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お城奪還編

第51話 お風呂

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「ごめーーん皆! 家のお風呂が壊れちゃったから、集会場のお風呂使ってもらえるかな?」

 レイが皆にそう告げる前のお話。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 昼食を済ませた後、アルは布にサラサラと集落跡までの地図を描きアズサに差し出す。

「詳しい話は三日後にするから。 ここに来てくれるか?」

 しかしアズサは受け取らず、少し気不味そうに苦笑いを浮かべていた。

「あっ、あのさぁ…… ボクもそのぉ…… 家に付いてっちゃ不味いかな?」

 気不味そうに話すアズサの言葉を聞いたアルは、少し驚いた表情で返答する。

「いや…… それは俺が決める事じゃないけど…… アズサの家は?」

「実はボク、デンガーナから来ててさ。 国境も警備が厳しいし、決まった家も無いから帰るの面倒くさいなぁって……」

 苦笑いしながら右手で頭を掻きながら話すアズサ。

 そんなアズサを他所に、シナモンが少し気不味そうな表情で呟く。

「デンガーナ…… なのですか?」

「んっ? まぁお前なら知ってそうだけど、遠いのか?」

「まぁ…… ここからだと、結構遠いかもなのですよ……」

 シナモンなら偉そうに講釈を垂れそうな予感がしていたアルは、いつもと違う様子に少しだけ違和感を覚えていた。

 しかし、直ぐに気を取り直したアルは、チラッとレイに視線を向ける。

「だそうだけど。 レイはアズサが来ても、大丈夫かな?」

 気付くとアズサを含めた皆の視線が、レイに集まっていた。

「えっ? えっ? 私? 私は別に構わないけど…… アズサさんの家族とかは?」

「良いのっ? 本当? いやぁ、助かっちゃうなぁ。 ボクは一人で暮らしてたから全然大丈夫」

 レイの言葉を聞いたアズサは、先程までの表情から一転してパァッと明るい表情に変わる。

 その様子を見ていたシナモンは、少し呆れたように呟く。

「どんどん家の無い人が増えるですよ……」

「いや、家の無い人をたくさん連れてきたのはお前だろ……」

「んぐぐっ…… 返す言葉もないのです……」

 アルの言葉にシュンとするシナモンとは対象的に、レイは何やら嬉しそうな表情をしている。

「どした? 何か嬉しそうにしてるけど」

「うん! また賑やかになるなぁって! アルが来てから人がいっぱい増えて嬉しいねっ」

(まぁ今は喜んでられる状況でも無いんだけどな……)

 アルはそんな事を考えつつも、水を指すのをやめレイの頭をポンポンと撫でる。

「全部、レイのおかげだろ? 俺もシナモンも、リナにアズサだって」

「そうなのです! レイ様には、とても感謝してるですよ」

「……うん」

「うんうん! ボクもボクも!」

 皆に感謝の言葉を聞いたレイは、少しだけ照れくさそうに頬を掻いていた。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 こうした経緯もあってアズサを含めたアル達一行は、集落跡へと帰ってきた。

 既に日も傾きかけており、貴族達の住む集会場では夕食の準備が行われている。

 シナモンも荷物を家に置くと、いそいそと食事の準備の為に集会場へと急いだ。

「知り合いもいるけどぉ…… あんまり期待させたくないしボクはぁ……」

 アズサは貴族達の中に知り合いが居るようだが、少し気不味そうな様子を見せていた。

 聞けば十年近く会ってないらしく、全てが解決するまでは会わないとアル達に告げる。

「じゃとりあえず私達の家に行こっか?」

 気不味そうにするアズサの袖を引っ張るように、レイが笑顔で家まで案内した。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 しばらくすると夕食の準備が出来、居間のテーブルにはいつもより多めの料理が並ぶ。

「うんっうんっ。 美味しいね! ボク、ご飯食べてる時が一番幸せかも」

「さすがシナモンちゃんっ! いやぁ、いっぱい歩いたからお腹減っちゃって」

「…………うん」

「まだいっぱいあるですから、遠慮しないで食べて欲しいのですよ」

 女性陣のまるで戦争のような夕食の光景を、少し呆れた表情で眺めていたアル。

 一通り女性陣の食事が済むと、アルは残り物をつまみにチビチビと酒を飲んでいた。

 夕食を食べ終えるとシナモンやアズサが後片付けをし、リナはアルの横でボーッとしている。

 後片付けを終え居間でくつろいでいたアル達に、レイが冒頭の言葉をかける。

「ごめーーん皆! 家のお風呂が壊れちゃったから、集会場のお風呂使ってもらえるかな?」

「そうなのか? まぁ俺は構わんけど…… じゃさっそく……」

 レイの言葉を聞いたアルが立ち上がろうとすると、気不味そうな表情のレイが言葉をかける。

「あのぉ…… 悪いけどアルは一番最後で……」

「えっ? なんで」

「いやぁ…… だってここ、アル以外に男の人居ないからさ……」

 少し気不味そうな表情のまま、レイが話を続けた。

「うん。 もし誰かと一緒にってなっても困るし…… 悪いけどアルは最後で……」

「そっか…… まぁ確かにそうだな……」

 少しガッカリするアルの様子を他所に、レイは残った女性陣に声をかける。

「それじゃ皆でお風呂行こっか?」

「はいなのですよ!」

「…………うん」

 返事をするシナモンとリナとは違い、アズサだけは少し苦笑いを浮かべていた。

「アズサ様は行かないのですか?」

 キョトンとした表情で問いかけるシナモンに、アズサは表情を変えずに返答する。

「いやぁ…… あっちの人達にバッタリ会っても気不味いしぃ。 ボクも後で入るかな」

「そっかぁ。 じゃ先に私達だけで行こっか?」

 そう言うとレイはリナとシナモンを連れて、集会場の風呂へと向かっていった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 居間に残されたアルとアズサ。

 少し落ち着かないように居間の様子をキョロキョロと見回すアズサに、アルが声をかけた。

「アズサって一応大人だよな? 酒、飲む?」

 アルの言葉を聞いたアズサは、少し不満げな表情で返答する。

「一応って、ボクは二十二歳だよ? すんごい大人なんだけどぉ!」

「……そっすか」

 アズサの勢いに少しだけ圧倒されたアルの様子を見て、少しだけニヤッと口角をあげると……

「飲みたいところだけどぉ。 お酒はやっぱお風呂上がりでしょ?」

「そうだな。 んじゃ俺も後で飲むとするかなぁ」

「でしょでしょぉ! その時は付き合ったげるよ」

 ニカっと笑うアズサの言葉通り酒坏を伏せたアルは、スッと立ち上がる。

「んじゃまた後でな。 俺はちょっと調べる事あるから」

「えっ? えっ? あっ、うん」

 そう言うとアルは、居間にアズサを残して自室に籠もってしまった。

 居間に一人取り残されたアズサ。

「人の家だし…… 勝手に触っちゃまずいよねぇ……」

 キョロキョロと居間の中を眺めつつ、おもむろに大きなあくびをする。

「ふぁぁぁ…… 何か今日は疲れたしぃ…… お腹いっぱいだと……」

 そう言うとアズサはテーブルに突っ伏したまま、うたた寝してしまった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 数時間後……

 居間のテーブルに突っ伏して寝ていたアズサは、ハッとするように目が覚めた。

「んーー…… うわっ、あれ? ここ…… どこだっけぇ?」

 寝ぼけ眼を擦りながら辺りをキョロキョロと眺める。

 既にレイ達は寝ているようで、居間の天井には少し明かりを落としたランプがぶら下がっていた。

「あっ、そっか。 ボク、レイちゃの家にお邪魔してたんだっけ?」

 そう言うと「んーーっ」と言いながら両手を上に挙げ、身体を伸ばすアズサ。

 パサッ……

 身体を伸ばすとアズサに掛けられていた毛布が、床へと落ちる。

 その毛布に気付いたアズサは、「ふふっ」と少しだけ笑い笑顔になると

「優しい人達で良かったぁ。 ボク、ずっと一人だったからなぁ」

 そう呟きながら、ふと居間のテーブルに目をやると薄い木の板に書かれたメモ書きが見える。

 その横には数枚の手拭いと着替えが置かれていた。

『お風呂の場所はここ! 寝るとこは私の部屋に布団敷いておくね レイ』

 メモ書きを手に取り内容に目を通したアズサは、更に笑顔に変わると

「本当、良い子だなぁレイちゃはぁ。 可愛いし、優しいし。 ふふっ」

 そしてメモ書きをテーブルに置くと、着替えと手拭いを手に取りスッと立ち上がる。

「さてと。 ボクもお風呂入ってこよっかなぁっと」

 そう呟いたアズサは、皆を起こさないように静かに玄関を出て集会場へと向かっていった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 一方その頃、集会場にあるお風呂場ではアルが入浴中だった。

 貴族達が住む集会場の渡り廊下の先に設置されたお風呂場。

 廊下で繋がっているとは言え、離れのような形で作られたお風呂場は、外からでも入れるようだ。

 申し訳無く思ったのか皆が入った後に、改めてレイとシナモンで新しいお湯が張られた浴槽。

 湯気が立ち上るその大きな浴槽の中で、アルが手足を伸ばしくつろいでいた。

「ふぅぅ…… たまにはデカい風呂ってのも良いなぁ…… 今日はマジで疲れたし……」

 往復四時間程度の行程に疲れたアルは、絶妙な湯加減の湯船に癒やされていた。

「はぁ…… アズサも加わって…… もう後戻り出来なくなっちゃったなぁ……」

 アルは自身の置かれた現状、これから訪れるであろう苦境に少し不安を抱いていた。

「とりあえず今出来る事は……っと」

 そう呟くとアルはザバッと湯船に潜り込む。

 そして息を止め潜ったまま、少しだけ思案を重ねていく。

(ゼニールって奴を捕らえた後の事は良いとして…… 問題は仮に失敗した場合だよなぁ……)

 湯船に潜ったままアルは、今ある情報を頭の中で交錯させていく。

(全員が無事に逃れられるように、何か手を打つ必要が……)

 潜ってから数十秒が経過し、少しだけ息苦しくなってきたアル。

(まぁ考えてても仕方ないか。 とりあえず明後日、ディンゴのオッサンが来たらっと)

 ザバァ…………

「プハァァァァッ…… はぁ…… 苦しかっ…… た……  て……」

 アルが湯船から飛び出すように立ち上がると、そこには一糸まとわぬ姿のアズサが立っていた。
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