けられる。私たちの間に僅かにあった隙間が消えた。ゆっくりと……レイの……顔が、私に──。

「あっ」
「サクラちゃんびびり過ぎじゃない?」

 レイの顔は私の顔に落ちる寸前で交差し、私の耳元で囁かれる。声が空気の振動となり、私の耳に降りかかる。ぞくっ、と背筋を氷が流れていくような感触を覚えた。
 他人に耳を触られるのがホントイヤで……レイには特に。

「ふ~~」「え、いや!?」

 と吹きかけられた息が頭の中で響き渡る。耳にかかる生暖かいレイの吐息、そう意識した途端更に脈動が跳ね上がるのが私でもわかる。ドキン、ドキンッ! と私の内側から叩く心臓が、伸し掛かるレイを打ち、私と同じくビクンビクン揺れている。

「え、なになに……そんな耳弱かったっけ?」
「それ以上は」「舐めていい?」「訊いてから……あっ嘘、ちょ……ねぇ、舐めるなぁあ……ひぃい、ぞりぞりする……ひぅ」「逃さないよ」

 レイは反対の手を伸ばし、逆の耳を掴んできた。指先で弄ぶようにつまみ始める。その感触で頭が動かせない。固定されたところを……あ、あ、あぁっ!「はぅ……あっ!」「感度凄いね~。もっと触ろう」「うぁああっ!」

 駄目だ、動けない。
 ぬちゃ……っとまた舐められた。全身がぞわぞわと震え上がる。ってかなんで舐めてるの? 美味しくないでしょ? 「サクラの耳旨い」「辞めてもう気持ち悪い……いやぁぁああ!」「すごいすごい、痛いくらいに心臓が跳ねてるっ!」
 レイがドクンドクン! と震えていた。私の脈動がレイを叩いている。

 レイは嬉々として笑った。
 段々と怒りがこみ上げてくる。同い年の子に小馬鹿にされ、何故か耳を舐められ、それに抗えない自分の姿が哀しすぎるじゃない……。それに、内心レイに拘束された状態で弄られることに……。

 実は、私は──。

 認めたくない私といいんじゃない? と妙な快感に流されそうな私が私の中に存在する。不埒な想いを振り払おうと怒りと恐怖が私の中でぐわっと吹き上がった瞬間に、レイに私の指の傷を触れられた。

 すりすり、とその痕を確かめるように入念に……。
 膨れ上がった想いは空気の抜けた風船のように萎んでしまった。
 耳を舐められる時とはまた異なる、私の……抗いようのない弱点をレイに刺激されて、どうにもできない自分が歯痒い。

「あれ、大人しくなった。ペロペロ」「……うぅ……レイ」「サクラの一番の弱点はここだよねぇ。耳もいじるの楽しいけど」
「離して」
「でも嬉しいんでしょ?」
「はぁ、舐められても気持ち悪いだけ」
「違う、ここ触られると、色々思い出すんだよね──」

 親指の付け根から小指の付け根までを一直線に裂いた痕を艶かしくレイは指で辿る。ぞわっと体の芯を撫でられる気がした。私の耳や……胸とは異なる、私の剥き出しの何かを、レイに愛撫されるようで、すごく、すごく……すごく……あぅ

 ……気持ちいい?

 わけないけど、それでも……自分でもどうしたらいいのか、その答えが行方不明になる。
 戸惑う感じ。
 振り払うこともできず、ただレイが辞めるのを待つだけの時間。

「レイ……」
「痛かったんだよね」
「わかったから、ちょっと……ストップして、お願い」
「え~どうしよっかな」
「それ以上は……ホント、レイのこと」「嫌いになる?」「そうかも」「じゃあ辞める」
「──だからって耳……は、はさむな!」「柔らかい、やっぱり美味しい……」「レイッ!!」

 耳たぶをハムハムされた後に、レイはゆっくりと私から離れる。上半身だけを起こし、真上から私を見下ろしている。レイの瞳は、窓から差し込む僅かな星々の光を吸収するようで、キラキラと輝いていた。とても綺麗で見惚れてしまう──。

「はぁ……サクラいじるのゾクゾクする。普段のね、なんかツーンとした姿が崩れると嗜虐心を擽られてね、辞められないの」
「だからって……耳は辞めろ」
「え、あんなに楽しくよがっていたのに」
「楽しくなんか……ってかなんで舐めるのよ」「美味しそうで……実際旨い」「ない、ないないありえないから!」「やみつきになりそう」「次触ったらあんたのくまたん八つ裂きにするから」「──くまたん一体生贄で耳一つ、悩ましい」「悩むな! 大事なくまたんじゃないの? 天秤にかけないで、もう……」

 私が溜息を零すと、レイはするっと私の横に落ち、再び抱きつこうとしてくるので、その前に私がレイを捕獲した。レイはぐるんと体を翻して逃げようともがくけどそうはさせない。逆にその反動を利用し、私は背後からレイを束縛する。両腕を掴み、顎でレイの頭部に抑え込む。

「疾い、見えなかったよ──」
「もう終わり。寝るわ」
「ちぇ~。ってかサクラがエロ本読んでドキドキしたのがいけないんだよ~」
「黙れ」
「あ……背中からサクラに包まれるとこれも暖かい……」
「お喋り禁止」「ドキドキうるさいけど? これはいいの?」「慣れて……。離すとまた襲われるし」
「ご名答」
「はいおやすみ……」
「サクラ、抱きつくのはいいけど、……私の胸触らんといて」「……当たっただけ」

 一瞬力が抜けた隙を突かれ、レイは私の腕を巻き込むように抱えた。私が背後から抱きしめてるはずなのに、その腕を更に上から抑え込まれてしまう……。
 レイは、今度は私の掌には指を伸ばさなかった。手首を掴まれているけど、……触れない。私が怒るから、それとも──レイの言う通り……。

 やっぱり、自分でもわからない。
 誰にも見せていない、私の心と体を結びつけるこの痕を、レイだけは我が物顔で触ってくる。不快なはずなのに、当時の記憶がありありと蘇るようで恐怖で体が震えそうになるのに、レイに撫でられると、それが少し緩むというか、薄れる気がした。

 レイはまだ何かやりたそうにレイは私の中で動いている。けど、レイを背後から抱きしめて阻止する。次第に動かなくなった。この格好だとどうしてもレイの頭部に顔を埋めて、サラサラした髪の感触、それと匂いを嗅いでしまう。深呼吸をすると、ふわりと空に浮き上がるような幸福感を覚えた。そのまま背後からレイに沈み込むように睡魔に落ちる。
 眠りに落ちる瞬間、そっと指先が絡め取られた。もう抵抗できず、レイになぞられる感覚を味わいながら、私は眠っていた。


//終
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