傷を舐め合うJK日常百合物語

八澤

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イカしたゲーム、負けられない戦い 03

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 レイと一緒に闘う回数が減ってしまった。
 何故ならガチで日々特訓する私と、適当に遊ぶレイとでは実力が乖離し、どうしてもレイが……足手まといになってしまうから。その分フォローするけど、段々と負担になった。もちろんレイにはそんなこと言えない。言えないけど、レイは私の想いを察してか、ゲーム内で定期的に開かれるフェス以外では私を誘うことはなくなった。

 もう目を瞑った状態でも上下左右の的に寸分の狂いなく命中させることができる。
 ネットで戦術を語り合ったり、中途半端な知識を持ったイキりを論破したりすることもあった。
 この前のフェスでも、100傑(上位100名が公式サイトに張り出される)にも入ることができた。
 
 残す目標は、最上級ランクに到達し──X(エックス)ランクに入るだけ。
 けど、Xランクに到達するまでにはまだまだ高い壁がある。力を付けるたびに、その壁の高さと厚さを思い知る。悔しさともどかしさが入り混じった感覚は、なんか懐かしいわ。あの時は、壁の向こう側へ到達できると自分を信じ、がむしゃらに突き進んだけど結局……。

☆★☆★

「サクラは絶対に嵌まると私は確信していたんだよね。まぁ予想以上だったけど……」
「だって面白いし」
「この前のスマホゲームの時も思ったけど、サクラって一度嵌るとエゲツないよね。零か一しかない感じ。極端!」
「別にいいじゃない。誰にも迷惑かけてないんだから……」
「おい! サクラが廃課金者になるところを誰が止めてやったと思っているんだ?」
「私のお金だから……」「あぁ~あ、私に良く似……じゃなくて、私がサクラぞっこんのSSRを引き当てたから大事に至らなかったけどさ、もしも出なかったらJKのクセに借金して闇金にもお金借りて最後はお風呂にドボンだったんだよ!」
「お風呂?」
「えっと……わからなければ反応しなくて良いです……」「あぁ、風俗。……サイテー」「サ、サクラだったら健気で初々しい感じがウケてNO.1嬢になれるよ!」「クソ過ぎるフォローありがと」「あー怒らないで! ごめん、でも……ほら、いくらサクラがブルジョワで私ら最下層の庶民と違うと思うけど、お金は有限じゃないの。ね、ぎゅってするから、それに、もしもサクラがそういうところで働く場合、私は……毎日通うから」

 ──レイが毎日来てくれる。つまり……って動揺し、一瞬の判断ミスから相手に撃ち抜かれた。

「あ、しょぼいミスしてやられた! ぷぷぷ、私が毎日行くって言ったから動揺しちゃったのかい?」

 私の足の間に挟まって身を寄せているレイは、お腹に顔を擦りつけながらわざとらしく笑う。私がスプラッシューンを遊ぶ時はだいたいこの位置に収まって私をイジってくる。当初は私がゲームに夢中で寂しいのかと思っていたけど、「真剣な顔して取り組むサクラを眺めるのもなかなか乙なものなんだよ」と言い、むしろゲームをさせようと誘ってくる。

「変なこと言わないの。……もう、これで負けたらそろそろ危ないんだから」
「ランク下がる?」
「あと数回は大丈夫だと思うけど──よし、勝った」

 私が落ちても残りの味方三匹が奮闘してくれて、どうにか勝利した。一息つき、レイの頭を指でグリグリ締めつつ「あががが……」、確かに私は嵌まると極端な気がする。スマホのゲームも、スプラッシューンも……ピアノも──。

 あと、レイも……。「え、は……痛いよぉ……」
 レイと過ごすようになってから、レイが私の生活の中心に存在する。何をするにもレイが、レイの、レイと──ってレイ第一で色々と考えてしまう。今更恥ずかしくなるけど・・・レイを絶つなんて絶対無理。

「サクラ……は、負けず嫌い……だよ……ねぇ」
「何事も真面目に、本気で挑まないと楽しくないでしょ?」
「そうかな……エンジョイ勢も、楽しい……よ──」
「まぁ気晴らしにレギュラー戦もやるけど、やっぱりガチの緊張感が欲しいわ。ヒリヒリする感覚がないと物足りない」
「さいですか……。あの、そろそろ頭離せ…くっそ…この……うぁぁぁぁああ!」

 レイは私の指を振りほどいた。が、そこで力尽きるようにまた私の中に蹲る。私の首元辺りに顔を寄せて、すぅすぅと息を吸う。まるで匂いを嗅いでいるように……ってか嗅いでる。ムズムズして辞めさせたいけど、サクラもいつもしてるじゃん! と返されるので何も言えない。レイもそれをわかっているから挑発っぽい行動を取ってくる。私がゲームに集中し、無防備な状態を狙って……。

 私の手は、コントローラーを握っているからか触って来ないけど、代わりに無防備な太腿を撫でてくる。もちもちして柔らかくて温かい……らしい。ホントはイヤだけど、イヤなはずなのに、コントローラーを握っている間、実はレイに手を握って貰えない寂しさを感じていた。だから安心する。レイの肌に直接触れたいと内心願っていることに気づく。あのピリピリする感触が恋しいというか、慣れてしまったので感じないと物足りなさを覚える。こんなことレイには絶対に言わない。言ったら流石におかしいと思われる。まぁレイは私の想いを読み取るようにナデナデスリスリしてくれるんだけどね。

「おっ、ドキドキがうるさくなってきた」
「次のタワコン(バトルのルールの一つ、タワーコントロールの略称)は負けられないから、緊張してるのよ」
「ふーーーん」

 緊張しているのはホント。
 ただ、心臓がドキドキと加速している理由はそれだけじゃない……。
 もちろん、レイの感触を浴びているから。

 こうしてレイにずっと密着されて色々弄られ続けていると、まるで今にも決壊しそうなダムのように、何かが壊れそうになる。さっきまでは普通に対応できていたのに、レイから浴びる情報がある線を過ぎるとゾクゾクっと鳥肌が立つような快感に変貌してしまう。レイの大きな瞳や、丸っこい顔、非の打ち所のない美少女具合などなど、それら全てが愛らしくて、ぎゅっと全身を掴まれるような快感を覚える。レイの可愛さで胸が一杯になり、あぁ……なんかヤバイ、そろそろ爆発するかも……。

 レイは、私の心音を聴くように顔を左胸に押し付けた。そしてじっと私を見上げる。辞めて、と振り払いたいけど、試合開始のブザーが鳴り響く。まるでそれを言い訳にするように、私はレイに観察されることを許していた。

☆★☆★

 私が使用する武器は、ダッシュと呼ばれる特殊な回避ができる二丁拳銃。その中でも近接戦闘に特化したピーキーな性能を持つ武器で、試合では前線に維持しながら隙を見ては敵陣に切り込み、味方の活路を切り開く。様々な武器、構成を使用して、たどり着いたのが猪突猛進なスタイル。

 タワーコントロール、通称タワコンのルールは、ステージの中央に設置されたタワーの上に乗ることで、タワーを敵陣に進行させることができる。時間内に相手側の陣地奥深くまで進めるか、移動距離の多い方が勝利となる。

 今回の闘いで私がXランクに昇格、あるいは下位のランクに降格するのか、そのどちらかが決まる。もしも負けてしまった場合はランクが下がり、またコツコツとランクポイントを稼がなくてはならない。レイの邪魔を受けながら……。ゲームをしている間、レイに弄られるのは……正直、その……嬉しい。滅茶苦茶甘える猫みたいに攻めてくるから……。ただゲームに熱中している間、レイに弄られ続けるのは精神的にあまり良くないと最近理解した。何故ならその後の反動というか、ふと冷静になった瞬間、体の端々に残った快感がどばっと流れ込み、なんか身悶えする感覚に襲われる。

「あ、ヤラレチャッタ」レイが棒読みで言う。
 ──試合開始早々味方が三人落とされた。

 敵は強い……と戦慄する。まぁXランクとほぼ同等の実力の持ち主が相手なんだから仕方ない。いちいち嘆いている暇は無いわ。味方の1人が落ちる間際に残したセンサーを頼りに、私はオブジェクトの影に潜む。

 三人落ちていると油断してノコノコ近づいてきた一匹を撃破。
 続いて二匹目──。
 ヒュンヒュン!!
 背後から飛び交う攻撃を悟った刹那二回ダッシュ──からの接射で三匹目を撃ち抜いた。

「うわ、あっという間にタイマンに!」
「普通は戻るのが定石だけど、センサーが残っている状態なら負けないわ」

 味方が戦線に戻ってくる。
 不利な状態から一変し、味方が先に戻ってくる分だけ有利になった。
 けど、僅かに手が震えていた。

 三人を撃ち抜いた感触が生々しく指に残っている。もしも私がやられていたら──。更に不利な状況へと追い詰められ、実力が拮抗した状態では覆せず敗北する可能性だってあった。というか、普通撤退するべきだったかもしれない。判断を誤った? 何故? Xランクを目前に控えて緊張しているから? それともレイにぎゅって抱き締められているから? 私の心音をずっと聴かれてる。ってかレイ可愛い。本当に……可愛い。こんな可愛い生物存在するの? って毎回驚く。心音を聴かれていると私の内面まで観察されているみたいで不安になる。私の考えていることは全てお見通しなのかもしれない。

 ボムを相手の後方に投げ、動きを封じてから急速接近、そして落とす。
 ふぅ……と内心深呼吸。
 レイが全て知ってるとか、そんなの今は関係ないじゃない。
 集中──。
 味方がタワーに乗った。
 タワーが起動し、リズミカルなBGMを鳴らしながら進み始める。
 味方も大ジャンプで復帰してくれた。
 三つの関門を抜けた先がゴール。
 関門を通り過ぎるまでの間はタワーが動かず、タワーの上に乗る味方は逃げ場の無い場所で集中砲火を浴びてしまう。
 だからタワー移動は味方に任せ、付近に潜み、接近してくる敵を撃つ。
 焦っているからか、相手のクリアリング(味方陣地内で敵が潜んでいないか確認すること)が甘い、甘すぎる、まるでレイのほっぺたのように──って舐めたことないけど、でも甘いと思う、レイは全身美味しそうなんだから。「ひぇ……」私は死角から忍び寄り、タワーに群がる敵を二匹落とした。その瞬間、第一関門を抜ける。いいペースね。私ともう一匹の味方がタワーを護衛し、タワーに乗る二匹は遠距離射撃で牽制している。「ねぇねぇサクラ~」これならかなり奥深く「今からサクラの乳首当てゲームやりま~~す!」まで、──ノックダウンも狙えるわね。「いくよ~ダラララララララ(ドラムロール音の口真似)──ここだっがぁ!?」ベキンッ二つ目の関門も突破。「ひぐぅぅぅ……指がぁ……私の……指がぁ…………」「痛くない」「痛いよ! 指掴まれて変な方向に曲げられてへし折れた……」今いいところだから大人しくしてなさい──とは、口には出さない。何故ならレイはそうお願いした場合絶対に邪魔をしてくるから……。ほら、こんな感じでニヤニヤと意地悪く不気味な──でも可愛い笑みを浮かべながら……。

 ブルン、とコントローラーが振動する。三つ目の関門付近で、敵のスペシャルが二つ同時に襲ってきて、避けられなかった。タワーに乗る味方も……。一匹残っていたけど狙われて撤退することもできずに撃沈。

 けど、二つの関門を突破し、三つ目の関門近くまで進むことができ、私たちが大量にリードしている。ただ、時間はまだあるので油断は禁物、と自分に言い聞かせる。リードすることで緊張感が薄れ、隙が生じる。実力差があるなら安心できるかもだけど、同等レベルの相手は、その僅かな隙を突かれて試合がひっくり返されることだってある。故に慎重に、集中して戦わなければならない。

 しかし、私の不安は的中してしまった。
 私含めて、味方全員に一瞬楽観ムードみたいなモノが流れた。ボイチャして意思疎通してるわけでもなく、闘っている者だけが感じ取れる雰囲気だ。皆簡単にタワーに特攻し、落ちていく。まぁでもリードはまだまだあるし、大丈夫だろう……という感覚「畜生、じゃあ今度は腋を擽ってやる……な!?」腋に差し込んできた手をぐっと腋で挟む。「腕が抜けない……。だったら足──あ、いつの間にか絡まってる」だから、気づいた時には敵が乗ったタワーが味方陣地の第二関門も通り抜けていた。リードもあと僅か──。私は咄嗟に高台からジャンプする。空中から急行落下「もう……こうなったら……サクラの匂いめっちゃ吸うから! ほら~くんかくんか!」タワーに乗る一匹を打ち抜くも──。

「──ッ、逆転された」
「サクラ、もう体が締まって、動けない……ってかあれ、なんか……嫌な記憶が蘇るのですが……」
「待って、そん……な、ウソでしょ」
「……ふふっ、あっはっはっは! 油断したねぇサクラちゃいたいたいたい締めないで……」「最悪」「一手遅かったね。ううん、二手、三手……だから締めるのは辞めてください……」

 相手四匹は全員落ちたけど、タワーは三つ目の関門に到達してしまった。私たちが勝利するには、タイムアップまでに第三関門を突破するしかない。残り30秒。ミシミシと奥歯が噛み合う音が響いた。タイムアップになっても劣勢側がタワーに乗っている間は延長線となり試合は終わらないけど、一度でもタワーを相手に乗っ取られたらそこで試合終了──。せめて、まだ一分残されていれば……。

「ねぇサクラ……」
「ん?」
「あのね、諦めたらしょこで……あ、噛んじゃった……」「ん?」「コホン……諦めたらね、そこで──試合終了だよ」

 レイは真っ直ぐ私を見つめながらそう言った。
 凛々しい声色で。
 シンプルだけど、今の絶望に瀕した私を打つ言葉。
 ふうん、いい言葉じゃない。
 そうよ、そうね……まだ負けたわけじゃないわ。希望は残されている。

「……ありがとう、レイ」

 私が真面目に感謝すると、レイは私の胸に顔を埋めてプルプル震え始めた。これは……笑ってる? どうして? と思ったところで、味方が1人落とされた。もうすぐ敵陣に入ろうとしているのに。ぞわっと絶望と恐怖が這い上がってくる。けど、そうよ、諦めたら駄目。そこで気持ちが萎えたら、凹んだら、その後の未来に価値を見いだせないと思ったら、再びカッターを「サクラ!」
「な、なに?」「ほら、集中集中!」
「うん……」

 一緒に這い上がってきた赤色に染まる記憶を振り払った。
 今度は相手側に楽観ムードが流れた。私はその流れに乗るように、接近する敵を二匹撃ち抜いた。味方も二人倒し、俄然私たちが有利となる。「ナイス!」と私は声を出しながらイイネボタンを押す。すると味方三人からも返事が。

 延長戦を知らせるブザーが鳴り響く。
 ドキンッ! と胸が高鳴った。
 ここからは、一瞬でも敵にタワーを取られたら、終わる──。
 遠距離攻撃可能な武器を構える二人が乗り、私たちが護衛に回る。
 一つ目の関門を通り抜ける。敵側の陣地奥深くとなり、相手側の攻撃が激しさを増す。
 なので、私は壁を伝いながら一気に敵陣の裏取りを狙った。タワーに集中する分、相手の注意が薄くなる。単身敵陣に侵入した。よし、誰も居ないわ。少し進むと無防備な敵の姿を確認する。私はタワーを待ち受ける敵を挟み撃ちにするかのように襲いかかった。
 一匹、
 二匹──。
 三匹目で気づかれるも、味方のフォローが入り、どうにか倒せた。が、四匹目にやられた。けど味方はまだ三匹も残っている。行ける。第二関門突破。私はスタート地点に戻るも速攻で大ジャンプ。タワーに潜り込み、すぐに離れる。裏取りは二度は使えない。けど、今の勢いを保ったまま、あとはタワーに迫りくる相手を捌ければ──。

 キィィイイイイイイイイイイイイイイ!!!

 その瞬間、凄まじい量の攻撃がタワーに降り注ぐ。
 相手のスペシャルが発動した。
 瞬間、タワーに乗る味方二匹が消し飛んだ。
 通らない射線を無理やり狙ってきた怒涛の攻撃。相手も必死だった。
 そんな……。
 付近で隠れていた味方は一匹倒すも、二匹目に撃ち落とされる。
 がら空きになったタワーに敵が迫る。
 ここで撃ち落とさないと……。
 けど、
 でも、
 うそ、
 私が突破されたら
 敗北──。
 負け──。
 ぞわっと振動するみたいに手が震えた。緊張感がぬるっと泥のように私を包む。あの時、最後の演奏を母に聴いてもらった時のような気持ち悪さが、まるで腐臭のように私の中に溢れる。忘れようとしても拭い取れない記憶。まるで私の体に刻まれ、時々痛みと共に開く傷のように蘇る。
 迂回したら間に合わない。
 僅かにこびりつくインクに飛び込んで高台に登る。
 やるしかないわ。
 相手がタワーに登る瞬間に、私が空中からダッシュで急速接近し、落ちながら撃ち落とさなければならない。でも、緊張で、手が、体が震えて、息も……なんか上手くできないじゃない。落ち着きたいのに、どうすれば、落ち着く、深呼吸も……できない上手くあああああ──。
 ──その時、私は思い出した。
 スプラッシューンを、初めてレイの家で遊んだ時の記憶。
 まるで走馬灯のように。
 レイが私の背後から覆いかぶさり、レイのあの柔らかいおっぱいの感触を覚えた時、とても頭がスッキリした気がする。プラシーボかもしれないけど、でも、あれがあれば……この危機的状況を回避できるかもしれないじゃない!

「レイ……あの」
「あ、もう終わりそう」
「あの、あのね……足が痺れてきたから……」「なんか眠くなっちゃった~」「だったら、私の……背後から……」「サクラの背中?」「えぇ、突然で申し訳ないんだけど、背中にくっついてくれないかしら。初めてレイの家でスプラッシューンを遊んだ時のように──」
「なんで?」レイはゆっくりと首を傾げて問う。
「それは、えっと……」
「どうしたのサクラ? 私に背後から抱き着かせて、どうされたいの? あのね、はっきりと口にしないと、私……わかんない」

 レイは私の足の間で仰向けになり、うりうり~と顎を擽ってくる。
 ……わかってるクセに。
 なんかそんな気がした。私が何をさせたいのか全部わかってるのに、それを私の口から吐き出させたいから、こうしてアホ面晒しているのよ。

「……女性の胸には、癒し効果があるの」
「突然どうした」「一瞬だけ冷静になりたい」「ふむふむ」「だから……私の頭を──」
「頭を?」
「頭を……ここまで言えばわかんない?」「わかりません」「ぎゅってして……胸で」

 レイは一瞬目を瞑った後、大きく見開いて大げさに驚くような顔をした。

「え、マジで?」
「マジで……」
「でも前みたいに意識飛ばさない?」「そうね、あまり強くぎゅってしないで頂戴。お願いします」
「ふふっ、しょうがねぇーな」

 レイは私の足から離れると、一瞬の間を置いて、しゅるっとレイの両手が私の肩から降りてくる。ごくっ、と唾を飲み込んだ。

 むっ……にゅぅぅうう──。

 柔らかさと暖かさが頭から広がる。すると、ぼやけた視界がくっきり鮮明に映る。プラシーボとか、そういうレベルじゃないわ! 指とコントローラーが直結して、まるで私が画面の中に居るキャラクターになったような感触を覚えた。

 神経が、感覚が、全てが研ぎ澄まされて、私は武器からインクを放出しながら加速した。
 飛ぶ──
 重力を置き去りにして、
 空中で武器を構えた。
 加速する
 落ちながら
 無人のタワーに飛び乗ろうとする敵と、空中で重なるように合わさる。
 一発、
 二発、
 三、四──。
 爆発四散する相手の姿。
 掌に広がる破裂の振動を覚えながら、私はタワーに落ちていた。
 第三の関門に到達し、敵が迫ってくる前に呆気無く突破した。
 その瞬間、画面に『決着!』の文字が表示された。

☆★☆★

 数日後。

「Xランクから落ちたの?」
「ううん、ギリギリ踏みとどまってるわ。けど、そろそろヤバイかも」
「そ……じゃあ、また私のおっぱいで頭包む?」
「へ、変なこと言わないで」
「いやいやサクラがレイのおっぱいでぎゅってして~ってお願いしてきたんじゃん」
「あの時は……どうかしてたのよ」
「で、それ買うの?

 家電量販店のゲームコーナーで、私が手にとったパッケージを見て、レイが問う。有名なゲームのキャラクターが一同に会して闘う格闘風アクションゲームだ。

「これって人気のあるゲームなんでしょ? スプラッシューンも一応の目標は到達したから、今度は別のゲームも遊ぼうかと……」
「はぁ、じゃあ次私のおっぱいがほしい時は、パフェ一つ奢ってね」
「大丈夫、だから……」

 多分……。
 まぁこの後また嵌ってしまった私は、世界ランク1000万パワーを賭けた闘いで、レイにおっぱいを懇願するのだけど、それはまた別の話──。


//終
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