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お城奪還編

第38話 バレリアの行方

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 現在、ゼニールが居城にしている旧アストリナ国の古城。

 その城の地下には罪人を隔離する牢がある。

 それは城の土台である岩盤を削り取って作られた、堅牢な物であった。

 カツーン…… カツーン…… カツーン……

 地下牢へと続く階段を降りるレドルジの足音が、牢内に響き渡る。

「ふぅ。 いつ来ても暗くてジメジメしてて嫌な所ですね」

 手にランプを持ち、辺りを照らしながらブツブツと文句を言うレドルジ。

 その足は一室の牢の前で止まった。

「ひっ……」

 レドルジが牢の格子越しに中をランプで照らすと、怯えたような悲鳴を上げる男が見える。

「ふふふ。 良かったですねぇ。 貴方は助かったみたいですよ?」

 牢内の隅でガタガタと震える男に、レドルジが優しく声をかける。

「確か…… 貴方は城壁を壊した罪で捕まったんでしたっけねぇ?」

 その言葉に無言で頷く牢内の男。

 その様子を見てレドルジは「ふぅ……」と小さく溜息を吐いていた。

「まさか、ここまで予定通りとは。 さすがに少々驚かされますね」

 何やら意味深な言葉を小さく呟くと、気を取り直したように……

「それでは、御機嫌よう。 私は奥に用があるのでね」

 牢内の男にそう話しかけると、レドルジは牢の奥へと歩を進める。

 いくつか部屋があるようだが、収容されている人物は先程の男以外見当たらない。

 レドルジが牢内の奥へと辿り着くとそこには、より強固に作られた部屋が二つあった。

 それは大きな一つの部屋を分厚い鉄の板で間仕切った、特殊な構造をしている。

「やぁ。 ご機嫌はいかがですか? ザーマスさん」

 レドルジが牢の前で話しかけ、牢内をランプで照らす。

 そこには衰弱して寝込むダーマスと、虚ろな表情で座り込むザーマスの姿があった。

「だっ、出す…… ザマス……」

 ザーマスはレドルジの姿に気付くと、鉄格子を両手で掴み訴えかけるように言葉を発した。

「もちろん出して差し上げたいのですが、いくつかお聞きしたい事がありましてね」

 そう言うとレドルジは、腰から下げていた革袋で出来た水筒を牢内に投げ入れる。

 何日も食事や水を与えられていないであろう様子のザーマスは、それを一気に飲み干した。

「ハッ…… ハァ…… ハァ……」

 一息ついたザーマスの様子を見ていたレドルジは、ニヤッとしながら声をかける。

「ダーマスさんには飲ませないのですか? 随分、苦しそうですが」

「うっ、うるさいザマス。 いっ、一体、何の用ザマス」

 痛い所を突かれた気不味さからか、ザーマスは少し怒りを交えながら答えていた。

「ふふふ。 こないだは弁解の余地も無く、牢に入れられてしまいましたねぇ?」

 レドルジは笑顔を見せながら、思い出すように問いかけると更に言葉を続ける。

「それで、一体何があったか話してくれますか?」

 そう言うとレドルジは、牢内の奥で横たわるダーマスへ視線を向けた。

「ダーマスさんが、あそこまでヤラれるなんて。 少し疑問に思いましてね」

 少し不思議そうに問いかけるレドルジの言葉を聞いて、ザーマスは不機嫌そうに返答する。

「知らないザマスよ。 見た事も無いガキが」

「ガキ? まさか、子供にヤラれたとでも?」

 ザーマスの話を遮るように、レドルジは少し驚いた表情で問い詰める。

 その様子を見たザーマスは、苦虫を噛み潰したような表情へと変わる。

「そうザマス! 黒い剣を持った赤い髪のガキザマスよ! 一体、何者ザマスか? アレは」

 その言葉を聞き驚いた表情に変わったレドルジだったが、すぐに笑顔に変わった。

「クククッ…… ハハハッ! まさか、本当に生きていたなんて。 フフフッ」

 レドルジは右掌で顔を隠すように笑うと、自らを落ち着かせるように「ふぅ」と溜息を吐く。

(まさか、あのバレリアが生きてたなんて。 フフフッ。 これは心底驚きましたね)

 そして気を取り直したように真剣な表情で、ザーマスへ視線を向けた。

「それで? その子はどちらへ? まだこの辺に居るんですか?」

「知らないザマス!」

 吐き捨てるように答えるザーマスを見て、ガッカリした様子を見せるレドルジ。

「おやおや。 役に立ちませんねぇ。 それでは、ここから出して上げるのも……」

「まっ、待つザマス!!」

 ザーマスは焦ったように制止すると、あの時の出来事を思い出すように真剣な表情に変わる。

「たっ、確か、あのガキは旅装だったザマス。 そう! あれは旅をしていたはずザマスよ」

「ほぅ。 行き先までは分かりません…… よね?」

 レドルジの問いかけに、更に思い出そうとするザーマス。

 そして何かに気付いたように、ハッとした表情に変わると……

「あれは旧アストリナからニノカミ神聖国へ向かう道だったザマス!」

 真剣な表情で話すザーマスに、レドルジは問い詰めるように確認する。

「それは確かですか? 間違いありませんね?」

「絶対ザマス! 嘘は言わないザマスよ」

 鉄格子を両手で力強く握りしめ、訴えかけるように話すザーマス。

 その様子を見ながらレドルジは左拳を口元に当てて、思案していた。

(バレリアがニノカミ神聖国へ? 一体、何しに……)

 そしてチラッとザーマスへ視線を向けるレドルジ。

(まぁ嘘は言っていないようですが。 この地にバレリアが居ないなら、予定に支障は無いですね)

 一通り考えが纏まった様子のレドルジは、改めてザーマスに言葉をかける。

「ふふっ。 ザーマスさんの言う事を信用するとしましょう」

 にこやかに話すレドルジの様子を見て、ザーマスは安堵の表情に変わる。

「そっ、それじゃ出してくれるザマスか? はっ、早く」

「まぁまぁ、落ち着いて下さい。 ただ情報をくれただけじゃ、とてもとても」

 焦らすように渋るレドルジに対し、ザーマスは少し怒った様子で問いかける。

「他に何が必要ザマス? 何でもするザマス。 だから早くここを」

「何でも? それは命も賭けられるという事ですか?」

 話を遮るように問いかけてきたレドルジを見て、ザーマスは少し返答に躊躇する。

(何を言ってるザマス? これ以上、ミー達に何をさせる気ザマスか?)

 困惑した表情のザーマスは、どう返答するかを思案する。

(まぁ…… 出てしまえばこっちのもんザマス。 こんな所、とっととオサラバするザマスよ)

 考えが纏まったザーマスは少し表情を緩ませながら……

「もちろんザマス! 役に立って見せるザマスよ」

 その言葉を聞いたレドルジは笑顔に変わり、パチパチと拍手をする。

「素晴らしい! それでは、さっそく役に立って貰いましょうか」

 そう言うとレドルジは、牢と牢を仕切る鉄の板の近くまで移動する。

 ガチャン…… ガラ…… ガラガラ…… ガラガラガラ……

 間仕切りの近くの壁にあるレバーを、レドルジが下に下ろす。

 すると二つの牢を仕切っていた間仕切りが、ゆっくりと下に下がっていく。

「いっ、一体、何するザマス? これは何の真似ザマスか?」

 突然の出来事に困惑する様子のザーマス。

「うっ…… あっ…… にっ、逃げっ……」

 そのザーマスの様子を見ていたダーマスも、首だけ起こし唸るように何かを呟いている。

「いやぁ。 ゼニールさんが貴方方を私にくれると仰ったので、ここで死んでもらおうかと」

 にこやかな表情のレドルジは、牢内に居るザーマス達へと声をかける。

「やっ、約束が違うザマス! どうなってるザマスか?」

 焦りと恐怖で表情が強張りながらザーマスは、必死の思いで訴えかける。

「約束は守りますよ! 必ず出してあげます。 ただし、死体となってですけどね」

 レドルジはにこやかな表情を崩す事無く、ザーマス達へ告げる。

「なっ、何言うザマス! やっ、約束が」

「嫌ですねぇ。 今までザーマスさんだって、いーーっぱい約束を破ってきたでしょう?」

 腰を抜かしガタガタと震えながらへたり込むザーマスへ、レドルジは優しげな口調で話を続ける。

「だけど、私は約束は守りますから、安心して死んで下さいね」

 ガラガラガラ…… ガシャーーーン……

 鉄の板で出来た牢の間仕切りが完全に降りると、そこには一体の化け物の姿が。

「グルゥゥゥゥ」

 低い唸り声をあげた全身漆黒の狼男のような化け物が、ゆっくりとザーマス達へと近付く。

「こっ、これは一体、何ザマス!! ひっ、 ひぃぃぃ」

 恐怖で腰を抜かすザーマスを庇うように、ダーマスがヨロヨロと化け物の前へと立ち塞がる。

 その様子を見ていたレドルジは「うんうん」と笑顔で頷く。

「美しいですねぇ。 兄弟の愛は……」

 そう小声で呟くと牢内に居る二人へ、にこやかに話しかけた。

「その化け物の餌になる前に。 冥土の土産に教えておいてあげますね」

「…………」

 恐怖で身動きが出来ずに、口だけをパクパクと動かすザーマス。

 その姿を見て「ふふっ」っと小さな笑い声をあげたレドルジが、言葉を続けた。

「それは【神狼】という生き物ですよ。 それでは御機嫌よう」

 レドルジはニコッと笑いかけると、牢の出口の方へと向かっていく。

 その後ろ姿を見たザーマスは、手を震わせながらレドルジへと手を延ばし

「たっ…… 助けっ…… ひぃぃぃ」

「ガァァァァァ」

 【神狼】がザーマス兄弟へと襲いかかる。

 ギャァァァァァァァァァ……………

 その断末魔の叫びは城の外まで響き渡り、声を聞いた者全てを恐怖させた。
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