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そのまま馬車はお屋敷の敷地内に入っていき屋敷の扉の前に止まった。ジャックさんが着きました、とか言ってるけどここって辺境伯のお屋敷だよね?
いきなりお屋敷は不味いんじゃないかな? 気持ちの準備ができてないんだけど…てっきり町に入って冒険者ギルドに案内されて~って言う流れがあるのかと思った。そんなのはなかったわ。
そしてそのままドナドナと屋敷の中に案内されて沢山のメイドさんに出迎えられて豪華な客室へと連れられていく。
……っは! 気付いたら椅子に座って紅茶飲んでたわ。頭が考えるのを拒否していた…
『ナァー?』
「なんでもないぞぉ? それよりほれほれ、もっとちこうよれ」
部屋の中をうろうろしてるみー婆を手招きして頭を撫で回す、ほれほれここがいいんか?
『ナァァ~』
膝に頭を乗せてじゃれつくみー婆に気を良くしながら撫で回しているとドアがノックされる。令嬢さんかな?
「失礼するよ、お客人」
そう言って入ってきたのは杖をついているが背筋をしゃんと伸ばした老紳士とジャックさんではない1人の老執事だった。どちらも渋い感じのナイスミドル、ハリウッドスター顔負けだなぁ。
突然の来訪に思考停止してると膝上に顔を載せていたみー婆がほら、挨拶なさいと顔をどけて鳴き声をあげる。
「いや、そのままで結構。団欒の邪魔をして悪かったね」
「すいません…お邪魔してます」
『ナァ』
お邪魔してるわね、と短く鳴くと撫で撫での続きはよ、と膝に頭を戻すみー婆。助かったよみー婆。
「ほっほ、まるで祖母と孫を見ているようじゃ」
「わかりますか?小さい頃からずっとこうなんですよ…いつまでも子供扱いされてて」
「孫はいつまで経っても可愛い子供なんじゃよ。っと、歳を取るといつまでも無駄話をして困るな。儂の名はジーク・フォン・フリージア、ここの先代じゃ。孫のマリアンヌが世話になったと聞いてのぉ。一言礼をと思ったんじゃ」
なんかいろんな人からお礼を言われてるんだけど…実際助けたのはみー婆だからなぁ…
「あのー、お礼を言うならみー婆にお願いします。実際助けたのはみー婆でして…俺なんて何もしてないですよ?夕飯とお土産を用意したぐらいで…」
「だが、助かったのも事実じゃ。他のものならここぞとばかりに報酬を強請ってくるものじゃぞ? お主は少し謙虚過ぎるぞ」
と言われましても…そんなことしたらみー婆になにをされるかわからないし。謙虚大事。
『ナァー』
みー婆も、そんな態度取ったらお仕置きよ、とじっと俺を見つめてくる。みー婆、わかってるよ。なでなで。
「ほっほ、随分とよく育てましたな。いい孫を持って羨ましい限りですわい」
『ナァァ』
えぇ、自慢の孫よ。と返事をするみー婆。ほんと、みー婆には助かってるよありがとうな。
「大旦那様、そろそろお薬の時間です。こちらを」
「おぉ、すまんな。お客人、水差しを失礼するよ」
そう言ってジークさんは老執事から薬を受け取るとそのまま口に含み水でそれを煽る。一瞬しか薬は見えなかったがどんな病なのかわかって思わず口ずさんでしまった。
「…錬金毒?」
ファンタジー要素満載でゲームとかでも見たこともないような名前の毒に呟いてしまったが気がつけば老執事から剣呑な視線を浴びていた。
こ、これはなんかやらかしてしまったか?いや、やらかしたんだろうな。雰囲気がピリピリしてるもん。
「サバス、落ち着くのじゃ」
「……失礼いたしました」
老執事ことサバスさんは頭を下げると剣呑な視線をやめて一瞬にして存在感を霧散させた。すげー、なんかの達人か?
「すまんな、お客人。怖がらせてしまって。サバスの事を許してやってくれ、中々この薬がなんの薬なのか知る者は少なくてな。それこそ錬金術師くらいなものじゃ」
「いえ…こちらこそ口に出してしまって申し訳ないです。見たこともない物だったのでつい…」
「ほっほ、鑑定類のスキルでももっておるのかの。まぁこの薬については他言無用で頼む、隠居したとは言え儂の事を狙っている輩もおるからの」
貴族世界の闇ってやつですねわかりますが知りたくないです。でもなぁ…あの薬、錬金毒の進行を遅延させるってあったし…
「あの、ジーク様。その毒って治らないんですか?」
「……まぁ、知られてしまったからにはいいじゃろう。この毒は治らんのじゃ。いや、治せんのじゃよ」
ジークさんがいうにはこの毒の作成者である錬金術師は毒を作ることに特化していて解毒薬の作製は行っていなかったらしい。勿論他の錬金術師が毒の解析をし解毒薬を作る事は可能で多くの毒には解毒薬が出来たのだがジークさんが受けた毒は特殊な方法で作られていて遅延薬の作製が精一杯だったとの事。
「そうなんですか…」
「なに、今すぐ死ぬわけではない。ただちと金がかかるだけじゃ」
なんていうが、やっぱり毒に侵されてる影響は出てるんじゃないかなぁ。どうにかできればいいけど…
『ナァ~』
「そうだよねみー婆、助けるのに理由なんてないよね」
なにを悩んでるのよ、助ければいいじゃない。と膝の上でなくみー婆の頭を撫でて空間収納からとある木から貰った果実を取り出す。
「ジーク様、これで治りますか?というか治って欲しいんですけど」
「これはなんじゃ?」
取り出したのは見た目は桃みたいな感じだけど色が真っ白な果実。鑑定だと【癒しの実】って書いてあった。自然界の万能薬とあったからきっと効果はあるはずなんだけど。
「大旦那様!今すぐその実をお食べください!」
「さ、サバス。お主までどうしたのじゃ」
「その果実は癒しの実でございます! 大旦那様の錬金毒を完治させることのできる実でございます!さぁお早く!」
急に慌て出したサバスさんに驚いたのはジークさんだけじゃない。俺も驚いて思わずビクッとなってしまった。みー婆は膝が揺れて俺を睨みつけてるけど仕方なくないか?いや、すまんかったけど…
そんなゴタゴタはあったが結果的に言えばジークさんの錬金毒は完治した。そしてサバスさんからはめちゃくちゃ感謝された、どうやらジークさんが錬金毒に侵された件はサバスさんにとって悔やみきれない事件だったらしい。詳しくは聞いてない、治ったんだから掘り返す必要もないしね。
「しかし困ったのう。お客人には大きな借りができてしまったな」
「借りだなんて。たまたま運が良かっただけですよ」
「だがの? お客人が良くとも儂とサバスの気がすまんのじゃ。そうじゃ! 聞くところによればこれから冒険者ギルドに行くのじゃろ?どれ、儂が一筆書こう。サバス」
「こちらに大旦那様」
サバスさんがいつのまにか用意していた便箋と筆を持ち、ジークさんがサラサラと何やら書いていく。見るからに豪華な便箋に目を奪われているとそれを折り畳み封筒に入れて蝋を垂らして指輪で封をする。おぉ!本当にそうやるんだ!
「お客人、これを冒険者登録の際に受付に渡しなさい。多少なりの融通は聞いてくれるはずじゃ」
「ありがとうございます、助かります」
冒険者ギルドと貴族の間柄とかわからないけどもらっておくに越したことはないかな?登録料の免除とかなったら嬉しいなぁ。
「ではそろそろ儂は失礼するよ。サバス馬車の用意を、王都に向かうぞ」
「はっ!」
サバスさんは急いで外に出て行ってしまうがなんだか慌ただしいな、急用でもあるんだろうか?
「そうじゃそうじゃ。名をまだ聞いておらんかったな、なんと言うんじゃ?」
「あ、そうですね…失礼しました。ジュン・ナガセと申します、家名はありますが平民の出です」
「なるほど、東洋系の名前じゃな。遠いところから大変じゃのう。それではなジュン殿、世話になった」
軽く挨拶してジークさんはサバスさんの後を追うように部屋を出て行ってしまった。あ……杖忘れていってるけど…あとでこの家の人に渡せばいいかな。
その後令嬢さんが呼びに来るまで俺とみー婆は部屋でのんびり過ごすのだった。
いきなりお屋敷は不味いんじゃないかな? 気持ちの準備ができてないんだけど…てっきり町に入って冒険者ギルドに案内されて~って言う流れがあるのかと思った。そんなのはなかったわ。
そしてそのままドナドナと屋敷の中に案内されて沢山のメイドさんに出迎えられて豪華な客室へと連れられていく。
……っは! 気付いたら椅子に座って紅茶飲んでたわ。頭が考えるのを拒否していた…
『ナァー?』
「なんでもないぞぉ? それよりほれほれ、もっとちこうよれ」
部屋の中をうろうろしてるみー婆を手招きして頭を撫で回す、ほれほれここがいいんか?
『ナァァ~』
膝に頭を乗せてじゃれつくみー婆に気を良くしながら撫で回しているとドアがノックされる。令嬢さんかな?
「失礼するよ、お客人」
そう言って入ってきたのは杖をついているが背筋をしゃんと伸ばした老紳士とジャックさんではない1人の老執事だった。どちらも渋い感じのナイスミドル、ハリウッドスター顔負けだなぁ。
突然の来訪に思考停止してると膝上に顔を載せていたみー婆がほら、挨拶なさいと顔をどけて鳴き声をあげる。
「いや、そのままで結構。団欒の邪魔をして悪かったね」
「すいません…お邪魔してます」
『ナァ』
お邪魔してるわね、と短く鳴くと撫で撫での続きはよ、と膝に頭を戻すみー婆。助かったよみー婆。
「ほっほ、まるで祖母と孫を見ているようじゃ」
「わかりますか?小さい頃からずっとこうなんですよ…いつまでも子供扱いされてて」
「孫はいつまで経っても可愛い子供なんじゃよ。っと、歳を取るといつまでも無駄話をして困るな。儂の名はジーク・フォン・フリージア、ここの先代じゃ。孫のマリアンヌが世話になったと聞いてのぉ。一言礼をと思ったんじゃ」
なんかいろんな人からお礼を言われてるんだけど…実際助けたのはみー婆だからなぁ…
「あのー、お礼を言うならみー婆にお願いします。実際助けたのはみー婆でして…俺なんて何もしてないですよ?夕飯とお土産を用意したぐらいで…」
「だが、助かったのも事実じゃ。他のものならここぞとばかりに報酬を強請ってくるものじゃぞ? お主は少し謙虚過ぎるぞ」
と言われましても…そんなことしたらみー婆になにをされるかわからないし。謙虚大事。
『ナァー』
みー婆も、そんな態度取ったらお仕置きよ、とじっと俺を見つめてくる。みー婆、わかってるよ。なでなで。
「ほっほ、随分とよく育てましたな。いい孫を持って羨ましい限りですわい」
『ナァァ』
えぇ、自慢の孫よ。と返事をするみー婆。ほんと、みー婆には助かってるよありがとうな。
「大旦那様、そろそろお薬の時間です。こちらを」
「おぉ、すまんな。お客人、水差しを失礼するよ」
そう言ってジークさんは老執事から薬を受け取るとそのまま口に含み水でそれを煽る。一瞬しか薬は見えなかったがどんな病なのかわかって思わず口ずさんでしまった。
「…錬金毒?」
ファンタジー要素満載でゲームとかでも見たこともないような名前の毒に呟いてしまったが気がつけば老執事から剣呑な視線を浴びていた。
こ、これはなんかやらかしてしまったか?いや、やらかしたんだろうな。雰囲気がピリピリしてるもん。
「サバス、落ち着くのじゃ」
「……失礼いたしました」
老執事ことサバスさんは頭を下げると剣呑な視線をやめて一瞬にして存在感を霧散させた。すげー、なんかの達人か?
「すまんな、お客人。怖がらせてしまって。サバスの事を許してやってくれ、中々この薬がなんの薬なのか知る者は少なくてな。それこそ錬金術師くらいなものじゃ」
「いえ…こちらこそ口に出してしまって申し訳ないです。見たこともない物だったのでつい…」
「ほっほ、鑑定類のスキルでももっておるのかの。まぁこの薬については他言無用で頼む、隠居したとは言え儂の事を狙っている輩もおるからの」
貴族世界の闇ってやつですねわかりますが知りたくないです。でもなぁ…あの薬、錬金毒の進行を遅延させるってあったし…
「あの、ジーク様。その毒って治らないんですか?」
「……まぁ、知られてしまったからにはいいじゃろう。この毒は治らんのじゃ。いや、治せんのじゃよ」
ジークさんがいうにはこの毒の作成者である錬金術師は毒を作ることに特化していて解毒薬の作製は行っていなかったらしい。勿論他の錬金術師が毒の解析をし解毒薬を作る事は可能で多くの毒には解毒薬が出来たのだがジークさんが受けた毒は特殊な方法で作られていて遅延薬の作製が精一杯だったとの事。
「そうなんですか…」
「なに、今すぐ死ぬわけではない。ただちと金がかかるだけじゃ」
なんていうが、やっぱり毒に侵されてる影響は出てるんじゃないかなぁ。どうにかできればいいけど…
『ナァ~』
「そうだよねみー婆、助けるのに理由なんてないよね」
なにを悩んでるのよ、助ければいいじゃない。と膝の上でなくみー婆の頭を撫でて空間収納からとある木から貰った果実を取り出す。
「ジーク様、これで治りますか?というか治って欲しいんですけど」
「これはなんじゃ?」
取り出したのは見た目は桃みたいな感じだけど色が真っ白な果実。鑑定だと【癒しの実】って書いてあった。自然界の万能薬とあったからきっと効果はあるはずなんだけど。
「大旦那様!今すぐその実をお食べください!」
「さ、サバス。お主までどうしたのじゃ」
「その果実は癒しの実でございます! 大旦那様の錬金毒を完治させることのできる実でございます!さぁお早く!」
急に慌て出したサバスさんに驚いたのはジークさんだけじゃない。俺も驚いて思わずビクッとなってしまった。みー婆は膝が揺れて俺を睨みつけてるけど仕方なくないか?いや、すまんかったけど…
そんなゴタゴタはあったが結果的に言えばジークさんの錬金毒は完治した。そしてサバスさんからはめちゃくちゃ感謝された、どうやらジークさんが錬金毒に侵された件はサバスさんにとって悔やみきれない事件だったらしい。詳しくは聞いてない、治ったんだから掘り返す必要もないしね。
「しかし困ったのう。お客人には大きな借りができてしまったな」
「借りだなんて。たまたま運が良かっただけですよ」
「だがの? お客人が良くとも儂とサバスの気がすまんのじゃ。そうじゃ! 聞くところによればこれから冒険者ギルドに行くのじゃろ?どれ、儂が一筆書こう。サバス」
「こちらに大旦那様」
サバスさんがいつのまにか用意していた便箋と筆を持ち、ジークさんがサラサラと何やら書いていく。見るからに豪華な便箋に目を奪われているとそれを折り畳み封筒に入れて蝋を垂らして指輪で封をする。おぉ!本当にそうやるんだ!
「お客人、これを冒険者登録の際に受付に渡しなさい。多少なりの融通は聞いてくれるはずじゃ」
「ありがとうございます、助かります」
冒険者ギルドと貴族の間柄とかわからないけどもらっておくに越したことはないかな?登録料の免除とかなったら嬉しいなぁ。
「ではそろそろ儂は失礼するよ。サバス馬車の用意を、王都に向かうぞ」
「はっ!」
サバスさんは急いで外に出て行ってしまうがなんだか慌ただしいな、急用でもあるんだろうか?
「そうじゃそうじゃ。名をまだ聞いておらんかったな、なんと言うんじゃ?」
「あ、そうですね…失礼しました。ジュン・ナガセと申します、家名はありますが平民の出です」
「なるほど、東洋系の名前じゃな。遠いところから大変じゃのう。それではなジュン殿、世話になった」
軽く挨拶してジークさんはサバスさんの後を追うように部屋を出て行ってしまった。あ……杖忘れていってるけど…あとでこの家の人に渡せばいいかな。
その後令嬢さんが呼びに来るまで俺とみー婆は部屋でのんびり過ごすのだった。
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