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夏合宿
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しおりを挟む翌日の早朝、大学の校門前に集まると全員で大型バスに乗り込み定刻通りに出発した
朝の弱い福部が河野に引き摺られ気味で乗車したこと以外は特に問題なく、いよいよ始まる夏合宿に早朝にも関わらず全員のテンションは随分と高めだった
「はいはーい、とりあえず一旦聞いてね」
高速道路に入った頃、前方の席に座っていた福部が車内マイクでアナウンスを流した
「到着したらまずは宿に向かうからね、部屋割は事前にしおりに載せてあるから確認しておいてね」
その言葉で全員がガサゴソと荷物からしおりを出す音が車内に響いた
「まだ話残ってるからね?部屋に荷物置いたら一旦集合してそこから海に行きます。詳細はしおりの行程表に載ってるから各々見ておくこと、時間厳守ね!」
福部は連絡事項を伝え終わるとマイクを切り、隣に座る河野と普段通り会話を始めた
社内もアナウンスの間は静かになっていたが、終わった途端元の賑やかさを取り戻し終始話し声が響いていた
「すごい盛り上がりだね」
横に座る須田に話しかけると、その様子を面白そうに見ていた須田がこちらを振り向いた
「そりゃあまあ、非日常感が堪らないんだろうしな」
そう言って再び騒いでいる他の部員の方に目を戻した
「……あははっ、確かに……」
彰人もその言葉に笑うと、須田とは逆向きの窓側を向き通り過ぎていく景色を眺めた
“非日常”は彰人にとって東應大学に入学してから今日までの誰かに守られ平穏に続く毎日のことだった
須田がそこまでの意味を含んで口にしたのかは分からなかったが、それがこれから先も当たり前に続いて、他の部員たちが感じている非日常感を自分も共有できるようになるのかと思うと自然と笑みが溢れた
「あーきと、起きろー」
いつのまにか眠っていたのか、体を揺さぶられる振動と須田の声に閉じていた瞼を開けると、乗っていたバスは停車し目的地についた後だった
「んぅ……もう着いた?」
「着いた着いた、起きれる?」
「うん……!」
出発した時の早朝の日の光よりも高い位置から照らされる日光に目を細めながらバスを降りると、今日から2泊する宿と道路を挟んだ向かいに海岸が広がっていた
「わぁ!すごい!!……わっ!!」
思わず声を上げると後ろから急に肩を組まれた衝撃で体がふらついた
「今日から楽しもうな山本!」
そう言って顔の横で笑顔を見せるのは沢井だった
「沢井さん、突然飛び付いたら山本小さいんやから吹っ飛ぶやろ……気をつけんと」
上條が呆れ気味に彰人から騒いを引き剥がすと、2人分の荷物を持ち上げ先に宿に向かっている部員たちの後を追った
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