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アストリナ王編
第77話 当事者
しおりを挟む「ダンテ将軍。 一つ、命を下しても宜しいですか?」
その言葉を聞いて、ダンテは姿勢を正すと片膝を付きルクレティアの顔を見る。
「帝国軍、第七位ジルドレ将軍は恐らく謀反を起こすでしょう」
「そっ、そんな事はありませんよっ」
ルクレティアの言葉を聞き、焦ったように弁解をするジルドレ。
しかしその言葉を無視するように、ルクレティアは言葉を続けていく。
「ですので今後、生死を問わず私が第二将軍の位から外れる事があれば」
そう言うと【見】が刻まれた左目で、ジルドレに視線を送る。
「即座にこの者の首を刎ねて下さい。 宜しいですか?」
「承知致した」
その茶番とも言えるやり取りを聞き、ジルドレは焦ったように苦笑いを浮かべている。
「ふっ、ふふふっ。 冗談ですよ、ルクレティア様」
「そうですか。 しかし私は冗談が嫌いなのです」
そう言うとルクレティアは、改めてジルドレを見つめる。
口調は優しげだが無表情で少し冷たい視線を送るルクレティアに、ジルドレは少し気圧されていた。
「報奨が欲しいのでしたね?」
「いえっ。 冗談が過ぎました。 お許し下さい」
ジルドレは焦ったように片膝を付き跪くと、頭を下げたまま謝罪の言葉を述べていた。
「遠慮する事はありません。 何が欲しいのですか?」
跪き頭を下げるジルドレを見下ろしながら、冷静な口調で問うルクレティア。
ジルドレは少し緊張した口調で、ゆっくりと口を開いた。
「そっ、それでは…… ルクレティア様の位を返上する件を…… 撤回頂ければ……」
「それだけで構わないのですか?」
「はいっ…… 何卒」
俯くジルドレの言葉に対し、ルクレティアは少しだけ呆れた表情に変わる。
「分かりました。 それではお立ち下さい、ジルドレ将軍」
「はっ」
緊張した面持ちで立ち上がるジルドレに、ルクレティアは呆れた表情のまま言葉をかけた。
「他に何かありますか?」
「いえっ…… 私はこれで……」
ジルドレはそう言うと二人に一礼し、背を向けて玉座の間を後にしようとする。
歩き出したジルドレが十数歩進んだところで、ルクレティアが思い出したように言葉をかけた。
「そうでした。 ジルドレ将軍がゼニールの馬車に積み込んで持ち帰った大量の金品は、私の手の物に回収させましたので。 報奨は必要無いようですし、問題ありませんよね?」
「もっ…… もちろんです……」
そう呟いたジルドレは、二人の方を振り返る事無く玉座の間を後にしていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ジルドレが後にした玉座の間には、ルクレティアとダンテだけが残っていた。
その場を無言で立ち去ろうとするルクレティアに、ダンテが声をかける。
「ルクレティア殿。 一つ宜しいか?」
呼び止められたルクレティアは、ゆっくりとダンテに視線を送る。
「如何しました?」
ルクレティアの左目【見の烙印】で見つめられ、少しだけ気圧されるダンテ。
しかし意を決したように真剣な表情に変わると、ゆっくりと口を開いた。
「ルクレティア殿。 そなたに隠し事をしても無駄ゆえ、腹を割って話そう」
そう言うと「んんっ」と咳払いをし、改めて話し始める。
「某は腑に落ちんのです。 何故、陛下は【烙印】を持つ者達を、【神狼】のような化け物に」
その言葉を聞いたルクレティアは、小さく溜息を吐くとジッとダンテの目を見つめる。
「将軍、構わないのですか? 話の内容によっては、不敬と取られ罰せられる事になっても」
「構わぬ! 某は某の侠気に基づいて剣を振るっておる。 それ故、納得出来ぬ理由であれば全力を持って抗う事は、承知して頂きたい」
その言葉は暗に謀反を起こすと捉えられてもおかしくない言動。
ダンテの覚悟を察したルクレティアは、静かに話を始める。
「残念ながら、陛下の本当の目的は分かりません。 【数字の烙印】を持つ陛下のお考えは、私には視えないのですから」
「しかし、全見の異名を持つそなたの事だ。 何か予見出来る事もあるのでは無いか?」
問い詰めるような言葉に、ルクレティアは少し笑みを浮かべていた。
「もちろんあります。 それは恐らく【烙印】を使い【この世界を変える何か】を行おうとしているという事」
「世界を変える?」
疑問を浮かべるダンテを気にする素振りも見せず、ルクレティアは話を続ける。
「将軍は不思議に思った事はありませんか? 何故、私のような小娘が自分より上の位に居るのかと」
「そのような…… いや、腹を割って話す約束でしたな。 如何にも、疑問を抱いておる。 そなたは五年前、突如現れ何の功績も無く、すぐに第二位まで上り詰めた」
ルクレティアの言葉に少し戸惑いを見せつつも、本音を語るダンテ。
その正直な言葉を聞いて、ルクレティアは思わず笑みを浮かべていた。
「そしてもう一つ、疑問を抱いているはずです。 その身に【斬の烙印】を宿す将軍なら、当然の事だとは思いますが」
心を見透かされるような言葉に、ダンテは少し困惑していた。
しかし気を取り直すと、ゆっくりと口を開く。
「うむ。 女の身でありながら何故、【烙印の力】が使えるのか。 男と違い、女の身であれば力を使う程に失われていく事は、【烙印】を持つ者であれば誰しも承知している事」
ダンテの言葉を聞き、ルクレティアは背を向け思い出すように上を見上げる。
「それにあのジルドレという下賤の者を、そなたは重用しておる。 あの者が犯した罪、まさか知らぬ訳は御座いますまいな?」
その言葉を聞き、ルクレティアは振り返り静かに話を始めた。
「もちろん存じております。 十年程前。 女性ばかりを誘拐し、生贄と称し内蔵を引きずり出し邪神に捧げていた邪教徒集団。 その生き残り…… それがあの男、ジルドレ」
「そこまで知って居るなら何故! ご説明頂きたい」
ダンテは語気を強め、問い詰めるように言葉を発した。
「将軍はその邪教徒の殲滅作戦には、参加していませんでしたね?」
「如何にも。 あの作戦は確か」
ダンテが続きを話す間もなく、ルクレティアが話を続けていく。
「あの件は一般的には、邪教徒の仕業と言われていますが。 真相は違います」
「違う? それは一体」
「女性ばかりを誘拐し、内臓を引きずり出していたのではなく……」
ルクレティアは何かを思い出すように、少しだけ言葉に詰まる。
しかしすぐに気を取り直すと、改めて話を続けた。
「【烙印】を持つ少女だけを誘拐し…… 女性の証である子宮を取り除いていたのです」
「まさか…… そのような事が……」
初めて知った事実に対し、ダンテは困惑した表情を見せていた。
「あのジルドレという男は何者かに金で雇われ、女性を誘拐し犯し必要とあらば殺していただけなので…… 事の真相は知らないようですけど。 実際は邪教徒の仕業等では無いのですよ」
ルクレティアの言葉を聞き、ダンテは疑問を浮かべた表情を見せていた。
「そなたは過去は見れぬはず。 何故、そこまで知っておられるのだ?」
その言葉を聞いたルクレティアは、ゆっくりと黒の帝国官服を脱ぎ捨てる。
「なっ、何を」
突然の出来事にダンテは、思わず目を背けた。
下着姿となったルクレティアは、下腹部を抑えながら少しだけ笑みを浮かべている。
「将軍。 ご覧下さい」
「そ…… それは……」
促されるようにルクレティアを見たダンテは、困惑した表情を浮かべていた。
ルクレティアの下腹部には、乱雑に斬られたであろう痛々しい大きな傷跡が見える。
「私はその件の当事者。 数少ない、生き残りなのですよ」
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