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転生

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パチパチ…。
ジリリリリリッ!!

火災警報が鳴り響く…。
ここはどこにでもあるようなマンション。
しかし、辺りは炎に包まれ、取り残された人々は救出を待っている。
だが、それももう不可能だろう。


「有咲《ありさ》」
「なあに楓《かえで》」
「ごめんな」
「そんなこと言わないでよ」
「じゃあさ最後に言わせてくれ」
「なあに?」
「ありがとう」
「うん。私こそありがとうね」

こうして2人の命が費えた…。








チュンチュン…。

小鳥のさえずりがどこからか聞こえてくる。

「んっ…。今何時だ…?」

一人の男が目を覚ます。

「んぅ…。楓ぇ…」
「ん?何だ…って寝言か」

隣りには、一人の女が寝ていた。

「というかここどこだ…?」

目を覚ました男…。月詠楓《つくよみかえで》は、体を起こす。

「楓…?」
「ん?起きたのか?」
「うん」

共にベッドで寝ていた女…。月詠有咲《つくよみありさ》も目を覚ます。

「ん~。ってあれ?ここどこ?」
「やっぱり知らないか」
「楓も?」
「ああ」
「というかあれ…?何か違和感があるような」
「そうなんだよなぁ…」

2人はまだ状況を飲み込めておらず、何があったか思い出そうとする。

「んー。あっ!!火事は!?」
「火事って…ああ!!」

そう。
2人は火事に巻き込まれていた。

「というかあの時私たちって…」
「死んだ…と思う」
「だよね」

2人はあの火事で命を落としているはずだった。

「夢だったのかな?」
「だとしたら俺も同じ夢を見てることになるぞ」
「だよね」
「ああ」
「じゃあ今のこれが夢だったりする?」
「抓ってみろ」
「うん」

有咲は、自分の頬を抓り、夢か確かめる。

「いひゃい」
「みたいだな」

2人は今の状況が夢ではないと理解する。

「じゃあここはどこ?」
「分からん」
「ん~」
「とりあえず、起きてこの家でも散策するか」
「そうしよっか」

2人は、ベッドから降り、家の中を歩き始める。

「というか楓」
「ん?」
「どうして私たちは服を着ていないの?」
「ふぇ?」

今まで、ここがどこなのか?
あの火事はどうなったのか?
などを考えていたため、自分達が何一つ服を纏っていない事に今の今まで気付いていなかった。

「と、とりあえず服を探すか」
「うん」
「有咲」
「ん?」
「綺麗だぞ」
「ふぁ!?」

突然、綺麗と言われて有咲は驚きを隠せないでいる。

「な、何を急に!!」
「ははっ。なんか懐かしいな。俺たちが付き合い始めたばかりみたいだ」
「もうっ!!」

有咲は、恥ずかしさから布団に包まり動こうとしない。

「わ、私の服も探してきて!!}
「はいはい」

楓は、家の探索と共に服を探し始める。

「というか何がどこにあるんだよ…」

見慣れない家に戸惑う。

「楓~。見つけた~?」
「急かさないの。というか自分で探しなさい」
「えぇ~」
「ったく…。これってクローゼットか?」

楓は、クローゼットの扉を開ける。
中には、沢山の服があった。

「スーツにドレス、ライダースジャケット…。それにこれはメイド服か…?ジャンルが豊富だな…」

クローゼットの服を適当に手に取り、有咲の下に戻る。

「という事で、はい」
「…一応これを選んだ理由を聞こうかしら?」
「適当に持って来た」
「ほぅ」

楓が持って来たのは、メイド服だった。

「まあ良いけど」
「良いんかい」

有咲は、メイド服に着替え始めた。

「それで楓は?」
「何が?」
「いや、服」
「燕尾服だな」
「何故、それをチョイスしたのかが分からないわ」
「適当に取ったからな」

2人は着替える。

「というかさ」
「ん?」
「下着はベッドの横に脱ぎ捨てられてたのを着たんだけど…」
「うん」
「ぴったりなんだけど」
「は?」
「だから上も下も私にぴったりなの。サイズとか」
「有咲のだったりするんじゃないの?」
「分かんない。それに楓のもあるわよ」
「さんきゅ」






「というかこれじゃ私たち…」
「おん」
「どこかの使用人か夫婦揃ってコスプレしてるだけじゃないの?」
「まあそう見られてもおかしくはないな」

着替えを済ませ、本格的に家の散策を始める。

「ねぇこの本って…」
「ん?何だこれ?日本語じゃなさそうだな」

2人は本棚にあった本を取り出し、中を見てみる。

「で、でも…私この内容分かるよ」
「奇遇だな。俺も理解できるぞ」

その本に書かれている文字は、明らかに日本語では無かった。
それでも二人は理解することが出来ていた。

「魔法陣…?」
「みたいだな」
「…」
「…」

「…他の所も見てみようよ」
「だな」

2人は、散策を再開する。

「ん?何だこの箱」
「何か見つけた?」
「ああ。変な木箱を見つけた」
「開けてみる?」
「まあ開けるか」

見つけた木箱の中を確かめるため、開ける。
その中には…。

「銃…?」
「みたいね」
「モデルガンとかか…?」
「分かんない…」

木箱の中には2丁の拳銃が入っていた。

「重っ」
「そうなのって…本当だ重いね」

2人は拳銃を手に取ってみる。

「えっと…。このボタンみたいなのを押すと…」

カシャン

「やっぱりそうだよな」
「弾を入れるマガジンってやつだよね」
「ああ」
「銃刀法違反だったりしない?」
「かもな」

2人は銃を木箱に直し、他の場所も見て回ることにした。




「それで、分かった事を整理してみるか」
「そうね」

散策を終え、状況を整理する。

「まずは、服に関してだが。どういう訳か俺も有咲もサイズがぴったりだという事」
「そうだね。丈や袖、裾まで完璧だね」
「次に、日本語や英語のような文字では無いものを俺たちは読んで理解することが出来る」
「うん」
「それに銃がこの家に置いてあることは驚きだったな」
「捕まらないよね…」
「分からん」
「それもそっか」
「まあ他に分かった事と言えば、何よりこの家には生活感があるにも関わらず、俺たち以外が住んでいる気配が全くない」
「そうだね。見て回った感じ、基本的に食器とかはペアのものだったね」
「つまり、この家は少なくとも俺たちしか住んでいないな」
「まぁ私たちと同じ体格でもない限り、あり得ないね」
「まあ家の中で分かる事はこれくらいかな」
「うん」

2人は今置かれている状況を理解し、次なる行動を起こす。

「じゃあさ次は、外に出てみない?」
「まあ良いかもな」

家の中の探索を済ませ、次は家の周辺を散策することにした。






「じゃあ開けるよ」
「おう」

有咲は、扉に手を掛け、その扉を押す。

ガチャ…。

「「うわぁ」」

扉を開けた先には、緑一色の大草原が広がっていた。

「ね、ねぇ楓」
「な、なんだ有咲」
「もしかしてだけどさ」
「ああ」
「ここって日本じゃない…?」
「た、多分…」

2人は、自分の知らない風景に驚く。

「というかここは本当に俺たちが知っている世界なのか」
「えっ?」
「あの家に置いてあったものや俺たちの最後の記憶を繋げると…」
「繋げると…?」
「異世界転生したとか?」
「そんな異世界転生なんて何番煎じよ」
「さあな」
「じゃああの本に書いてあることを試してみたら魔法が使えたり?」
「やってみても良いかもな」
「そんなバカバカしいと言ってみたいけど、試すしかないかな」
「だな」

事実を確かめるべく、再び家に戻り、先ほど見つけた本を手に取る。

「じゃあやってみよ」
「ああ。まずは、これをやってみるか」

魔法が記されているページを開き、書いてある通りにやってみることにした。

「まずは、魔力を錬成しますだって」
「いや分かるか」
「その後に、イメージします」
「何をだ」
「そして、魔法を放ちます」
「どうやってだ」
「えいっ!!」

ピシャッ!

「…」
「…」

有咲の、手のひらに魔法陣が浮き出し、水が出てきた。

「ね、ねぇ…」
「え、えっと…」

2人は何が起きたのか分からないという感じだった。

「…外でやろっか」
「…だな」

理解はしていないものの、家の中で試し打ちしてたら、大変なことになりかねないと察し、外に出ることにした。





「じゃあ次は俺の番か…?」
「う、うん」
「じゃ、じゃあ行くぞ…。えっと…。ふにゅっ!」
 
ボンッ!!

「…」
「…」

楓の手のひらには、先ほどの有咲と同じように魔法陣が現れていた。
その魔法陣から、火の玉のようなものが放たれた。

「と、とりあえず消火しなきゃ!!」
「だ、だな!!」

何も考え無しに魔法を放ったので、草原に引火した。

「「消火しなきゃ!!」」

2人は水を魔法で出し、消火活動を行う。

「というか適当に魔法を放っているけど、イメージ通りのものが起きるのね」
「確かにな」

そう、2人が発動させた魔法は、イメージ通りなのだ。
だが、魔法を発動させる方法に関しては書かれていなかった。

「念じれば発動するとか?」
「もしかしたらそうかもしれん」

こうして魔法を発動できたことで、2人はある事を疑念を確定させてしまった。

「ここって本当に異世界なんじゃないの…?」
「夫婦揃って転生したのか…。俺たち…」

月詠楓と月詠有咲。
夫婦揃って転生してしまった、2人の冒険が幕を開ける。
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