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     名前が変わるとき

監督・ばんざい

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 結婚式のイベントというと、プロジェクターで二人の生い立ちや出会いを紹介するというのも定番
 プロジェクター大抵の結婚式場に常備してあるし主役のいないお色直し中の場つなぎとかにも使える。
 二人の再登場を盛り上げるアイテムとしても利用でき便利なのだ。
「え! あれって月ちゃん手作りなの?」
 黒くんの言葉に私は苦笑するしかない。だって逆にあんな内容のモノを人に注文して作るほうが恥ずかしい。
 父親同士の出会いから結婚までの簡単なエピソードをコメディータッチで紙芝居風に纏めただけのもの。
 私達はただいま外勤中。違う企業に向かっているのだが、方向が同じなのでついでに車で送ってもらっている。
「よくあんな凄いの、作ったね」
 大学時代にWEBデザインの授業で簡単なデジタルアニメ作成を習った事もあり、そういった事は実は得意。「でもさ、今時、パワーポイントとかフリーソフトでも見栄えの良いもの簡単に作れるよ。
 黒くんトークとか文章とか面白いから、上手く言葉と組み合わせただけでもかなり素敵な物できると思う」

 業者に頼むと決められたパターンに写真を入れていくだけなので、無難なものしかできない。
 それに、我が家の場合写真のバランスがあまりにも悪い。二人のエピソードだけを纏めるものになったのは苦肉の策なのだ。
 別にのろけていた訳でもない。
「二人で写真をとかの素材を集めて、あとプロットを作って組み立てるって、楽しいよ。
チョットした監督気分を味わえるというか」
 映画が好きなだけに、黒くんの頭の中にアイデアが浮かんできているようだ。なんか嬉しそうにニヤニヤしだしている。
 文学少女と映画マニアのカップルならきっと面白いものが出来そうで、私も楽しみになってくる。
「なるほどね~予告編っぽいのとかにしても楽しそうだ」
 そんな話をしているうちに、私のお客様の企業の近く車は走っていく。私は、快適な車から暑い世間へと降り立つときがきたようだ。
「私の方も、フリーで使えそうなソフトを探しておくよ。ありがとう今日助かった。
 あ、ウィッシュリストの作成もお願いね! わがまま言うチャンスだから」
 黒くんは笑う。
「分かった、今週中に二人で考えて作るよ。帰り、どのくらい? 一時間くらいならまた拾うよ!」
 流石にそこまで甘えられない。私は『大丈夫だから』と首をふりドアを閉めて車を見送った。
 大変と言いながら、結婚準備を楽しんでいる二人の様子はいいものだ。私も一年前のバタバタを思い出しなんともしみじみしてしまう。
 しかし、そんなしみじみしている場合ではない! モードを仕事に戻さねば! 
 空を見上げると、吸い込まれそうなほど真っ青な空が広がっていた。私は深呼吸して封筒を抱え歩き出す。
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