奇妙な卒業旅行 中編

 ワゴン車は古い港町に向かっていた。僕は原田さんに出会ったときと同じデニム短パン姿。原田さんはそのときから僕をモデルに、誘拐された少年のショートムービーを構想していたらしい。
「俺はいままで女性ばかり縛ってきた。でも君を見たとき、初めて男の子を縛ってみたいと思った。なんか違うスイッチが入ったんだよ。スイッチが入れば、俺はカメレオンだから」
「カメレオン?」
「狙った獲物は必ず捕まえる」
 原田さんはときどき車を止めて、緊縛されてもがいている後部座席の僕をフィルムに収めていた。
「このモデルが務まるのは君しかいない。どう見ても少年だ」
 2階建ての別荘の前でワゴン車は止まった。僕は麻縄と猿ぐつわを解かれ、上着を羽織って車外に出た。風はなかったが半ズボンの太腿は冷たい。
「ここは舞踏団が練習にも使う場所だ。ここにいまから君を吊るすから」
 別荘の1階はステージのようになっていた。照明の設備も備え、吊りに使えそうな太い梁もあった。僕は黒いレザーのショートパンツにはきかえさせられた。秀子さんは赤のエナメルのショートパンツ姿で、バラ鞭と乗馬鞭を持っていた。原田さんの所属するSMサークルで、僕は何度か吊りを体験していた。でもここは別世界。古い木造家屋に麻縄は似合う。スポットライトと闇のコントラストに酔いしれ、鞭にまた酔う。秀子さんの手になる鞭でいやというほどお尻を打たれ、そのたび宙に舞う。静かな夜に鞭音が響く。夜の先にもう一つの夜が広がっているような感覚。ようやく下ろされて縄を解かれ、猿ぐつわをはずされた。
「明日サークルのメンバーがもう2人来る。俺と秀子は先に帰るよ」
「僕、どうしよう」
「卒業式まで暇なんだろ。河野さんと矢崎さんが来る。たまには男の子をいじめてみたいって」
 河野さんと矢崎さんは釣り仲間で50歳前後のおじさんだ。2人が僕を責めたいって? 2人とも年季の入ったスパンカーだけど。それもちょっと楽しいかも。
「結構いい動画が撮れたよ。河野さんがまたパドルとか持ってくるから、可愛がってもらうといいよ」
「まだお尻が痛いです。赤くなってるよ」
「一晩眠れば、また白いお尻になるわよ」
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